異世界でニートは英雄になる

黒い野良猫

第四八話 無属性と王女の救出

 王宮に戻って来たタイガとカリン。そこにはオトランシス兄弟のアイルとルーがいた。

「お帰りタイガ、カリン様」
「アイル。いつ帰って来たんだ?」
「ついさっきだよ。団長に挨拶に行って、母さんにも挨拶に行ったってとこかな」

 アイルと話しながら食室に向かい、夕食を取る。アイルとルーの母親から「息子をよろしく」という伝言をアイルから聞かされ、今度挨拶に行くことを決めた。
 食事が終わり、入浴も済ませるとタイガは自分が使っている部屋ではなく、リンナの部屋へと向かった。

「リンナ。今大丈夫か?」
「タイガさんですか? 大丈夫ですよ」

 ドアをノックし、確認を取ったタイガは中に入る。そこにはパジャマ姿のリンナがベッドに座っていた。

「どうしましたか?」
「ごめんな。ちょっと聞きたいことがあって」

 リンナはタイガを自身の隣に座らせ、タイガの話を聞いた。

「今日の昼、レーラと初めて依頼を受けたよな」

 昼間の依頼。マスターウルフの討伐の事だった。

「あの時、お前のマグナラを通してレーラの実力を見ていたんだ。その時、気になったことが一つあって……」
「気になった事とは?」
「レーラが唱えていた【ロード】と【サイレント】、あれはどの属性魔法だ?」

 タイガとリンナの目が合う。リンナは少し顔を赤くしたが、気を取り直してタイガの質問に答えた。

「私の推測ですが、恐らくレーラさんが使った魔法の属性はありません」
「属性がない?」

 まさかの答えに、タイガは聞き返してしまう。その質問にリンナは静かに頷く。

「通常、魔法は火・水・土・風・光・闇の六種類あるのはご存知ですよね。ですが、もう一つあるんです。その六種類とも属さない魔法、『無属性魔法』が」
「属性がないから無属性魔法……。だが、カリンはそんな事教えてくれなかったぞ」
「普通の人は無属性魔法の存在を知りません」
「じゃあ、リンナはどうやって知ったんだ?」
「私は『プロトーチ王国』という、魔法の国の出身です。そこには様々な魔法の資料があり、そこで知りました」

 タイガは「成程……」と納得して、無属性の存在は理解できた。だが、そこでもう一つの疑問が生まれる。

「じゃあ、なんでレーラは無属性の存在を知っていたんだ……」

 タイガは手を顎に当て、呟いた。

「それは私にも分かりません。こればかりは、本人に聞くしか……」

 リンナも同じ姿で答える。
 考える事を止めたタイガは、無属性魔法についてリンナに聞いた。

「無属性魔法って誰でも使えんのか?」
「使えるには使えますが……」

 リンナは珍しく言葉を詰まらせる。

「私もよく分かりませんが、その魔法の意味を理解していないと使えないみたいです」
「魔法の意味、ね」

 ――確かに、【ロード】は日本語で負荷、装填という意味があるな。【サイレント】も無音という意味だ。そう考えたら、無属性魔法には意味が分かってないと使えなさそうだ。

 だが、ここでもタイガは一つの疑問が生まれた。しかしこれ以上は疲れると思ったのか、その疑問を頭の隅に置き、リンナに「おやすみ」と言って部屋を出て行った。
 部屋に戻ったタイガはベッドにダイブし、今日の出来事を振り返っていた。

 ――俺のマグナラとカリンのマグナラは兄妹、か。そう言えば、この間ローランで泊まった時、カリンは俺の事『お兄ちゃん』って言ってたな。あれと何か関係あるのか……? そんな事を考えてもしょうがないな。取り敢えず、レーラは無事にパーティーに参加、オトランシス兄弟も無事に挨拶を終わらせたから、明日帰るだけだ。今日は色んな意味で疲れたから
 、寝よう……

