異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

モモはやっぱりさいきょうなのです!

 馬車から飛び出してきたリアとモモ、トラムスはそのまま中で待機のようだ。その方がまだ安全か……。敵の狙いが何かは解らないが、こんな街道の途中で襲ってきたのだ、単なる野盗にしては街に近すぎる。

「狙いはトラムスか!? ドレンさん、トラムスと一緒に馬車の中へ! そこが一番防御が固いはずですから!」

「わ、解ったよ! がんばっておくれ!」

 トラムスの事はドレンさんに任せ、僕はサッとフィジーから飛び降りた。

(ご主人様、この匂いはモンスターではありませんね。トラムスとよく似た匂いです)

「と言うことは……エルフか!」

 ガサガサ、と草葉を揺らして姿を現したのは、年若く見える女性エルフだった。トラムスのように緑髪で長く腰まで伸ばしている。顔立ちはとても整っていて、戦場でなければ見惚れていた事だろう。エルフ特有の薄手の変形させたチャイナドレスのような格好で、僕達を睨みつけている。

「ここから先は我が国ルイア王国の所領だ! 交通許可証はあるんだろうな!?」

「えっ?」

 狙いはトラムスじゃないのか? 僕が驚いて間を開けてしまったのを、何を勘違いしたのか見る見る顔を険しくしていくエルフ。

「まさか密行者か? 怪しいモノを我が国に運び込んでいるじゃなかろうな!」

 更に二、三人姿を現すエルフ。皆美人だが顔立ちは剣呑である。

「いや、いやいや! 僕達はテレシー王国のギルドから正式な依頼を受けて来ています!」

「ほう? ならば証拠を見せろ!」

 荷馬車の中をあらためられるのはマズイ。僕は抜剣していた聖剣レジェリアを鞘に納めると、少し待ってくださいと一言断って馬車に戻る。

「ドレンさん! ギルドの依頼認可状ありますか!?」

「あ、ああ、ここに」

 ドレンさんは自分が下げていたカバンから認可状を取り出すと、僕に手渡してくれた。受け取るなり取ってかえすと、早速それを一番最初に姿を現した長髪のエルフに見せる。

「これが正式な依頼認可状になります」

「ふむ……」

 長髪エルフはしげしげとその書状の中身を眺め、余計に顔をしかめた。

「おい。この“積荷についてはあらためることを厳禁とする”とあるが、一体何を積んでいるんだ?」

「すみません、それは口外出来ない契約になっています。それに、そちら側の許可印もちゃんと本物でしょう?」

 書状に押されているのはテレシー王国発行の認可印と、ルイア王国発行の通行許可印が押されている。当たり前だが本物だ。何しろモノがモノなのだ、エルフの国の中でもごく一部の者にしか知らされていないのだろう。

 雲行きが怪しいのを感じ取ったドレンさんが、慌てて荷馬車の扉を閉めたようだ。ナイス判断。

「どこからどう見ても怪しいが……。しかし確かに本物の入国許可印のようだ。まあいい、通れ」

 その言葉と共にぞろぞろと更に十人位のエルフが姿を現した。これだけ美人が揃うと壮観だが、今の僕にのんびりと眺めている余裕はなかった。最初の矢は警告だったのだろう。

 それなら最初から街道で姿を見せてくれていればいいものを……どうやら、エルフの国が排他的というのは本当のようだ。

「ところで、だ」

 長髪のエルフが、急におほんと咳払いをする。すると周囲の空気が変わった。何か、そわそわとしているような浮ついた空気になったのだ。

「お前、伴侶はいるのか?」

「は?」

 真顔で問いかけられたので、僕は聞き間違いかと思って尋ね返す。

「今伴侶がいるかと聞きましたか?」

「うむ? 人間の言葉でそう言ったつもりだが、意味を間違えたか?」

「いえ、合っているとは思うんですが、何故に?」

 すると、長髪エルフはぽっと頬を染めてきっぱりと言い切った。

「いないのなら私の婿にどうだ?」

「いや、いやいやいや!? ちょっと待ってください!!」

 僕が慌てた声を出すと、周囲のエルフも騒ぎ出す。

「そうですよ隊長!」

 いいぞ、言ってやれ!

「自分ばっかりズルいです! 私達だって、こんなに珍しい人間見過ごせませんよ!」

 あるぇー? おかしいですよ?

「黒髪黒目だなんて、まるで伝説の人間の勇者みたいでカッコイイ!」

「ねえねえ、あなたどこから来たの? ウチの国は良いところよー、ぜひ我が家に……」

「ちょっと、何さらっと誘惑してるの! 私が最初に見つけて矢を射ったんだから、私が!」

 矢を射って来たのアンタかい! 等と突っ込みする暇もなく、僕はわいわいと騒ぐエルフにすっかり囲まれてしまった。全員が鼻息荒く、獲物を狙うケダモノの目をしている。

 エルフってみんな肉食系なの!?

