異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
テバでの驚き
テバの街へとたどり着いた僕は、その街の大きさにまず驚いた。てっきり中規模の街なのかと勝手に想像していたが、予想に反してテバの街は大都市だったのだ。そのため、街に入るための門に行列が出来ている。
しかしそこは流石皇族とでも言うべきか、馬車の紋章のみで全くのノーチェック、しかもすぐに通れる貴族用門を最優先で通された。
「列に並ばなくていいのはラッキーだったな」
(私待つの苦手です)
馬なのに難儀な奴だ。
しばらく町中をパッカパッカと進んでいくと、平民街から貴族街を隔てている関もあっさりと通過、その際に兵士がガチガチに緊張して最敬礼をしているのが印象的だった。
「どこまで行くんですか?」
「そりゃ皇族が泊まるなんて領主の城に決まっとるじゃろ」
あー。そういうものなのか。そう言えば、貴族街の一番奥に城のようなものが見えるな。アレが領主の城か、凄いんだな帝国って。
「って、ちょっと待って。僕達付いてきちゃってるけどいいの?」
「ふーむ、姫様が何も言わんからのう……」
するとその話を聞いていたらしく、また小窓を開けるとディンに言い放った。
「そちらの勇者様は先触れを出していませんので、街で宿を取ってくださいましね」
「……ということらしい」
とことん嫌われてるなあ。まあ仕方ない、リアとモモの面倒を見てくれるなら別に構わないか、と馬を回頭させようとしたら、バンっと走行中の馬車の扉を開けてリアが置いていかれる子どものような表情をしていた。
「イヤッ! マサヤと離れるなら私も街の宿屋に泊まる!」
「ちょ、ちょっとリア!? 貴女はいいのよ、同盟国の姫なのだから! モモちゃんも私の友人なのですし!」
「じゃあマサヤも一緒に国賓待遇にして!」
「うぐぐ……キッ!」
「ひっ」
リアに言い負かされて余程悔しかったのか、怒りの矛先が僕に向いてきた。女の人は怖いなあ。
「解りました。そちらの勇者様も領主の館で泊まれるように取り計らいます」
極めて平たい声音で冷たい態度だったが、なんとか譲歩してくれた。
「ありがとう、ライラ!」
「お姉さんありがとうなのです!」
モモとリアに抱きつかれ、ライラは困ったような嬉しそうな表情で、仕方ないとでも言いたげにふうっと溜息を一つついた。
「良かったの、お主」
「そうですね、宿代が浮いたので正直助かります」
ディンにお礼を言うと、チラとライラの方へ視線を向けた。ああ、そうか。きちんとお礼しないとね。
「ありがとうございます、ライラ様。私もライラ様のご友人として接して頂ければと思います」
「なっ! わ、わ、わたくしは殿方のお友達など……その……」
しどろもどろになっているライラを見ているのは楽しかったのだが、何故かそれを見て僕に不審そうな目を向けてくるリア。
「……お次はライラってわけ?」
「何を言っているんだリア?」
「おにーさんは女たらしなのです!」
「おいっ!? 誰だモモにそんな事吹き込んだのは……ってリア! 君か!!」
それ以外に犯人はいない。しかし当の本人は知らん顔してふりふりと手を振っている。
「あら、事実じゃない?」
「事実じゃない! 全く、馬車の中でどんな話をしてたんだか」
これは後で事情聴取の必要がありそうだった。
「さ、もうすぐセーゲル様のお城に到着ですぞ。まあ、正確にはもう敷地内には入っているんですがね」
ディンの言うように、城までの長い一本道が整備されており、敷地の中には小さいながらも湖まであり、中々裕福な領主であることが知れる。
「凄いお城だなあ」
思わず口を突いて出た感想に、ライラがふっと口元を緩めて皮肉を言う。
「あらあら、この程度で驚くなんて余程辺鄙なお城しか見たことないのですね!」
「この世界に来て見た城ってリアのお城しか知らないなあ」
「ごめんね、辺鄙なお城で……」
「うぐっ!? そ、そんな事ないわ! リアの王城は立派なものじゃない!」
慌てて取り繕うライラ。そしてまた睨まれる僕。いや、言い出したの君じゃないのさ。
「さて、城門に到着しましたぞ」
ディンの言葉に前を向くと、兵士がズラッと左右に並んでいて、派手さはないが上質な服に身を包んだ壮年の男性が僕達を待ち受けていた。
馬車を止めるのと同時に、僕もフィジーに止まってくれと小声で囁く。
僕が馬を降りる間にも、ディンが恭しく馬車の扉を開けると、険しい顔をした領主が駆け寄ってきた。
「ライラ! よくぞ無事で!」
