異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。
早く外に出たい!
アルマさんに教えられたゴブリンの出現ポイントである草原に出るために、王都を東へ向かって歩いている最中なのだが……。
「おう、リア様! 今日はデートかい!?」
「ちっ、違うわよ!? 今日から私は冒険者なんだから!」
「リア様、今日の串焼きは絶品だぜ、また寄ってってくんな!」
「ありがとう、帰りにでも寄らせてもらうわ!」
「リアさまー! あそぼー!!」
「ごめんね、今日はちょっとお仕事があるからまた今度ね!」
「ぜったいだよ?」
こんな具合でリアの人気が凄まじい。いや、気さくなのは解るんだけどちょっと溶け込みすぎてやしませんかね。
「リア、いつも街に出るとこんな感じなの?」
「んー、そうね。いつも買い食いしたり子どもたちと遊んでたりしてるからかしらね!」
リアは王女様であり、勇者でもある。それに恐れをなすどころか、皆が皆一様にリアの事を慕っていることがよくわかる。
「慕われてるんだなあ、リアは」
「そ、そんなことないわよ。臣民と仲良くするのも大切な事でしょう?」
王族として気安すぎるのもいかがなものかとは思うが、それが彼女の良さなのだろう。僕はその心意気を素直に賞賛する気になった。
「あはは、リアは偉いなあ」
「ちょ、ちょっと頭撫でないでよ!」
「っと、ごめんごめん。妹がいるから、つい妹に応対するみたいにしちゃって」
「妹? マサヤには妹がいるの?」
「うん。未だに兄にべったりの困ったやつなんだけどね」
「ふーん、そうなんだ……ちなみにいくつなの?」
「一つ下だよ」
「えっ!? おかしくない!?」
はて、何かおかしな事を言ったかな?
「妹が兄に甘えるのは当たり前のことじゃないの?」
「いや、いやいやいや、異世界人の常識ではそうなの!? 普通年頃の娘が兄にべったりって、ちょっと問題があるわよ!?」
「ふーむ、そう言えば妹の話をすると友達も皆微妙な顔をしてたような……?」
「絶対マサヤの家が特殊なのだと思うわ……」
しかし、確かに妹の咲の奴は僕にちょっと甘えすぎな所がある。いい加減兄離れするには、この異世界召喚はいい機会なのかもしれない。
「そう言えば、リアには兄弟はいないの?」
「お兄様がいるわよ。今は他国に留学中なのだけれど」
だから謁見の間にもいなかったのか、と納得する。
「どんな人なの? リアのお兄さんって」
「堅物よ! ものすっごい!」
語気を強めて、リアは断言した。
「私がやることなすこと全部に難癖つけてきて、困ったものだったわ!」
「うん、それはお兄様が全面的に正しい」
「何でよ!? 私のお兄様見たことないでしょマサヤ!」
「いや、俺は今リアよりも余程リアのお兄さんにシンパシーを感じている」
さぞかし苦労したことだろう。
「ふん! まあそんなお兄様に外国に留学になったから私はのびのび出来てていいんだけどね!」
これは帰ってきた時に相当こってりとやられるんじゃないだろうか思ったが、言わずに夢を見させてあげることにした。
「さて、東の門についたんだけども」
雑談をしている間に、ようやく王都の東門へと辿り着いた。そこでは王都へ出入りする人々を検閲しており、兵士が数名その応対をしていた。
「とりあえず普通に出ればいいのかな?」
「さあ? 私も徒歩で外に出るのは初めてだから解らないわ」
そりゃ王族が徒歩で外に出ることなんて滅多にないでしょうよ。
「あれ? でも騎士団の移動ではどうしてたの?」
「その時も馬車だったわよ?」
あー、まあそりゃそうか。遠征っていうからには、遠くに行くのだろうし。馬に乗るか馬車での移動が基本なんだろう。今行き交う人々を見ていても、馬車の集団が多く、徒歩での人は少ないように見受けられる。
「あれは何をしているんだろう?」
その中でも気になったのは、王都へ入る人、王都から出る人両方が兵士に指示されて丸い水晶球のようなものに手をかざして、何かを確認しているようだった。
「ああ、あれは犯罪歴を調べているのね。過去に殺人とかを犯していないか、調べて犯歴があるものは入れないようにしているのよ」
「へー、そうなんだ。あっ!」
