異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
のどかな道中
僕達は、予定していた北方方面行きの馬車に寄り合い馬車にモモとリアが乗り、ルイア王国を目指した。馬車の中でもモモは人気者だったらしい。僕? 僕は連れてきたフィジーに乗ってるよ。
(私てっきり忘れられてると思ってました)
「そんなわけないだろ」
ホントは忘れてました。モモが騒がなかったら完全に置いてきてた自信がある。
(……モモ様には言わないでおいてあげます)
バレテーラ。まあ、その方が都合がいいしそうしてもらおう。
「おにーさん! おにーさん!」
モモが馬車から身を乗り出して何事か訴えかけてくる。危ないなと思いながらも、流石にリアがその身を落ちないようしっかり支えてくれていた。
「どうしたの、モモ」
「おにーさんの事はこれからはマサヤと呼ぶのです!」
確かにいつまで経ってもおにいさんでは他者との区別がつかない。今まではそれで良かったんだろうが、彼女は今後色々な人々と出会うことだろう。それは悪いことじゃないなと思えたので、僕は笑顔で答えた。
「うん、いいよ。それじゃあリアのこともちゃんとリアって呼ぶようにね」
「はいなのです!」
言えることが言えて満足なのか、モモは馬車へと引っ込んだ。馬車と併走しながらも、僕はのんびりとしたこの空気が嫌いではない。ふと、フィジーが話しかけてくる。
(では私もマサヤ様とお呼びしますね)
「僕はお前のご主人様でも何でもないんだが……」
(でも一番私に乗って頂いてますし。お世話もしてくださってますから)
確かに、フィジーに乗るのは主に僕なので彼? の世話は僕の役目だった。そういや、フィジーって……。
「なあ、お前ってオスなの? メスなの?」
(見たら解るじゃないですか! こんな毛並みの綺麗な私がオスなわけないでしょう!)
馬に怒られた。
「ごめんごめん。そうか、お前メスだったのか……」
だからどうということはないのだが、何か心に引っかかるものがあった。それは悪寒、とでも言うべきものなのだろうか。
「なあ、お前さん。さっきから聞いとったらまるで馬の言葉が解ってるように独り言を喋っとるが大丈夫か?」
御者台のおじいさんに心配されてしまった。特に良い言い訳も思いつかなかったので、そのまま否定せずにおく。
「ええ、僕の魔法で馬の言葉が解るんですよ」
「ほう! そうなのか、それは珍しい魔法を知っておるなあ。どうじゃ、ウチの子が何と言ってるのか解るかの?」
おじいさんが手綱を握っている馬に顔を向けると、馬はふいっと顔をそむけた。
(たまには休暇が欲しいって言え)
「……たまには休みをくれと言ってます」
「……そうか。馬は休みないからのう……」
何となく微妙な空気が二人の間を流れる。僕は、気になってフィジーにも聞いてみた。
「お前も休みが欲しいか?」
(いえ、私達は人間と共にあるものですし。それに夜の間は私も休息もらっているので大丈夫です)
ウチの馬は良く出来た馬だなあ。感心するよ。人間に例えたら割とブラックな職場だもんな。主人もろとも斬り殺されたりとか……。
「ところで、目的地の“最北の街”ってどんな所なんです?」
御者のおじいさんに訪ねたところ、よく聞かれるのかスラスラと教えてくれた。
「暖かくて、色んな珍しい果物があるのが特徴じゃなあ。なかでもアポイの実が名産じゃ。甘くてシャキッとしとって美味いぞー」
すると馬車の中からモモが顔を出してきた。
「美味しいもの!? 食べたいのですー!!」
「はは、きっとお嬢ちゃんも満足出来るはずだよ」
「うれしーのですー」
柔和な笑顔を浮かべる御者の隣に、モモが座り込んでしまった。馬車の中からリアの声がするが、モモは退く気がないようだ。
「すみません、ウチの子が勝手に……」
「はは、いいぞいいぞ。見たところどこかのお嬢様のようだし、珍しいのだろう? 今日は天気もいい、外を見たくなるのも仕方なかろう」
僕はおじいさんの好意に甘えて、モモに絶対に危ない真似はしないようにきつく言い聞かせておいた。……でも多分、この子も見た目にそぐわず頑丈なんだろうな。何しろあのドラゴンが世話してたんだからなあ。
