異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。

N通-

修行の始まり

 そういうわけで、僕はこの国二番目に強い剣士、つまり騎士団長に剣の技術を習うことになってしまった。リアによるとたまに決着が着かない時があるというのだから恐れ入る。

 魔法の方はもうほぼ放置状態で後は自分で勝手に習得してくれということだった。元々リアも全属性持ちとは言え、覚えている魔法がそんなには多くないらしい。修練も剣技の習得に力を入れていたせいというのもあるだろう。

 それを聞いて、僕は状況に応じてリアのサポートも出来る魔法剣士を目指す事に決めた。この世界には魔法剣士なる概念はないらしく、その発想にリアがいたく感心していた。

「でも、兵士の人達は身体強化とか使ってるんだよね?」

「あれは魔法が使える人間ならそれこそ農民や木こりですら使える魔法よ。そして、全適性のどれにも該当しない人間なんて一人もいないわ。だから、身体強化はごくごく当たり前にこの世界に普及しているのよ」

 なるほど。身体強化はするけど、更に能力値を底上げするような補助魔法は魔法使いが使うものという固定観念が定着してしまっているんだな。

「後は、現実的な問題として戦闘中に詠唱なんて出来ないってこともあるわね。もちろんクリーンとかなら使えるでしょうけど、それを戦場で使ってもね……」

 まあ戦闘が終了した後ならともかく、確かに無意味だ。

「通常、こぶし大の火の玉を出す魔法でも三節は詠唱しないといけないわ。早口に自信があったとしても、近接でやりあってる最中に急に詠唱しだしたら相手も当然警戒するし、避けられて当然よね」

 それもそうだ。悠長に詠唱が終わるまで待ってくれるなんて余程自信過剰な悪の大魔王じゃるまいし、現実には有り得ない。

「その点、マサヤはやっぱり反則よね。たった一言だけでも済むんですもの」

「そう言われてもなあ、他の魔法は試してないし。そうだ、魔法の練習もどこかで続けないといけないなあ」

「そうね、今度モンスター相手に魔法の実験をしてみましょう」

 そういうことで話はまとまり、早速リアは王城におもむいて騎士団長の個人教授について話をつけてくれた。何でも今は副団長が全体支持を出し、ゆくゆくは副団長を騎士団長に推薦するつもりらしく、たまに口を出すくらいで基本時間を持て余し気味だったので快く了承してくれたようだ。

 次の日、僕は早速王城の中、修練場へと向かい、件の騎士団長と挨拶を交わしていた。ちなみにリアとは別行動である。何でも剣の調子を調えたいので鍛冶屋を訪ねるのだとか。

 待ち合わせとして聞いていた場所で待っていたのは、白髪交じりながらも精悍な顔立ちをした四十ぐらいの二メートルはあろうかという長身で鍛えられた肉体を鎧に押し込んだいかにも強者の雰囲気を持った人物だった。

「よろしく、異世界の勇者殿。私が当王国の騎士団長、ルッケイン・ヴァルストだ。気軽にルッケインと呼んでくれ! ワハハ!」

 陽気に笑う騎士団長に、こちらもガチガチになっていた緊張がほぐれ、手を差し出した。

「リアから聞いていると思いますが、改めて。異世界からやってきたマサヤ・カガリです。マサヤと呼んでください、ルッケインさん」

「ふむ。礼儀正しい青年じゃないか。あのお転婆姫はお主の事を融通が利かない無礼者等と言っていたが、やはりデマだったか」

 もはや歩くデマゴーグ扱いされてるリアさん。

「それでは、今日はご指南の程よろしくお願いします!」

「ははは、まあそう硬くなるな。気楽に行こうぞ、気楽にな」

「はいっ!」

 そして一時間後――。

「なんだその腰使いは!? 女でも抱いてるつもりか、この腰抜けが!!」

「違いますっ!」

「違うというなら根性見せろ、オラオラ、この剣を凌げ!!」

「ちょ、ちょっとまっ」

「待たん! 戦場で敵が待ってくれるなんて甘い考えは捨てよ!」

 いや、言ってることは解るんだけど、解るんだけどね!? ちょっと初心者には厳しすぎやしませんか!?

「気楽にって言ってたのはいずこへ!?」

「気楽に殺り合おうじゃないか、なあ!?」

 ダメだ、この人バトルジャンキーだった。

「こっ……のっ!」

 ルッケインさんが上段から切りかかってきた剣、あれは太刀に近いような形状だが、それを真っ向から受け止めることなく、横へと受け流してガラ空きの胴を“自動的に”狙う。

「ぬおっ!?」

 しかし、流石はリアに次ぐ強さを誇るというだけあって、ルッケインさんは咄嗟に後ろへと仰け反りながら、逆にこちらの背中を太刀で狙ってきた。しかし僕の自動防御はそれすらも認識外の力で背中へと剣を回し弾き返して、一旦距離を取った。僕達の攻防を、他の兵士達も手を止めて見入っているようだった。

「ふ……フハハハ! いいぞ、こんなにも楽しい試合はあのお転婆姫以来だ! さあ、もっとかかってこい!」

「はぁ……はぁ……参りました!」

「は……?」

 僕の堂々とした宣言に、熱気が最高潮に達していた修練場の空気が一気に冷え込んだ。

「いやいやいや、冗談はよいのだ。さ、続きを……」

「冗談じゃない!? こんなの体力が持ちませんよ!!」

 更に継戦を迫るルッケインさんに、僕は相手にしきれないとばかりに修練場に座り込んでしまう。テコでも動かない意思を示す僕に、ルッケインさんはあごに手を当てて一番言われたくないことを言われた。

「お主……体力なさすぎじゃろ」

「うっ……解ってますよ」

「はぁ、つまらん。お主、これからは基礎体力作りじゃな」

 おかしい。女神様は基礎体力等も上げてあると言ってたはずなのに、この人はそれをも超えているのだろうか。あるいは……考えたくはないけど、元々の僕の体力が低すぎたせいで底上げされても大した事がないとか……いやいや、まさかね。

「これからは毎朝王都一周じゃな」

「はぃっ!? 何キロあると思ってるんですか?」

「キロ……? まあ、たった三十ペルスくらいじゃろ?」

 ちなみに距離の換算で言うと1ペルス=1キロくらいである。

「朝稽古が終わったら姫様とギルドの依頼におもむき、その後はワシとまた稽古じゃ! わかったか、マサヤ!」

「助けてくれーっ!!」

 僕の絶望の叫びは、誰にも届くことなく空に吸い込まれていった。

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