 タイガが瞼を閉じた、その時だった。

『タイガ! 大変です!』

 カリンから念話が入って来た。それも、慌ただしい様子で。

「どうした」
『ミンティークが、ミンティークがいないんです!』
「何!?」

 話によると、カリンがミンティークの部屋に行ったときには既にいなかったらしい。王宮内を探したが何処にも見当たらなく、不安になってタイガに念話した。

「それを国王様やラモーネは知っているのか!?」
『恐らく知らないと思います。タイガ、どうしましょう!』

 カリンはかなり焦っていた。だが逆に、タイガは冷静に考えていた。

「カリン、お前は王宮内を探してくれ。国王様にバレない様に」
『タイガはどうするんですか?』
「俺は俺で、外を探してくる。良いかカリン。絶対にバレるなよ!」

 そう言ってタイガは念話を切り、別の人物に念話を掛けた。

『タイガ? どうしたのこんな時間に』
「ラモーネ、今から落ち着いて聞いてくれ」

 念話を掛けた相手はミンティークの兄であるラモーネだった。ラモーネは眠たそうに念話に出る。

「実は、ミンティーク王女がいなくなった」
『何!? 今すぐに――』
「落ち着けラモーネ。この事はまだ国王様に知られてない。カリンには王宮内を探して貰っている」
『それで?』
「俺はこれから外を探しに行くんだが、ミンティーク王女はマグナラを持っているか?」

 タイガは自身のマグナラに搭載されている地図機能と追跡機能を使ってミンティークを探そうと考えた。

『持っているぞ』
「よし! そのミンティーク王女のイグナートを俺に送ってくれ!」
『了解!』

 そう言って念話を切り、一〇秒も掛からずにミンティークのイグナートが送られてきた。すぐさま地図を開き、ミンティークのマグナラの位置を知る。だが、結果は残酷だった。
 タイガが向かった先は、ミンティークの部屋。そこにポイントが示されており、中に入ると机の上にミンティークの物であろうマグナラが置いてあった。

「マジかよ……」

 部屋を出ようとした時、机の下に穴みたいなものが見えた。タイガはその穴を近くに行って見に行くと、梯子が掛かっていた。

「ここから外に……」

 タイガはもう一度ラモーネに連絡して、ミンティークがよく行く、もしくは行きそうな場所を聞いた。

『ミンティークは比較的、静かな所を好む。この近くだと、『北の森』かな』
「北の森……」

 北の森は、タイガ達が昼間マスターウルフを討伐しに行った所だ。タイガは嫌な予感がしてすぐさま着替え、ミンティークの隠し通路に入る。暫く歩き、出た先は人がいない王宮の外だった。

「ここから外に行ったのか……。てか、何で王女の部屋に隠し通路があるんだよ……」

 タイガは少し呆れながらも、静かな夜道を一人走る。
 その頃、ミンティークは――

「怖いよ……お兄様、カリンお姉ちゃん……」

 色んな魔獣に囲まれていた。
 鋭い牙を持ち、涎をダラダラ垂らしている『狂犬マッドドック』に普通の蜘蛛より何倍もデカい『毒蜘蛛ポイズンスパイダー』などがミンティークにじりじり詰め寄っていく。

「た、助けて……」

 ミンティークは完全に腰を抜かしてしまい、その場で座って震える事しか出来なかった。
 そして一匹のマッドドックがミンティークに駆け寄ったその時だった。

「【ソード・ルカ】!」

 声がして、ミンティークが上を見る。そこには黒いマントを靡かせてミンティークを襲ったマッドドックを斬ったタイガがいた。

「王女様! 大丈夫ですか!?」

 タイガはミンティークに近付くも、ミンティークは恐怖で喋ることも出来なくなっていた。

「完全に怯えてんな……。王女様、話は後で聞きます。なので今は俺に捕まってて下さい」

 タイガはミンティークをお姫様抱っこする。ミンティークは震える手をタイガの首に回し、抱き着いた。
 ミンティークが落ちないかを確認したタイガは、ミンティークに手を放さない様言うと上に高く飛んだ。上に飛んだ瞬間、ミンティークは抱き着いている腕の力を強くする。
 タイガは右手を前に出し、魔法を唱える。