そんな風にほのぼのと弛緩した空気が流れる中、ぱかぽこと馬の蹄音に馬車のガタゴトする音が合わさって、暖かい日差しが降り注いでりゃ眠くなってもしかたがないわけで。
僕はうっかり目を閉じて、そのまま意識が落ちていった。
どれぐらい経ったのだろう、ふと目をさますと、世界は茜色に染められていた。
「うわ? いつの間にか夕方!?」
「……お前さん、寝ながら馬を操るとか器用なことするな」
御者のおじいさんに呆れられたが、上手いこと落ちないようにフィジーがバランスを取ってくれたのだろう。
「ありがとな」
ぽんぽんとフィジーの頭を撫でると、フィジーは一瞬こちらを振り向いた。
(まあ仮にも私の騎手様ですので)
本当に出来た馬だ。
「ほれ、もうすぐ宿場町に着く頃合いだ。お前さん達とはそこでお別れだな」
「ああ、おじいさんの定期便は宿場町と王都の往復でしたもんね」
「そうじゃ。あそこの街から更に北に行く便もある」
情報を教えてもらいながら馬を進めていくと、宿場町の門前までやってきた。夕刻だからだろうか、意外と並んでる人数は少なく、さほど待たずして中に入ることが出来た。
「さあさあ、皆様着きましたよ。お嬢さん、じじいの横で退屈じゃなかったかの?」
「とっても楽しかったのです―! マサヤは寝てるなんてもったいないのです!」
「面目ない」
「ほんと、マサヤったら野盗に襲われてても寝てるんだもの! びっくりしたわ!」
リアの言葉に僕は流石に驚いた。
「えっ!? 野盗が出たの!?」
「出とりゃせんわ」
あっさり騙された僕に呆れたようにおじいさんが証言した。ぎろっとリアを睨むとペロリと舌を出して片目を閉じた。……くそ、可愛いじゃないか。仕方ないからお仕置きはしないでおこう。
「さて、お別れじゃな。北の国は住みよいところだがその分危険な魔物も多いと聞く。気をつけてなあ」
「ありがとうおじいさん、またどこかで!」
「ほっほっ、それじゃあの」
乗客や荷物をみんな下ろした馬車は、厩舎着きの宿へと向かっていった。それを見送った後、僕はリアと、モモを軽く見回した。
「さて、それじゃあ僕達も宿を探そう」
「なのですー!」
「解ったわ!」
(厩舎が広い所がいいなあ)
フィジーの要望は気付かないフリをした。申し訳ないが、人間には予算という物があるのだよ、フィジーちゃん。
というわけで、厩舎付きの中級グレードのお宿を街の人に紹介してもらい、早速手続きをすることになった。
「いらっしゃい、お客さん。……泊まりかい?」
酒場の併設されてる宿らしく、活気がある。受付のおじさんは僕達を見て渋い顔をした。
「ええ、三人で一泊なんですけど……ダメですか?」
「いやあ、今はそれなりに埋まっててねえ。一部屋しか空いてないんだ。ベッドはデカイから家族向けの部屋なんだが、どうするね」
「うっ……」
僕は急激に恥ずかしくなって、思わず顔を赤くした。横にいるリアを見ると彼女も真っ赤になって俯いていたが、僕の視線に気づくと慌てたように胸を張った。
「ほ、他の宿を取ればいいんじゃないかしら!」
「生憎だけどお客さん、多分厩舎付きの宿はどこもいっぱいだと思いますよ。何しろ今は北から南から客が集まってるからねえ。この時期は人の移動が活発なんだ」
「うぐっ、そうなんですか……」
どうしたものか、と思っていると、リアがぽそりと呟いた。
「マ、マサヤは……私と一緒に寝るの、嫌?」
「えっ!? い、嫌じゃない……けど」
不意打ちの攻撃はずるい。しかもそんなもじもじとしながら言われたら、男なら誰だって頷くしかないじゃないか。
「なら仕方ないわ、一部屋しか空いてないんですもの! これはしょうがないことなのよ! ね、モモ!」
よく解ってないモモに話を振るリア。
「なのです?」
「三人で一緒に寝るってことよ!」
「マサヤとリアと一緒は嬉しいのです! この前はリアとだけだったのです」
モモはすっかり乗り気になってしまった。こうなったら仕方ない、僕も腹をくくろう。
「それじゃあ、一部屋でお願いします……」
「あいよ。まあ、お嬢ちゃんがいるから心配ないとは思うが、あんまり大きな声は夜中に出さないでくれよな」
余計な事言うなよ! 見ろ、リアなんて首まで真っ赤になってるじゃないか!