便利な道具があるものだと感心しながら眺めていると、水晶球が赤く光った人間が兵士を振り切って真っ直ぐこっちへと向かってたきた。
「ど、どけぇ! どかないとどうなっても知らんぞ!!」
男は腰に身につけた剣を引き抜くと、振り回しながら突進してくる。
「どうやら犯罪者が紛れ込んでたみたいね」
「って、こっちに向かってきてるんだけど!? リア、危ない――っ!!」
もう防御も避けるのも間に合わない、そう思った僕がせめてリアだけでもと身体を割り込ませようとした瞬間、驚くべきことが起きた。さっきまで隣にいたはずのリアがいつの間にか犯罪者の後ろに回り込み、足で腰を強く蹴り飛ばしたのだ。
「へっ?」
ぽかんとマヌケヅラを晒す僕には構わず、リアは冷たい視線でこけた犯罪者を見下ろしたかと思うと剣を握っていた手を思いっきり踏み砕いた。ぐきゃっ、と嫌な音が響く。
「ぎゃああっ!! 手が! 俺の手があああああ!!」
「大人しくしなさいっ!!」
悲鳴を上げる犯罪者の、絶妙な位置にリアは足を置いて、相手は起き上がる事も動かす事もさせずに身悶えしている。
「兵士っ何をしているっ!!」
凛としたリアの張り上げた声に、今まで僕と同様に固まっていた兵士たちがわたわたと動き出して犯罪者を捕縛する。
「お、お見事です、リア様! 流石はヴァールスの勇者様ですな!」
「この不手際は職務で挽回することを望みますよ」
「は、ははっ!!」
特に告げ口する気はない、と含ませた物言いで兵士たちを帰らせると、ふうっと一つため息をついて落ち着いたリア。
「す、凄いじゃないか、今の!」
僕は今、初めてリアに尊敬の眼差しを向けているのかもしれない。
「べ、別に大したことないわよ。あんなの、誰にだって出来るでしょ!」
「いや、普通は無理です。僕ならあんな真似到底できないし」
「そうね、マサヤは成り立て勇者だものね! 精々精進して私のような立派な勇者になることね!」
折角感心したのに、全てが台無しになった。この王女様はいつも一言多いのだ。
「へーへーそうさせてもらいますよ」
「むうっ、何か感情がこもってないわ!」
「気のせい気のせい、さっ、さっさと門番の所へ行って外に出してもらおうよ」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
僕がリアを振り返らずに歩き始めると、彼女がちょこちょこと小走りになって横に並んだ。
「でも、僕もあれぐらいの事は出来るようにならないといけないんだよな……」
「大丈夫よ、あなただって創造神様のご加護を持った異世界の勇者なんだから! もっと自信を持ちなさい!」
この無駄に自信に溢れたリアに言われると、少しだけほっとした自分がいたことがちょっとだけしゃくに触り、照れ隠しにリアの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でた。
「あーっ! 何するのよ乙女の髪に!」
「ほらほら、喚いてないで並ぶよ」
「うーっ! うーっ!」
唸るリアをなだめつつ、出口方面の最後尾にならんで、ちょっとまたされた後僕達の出番になった。まずはリアが兵士に促されて水晶球に手をかざす。
「リア様、先程は本当に助かりました、ありがとうございます」
「いいのよ、悪党は成敗しないとね! さ、次は待望の異世界の勇者様よ」
「では、この水晶球に手をかざしてもらおうか」
まだ名前が知れ渡ってないせいか、多少対応に差を感じるがそこは我慢して、僕は水晶球へと手をかざした。すると――。
「何か、やたら強く光ってない?」
僕のつぶやきに、兵士もまた慌てて水晶球の様子に驚いている。
「な、なんだこれは!?」
「あ、もしかしてこれは――」
嫌な予感がひしひしとした僕は、既に諦観の念を覚えつつも、徐々にまばゆく光っていく水晶球を見詰める。やがてその光は極光にも似た爆発的な光を生み出して――。バリンッ!! と派手な音を立てて水晶球が割れたかと思うと、そこからまるで潜水艦のソナーのように光が広がっていき、その光が当たった人間は二色に大別されていく。
「な、なんだ!? なんで俺光ってるんだ!?」
「おい、お前赤く光ってるぞ! どういうことなんだ!」
