異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

聖剣借りました

 ルーラン皇国での騒動も一段落して、僕とリアは一度セーゲル公爵の城へと戻ることにした。何しろ二日もモモを預けっぱなしなのだ。いい加減寂しがってるかもしれない。

「本当に今日お帰りになるのですか? もう少しいても構いませんのに。あ、そうだわ! 問題を解決した貴族のお歴々からお茶会やダンスパーティのお誘いが沢山着てまして――」

「ライラ、その辺にしておきなさい。彼らが困っているだろう」

 出発の日、謁見の間で皇族達に囲まれていた。その中でも必死に引き留めようとしているのが、ライラとリイラだった。ハルマン皇子は相変わらずの仏頂面で、ポルス皇子は流石に公的な場では本を持ってきてはいなかったが僕らにはまるで興味のない素振りで突っ立っている。

 ライラとリイラを窘めてくれたのはもちろん皇帝陛下だった。謁見の間で公式に見送りの儀を執り行うのは、僕達が勇者だからというだけでなく、褒賞を渡すためでもあった。その為にここには帝国の重鎮たちが立ち並び、僕は緊張で胃が痛くなりそうだった。

「では、勇者リア。勇者カガリ。二人には帝国動乱の危機を救った褒賞を与えることにする。目録をこれへ」

 皇帝陛下が指示すると、宰相として紹介された人物が目録を読み上げる。

「勇者リア、並びに勇者カガリ。双方の帝国への貢献を鑑み、国宝である“聖剣レジェリア”を貸し与える物とする!」

 その宣言に、ざわっと周囲がざわめいた。中でも、驚きの余り声を張り上げたのはハルマン皇子だった。

「皇帝陛下! “聖剣レジェリア”は我が国を代表する至宝ですぞ! それを下賜するなど、何をお考えなのですか!」

 一応いつもの乱暴な口調はなりを潜めているが語調は強く、皇帝陛下を非難するように食って掛かる。それを予想していたのか、皇帝陛下は片手を上げて皆に静まるように合図を送り、ざわめきはピタリとやんだ。

「確かに“聖剣レジェリア”は我が国一の宝と言っても過言ではない。しかし、アレに聖約があるのは皆も知っていよう」

「あっ」

「そうか……」

 何かに気付いたライラ。遅れてリイラや、その他の皇族達にも徐々に理解の色が広がっていき、重鎮たちも何事かひそひそと話し合っている。一方の僕らは完全に置いてけぼりで、さっぱり話が見えない。聖剣レジェリアとやらを恭しく持って来た衛士から、何とか格好をつけて受け取るのが精一杯だった。

「勇者カガリよ。その剣は我が国と勇者殿との間での信頼の証として貸し与える。聖剣の名がついているとおり、かつての勇者の一人が実際に魔王を討伐した際に使用されたと言われる伝説の剣だ。その切れ味はドラゴンをも切り裂くと言われている」

 そんな素晴らしい剣を借りて大丈夫だろうか。冷や汗が出てくる。

「しかしその剣には聖約があってな。この地ルーラン帝国の、正確にはそれが納められていた台座に二月に一度は戻さないと切れ味が鈍ってしまうのだ」

「ふぁっ!?」

 驚きの余り変な声が出た。何それ、超面倒くさいんですけど!? つまり二ヶ月に一回はルーラン帝国を訪ねて聖剣の切れ味を復活させないといけないわけ!?

「あの、大変光栄な事ですが辞退――」

「まさか! 勇者殿は我が国との友好の証を無碍に扱うような真似はするまいな!」

 完全にはめられた! この狸親父、僕とライラかリイラをくっつける気満々だな!? 思わず助けを求めてハルマン皇子を見ると何か完全に諦めたように肩をすくめているし、そもそもポルス皇子は興味がない。残る二人、ライラとリイラはというとニコニコと非常に上機嫌に笑っている。隣のリアを振り返ると、事態の深刻さを解ってないらしい。

「それじゃあ二ヶ月ごとにライラやリイラに会いに来れるのね! 嬉しいわ!」

 等と暢気にのたまっている始末。僕は完全に頭を抱えたくなってきた。

「多少手間が増えるだろうが、その装備が強力なモノであることに間違いはない。必ずや勇者殿の力になろう」

 それはそうだろうけど! 見える、僕には見えるぞ。何だかんだと理由をつけて引き留めようとするライラとリイラの姿が見える!