「ダメエエエエエ!!」

 そこへ、リアが大声を上げて僕とエルフ達の間に立ちふさがった。

「マサヤは私のパートナーなんだから、誰のものにもならないんだから!」

 一瞬、エルフ達は静まり返ったものの、すぐにエルフの一人から鋭い突っ込みが入る。

「えっ、あなた達付き合ってるの?」

「えっ、ええっ!? つ、付き合っては……ない、けど……」

 顔を赤くしてもじもじとし始めたリアは可愛かったが、そこは嘘でもごまかして欲しかった。

「じゃあいいじゃない! ねえねえ、こんな初心な子よりも良い目を見せてあげられるわよ!」

「アンタだって“まだ”でしょ! 変な見栄張らないでよね!」

「こ、こう見えても頭の中での模擬戦は完璧なんだから!」

 なんじゃこりゃ。もう混沌としすぎだ。

『グルルルルオオオォォォォ!!』

 突然、モモがドラゴンの威圧を放った。それを受けたエルフたちが一斉に跪く。

「ド、ドラゴン様!?」

「ドラゴン様がいらっしゃるの!?」

 混乱しながらも跪いているエルフたちの前にタタタッと走り寄ってきたモモは、珍しく怒ったように彼女達を見下ろす。

「マサヤが困ってるのです! みんなもっと落ち着くのです!」

 あのモモが! 人に落ち着きを諭すなんて! 僕は、僕は嬉しいよ。ほろりと泣いてしまいそうだ。

 エルフのウチ、隊長と呼ばれていた長髪の人がモモに向かって尋ねる。

「あの、あなた様は一体……」

「モモはモモなのです! おとーさんの、ドラゴンの子どもなのです!」

 その声に、驚嘆と畏怖の感情が彼女達をざわめかしている様子。

「ド、ドラゴン様の子ども……でも確かに今の咆哮はドラゴン様の“威圧”に間違いない……。ドラゴン様のお連れとは知らず、数々のご無礼お許しください!」

「もうマサヤを困らせないのです?」

「え、ええ! 決してそのような事は!」

 土下座する勢いで平伏するエルフ達。どうやら、エルフ族にとってドラゴンとは絶対の存在らしい。

「ならみんな仲良しなのですー」

 言いながら抱きついてきたモモの頭を、僕は良く撫でてあげた。

「ありがとう、モモ。おかげで助かったよ」

「えへへー、マサヤのなでなでは気持ちいいのですー」

 その光景を見ていたエルフ達は、ドラゴン(だと思い込んでいる)モモよりも上位の存在として僕を認識してしまったらしい。

「も、申し訳ありません! ドラゴン様がお仕えするような聖者さまに、数々のご無礼を!」

「待って! 聖者とかじゃないから! ただの勇者だから!」

 しまった、口が滑った。案の定、彼女達の目の色が明らかに変わった。尊敬の念へと。

「勇者様!? 勇者様が我が国に……これは一大事! おい、ヌーラ! 早く国元へと勇者様の来訪を知らせ、歓迎の準備をさせるのだ!」

「え、そういうのはいらな――」

「はっ! お任せ下さい! “風よ、風よ! 疾く速く、我が足に宿れ!”」

 エルフが呪文を唱えると、馬よりも早いスピードでヌーラと呼ばれたエルフが街道をかっ飛んでいった。

「さ、勇者様。我々と共に参りましょう!」

「いや、国境警備の仕事はいいの!?」

「どうせここを通るのなんて行商人くらいですからね。モンスターも滅多に出ませんし、一緒に国までご案内致します!」

 じゃあなんで最初あんな攻撃的な態度だったんだよ! と思ったが、グイグイと手を引っ張られ僕は精神的に疲弊していた。

「あーっ! だからマサヤは私のパートナーなんだから、勝手に触っちゃダメ!」

 リアさん、そんな約束事ないからね? それと張り合って僕の手を掴むのやめてもらえませんか? フィジーが困ってるんですけど。

(夫婦喧嘩は馬も食わない、という奴ですね)

「いや、そりゃ犬だろ!?」

(そうなんですか? 人間は言うことがすぐ変わるので難しいですね)

 なんだろう、フィジーってやけに達観した事言うよな……本当に馬なのか、こいつは。それと、ちょいちょいことわざが流れてきてるのは前の転移者が広めた結果なんだろうか。大体間違っているのが時の流れというものを感じさせる。

「も、もう終わったのかい?」

「あ、ドレンさん。ええ、大丈夫ですよ」

 ドレンさんは顔を近づけてきてこっそり耳打ちをしてきた。

(トラムス坊には悪いけど、また鍵をかけさせてもらったよ)

(ありがとうございます、ドレンさん)

 こんな場所に更に男のエルフなんか放り込んだらどうなることか、検討もつかない。

「あの、やはり我々は書状にもあるように極秘任務がありまして。余り大所帯では困るんです」

 主にトラムスが困る。

「なので、案内は結構です。この道を真っ直ぐ行くだけでしょう?」

「それは、そうなのですが……」

 それでもまだ渋り、手を離してくれない隊長さんに僕はちょっと真面目な顔を向けた。

「それに、職務に真面目に励んでいる女の人ってカッコイイと思うんですよ」

「ゆ、勇者様……! 解りました! お帰りの際にもぜひこの道を通ってくださいね! 絶対ですよ!?」

「は、はい……」

 まあ帰り道はここ以外にないのだから、問題ないだろう。

 こうして僕達は無事国境を越え、盛大にエルフ達に見送られながら街道を進んでいく。しかし、変化が一つだけあった。

「あのー、リアさん?」

「何かしら、マサヤ」

「どうして僕の後ろに乗るの?」

 そう、リアが僕と一緒にフィジーに乗るようになってしまったのだ。おかげでトラムスが拗ねて扉のウチに閉じこもってしまっている。

「……マサヤのバカっ」

「何でさ!?」

 解せぬ。

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