「【ペトラ・ビースト】」

 タイガの手からデカい火の玉が出てきて、魔獣を襲う。
 タイガが地面に着くと、生き残っていた魔獣がタイガ達に向かって攻撃する。

「【ゴート】」

 すぐさま壁を作り、ポイズンスパイダーから放たれる糸を防ぐ。

「王女様、絶対にここから動かないでください。俺が全部仕留めます」
「で、でも――!」
「大丈夫です」

 タイガはミンティークの頭をそっと撫でる。

「貴女を、無事に返しますから」

 そう言ってタイガは壁を乗り越えた。
 タイガは休むことなく、魔獣を攻撃し続ける。魔獣もタイガを襲っては斬られ、襲っては斬られての繰り返しだった。ミンティークはこっそり顔を出してタイガを見る。その姿は、ミンティークが憧れていた勇者そのものだった。

「これで最後だな」

 タイガはそう呟き真ん中に剣を刺しこむと、ミンティークの下に駆け寄りもう一度お姫様抱っこした。そして上に飛ぶと、剣に向かって指を刺す。

「【クリアガービル】!!」

 指先から強力な電流が放出され、剣を通す。そしてその電流は地面を通し、全ての魔獣に行き渡り、倒れてしまった。
 タイガはゆっくりとミンティークを下ろし、自身の剣を取りに行き、鞘に納めた。

「大丈夫でしたか? 王女様」

 タイガが近寄って、片膝立ちでミンティークを見る。その瞬間、ミンティークは大粒の涙を流してタイガの首に抱き着く。

「怖かった……怖かったよぅ……」

 そんなミンティークにタイガは優しく撫でる。その時、ラモーネから念話が入った。

『タイガ! 父様にミンティークの事がバレた!』
「もう見つけた。王女様は無事だと伝えてくれ」

 タイガは未だ泣き続けるミンティークに「怖かったな、もう大丈夫だから」と優しく声を掛ける。タイガはミンティークが泣き止むまでずっと撫でた。

「ミンティークはまだか!」
「父様、落ち着いてください。タイガが無事に見つけたと言っているのですから」

 王宮では、国王であるイグニルが苛立っていた。それを、ラモーネが宥める。

「ただいま帰りました」

 すると玄関からタイガの声が聞こえ、イグニルは我先にと王室を出て行く。

「みんてぃ――!」
「しー」

 イグニルがミンティークの名前を大声で言おうとした時、タイガが口元に人差し指を立てていた。よく見ると、眠っているミンティークをタイガが負ぶっていた。

「まずは王女様をベッドに寝かせてきます。話は王室でしましょう」
「う、うむ。頼む」

 タイガはミンティークの部屋に行き、ベッドに寝かせて布団を掛ける。寝ているミンティークを軽く撫でると、タイガは王室へと向かった。
 中に入ると、イグニル、母のメービル、ラモーネ、カリンがいた。他の人は寝ているらしい。

「まず、ミンティークを見つけてくれてありがとう。コナッチ家代表して、例を言わせてくれ」
「いえ、王女様に何もなくてよかったです」
「それで、何故ミンティークは王宮を出たんだい?」

 タイガは出された紅茶を一口飲み、事の発端を話した。

「どうやら王女様は俺達、特にカリンと別れるのが嫌だったらしくて家を出たそうです」
「私と?」
「王女様はカリンの事を『お姉ちゃん』って呼んでただろ? それ程慕われてて、心を開いているって事だ。それで別れが来るのを知ると、人間簡単に受け入れられない。だから現実逃避したがる。その結果、王女様は王宮を出てしまったんだ。隠し通路があるのはビックリしたけどな」

 タイガは苦笑いで、さっきまでの出来事を話す。魔獣に襲われかけた事も。

「タイガ君は凄いな。私達の息子達を救ってしまうのだから」
「そうですね。是非、わたくし達の養子になっていただけません?」

 メービルがとんでもない発言をして、紅茶を飲んでいたタイガは咽てしまった。

「メービル様、タイガをからかわないでください」
「冗談よ」

 笑顔で言うメービル。だが、タイガは直感で思ってしまった。

 ――あれ、冗談で言ってる感じじゃねぇぞ……

 こうして一日が終わり、タイガはベッドに潜るとすぐに夢の世界へと旅立ってしまった。

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