またしてもやってしまったらしい。僕は、この場にいる人間全員の犯歴を暴いてしまったようだった。
「おう、リア様! 今日はデートかい!?」
「ちっ、違うわよ!? 今日から私は冒険者なんだから!」
「リア様、今日の串焼きは絶品だぜ、また寄ってってくんな!」
「ありがとう、帰りにでも寄らせてもらうわ!」
「リアさまー! あそぼー!!」
「ごめんね、今日はちょっとお仕事があるからまた今度ね!」
「ぜったいだよ?」
こんな具合でリアの人気が凄まじい。いや、気さくなのは解るんだけどちょっと溶け込みすぎてやしませんかね。
「リア、いつも街に出るとこんな感じなの?」
「んー、そうね。いつも買い食いしたり子どもたちと遊んでたりしてるからかしらね!」
リアは王女様であり、勇者でもある。それに恐れをなすどころか、皆が皆一様にリアの事を慕っていることがよくわかる。
「慕われてるんだなあ、リアは」
「そ、そんなことないわよ。臣民と仲良くするのも大切な事でしょう?」
王族として気安すぎるのもいかがなものかとは思うが、それが彼女の良さなのだろう。僕はその心意気を素直に賞賛する気になった。
「あはは、リアは偉いなあ」
「ちょ、ちょっと頭撫でないでよ!」
「っと、ごめんごめん。妹がいるから、つい妹に応対するみたいにしちゃって」
「妹? マサヤには妹がいるの?」
「うん。未だに兄にべったりの困ったやつなんだけどね」
「ふーん、そうなんだ……ちなみにいくつなの?」
「一つ下だよ」
「えっ!? おかしくない!?」
はて、何かおかしな事を言ったかな?
「妹が兄に甘えるのは当たり前のことじゃないの?」
「いや、いやいやいや、異世界人の常識ではそうなの!? 普通年頃の娘が兄にべったりって、ちょっと問題があるわよ!?」
「ふーむ、そう言えば妹の話をすると友達も皆微妙な顔をしてたような……?」
「絶対マサヤの家が特殊なのだと思うわ……」
しかし、確かに妹の咲の奴は僕にちょっと甘えすぎな所がある。いい加減兄離れするには、この異世界召喚はいい機会なのかもしれない。
「そう言えば、リアには兄弟はいないの?」
「お兄様がいるわよ。今は他国に留学中なのだけれど」
だから謁見の間にもいなかったのか、と納得する。
「どんな人なの? リアのお兄さんって」
「堅物よ! ものすっごい!」
語気を強めて、リアは断言した。
「私がやることなすこと全部に難癖つけてきて、困ったものだったわ!」
「うん、それはお兄様が全面的に正しい」
「何でよ!? 私のお兄様見たことないでしょマサヤ!」
「いや、俺は今リアよりも余程リアのお兄さんにシンパシーを感じている」
さぞかし苦労したことだろう。
「ふん! まあそんなお兄様に外国に留学になったから私はのびのび出来てていいんだけどね!」
これは帰ってきた時に相当こってりとやられるんじゃないだろうか思ったが、言わずに夢を見させてあげることにした。
「さて、東の門についたんだけども」
雑談をしている間に、ようやく王都の東門へと辿り着いた。そこでは王都へ出入りする人々を検閲しており、兵士が数名その応対をしていた。
「とりあえず普通に出ればいいのかな?」
「さあ? 私も徒歩で外に出るのは初めてだから解らないわ」
そりゃ王族が徒歩で外に出ることなんて滅多にないでしょうよ。
「あれ? でも騎士団の移動ではどうしてたの?」
「その時も馬車だったわよ?」
あー、まあそりゃそうか。遠征っていうからには、遠くに行くのだろうし。馬に乗るか馬車での移動が基本なんだろう。今行き交う人々を見ていても、馬車の集団が多く、徒歩での人は少ないように見受けられる。
「あれは何をしているんだろう?」
その中でも気になったのは、王都へ入る人、王都から出る人両方が兵士に指示されて丸い水晶球のようなものに手をかざして、何かを確認しているようだった。
「ああ、あれは犯罪歴を調べているのね。過去に殺人とかを犯していないか、調べて犯歴があるものは入れないようにしているのよ」
「へー、そうなんだ。あっ!」
便利な道具があるものだと感心しながら眺めていると、水晶球が赤く光った人間が兵士を振り切って真っ直ぐこっちへと向かってたきた。