「叔父様、いえセーゲル公爵、出迎えありがとうございます」
「叔父様と呼んでおくれ、そんな他人行儀な。先触れが来た時は心臓が止まるかと思ったぞ。軍を揃えて救援に向かおうとした所、窮地を脱したとの連絡があってずっと待っておった」
セーゲル公爵と呼ばれた男性は、心の底から安堵したように笑顔を見せ、優雅な仕草で馬車から降りるライラをエスコートする。そして、ライラの次に自分で降りてきたリアを見て破顔した。
「おお、リア姫! お久しぶりですな」
「セーゲルおじ様もお久しぶりです。私達がもう少し早く到着していれば救えた命もあったものを……」
「いや、彼等も職務を全うしたのだから本望であろう。しかしライラを直接狙うとは、もはやなりふり構ってはいられんということか」
「それも勇者リアの活躍によって止められました」
ライラが自慢げにリアの背中を押して、セーゲル公爵の前面に立たせた。
「ほう、そうか。リア、成長したな……ところで、そちらの二人はどなたかな?」
モモと共にフィジーをねぎらっていると声をかけられたので、僕は無難な挨拶を返す。
「初めまして、セーゲル公爵。私はテレシー国で召喚された異世界の勇者、マサヤ・カガリともうします。こちらは……少々事情があって預かっているモモと云います」
「おじさん、だあれ?」
「こ、こらモモっ! 失礼な事を言うんじゃない!」
「ははは、子どもには解るまい。よいよい。おじさんはこのお城に住んでる人だよ」
その言葉に目をまん丸にしたモモは驚愕の声を上げた。
「じゃあおじさんは王様なの!?」
「王様とは違うんだよ。まあ王様の弟なんだがな」
「すごいのです! 王様の弟凄いのです!」
年相応にはしゃぐモモに、僕達だけでなく並んでいた兵士からも微笑ましそうな笑みがこぼれている。
「さて、それでは我が城をご案内しよう。その前に……そちらのモモ殿は着替えをする必要がありそうだな」
パンパン、とセーゲル公爵が手をたたくとどこからともなくメイド達がやってきて、モモを担ぎ上げてしまった。
「な、なにをするのです!?」
「大丈夫、すぐにまた会えるから、今はそのお姉さん達に任せておくんだ」
「わかったのですううぅぅぅぅ……」
ドップラー効果を残して消え行くモモを見送った僕らは、改めてセーゲル公爵と向き合った。
「ようこそ皆さん。では、ちょっと込み入った話もありそうだし、夕食でも取りながら話すとしようか」
しかしそこは流石皇族とでも言うべきか、馬車の紋章のみで全くのノーチェック、しかもすぐに通れる貴族用門を最優先で通された。
「列に並ばなくていいのはラッキーだったな」
(私待つの苦手です)
馬なのに難儀な奴だ。
しばらく町中をパッカパッカと進んでいくと、平民街から貴族街を隔てている関もあっさりと通過、その際に兵士がガチガチに緊張して最敬礼をしているのが印象的だった。
「どこまで行くんですか?」
「そりゃ皇族が泊まるなんて領主の城に決まっとるじゃろ」
あー。そういうものなのか。そう言えば、貴族街の一番奥に城のようなものが見えるな。アレが領主の城か、凄いんだな帝国って。
「って、ちょっと待って。僕達付いてきちゃってるけどいいの?」
「ふーむ、姫様が何も言わんからのう……」
するとその話を聞いていたらしく、また小窓を開けるとディンに言い放った。
「そちらの勇者様は先触れを出していませんので、街で宿を取ってくださいましね」
「……ということらしい」
とことん嫌われてるなあ。まあ仕方ない、リアとモモの面倒を見てくれるなら別に構わないか、と馬を回頭させようとしたら、バンっと走行中の馬車の扉を開けてリアが置いていかれる子どものような表情をしていた。
「イヤッ! マサヤと離れるなら私も街の宿屋に泊まる!」
「ちょ、ちょっとリア!? 貴女はいいのよ、同盟国の姫なのだから! モモちゃんも私の友人なのですし!」
「じゃあマサヤも一緒に国賓待遇にして!」
「うぐぐ……キッ!」
「ひっ」
リアに言い負かされて余程悔しかったのか、怒りの矛先が僕に向いてきた。女の人は怖いなあ。
「解りました。そちらの勇者様も領主の館で泊まれるように取り計らいます」
極めて平たい声音で冷たい態度だったが、なんとか譲歩してくれた。
「ありがとう、ライラ!」
「お姉さんありがとうなのです!」
モモとリアに抱きつかれ、ライラは困ったような嬉しそうな表情で、仕方ないとでも言いたげにふうっと溜息を一つついた。
「良かったの、お主」
「そうですね、宿代が浮いたので正直助かります」