「そんな心配はいりません! はいこれ代金!」
僕は少々乱暴に提示された金額をバンっと机に叩きつける。おじさんは代わりに部屋の鍵を渡してきた。
「馬は厩舎に世話係の小僧がいるからそいつに言っておきな。部屋は二回の一番奥だよ。それじゃ、ごゆっくり」
今夜は眠れるのかな……。
(私てっきり忘れられてると思ってました)
「そんなわけないだろ」
ホントは忘れてました。モモが騒がなかったら完全に置いてきてた自信がある。
(……モモ様には言わないでおいてあげます)
バレテーラ。まあ、その方が都合がいいしそうしてもらおう。
「おにーさん! おにーさん!」
モモが馬車から身を乗り出して何事か訴えかけてくる。危ないなと思いながらも、流石にリアがその身を落ちないようしっかり支えてくれていた。
「どうしたの、モモ」
「おにーさんの事はこれからはマサヤと呼ぶのです!」
確かにいつまで経ってもおにいさんでは他者との区別がつかない。今まではそれで良かったんだろうが、彼女は今後色々な人々と出会うことだろう。それは悪いことじゃないなと思えたので、僕は笑顔で答えた。
「うん、いいよ。それじゃあリアのこともちゃんとリアって呼ぶようにね」
「はいなのです!」
言えることが言えて満足なのか、モモは馬車へと引っ込んだ。馬車と併走しながらも、僕はのんびりとしたこの空気が嫌いではない。ふと、フィジーが話しかけてくる。
(では私もマサヤ様とお呼びしますね)
「僕はお前のご主人様でも何でもないんだが……」
(でも一番私に乗って頂いてますし。お世話もしてくださってますから)
確かに、フィジーに乗るのは主に僕なので彼? の世話は僕の役目だった。そういや、フィジーって……。
「なあ、お前ってオスなの? メスなの?」
(見たら解るじゃないですか! こんな毛並みの綺麗な私がオスなわけないでしょう!)
馬に怒られた。
「ごめんごめん。そうか、お前メスだったのか……」
だからどうということはないのだが、何か心に引っかかるものがあった。それは悪寒、とでも言うべきものなのだろうか。
「なあ、お前さん。さっきから聞いとったらまるで馬の言葉が解ってるように独り言を喋っとるが大丈夫か?」
御者台のおじいさんに心配されてしまった。特に良い言い訳も思いつかなかったので、そのまま否定せずにおく。
「ええ、僕の魔法で馬の言葉が解るんですよ」
「ほう! そうなのか、それは珍しい魔法を知っておるなあ。どうじゃ、ウチの子が何と言ってるのか解るかの?」
おじいさんが手綱を握っている馬に顔を向けると、馬はふいっと顔をそむけた。
(たまには休暇が欲しいって言え)
「……たまには休みをくれと言ってます」
「……そうか。馬は休みないからのう……」
何となく微妙な空気が二人の間を流れる。僕は、気になってフィジーにも聞いてみた。
「お前も休みが欲しいか?」
(いえ、私達は人間と共にあるものですし。それに夜の間は私も休息もらっているので大丈夫です)
ウチの馬は良く出来た馬だなあ。感心するよ。人間に例えたら割とブラックな職場だもんな。主人もろとも斬り殺されたりとか……。
「ところで、目的地の“最北の街”ってどんな所なんです?」
御者のおじいさんに訪ねたところ、よく聞かれるのかスラスラと教えてくれた。
「暖かくて、色んな珍しい果物があるのが特徴じゃなあ。なかでもアポイの実が名産じゃ。甘くてシャキッとしとって美味いぞー」
すると馬車の中からモモが顔を出してきた。
「美味しいもの!? 食べたいのですー!!」
「はは、きっとお嬢ちゃんも満足出来るはずだよ」
「うれしーのですー」
柔和な笑顔を浮かべる御者の隣に、モモが座り込んでしまった。馬車の中からリアの声がするが、モモは退く気がないようだ。
「すみません、ウチの子が勝手に……」
「はは、いいぞいいぞ。見たところどこかのお嬢様のようだし、珍しいのだろう? 今日は天気もいい、外を見たくなるのも仕方なかろう」
僕はおじいさんの好意に甘えて、モモに絶対に危ない真似はしないようにきつく言い聞かせておいた。……でも多分、この子も見た目にそぐわず頑丈なんだろうな。何しろあのドラゴンが世話してたんだからなあ。
そんな風にほのぼのと弛緩した空気が流れる中、ぱかぽこと馬の蹄音に馬車のガタゴトする音が合わさって、暖かい日差しが降り注いでりゃ眠くなってもしかたがないわけで。
僕はうっかり目を閉じて、そのまま意識が落ちていった。