「それでは勇者様方、またのご来訪を心よりお待ちしております」

 ライラが獲物を狙うような目でメッチャ僕を見てくる。

「うむ。二人の旅路に幸多からん事を」

 それが退出の合図だと聞かされていたので、僕らは否応なしに聖剣を受け取り、退出せざるを得なかった。こうなったら一刻も早く魔王を打倒して、本格的に婚約とかさせられる前に日本に逃げよう。

 背後で謁見の間のドアが閉められると共に、僕はリアの手を引いてずんずかと皇宮を後にする。

「ちょ、ちょっとマサヤ!? そんなに急いでどうしたの!?」

「リア、僕には一刻も早く癒やしが必要だ!」

「えっ? えっ? どういう意味?」

「とっととこんな国おさらばして早くモモを迎えに行こう!」

「そ、それはもちろん賛成だけれど……」

 迷宮でレベルアップした脚力に身体強化の魔法を施して、僕らはあっという間に皇都を抜け出して街道を走っていく。それはもちろん、僕の魔法をあんまり人目に触れさせたくないのと、迷惑をかける人間を極力減らすためだ。

「もう、そんなに急がなくてもモモは逃げたりしないわよ!」

「いや、それは解っているんだけどね……」

 どうやらリアはモモに皇都のお土産を買って帰りたかったらしいが、これ以上留まっているとどんな罠を仕掛けられるか解らない。モモには可哀想だがここは我慢してもらおう。

「どうしてそんなに急ぐのよ?」

「……君は本当にバカだなあ」

「聞き捨てならない暴言!?」

 仕方なしに、恐らく皇帝陛下が考えているであろう計画を説明した。するとリアはようやく理解したのか、ぷーっとむくれて怒りを露わにしている。

「何よ! マサヤは私のパートナーだってちゃんと言ったのに!」

「だからあの一族は恐ろしいんだよ……解ってくれた?」

「解ったわ! 早くマサヤの魔法でセーゲルおじさまの所へ帰りましょ!」

 ということで、人目が少なくなってきた所で街道から少し外れた森の中に入り、魔法を発動する。リアにセーゲル公爵の所へ移動するように真剣に願ってもらい、僕も同じ願いを思い浮かべるといつもの閃光と共に僕達の姿は掻き消える。目を開けると、そこは出陣の際に使ったセーゲル公爵のお城の中庭だった。

「あっ! 公爵の私兵をおいてきちゃった!!」

「あー……だ、大丈夫よ。ライラが何とかしてくれるわよ、きっと」

 お互い、気まずげに顔を見合わせていると、建物の中から何かが飛び出して来た。

「おにーさーん!! うわあああぁぁぁん!!」

 ピンク色の塊が僕にガシッとしがみついたと思ったら、それはモモだった。

「モモ、ただいま」

「ただいま、モモ」

 僕とリアが代るがわるモモの頭を撫でると、彼女は多少は落ち着いたのだろう、鼻をぐすぐす言わせながら僕を見上げてくる。

「おにいさん、おねえさん、もう勝手にどっか行っちゃいやなのです! モモ一人は嫌なのですー!!」

「ご、ごめんね、モモ。こんなに遅くなるつもりはなかったんだけど」

「ごめんなさいモモ。その代わり今日はモモの好きなことして遊んであげるから!」

 二人してモモに謝罪していると、数人の兵士を伴って、セーゲル公爵がやってきた。

「やあ、お帰り二人共。光の柱が現れたからそうじゃないかと思ったが、モモが一目散に飛び出して行ったので驚いたよ。その様子では上手く行ったようだね?」

「ええ、おじさま。ただいま。その事についてはゆっくりお話致します。まずは、ちょっとモモのお相手をさせて頂ければ……」

「はは、すっかり寂しがってしまっていてね。いいとも、二人共モモと遊んで上げなさい」

 公爵の許可を得て、その日はモモが遊び疲れて眠るまでひたすら付き合っていた。

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