異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
決意と絶望
「わたくしは、親類の醜い姿等見たくありません……」
これは無理だ、と僕は思った。この子は、皇帝になるには優しすぎる。公爵も同じ考えなのか、大きく溜息をついて肩を落としている。
「ライラ。本当にその選択で後悔はしないのか」
「それ……は……」
公爵の問にも即答できずに、俯く。
彼女が態度を決め兼ねていてる間にも、暗殺者は続々とやってくるだろう。そうして万が一にも命を落とした場合、彼女は笑いながら死に行くのだろうか。僕にはそうは思えない。きっと、後悔に塗れながら逝ってしまうだろう。
「ライラ、君は――」
「待って、マサヤ。ここは私に」
「リア――」
いつになく真剣な表情のリアに、僕は譲る事にした。
「ライラ、あなたは皇帝にならなくてはならないわ」
「リア!? どうしてそのような事を言うの!?」
「それは、あなたが優しい人だから。他人を省みる事が出来る人だから。そして、最終的には“決断”が出来る人だから」
「そんなこと――今だってこうして迷っている情けないわたくしに、決断など出来るはずがないじゃありませんか」
今にも泣きそうなライラに、リアは優しく微笑みかける。
「ねえ、ライラ。昔二人でこっそり王城を抜け出した時に野良犬に襲われそうになったことあったの、覚えてる?」
「……覚えてますわ」
「あの時、私はまだ幼くて、野良犬なんて初めて相手にするから怖がっちゃって……でも、あなたはその時一番最良の選択をしてくれたでしょう?」
「え?」
「一刻も早く、助けを呼びに行ってくれたじゃない。私ならそれまで耐えられるって信じて」
「ち、違います! あれは逃げたのですわ! 親友を置いて、私だけ助かろうと!」
「そうなの? ならどうして必死に大人たちが止めたにも関わらず、あなたは戻ってきてくれたの?」
「そ、それは――」
「あなたは時には最良を選択できる人なのよ。今はほんの少し勇気が足りないだけ。だから、あなたの足りない分の勇気は私達が分けてあげる」
「私達――?」
そこでリアは手を広げ、笑顔で答えた。
「そう、私とマサヤがね! 何しろ私達は勇者なのだから! 真に勇気を持つものとして、あなたの背中を守り通してみせるわ!」
「勇者……リア」
「そうよライラ。あなたは私達を頼っていいの。暗殺なんて卑怯な真似をする人間、許すわけにはいかないわ!」
「リア……あなたは……」
「私はあなたの親友。あなたの盾。そしてあなたの剣となるわ」
「リア、あなたはいつだって強いわね」
ライラが眩しそうにリアを見つめる。リアは、そんなライラに悪戯っぽく微笑んだ。
「あら、そんなことないわよ。国じゃよく泣き虫勇者なんて呼ばれてるんだから。現にそこにいるマサヤにはしょっちゅう泣かされてるし。ね?」
このタイミングでこっちに話を振るんじゃない!
「あー、げふんげふん。そんなこともあったかな」
「まあ、淑女を泣かせてその態度はいかがなものかと思いますわよ?」
コロコロと喉を鳴らして笑うライラに、僕とリアは揃って照れ笑いを浮かべる。ひとしきり笑った後、ライラは表情を引き締めて公爵と向かい合った。
「叔父様。私は決めました」
「うむ。聞こうじゃないか」
「此度の事件の黒幕を上げ、その功績を持って皇帝へと上奏し帝位を戴くお願いをするつもりです」
「良く言った!」
ライラの言葉に公爵は膝を打って答える。
「わしもこの地に封じられているとはいえ、まだまだ使える手はある。だからリアやマサヤ殿が届かぬ所の相手は任せなさい」
「はい! わたくし、ライラ・エルトゥナ・ルーランは皇位を簒奪せんとする逆賊を捕らえるとここに誓います!」
堂々と宣言するライラに、僕は確かに皇帝の“器”を見た。
「じゃあ、マサヤ、お願いできる?」
リアの頼みに、僕は真剣な表情で頷いた。
「それじゃあ、ライラ。願うんだ。心の底から、本当の願いを」
「はい、マサヤ殿」
僕はライラの席から立ち上がり、ライラの近くまで寄った。ライラも椅子から立ち上がると、僕に祈りを捧げるように膝をおり手を組んで胸に押し当てる。
「お願い……私の事を狙っている人を……“私の本当の敵”を教えて……!」
「ライラの事を狙う敵の名を……ここに……!!」
そして爆発的な光が天井を貫いて迸り、その日城下町は大騒ぎになったという。