どれぐらい経ったのだろう、ふと目をさますと、世界は茜色に染められていた。
「うわ? いつの間にか夕方!?」
「……お前さん、寝ながら馬を操るとか器用なことするな」
御者のおじいさんに呆れられたが、上手いこと落ちないようにフィジーがバランスを取ってくれたのだろう。
「ありがとな」
ぽんぽんとフィジーの頭を撫でると、フィジーは一瞬こちらを振り向いた。
(まあ仮にも私の騎手様ですので)
本当に出来た馬だ。
「ほれ、もうすぐ宿場町に着く頃合いだ。お前さん達とはそこでお別れだな」
「ああ、おじいさんの定期便は宿場町と王都の往復でしたもんね」
「そうじゃ。あそこの街から更に北に行く便もある」
情報を教えてもらいながら馬を進めていくと、宿場町の門前までやってきた。夕刻だからだろうか、意外と並んでる人数は少なく、さほど待たずして中に入ることが出来た。
「さあさあ、皆様着きましたよ。お嬢さん、じじいの横で退屈じゃなかったかの?」
「とっても楽しかったのです―! マサヤは寝てるなんてもったいないのです!」
「面目ない」
「ほんと、マサヤったら野盗に襲われてても寝てるんだもの! びっくりしたわ!」
リアの言葉に僕は流石に驚いた。
「えっ!? 野盗が出たの!?」
「出とりゃせんわ」
あっさり騙された僕に呆れたようにおじいさんが証言した。ぎろっとリアを睨むとペロリと舌を出して片目を閉じた。……くそ、可愛いじゃないか。仕方ないからお仕置きはしないでおこう。
「さて、お別れじゃな。北の国は住みよいところだがその分危険な魔物も多いと聞く。気をつけてなあ」
「ありがとうおじいさん、またどこかで!」
「ほっほっ、それじゃあの」
乗客や荷物をみんな下ろした馬車は、厩舎着きの宿へと向かっていった。それを見送った後、僕はリアと、モモを軽く見回した。
「さて、それじゃあ僕達も宿を探そう」
「なのですー!」
「解ったわ!」
(厩舎が広い所がいいなあ)
フィジーの要望は気付かないフリをした。申し訳ないが、人間には予算という物があるのだよ、フィジーちゃん。
というわけで、厩舎付きの中級グレードのお宿を街の人に紹介してもらい、早速手続きをすることになった。
「いらっしゃい、お客さん。……泊まりかい?」
酒場の併設されてる宿らしく、活気がある。受付のおじさんは僕達を見て渋い顔をした。
「ええ、三人で一泊なんですけど……ダメですか?」
「いやあ、今はそれなりに埋まっててねえ。一部屋しか空いてないんだ。ベッドはデカイから家族向けの部屋なんだが、どうするね」
「うっ……」
僕は急激に恥ずかしくなって、思わず顔を赤くした。横にいるリアを見ると彼女も真っ赤になって俯いていたが、僕の視線に気づくと慌てたように胸を張った。
「ほ、他の宿を取ればいいんじゃないかしら!」
「生憎だけどお客さん、多分厩舎付きの宿はどこもいっぱいだと思いますよ。何しろ今は北から南から客が集まってるからねえ。この時期は人の移動が活発なんだ」
「うぐっ、そうなんですか……」
どうしたものか、と思っていると、リアがぽそりと呟いた。
「マ、マサヤは……私と一緒に寝るの、嫌?」
「えっ!? い、嫌じゃない……けど」
不意打ちの攻撃はずるい。しかもそんなもじもじとしながら言われたら、男なら誰だって頷くしかないじゃないか。
「なら仕方ないわ、一部屋しか空いてないんですもの! これはしょうがないことなのよ! ね、モモ!」
よく解ってないモモに話を振るリア。
「なのです?」
「三人で一緒に寝るってことよ!」
「マサヤとリアと一緒は嬉しいのです! この前はリアとだけだったのです」
モモはすっかり乗り気になってしまった。こうなったら仕方ない、僕も腹をくくろう。
「それじゃあ、一部屋でお願いします……」
「あいよ。まあ、お嬢ちゃんがいるから心配ないとは思うが、あんまり大きな声は夜中に出さないでくれよな」
余計な事言うなよ! 見ろ、リアなんて首まで真っ赤になってるじゃないか!
「そんな心配はいりません! はいこれ代金!」
僕は少々乱暴に提示された金額をバンっと机に叩きつける。おじさんは代わりに部屋の鍵を渡してきた。
「馬は厩舎に世話係の小僧がいるからそいつに言っておきな。部屋は二回の一番奥だよ。それじゃ、ごゆっくり」
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