異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

僕の妹

「一体どういう事なんですか!? 咲の奴が来るって……またあなたの仕業ですか!?」

 憤る僕に、女神様はまあまあと手をかざして落ち着かせてくる。しかし僕は容易には落ち着けそうもなかった。

「妹まで巻き込むなんて、何かあったら許しませんよ!!」

 かなり険悪な空気で詰め寄ると、女神様も流石に真面目な顔で答えた。

「本当は私だってあなたの妹ちゃんにまで迷惑かけるつもりはなかったのよ。でも、あなたの家族だからなのか、妹ちゃんにも勇者の適性があったの」

「だからって……!!」

「それに、あんな姿見てられなかったから……」

 女神様は目を伏せ、悲しそうに呟いた。僕はその言葉に引っかかりを覚え、幾分か冷静さを取り戻す。

「あんな姿って、どういうことなんですか?」

「……本当は見せるべきじゃないんでしょうけど、あなたは納得しないでしょうから。こちらをご覧になってください」

 例の、テレビのような受像装置を示され、そちらに目を向ける。すると最初はノイズのみだった映像が徐々に鮮明さを増し、とある部屋を映し出していた。

「これは……咲の部屋?」

「そうです……ね」

 確かにこれは僕の実家の咲の部屋だ。何度も入ったことがあるので、よく覚えている。

 窓のカーテンは全て締め切られ、薄暗い部屋の中でベッドの中でもぞもぞと動く影があった。

「お兄ちゃん……どこに行ったのお兄ちゃん……!!」

 僕のことを呼びながら、枕を濡らしてずっと泣き続けている咲。僕の前で見せていた元気さは欠片も見当たらず、ずっと泣き通しなのかはれぼったくなっている目を更に涙で濡らしていく。

「どうして咲を置いて行っちゃったの……お兄ちゃん……」

 いっそ呪詛のようなうめき声を上げながら、泣き続ける咲。僕はその悲壮な姿をとても見ていられなかった。

「も、もういいです!」

「わかりました」

 女神様が手をかざすと、映像は途切れた。一体どうしたんだ、咲の奴は。ちゃんとちょっと出かけるけど、心配しないで欲しいと書き置きを残して置いたというのに、僕がいないだけであんな姿になってしまうなんて……。

「見たかしら? あのままの状態で放っておけると思う?」

「あんな咲、初めて見ました……」

 女神様は、じっと僕を見詰めた。

「彼女にはあなたが必要なんです。だから、あなたには悪いけど彼女もこの世界に呼ばせてもらいます。その方が、彼女にとっても良いと判断しました」

「神様が……そんな個人の事情なんかに関わってしまっていいんですか?」

 本当は感謝している。だというのに、僕の口は勝手に動いていた。

「もちろん本当はよくないんですけど。でも、あなたには幸せになってほしいんです」

「僕に幸せに、ですか?」

「ええ。それが巻き込んでしまったせめてもの償いといいますか。だから彼女を呼ぶことに賛成してもらえませんか?」

 女神様のお願いに、僕は答えを一つしか持っていない。

「断れないって、解ってて聞いてるでしょう? 女神様も人が悪いですね」

「私、神様ですからねー」

 最後にちょっとだけ笑みを浮かべて、女神様は目をつぶった。

「それでは、彼女をこの世界に呼び寄せた後、先ずはテレシー王国の保護下におくのでいいですか?」

 僕は、何故ワンクッション置く必要があるのか疑問に感じた。

「僕の魔法を使えばすぐにでも会えるんじゃ……」

 僕の提案を、しかし女神様は首を振って否定する。

「それは止めたほうが良いと思いますよー。今の状態ですぐに出会わせると恐らくロクな事にならないと思います」

「まあ、女神様がそう言うなら……」

 何が問題なのかは解らないが、こと女性については正直言って今まで余り縁がなかったこともあり、僕はあんまり自分の女性勘を信じていなかった。

「では、あなたは地上に戻って下さい。まだリアさん達は気付いてないですからー」

「はい。あ、女神様。最後に一つだけ」

「何でしょうかー?」

「加護って、なんなんですか?」

 もちろんそれは言葉通りの意味で聞いているわけではない。女神様も僕の様子を見ていたのなら、この言葉の意味が解るはずだ。女神様は、ニッコリと笑って答えた。

「“私はあなた方子どもたちを決して裏切らない”。この答えでどうでしょうか?」

 十分だった。

「それが聞けて良かったです。リアにも機会があれば話してみますね」

「よろしくですー。それではまた会えたら!」

「余りその機会は来て欲しくないですけど……」

「何でですか! こんな美貌の女神に会えるというのに! ぷんぷん!」

 いつもの女神様の様子に、僕は安心して下界を戻る事を願った。その後ろで、少しだけ寂しそうな顔を浮かべている女神様には気が付かないままに。

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