やがてそれが収まると、空中にまるで空間を切り抜いたように映像が浮かび上がった。どこかの家……屋敷か? その一室、豪奢なベッドの上で苛立たしげに爪を噛んでいる少女の姿が浮かび上がる。
「そ、そんな……まさか!」
ライラは立ち上がり、フラフラとよろめいている。顔からは血の気が失せ、両手で口を覆い信じられぬ物を見ているように、だが目は離さずに映像を見続ける。
『全く、なんでアイツが生きているのよ!! どいつもこいつも使えないんだから! これじゃあ、これじゃあ私が皇帝になれないじゃないっ!!』
ヒステリックに叫び、少女は手近にあった枕を思い切り室内の誰かにぶつける。
『恐れながら姫様、このままでは非常にマズイ事態になってしまいます』
枕がぶつかった事など気にもとめずに、慇懃な礼をする執事らしき男。
『解っているわよ、とっととあのお花畑の住人を本当の天国に送り込んでやりなさい! この際、兄上を動かしても構わないわ!』
『よろしいので? 見返りを要求されるのは確実ですが……』
『バカね。そんなもの帝位を得た後でなんとでもなるわよ』
少女は年不相応に邪悪に笑う。
『では、早速エリック様に使者を出します』
『頼んだわよ、タルク。これ以上の失敗はアンタだって許さない!』
その目は冷徹で、優しさの欠片も見えなかった。
『ははっ……』
タルクと呼ばれた男が一礼をした所で映像は途切れる。
「ライラ!!」
よろめいた所をリアに支えられ、ライラは一瞬だけ目を閉じたが気丈にも自分で立ち上がる。
「だ、大丈夫です、リア。まさかあの子が……リイラが首謀者だったなんて……」
それは僕にとっては初耳の名前だったが、誰かくらい簡単に予想できる。そう、ライラを暗殺しようとしていたのは彼女の実の妹、病弱と言われていた第二皇女だったのだ。
これは無理だ、と僕は思った。この子は、皇帝になるには優しすぎる。公爵も同じ考えなのか、大きく溜息をついて肩を落としている。
「ライラ。本当にその選択で後悔はしないのか」
「それ……は……」
公爵の問にも即答できずに、俯く。
彼女が態度を決め兼ねていてる間にも、暗殺者は続々とやってくるだろう。そうして万が一にも命を落とした場合、彼女は笑いながら死に行くのだろうか。僕にはそうは思えない。きっと、後悔に塗れながら逝ってしまうだろう。
「ライラ、君は――」
「待って、マサヤ。ここは私に」
「リア――」
いつになく真剣な表情のリアに、僕は譲る事にした。
「ライラ、あなたは皇帝にならなくてはならないわ」
「リア!? どうしてそのような事を言うの!?」
「それは、あなたが優しい人だから。他人を省みる事が出来る人だから。そして、最終的には“決断”が出来る人だから」
「そんなこと――今だってこうして迷っている情けないわたくしに、決断など出来るはずがないじゃありませんか」
今にも泣きそうなライラに、リアは優しく微笑みかける。
「ねえ、ライラ。昔二人でこっそり王城を抜け出した時に野良犬に襲われそうになったことあったの、覚えてる?」
「……覚えてますわ」
「あの時、私はまだ幼くて、野良犬なんて初めて相手にするから怖がっちゃって……でも、あなたはその時一番最良の選択をしてくれたでしょう?」
「え?」
「一刻も早く、助けを呼びに行ってくれたじゃない。私ならそれまで耐えられるって信じて」
「ち、違います! あれは逃げたのですわ! 親友を置いて、私だけ助かろうと!」
「そうなの? ならどうして必死に大人たちが止めたにも関わらず、あなたは戻ってきてくれたの?」
「そ、それは――」
「あなたは時には最良を選択できる人なのよ。今はほんの少し勇気が足りないだけ。だから、あなたの足りない分の勇気は私達が分けてあげる」
「私達――?」
そこでリアは手を広げ、笑顔で答えた。
「そう、私とマサヤがね! 何しろ私達は勇者なのだから! 真に勇気を持つものとして、あなたの背中を守り通してみせるわ!」
「勇者……リア」
「そうよライラ。あなたは私達を頼っていいの。暗殺なんて卑怯な真似をする人間、許すわけにはいかないわ!」
「リア……あなたは……」
「私はあなたの親友。あなたの盾。そしてあなたの剣となるわ」
「リア、あなたはいつだって強いわね」
ライラが眩しそうにリアを見つめる。リアは、そんなライラに悪戯っぽく微笑んだ。
「あら、そんなことないわよ。国じゃよく泣き虫勇者なんて呼ばれてるんだから。現にそこにいるマサヤにはしょっちゅう泣かされてるし。ね?」
このタイミングでこっちに話を振るんじゃない!
