異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
トラムスの悲哀
「だ、だって僕は貴重なエルフの男子なんだろう!?」
相手が女王陛下であるということも忘れて、トラムスが詰め寄ると、ティエル女王は困った顔をしてトラムスを振り向く。
「そう、貴重すぎたのが問題なんです」
「どういうことですか?」
聞いた話では、男子であるだけでこの国の貴族に準ずるような扱いを受けると聞いていたのに、違うのだろうか?
「今の国の状態というか、流行がありまして。“何も男はエルフばかりじゃない、他種族でもいい人は一杯いる”という風潮が大勢を占めるようになってしまったのです」
トラムスが、カクンと口を開けて目ん玉が飛び出そうな勢いで驚いている。面白い顔だが、本人的にはたまらんだろうな。
「それって、男子の取り合いをするのが不毛だから、とかでしょうか」
ティエル女王は軽く頷いて、続けた。
「それもあります。しかし、それ以上にエルフが女性優位社会となってしまったのが原因ですね。少数の男性エルフが全てを支配するということに反発する若い者たちが続出しまして。まあ私が女王になれたのもそのおかげなんですけれど」
最後に苦笑して、ティエル女王は言葉を締めた。これで納得が行かないのは、トラムスだろう。何しろ彼は自分が大事にされると言い聞かされて育てられてきたのだから。
「そ、そんな馬鹿な話があるものかっ!! 僕は貴重なエルフの男子ではないのか!?」
「貴重ではありますよ。でも、勇者の方たちには既にお話していますが、今となってはダークエルフくらいしか大仰に大事にすることはありませんね。あ、珍しいなー位のものでしょうか」
トラムスは顔面を蒼白にして、膝が崩れ落ちる。
「な、な、な、な……」
「七が二つで十四か」
「やかましいわこのボケ勇者があぁっ!!」
折角場を和ませてやろうとしたのに、トラムスがブチ切れただけで終わった。じっとりとした視線を感じたので周囲を見ると、ティエル女王は愚かリアでさえ冷えた目でそれはないと言っている。
「モモは掛け算得意なのです!」
「うんうん、モモはいい子ね、でも今は黙っていましょうね」
「ひぅっ!? モ、モモはいい子なので黙っているのです……」
リアに抱えられていたモモが、怯えたように返事をした。リアからの圧力に負けたのだろう。
「それで、トラムスの居場所がないと言うのは?」
「彼の出自がハッキリしないのが問題でして」
「!? と、父さんと母さんはここにいないのかっ!?」
「私も方々に手を尽くして探してみたのですが、名乗り出るものはいませんでしたね。男子を生んだからと言って、忌避される事もないですし、むしろ吉兆として喜ばれるくらいですのに」
「そ、そんな……」
止めの事実に、絶望に突き落とされたトラムス。流石の俺ももう茶化す気にはなれなかった。そんな中、恐る恐ると言った様子で彼に声をかける者がいた。
「トラムスもおとーさんおかーさんがいないのです?」
モモだった。モモは、今とても重大な事を言ったのではないか?
「モモ、モモにはおとーさんがいるだろう?」
念の為に確認すると、モモは少し悲しげに目を伏せる。
「おとーさんはおとーさんなのです。でも、モモには別のおとーさんおかーさんがいるって聞かされたのです」
あれだけ自分がドラゴンの子どもである事を誇りに思っていたモモが、その事実に気付いていただなんて、知らなかった。トラムスの余りにも哀れな姿に感化されたのだろうか? モモは優しい子だからな。
「は、ははは……なんだ、お前も捨て子なのかよ……」
とても少年がするようなものではない、乾いた笑いでモモを嘲あざけるトラムス。だが、彼の頬には涙が幾筋も流れていて、みっともないとも感じていないのだろう。止めどなく溢れる涙を拭いもせずに、虚ろにモモを見詰めている。
そんなトラムスに、モモはリアの元から抜け出すと、鉄格子越しに頭を撫でて慰めていた。
「よしよし、なのですー」
「バカッ、やめろよ……」
恥ずかしがっているトラムスだったが、その手を強く振り払わない。
僕達はそんな光景を見て、先程までの悲壮な空気が緩和されるの感じる。そんな中、敢えて聞きにくい質問をティエル女王に投げかけた。
「それで、トラムスをどうすればいいんですか?」
ビクッと、トラムスの肩が跳ねる。
「それはトラムスの希望をまず聞いてみようと思います。それなりの生活が出来るこの国に残るか、それとも全く新しい環境を求めて外の世界へ行くか。どうしますか、トラムス?」
ティエル女王は屈んで目線を下げ、彼の目を真っ直ぐに見据える。
「ぼ、僕は……」
ぎゅっと目を瞑って、考え込むトラムス。そして唇を振るわせて、その決意を表明する。
相手が女王陛下であるということも忘れて、トラムスが詰め寄ると、ティエル女王は困った顔をしてトラムスを振り向く。
「そう、貴重すぎたのが問題なんです」
「どういうことですか?」
聞いた話では、男子であるだけでこの国の貴族に準ずるような扱いを受けると聞いていたのに、違うのだろうか?
