異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第八話 竜ジャギーとお約束

「これ、肉じゃがだよね……」

 タイガとカリンが頼んだ竜ジャギー。だが見た目は完全に肉じゃがだった。

「じゃが芋にしらたきにお肉……完全に肉じゃがじゃん」
「どうしました? タイガ。もしかしてお嫌いでしたか?」
「いや、見た目が俺の国の料理に似ていてね……」
「それって、先程タイガが言っていたニクジャガ……ですか?」

 カリンの言葉に、タイガは静かに頷く。

「凄いですね! タイガの国にも同じものがあるなんて」

 ――カリンはそう言うが、それは外見の話で、問題は味だ。これで味が酷かったらどうしよう……

 タイガはゴクリと喉を鳴らし、竜ジャギーに箸を伸ばした。じゃが芋を掴み、恐る恐る口の中に入れる。その瞬間、何かに反応したようにタイガは目を見開く。

「ど、どうですか……?」

 カリンはタイガに静かに聞いた。

「――うまい」
「ホントですか!?」

 タイガの意外な反応により、まるで『自分が作りました! お口に合って嬉しいです!』みたいな返しをカリンがする。

「味は肉じゃがより薄いけど、しっかりとジャギー? に染みているし、硬すぎず柔らかくしすぎず、丁度いい感じ。美味しいよ」

 タイガは正直に思ったことを言った。カリンはそれに嬉しいのか、目をキラキラさせている。

「よかった~タイガの口に合わなかったらどうしようかと……」

 胸に手を当てホッと息を吐き、安心する。そしてカリンも竜ジャギーを食べ始め、頬出るように食べていた。

 ――まるでリスだな。

 両頬を膨らませてモグモグしているカリンを見て、タイガは微笑んだ。そして、可愛いと思った。

「ありがとうございましたー」

 食事を終え、店を出る二人。

「それで、これからどうするんですか?」
「んー、もう少しこの街を見てみたいかな。カリンは?」

 タイガはスマホを見る。時間はまだ一八時。黄昏時たそがれどきだった。

「それでは、私もご一緒します」
「大丈夫か? 今日は疲れただろ。別に先に宿に戻った方が良いぞ」
「で、ですが……」
「俺は心配いらないから、先に帰って休んでろよ」

 カリンは納得していない様子だったが、ペルに任せてタイガは街を散策し始めた。
 黄昏時だからか、竜車の数が昼間より少なく、人数も少ない。

「夜でも賑わうかと思ったが、結構店を閉めるのが早いな。飲食店以外殆ど閉まってる」

 独り言を呟きながら一人、王都を歩く。すると張り紙を張っている掲示板が目に入った。

「なんだ、これ?」

 タイガが見たのは似顔絵が描かれていて、その上には『重要指名手配犯』と書かれていた。

「こんな世界にも指名手配とかあるんだな。罪状は大量殺人、ね。ま、俺には縁も所縁もないけどな。でも、一応カリンにも言っておくか」

 タイガは張り紙を剥がし、ポケットに入れ、一九時を過ぎた辺りで宿に戻る。

「ただいま~」

 ――あ、ノックしてねぇ。

 タイガが気付いた時には既に遅し。ドアを開けたらお風呂上がりのカリンがで部屋にいた。

「き、きゃぁあああああああああ!!!!!!」
「あべしっ!!」

 カリンの精一杯力が入ったビンタがタイガの右頬を捉えた。

 ――あぁ……ここが花園、か……

 タイガはそんな事を思いながら気を失った。

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