「あー、げふんげふん。そんなこともあったかな」
「まあ、淑女を泣かせてその態度はいかがなものかと思いますわよ?」
コロコロと喉を鳴らして笑うライラに、僕とリアは揃って照れ笑いを浮かべる。ひとしきり笑った後、ライラは表情を引き締めて公爵と向かい合った。
「叔父様。私は決めました」
「うむ。聞こうじゃないか」
「此度の事件の黒幕を上げ、その功績を持って皇帝へと上奏し帝位を戴くお願いをするつもりです」
「良く言った!」
ライラの言葉に公爵は膝を打って答える。
「わしもこの地に封じられているとはいえ、まだまだ使える手はある。だからリアやマサヤ殿が届かぬ所の相手は任せなさい」
「はい! わたくし、ライラ・エルトゥナ・ルーランは皇位を簒奪せんとする逆賊を捕らえるとここに誓います!」
堂々と宣言するライラに、僕は確かに皇帝の“器”を見た。
「じゃあ、マサヤ、お願いできる?」
リアの頼みに、僕は真剣な表情で頷いた。
「それじゃあ、ライラ。願うんだ。心の底から、本当の願いを」
「はい、マサヤ殿」
僕はライラの席から立ち上がり、ライラの近くまで寄った。ライラも椅子から立ち上がると、僕に祈りを捧げるように膝をおり手を組んで胸に押し当てる。
「お願い……私の事を狙っている人を……“私の本当の敵”を教えて……!」
「ライラの事を狙う敵の名を……ここに……!!」
そして爆発的な光が天井を貫いて迸り、その日城下町は大騒ぎになったという。
やがてそれが収まると、空中にまるで空間を切り抜いたように映像が浮かび上がった。どこかの家……屋敷か? その一室、豪奢なベッドの上で苛立たしげに爪を噛んでいる少女の姿が浮かび上がる。
「そ、そんな……まさか!」
ライラは立ち上がり、フラフラとよろめいている。顔からは血の気が失せ、両手で口を覆い信じられぬ物を見ているように、だが目は離さずに映像を見続ける。
『全く、なんでアイツが生きているのよ!! どいつもこいつも使えないんだから! これじゃあ、これじゃあ私が皇帝になれないじゃないっ!!』
ヒステリックに叫び、少女は手近にあった枕を思い切り室内の誰かにぶつける。
『恐れながら姫様、このままでは非常にマズイ事態になってしまいます』
枕がぶつかった事など気にもとめずに、慇懃な礼をする執事らしき男。
『解っているわよ、とっととあのお花畑の住人を本当の天国に送り込んでやりなさい! この際、兄上を動かしても構わないわ!』
『よろしいので? 見返りを要求されるのは確実ですが……』
『バカね。そんなもの帝位を得た後でなんとでもなるわよ』
少女は年不相応に邪悪に笑う。
『では、早速エリック様に使者を出します』
『頼んだわよ、タルク。これ以上の失敗はアンタだって許さない!』
その目は冷徹で、優しさの欠片も見えなかった。
『ははっ……』
タルクと呼ばれた男が一礼をした所で映像は途切れる。
「ライラ!!」
よろめいた所をリアに支えられ、ライラは一瞬だけ目を閉じたが気丈にも自分で立ち上がる。
「だ、大丈夫です、リア。まさかあの子が……リイラが首謀者だったなんて……」
それは僕にとっては初耳の名前だったが、誰かくらい簡単に予想できる。そう、ライラを暗殺しようとしていたのは彼女の実の妹、病弱と言われていた第二皇女だったのだ。
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