異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第一四話 幻刀

「さぁ、第二ラウンドと行こうぜ」

 タイガがそう言うと、一気にウリドラに詰め寄った。剣を左から右へ腹部を横斬りしようとしたタイガに対して、ウリドラは短剣で受け止める。タイガは一歩後ろに下がり、もう一度と詰め寄る。ウリドラも後ろに躱し続け、タイガの隙を見つけては短刀で斬りつけてくる。タイガは剣で防ぐも、また左腕に切り傷が付く。

 ――成程……俺が攻撃を防いでいるのにも関わらず傷がつく。こいつは幻術使い……だが今は掛かっていない。と、いう事は……

 タイガは結論が出るも相手の攻撃を躱し続ける。そしてウリドラがタイガの左腕を斬ろうとした時だった。

「今だ!!」

 タイガはしゃがみ込み、一気に懐に駆け寄る。そして溝尾に【ルカ】を決め込み、ウリドラを吹き飛ばす。

「どうして……」

 ウリドラが上半身を起こして、タイガを睨みつける。

「簡単な事だよ。あんたは短刀を振り回し、俺はそれを防いでいるのにも関わらず、傷を負う。そしてあんたは幻術使い。その時、答えは出たんだ」
「どういう事ですか?」

 カリンはタイガの言っている事が分からずに聞き返す。使い魔のペルでさえ分からなそうな表情をしていた。

「こいつの幻術は厄介だ。ペルの言った通り、俺が賭けに出なかったら抜け出せなかっただろう。だが、本当の脅威はそこじゃない。自分の攻撃に幻術を掛けているんだ。俺が今まで防いできた短刀はただのフェイクなんだ」
「それでは……」
「こいつは『幻刀げんとう使い』だ」

 ウリドラは驚いた表情でタイガを見る。カリンも同じような表情だ。

「何故分かった」
「理由は簡単だよ。コンマ何秒の誤差だったが、明らかに短刀を防いだ後に傷が付いているんだよ。だから俺はあんたのずっと見ていた」

 タイガがずっと攻撃を防いでいた理由は、ウリドラが攻撃を仕掛けている時の影の動きだった。

「そして、左腕の傷が付いた時、無い筈の影があった。恐らく、見えない刀『幻刀』だろう。だからさっきの攻撃、幻刀の攻撃を喰らう前にあんたに攻撃したのさ」

 ウリドラは立ち上がり、タイガに拍手を送る。まるで素晴らしい物をみて感動したように。

「素晴らしい、素晴らしいよ。まさか私のトリックを見破られるとは……君が初めてだ」
「そりゃどーも」

 タイガはしかめっ面で嫌々にお礼を言う。だが、タイガは見逃さなかった。ウリドラの拍手にタネがある事を。その時、ペルに視線を送る。カリンの肩にいたペルは、視線を感じるとタイガの肩に止まる。

「こんな奴を相手にするなんて、私は運がいい。だから、私のトリックを見破った君には――死んで貰わないとな」

 そう言って拍手を止めた瞬間、世界が一変した。先程まで雲一つない青い空は、真っ赤な空に変わっていた。

「フフフ……お前には地獄を見てもらおう……」

 ウリドラの声が空全体から聞こえる。すると、地中からウリドラが大量に出て来る。数はざっと一〇〇人。タイガは確認した後、目を閉じる。

「あとはお前頼りだ。頼むぞ……ペル!」
《こんなことやるのは初めてだから、どうなるか分からないけど。やれるだけのことをやるよ》

 タイガは剣を構え、その時を待つ。一〇〇人以上いるウリドラが一斉にタイガを襲う。

「【ソード・ルカ】!」

 タイガは剣に風を纏わせ、一回転する。タイガの剣から風波が発生し、ウリドラが次々消える。

《右だ!》

 ペルの声がタイガの脳内に響く。タイガは目を瞑ったまま言われた方向を見て、【ルカ】を唱えた。すると、数あるウリドラのうち、一人だけ吹っ飛んだ。飛ばされたウリドラは何が起こったか分からないような顔をしている。

《どう? タイガ》
「見えるよ、よく見える」

 ペルに返事をして、吹き飛んだウリドラに向かって一気に駆けた。

「幻影に紛れている、本体が!! 【クリアガービル】!」
「くっ!!」

 タイガは剣に電流を走らせ、雷の剣、通称『雷剣』で斬りつける。だが、間一髪でウリドラに躱された。
 そしてそこに迫ってくる幻影を【ソード・ルカ】で消していく。だが、消しても消してもどんどん出てきてきりがない

「ったく、めんどくせぇな。一気に片を付けるか」

 申鎮の剣を地面に刺し、柄を両手で握る。

「聞こえるか? 地中にいる魔王の手下さんよ。土は電気を通すんだぜ。【クリアガービル】!」

 地面に電気を流すと全ての幻影は消え、地中から本体が出てきた。身体中に電気が回っているらしく、麻痺して動けない。

「何故、何故本体の俺を見つけられた……」
「ペルの魔法、『リンク』だよ」
「『リンク』……だと?」

 ウリドラを見つける前――全てはペルとタイガが走ってカリンを探している時に戻る。

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