異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第一話 ニート、住処を失う

 ――イガ……助けて……

 その瞬間、思い切り上半身を起こす。ダラダラと汗が湧き出る。季節は冬に近い秋。暑くないのに、汗が止まらない。

「なんだったんだよ……あの夢」

 頭を押さえながら呟く。時刻は深夜二時。

「あんなグロい夢を見させるなんて、神様はどうかしてるぜ」

 それは、目の前で自分と同年代位の女の子が何者かに殺される夢だった。
 悪夢を見た少年、大和ヤマト大雅タイガはお風呂場に行き、汗を流した。

「何もねぇじゃん」

 喉が渇いたタイガは冷蔵庫を開けるが、もぬけの殻だった。
 しょうがないから買いに行こうと、部屋から財布と、一応携帯を持って一ヶ月ぶりに外に出る。
 だが、待っていたのはタイガの想像を遥かに超えているものだった。

「ここ、何処だ……?」

 目の前に広がるのは、中世ヨーロッパみたいな街並み。人間だけでなく、獣までも服を着て二足歩行をしている光景。
 車も走っておらず、代わりに走っているのは馬車ならぬ竜車だった。

「暫く家を出ない間にこんなに変わっちまったのか」

 んなあほな……とタイガは心の中で自分の発言に突っ込んだ。
 もう一度、周りを見る。すると、先程まであったはずの大和家がなくなっていて、空き地になっていた。

 ――あ、あれ……? さっきまでここに俺の家があったよな……

 タイガは混乱していた。玄関開けたら見知らぬ町並み。人外が服を着て歩いている。そして俺の家があった場所は空き地に。
 そんなタイガだが、これだけは言える。

「俺、どうやって帰るんだ?」

 しばらくして、タイガは街を散策する。この間に、いくつかわかったことがある。
 一つ目は、ここは異世界だということ。まぁ、人間以外が服を着て歩いている時点で分かる事だ。
 二つ目は、言葉が通じること。どう見ても通じそうにないが、意外と通じるもんだなとタイガは関心した。
 三つ目は、なぜか文字が読める。明らかに日本語ではないが、なぜか読めてしまう。
 そして最後は……

「俺、めっちゃ怪しまれてる……」

 彼に向けられている目が、『何者だ?あいつ』みたいな目だった。
 そんな彼らを見渡しているタイガの目に、あるものが映った。
 それは――

「あれって……」


 水色の髪をした少女が、何者かに裏路地に引っ張られている瞬間だった。

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