異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

歓声の中で

「勇者よ! 男の勇者が来たわよー!」

「え、あの噂の勇者が!? どこどこ、どこなの!?」

「あの馬車の中らしいわ! ティエル女王陛下うらやましいです!」

 ルイア王国の首都、ノーグへと辿り着いた僕らは大歓声に包まれていた。ノーグは巨大な樹木があちらこちらに生い茂り、そこにツリーハウスのように家があり、それとは別に地面に木造づくりの家々が立ち並び、殆どが平屋で高くても二階建てと言った様子だ。

 自然と調和した国、それが僕のルイア王国への第一印象。

 窓の外の景色に、皆釘付けだった。しかし僕の顔を見てキャーキャーと黄色い声を上げられるのはちょっと恥ずかしい。

「マサヤ殿、皆に手を振ってあげてくれませんか?」

 女王のお願いに、僕は虚を突かれる。

「えっ?」

「皆の歓待に答えて上げて欲しいのです」

 そう促されては、期待に答えてあげるしかない。小窓を開け、ぎこちない笑顔で手を振ると歓声が一段階上がる。

「フン! 随分楽しそうじゃない!」

「モモもやるのですー!」

 何故か反対側の窓を開け身を乗り出したモモが皆に手を振ると、歓声の質が変わった。

「何あの子! 可愛いわ!」

「きゅんきゅん来ちゃう!」

「持って帰って可愛がりたいです!」

 一部不穏な声が聞こえたが、モモも皆に大好評のようで安心した。というか、エルフは排他的な民族じゃなかったのか? すこぶる歓迎されていてとてもそんな雰囲気は感じられない。

「ふふ、戸惑われてますね? 驚いてもらえて嬉しいです」

 ティエル女王がまるで悪戯の成功した子供のように忍び笑いをしている。

「実は、ここ数十年で私達も排他的主義をやめようという動きが強くなりまして。元々外の都会に憧れる子も増えてきて、他民族との共存も視野に入れているんです」

「えっ、そうなんですか!? でも、最前線では衝突が絶えないって……」

 聞いた話をティエル女王に問うと、彼女は頬に手を当てて眉根を寄せた。

「それがですねー、女社会で生きてきたものですから、異性への接し方が極端な子が多くて……有り体に言うと、恥ずかしがってついついキツイ当たりになってしまうようなんです」

 僕は国境警備をしていた隊長さんを思い出す。確かに終始あんな調子だと困るだろう。でも警備隊の他の人達はノリが軽かったような?

「ああ、それは新世代の子達ですね。まだ若い子達は好奇心旺盛で怖いもの知らずですから、そういう世代は国境警備とかに回して私達のイメージの払拭に勤めてもらっています」

 あの、多分それ成功してないと思うんですけど……。流石にそれを言うのははばかられ、僕は軽く頬をかいて曖昧にごまかした。

「さ、もうすぐ王宮に着きますよ」

「あ、ティエル女王! この書状をお受取り下さい」

 僕は慌ててカバンからテレシー国王からの書状をティエル女王に渡す。彼女は一瞬驚いたようだが、優雅な仕草で受け取った。

「中は後程あらためますので、まずは王宮でおくつろぎ下さいね」

「ありがとうございます」

 僕のお礼に追随して、リアとモモも一緒に頭を下げる。

「お世話になります、ティエル女王陛下」

「モモもお世話になるのですー!」

 丁度のタイミングで、馬車が停車した。騎士の一人が扉を開け、ティエル女王の手を取り、馬車から下ろした。

 もちろん僕らまでエスコートはされないので、自分で降りると、馬車の周囲を大きく取り囲んだ人垣を、騎士の人たちが抑え込んでいるようだ。

 僕がより姿を現すとより一層の、悲鳴にもにた嬌声が上がり、何人かは騎士の人を突破してきそうな勢いでぐいぐいと前に出ようとしている。

 僕は身の危険を感じ、さっさとティエル女王の後を追った。巨木と呼ぶに相応しい、いや、これは本当に一本の木なのかと疑うレベルの超巨大な樹木の根の部分に、扉が設けられていて、ティエル女王は開いていく扉の中へ迷いなく進んでいく。

「す、凄い樹ですね……」

「ええ、この樹は神樹とも呼ばれていて、私達の宮殿にして、大事な役割も持っているんです」

「大事な役割?」

 意味深な言葉に思わず問い返すと、ティエル女王は刹那こちらを振り向いて、微笑む。

「それは後々。今は旅の疲れを癒やしましょう?」

「あ、ティエル女王! 例の“積荷”についてなんですが」

 気がかりだった事を尋ねると、ティエル女王は人を安心させる笑顔で解っています、と頷いてくれた。

「それについてはご心配いりません、今頃は無事に引き渡されていることでしょう」

「ということは、ドレンさんの役割も無事終わったってことですね」
「ドレン……あの御者さんの事ですね。帰りにはウチの騎士を随伴させましょう。彼女には先に帰ってもらうことになると思いますので」

 行き道は何事もなかったけど、帰りにモンスターに出会わないとも限らない。護衛をつけてくれるというのならありがたい話だ。

「それにしても、僕達に何か御用があるのですか?」

 歩きながら次々と質問をするのは、少々無礼だったかなと思ったが、ティエル女王は嫌な顔一つしなかった。

「ええ、とても大切な役目が……勇者様である、あなた方にしか出来ないことがあるのです」

「それは何でしょう、ティエル女王?」

 リアの問いかけに、しずしずと歩いていたティエル女王はピタッと止まり、振り向いた顔には険しさが浮かんでいて。

「あなた方には、この神樹を救って頂きたいのです」

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