裏路地の異世界商店街

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第一話 『何も変わらない─1』

 部屋に一つしか無い窓から、今日も朝日が入り込んでくる。

 入り込んだ朝日は、布団に寝そべった私の足下を照らし、そこから下半身、上半身と上へ伸び、最後に頭を照らしつける。
 その瞬間が私の起床する頃だ。朝日に目を細めながら起き上がった私は、まだ半分眠りの中にいる頭で、辺りを見渡す。


 自分が寝る布団の左側には、所々穴の開いた襖で閉じられた押し入れが。右側の壁には脚の折られた卓袱台が立て掛けられ、その隣には簡易的なシンクがある。


 一通り見渡した私は、その場で溜め息をつく。
「やっぱり何も変わらないか……」
 自然と言葉を呟くが、それを聞く者もこの場にはいない。


 この四畳半程の部屋は、私にとっての棺桶である。
 私はこの場所で、残りの人生を生きなければならない。決して義務や命令では無いが、私がそう決めたんだ。


 そう決めざるを得なかったんだ……





 切っ掛けは今年の三月の事だ。
 私はその月に、一年の頃から志望していた国立大学に──合格出来なかった。

 私の頭は決して悪い方では無い。ただ、良いとも言い切れなかった。私よりも良い点数を取れる人間は大勢いた。
 それでも本番なら、受験の時なら……そう思っていたのは事実だ。現に私は点が芳しく無くても、「なんとかなるだろう」という気持ちを抱いていた。


 そしてそんな根拠の無い自信は──ものの見事に崩れさってしまった、というわけだ。


 不合格を両親に伝えた時、母は顔を歪ませて激昂した。ろくでなし、出来損ない、お前なんか死んでしまえ──私が受験勉強をしていた間、父が帰ってこない事を良いことに、夜遊びを繰り返していた母はそう言った。

 父は黙ったままだった。父は怒っていなかった。──既に私への処分を決めていたからだったのだろうと、今は思う。


 しばらくして、私は高校を卒業した。周りが進路を決めている中、私だけは何も決まっていなかった。滑り止めで受けた大学に通うことを、父が許さなかったのだ。



 家に帰った私の目には、思わぬ光景が飛び込んできた。
 私の部屋にあったはずの机や本棚が運び出され、何も無い空っぽの状態となっていたのだ。


 突然の出来事に混乱した私の前に、父が姿を現した。父は私に、一つの通帳を差し出した。口座の名義は私の名前で、50万円程の残額が入っていた。 


 事態を呑み込めない私に父は告げた。

「お前をこれ以上家に置いておくわけにはいかない」と。
「親の義務として、住むところだけは用意してやる」とも。



 今まで何もしてくれなかった人が『親の義務』とはなんと滑稽な事かと思うが、ともかく父がしたかった事は理解できた。


 結果私は住み慣れた家を出て、見知らぬ土地の古い木造アパートに住み着く事になった。


 要するに私は親に──腹を痛めて私を産んだ母と、その母に種を流し込んだ父に──捨てられたんだ。


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