「今の国の状態というか、流行がありまして。“何も男はエルフばかりじゃない、他種族でもいい人は一杯いる”という風潮が大勢を占めるようになってしまったのです」
トラムスが、カクンと口を開けて目ん玉が飛び出そうな勢いで驚いている。面白い顔だが、本人的にはたまらんだろうな。
「それって、男子の取り合いをするのが不毛だから、とかでしょうか」
ティエル女王は軽く頷いて、続けた。
「それもあります。しかし、それ以上にエルフが女性優位社会となってしまったのが原因ですね。少数の男性エルフが全てを支配するということに反発する若い者たちが続出しまして。まあ私が女王になれたのもそのおかげなんですけれど」
最後に苦笑して、ティエル女王は言葉を締めた。これで納得が行かないのは、トラムスだろう。何しろ彼は自分が大事にされると言い聞かされて育てられてきたのだから。
「そ、そんな馬鹿な話があるものかっ!! 僕は貴重なエルフの男子ではないのか!?」
「貴重ではありますよ。でも、勇者の方たちには既にお話していますが、今となってはダークエルフくらいしか大仰に大事にすることはありませんね。あ、珍しいなー位のものでしょうか」
トラムスは顔面を蒼白にして、膝が崩れ落ちる。
「な、な、な、な……」
「七が二つで十四か」
「やかましいわこのボケ勇者があぁっ!!」
折角場を和ませてやろうとしたのに、トラムスがブチ切れただけで終わった。じっとりとした視線を感じたので周囲を見ると、ティエル女王は愚かリアでさえ冷えた目でそれはないと言っている。
「モモは掛け算得意なのです!」
「うんうん、モモはいい子ね、でも今は黙っていましょうね」
「ひぅっ!? モ、モモはいい子なので黙っているのです……」
リアに抱えられていたモモが、怯えたように返事をした。リアからの圧力に負けたのだろう。
「それで、トラムスの居場所がないと言うのは?」
「彼の出自がハッキリしないのが問題でして」
「!? と、父さんと母さんはここにいないのかっ!?」
「私も方々に手を尽くして探してみたのですが、名乗り出るものはいませんでしたね。男子を生んだからと言って、忌避される事もないですし、むしろ吉兆として喜ばれるくらいですのに」
「そ、そんな……」
止めの事実に、絶望に突き落とされたトラムス。流石の俺ももう茶化す気にはなれなかった。そんな中、恐る恐ると言った様子で彼に声をかける者がいた。
「トラムスもおとーさんおかーさんがいないのです?」
モモだった。モモは、今とても重大な事を言ったのではないか?
「モモ、モモにはおとーさんがいるだろう?」
念の為に確認すると、モモは少し悲しげに目を伏せる。
「おとーさんはおとーさんなのです。でも、モモには別のおとーさんおかーさんがいるって聞かされたのです」
あれだけ自分がドラゴンの子どもである事を誇りに思っていたモモが、その事実に気付いていただなんて、知らなかった。トラムスの余りにも哀れな姿に感化されたのだろうか? モモは優しい子だからな。
「は、ははは……なんだ、お前も捨て子なのかよ……」
とても少年がするようなものではない、乾いた笑いでモモを嘲あざけるトラムス。だが、彼の頬には涙が幾筋も流れていて、みっともないとも感じていないのだろう。止めどなく溢れる涙を拭いもせずに、虚ろにモモを見詰めている。
そんなトラムスに、モモはリアの元から抜け出すと、鉄格子越しに頭を撫でて慰めていた。
「よしよし、なのですー」
「バカッ、やめろよ……」
恥ずかしがっているトラムスだったが、その手を強く振り払わない。
僕達はそんな光景を見て、先程までの悲壮な空気が緩和されるの感じる。そんな中、敢えて聞きにくい質問をティエル女王に投げかけた。
「それで、トラムスをどうすればいいんですか?」
ビクッと、トラムスの肩が跳ねる。
「それはトラムスの希望をまず聞いてみようと思います。それなりの生活が出来るこの国に残るか、それとも全く新しい環境を求めて外の世界へ行くか。どうしますか、トラムス?」
ティエル女王は屈んで目線を下げ、彼の目を真っ直ぐに見据える。
「ぼ、僕は……」
ぎゅっと目を瞑って、考え込むトラムス。そして唇を振るわせて、その決意を表明する。
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