ディンにお礼を言うと、チラとライラの方へ視線を向けた。ああ、そうか。きちんとお礼しないとね。
「ありがとうございます、ライラ様。私もライラ様のご友人として接して頂ければと思います」
「なっ! わ、わ、わたくしは殿方のお友達など……その……」
しどろもどろになっているライラを見ているのは楽しかったのだが、何故かそれを見て僕に不審そうな目を向けてくるリア。
「……お次はライラってわけ?」
「何を言っているんだリア?」
「おにーさんは女たらしなのです!」
「おいっ!? 誰だモモにそんな事吹き込んだのは……ってリア! 君か!!」
それ以外に犯人はいない。しかし当の本人は知らん顔してふりふりと手を振っている。
「あら、事実じゃない?」
「事実じゃない! 全く、馬車の中でどんな話をしてたんだか」
これは後で事情聴取の必要がありそうだった。
「さ、もうすぐセーゲル様のお城に到着ですぞ。まあ、正確にはもう敷地内には入っているんですがね」
ディンの言うように、城までの長い一本道が整備されており、敷地の中には小さいながらも湖まであり、中々裕福な領主であることが知れる。
「凄いお城だなあ」
思わず口を突いて出た感想に、ライラがふっと口元を緩めて皮肉を言う。
「あらあら、この程度で驚くなんて余程辺鄙なお城しか見たことないのですね!」
「この世界に来て見た城ってリアのお城しか知らないなあ」
「ごめんね、辺鄙なお城で……」
「うぐっ!? そ、そんな事ないわ! リアの王城は立派なものじゃない!」
慌てて取り繕うライラ。そしてまた睨まれる僕。いや、言い出したの君じゃないのさ。
「さて、城門に到着しましたぞ」
ディンの言葉に前を向くと、兵士がズラッと左右に並んでいて、派手さはないが上質な服に身を包んだ壮年の男性が僕達を待ち受けていた。
馬車を止めるのと同時に、僕もフィジーに止まってくれと小声で囁く。
僕が馬を降りる間にも、ディンが恭しく馬車の扉を開けると、険しい顔をした領主が駆け寄ってきた。
「ライラ! よくぞ無事で!」
「叔父様、いえセーゲル公爵、出迎えありがとうございます」
「叔父様と呼んでおくれ、そんな他人行儀な。先触れが来た時は心臓が止まるかと思ったぞ。軍を揃えて救援に向かおうとした所、窮地を脱したとの連絡があってずっと待っておった」
セーゲル公爵と呼ばれた男性は、心の底から安堵したように笑顔を見せ、優雅な仕草で馬車から降りるライラをエスコートする。そして、ライラの次に自分で降りてきたリアを見て破顔した。
「おお、リア姫! お久しぶりですな」
「セーゲルおじ様もお久しぶりです。私達がもう少し早く到着していれば救えた命もあったものを……」
「いや、彼等も職務を全うしたのだから本望であろう。しかしライラを直接狙うとは、もはやなりふり構ってはいられんということか」
「それも勇者リアの活躍によって止められました」
ライラが自慢げにリアの背中を押して、セーゲル公爵の前面に立たせた。
「ほう、そうか。リア、成長したな……ところで、そちらの二人はどなたかな?」
モモと共にフィジーをねぎらっていると声をかけられたので、僕は無難な挨拶を返す。
「初めまして、セーゲル公爵。私はテレシー国で召喚された異世界の勇者、マサヤ・カガリともうします。こちらは……少々事情があって預かっているモモと云います」
「おじさん、だあれ?」
「こ、こらモモっ! 失礼な事を言うんじゃない!」
「ははは、子どもには解るまい。よいよい。おじさんはこのお城に住んでる人だよ」
その言葉に目をまん丸にしたモモは驚愕の声を上げた。
「じゃあおじさんは王様なの!?」
「王様とは違うんだよ。まあ王様の弟なんだがな」
「すごいのです! 王様の弟凄いのです!」
年相応にはしゃぐモモに、僕達だけでなく並んでいた兵士からも微笑ましそうな笑みがこぼれている。
「さて、それでは我が城をご案内しよう。その前に……そちらのモモ殿は着替えをする必要がありそうだな」
パンパン、とセーゲル公爵が手をたたくとどこからともなくメイド達がやってきて、モモを担ぎ上げてしまった。
「な、なにをするのです!?」
「大丈夫、すぐにまた会えるから、今はそのお姉さん達に任せておくんだ」
「わかったのですううぅぅぅぅ……」
ドップラー効果を残して消え行くモモを見送った僕らは、改めてセーゲル公爵と向き合った。
「ようこそ皆さん。では、ちょっと込み入った話もありそうだし、夕食でも取りながら話すとしようか」
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