「ど、どけぇ! どかないとどうなっても知らんぞ!!」
男は腰に身につけた剣を引き抜くと、振り回しながら突進してくる。
「どうやら犯罪者が紛れ込んでたみたいね」
「って、こっちに向かってきてるんだけど!? リア、危ない――っ!!」
もう防御も避けるのも間に合わない、そう思った僕がせめてリアだけでもと身体を割り込ませようとした瞬間、驚くべきことが起きた。さっきまで隣にいたはずのリアがいつの間にか犯罪者の後ろに回り込み、足で腰を強く蹴り飛ばしたのだ。
「へっ?」
ぽかんとマヌケヅラを晒す僕には構わず、リアは冷たい視線でこけた犯罪者を見下ろしたかと思うと剣を握っていた手を思いっきり踏み砕いた。ぐきゃっ、と嫌な音が響く。
「ぎゃああっ!! 手が! 俺の手があああああ!!」
「大人しくしなさいっ!!」
悲鳴を上げる犯罪者の、絶妙な位置にリアは足を置いて、相手は起き上がる事も動かす事もさせずに身悶えしている。
「兵士っ何をしているっ!!」
凛としたリアの張り上げた声に、今まで僕と同様に固まっていた兵士たちがわたわたと動き出して犯罪者を捕縛する。
「お、お見事です、リア様! 流石はヴァールスの勇者様ですな!」
「この不手際は職務で挽回することを望みますよ」
「は、ははっ!!」
特に告げ口する気はない、と含ませた物言いで兵士たちを帰らせると、ふうっと一つため息をついて落ち着いたリア。
「す、凄いじゃないか、今の!」
僕は今、初めてリアに尊敬の眼差しを向けているのかもしれない。
「べ、別に大したことないわよ。あんなの、誰にだって出来るでしょ!」
「いや、普通は無理です。僕ならあんな真似到底できないし」
「そうね、マサヤは成り立て勇者だものね! 精々精進して私のような立派な勇者になることね!」
折角感心したのに、全てが台無しになった。この王女様はいつも一言多いのだ。
「へーへーそうさせてもらいますよ」
「むうっ、何か感情がこもってないわ!」
「気のせい気のせい、さっ、さっさと門番の所へ行って外に出してもらおうよ」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
僕がリアを振り返らずに歩き始めると、彼女がちょこちょこと小走りになって横に並んだ。
「でも、僕もあれぐらいの事は出来るようにならないといけないんだよな……」
「大丈夫よ、あなただって創造神様のご加護を持った異世界の勇者なんだから! もっと自信を持ちなさい!」
この無駄に自信に溢れたリアに言われると、少しだけほっとした自分がいたことがちょっとだけしゃくに触り、照れ隠しにリアの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でた。
「あーっ! 何するのよ乙女の髪に!」
「ほらほら、喚いてないで並ぶよ」
「うーっ! うーっ!」
唸るリアをなだめつつ、出口方面の最後尾にならんで、ちょっとまたされた後僕達の出番になった。まずはリアが兵士に促されて水晶球に手をかざす。
「リア様、先程は本当に助かりました、ありがとうございます」
「いいのよ、悪党は成敗しないとね! さ、次は待望の異世界の勇者様よ」
「では、この水晶球に手をかざしてもらおうか」
まだ名前が知れ渡ってないせいか、多少対応に差を感じるがそこは我慢して、僕は水晶球へと手をかざした。すると――。
「何か、やたら強く光ってない?」
僕のつぶやきに、兵士もまた慌てて水晶球の様子に驚いている。
「な、なんだこれは!?」
「あ、もしかしてこれは――」
嫌な予感がひしひしとした僕は、既に諦観の念を覚えつつも、徐々にまばゆく光っていく水晶球を見詰める。やがてその光は極光にも似た爆発的な光を生み出して――。バリンッ!! と派手な音を立てて水晶球が割れたかと思うと、そこからまるで潜水艦のソナーのように光が広がっていき、その光が当たった人間は二色に大別されていく。
「な、なんだ!? なんで俺光ってるんだ!?」
「おい、お前赤く光ってるぞ! どういうことなんだ!」
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