チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記
第七話 革新
目を覚ますと、降り注いでいた雨は止んでいた。
森には静寂が広がっており、太陽は未だ地平線の下にいる。
最悪な夢を見たメリウスであったが、目覚めは思ったよりも悪くなかった。
むしろ夢という形で膿を出したことによって、腫れ上がって痛む傷がマシになったような……
そんな気さえしていた。
身体を起こすと白いかけらが胸元に転がってきた。
仮面の一部が剥がれ落ちている。
メリウスは、その欠片を見てはじめに考えたことは、この大きさならさらに大きなものの加工に使える。
そして、それを考えると先程見た凄惨な夢よりも、遥かに彼の心を踊らせた。
すでに幾つかの案を思いつき、すぐにでもそれを作成したいという気持ちが完全に上回っていた。
「荒んでたなぁ……」
それでも何も思わないわけではない。
夢の中のたぶん自分の顔はまるで悪鬼のように荒んでいた。
瞳は一切の光を放たず濁っており、目の下には抉られたような隈、頬は痩け酷いの一言だった。
「ふむ、きっと今のほうがいい男だな」
顎に手をやるとだいぶ髭が伸びてきている。
木製のボールに水を張り顔を見ると、無造作に伸び切った髪と髭がみっともない。
ふと思いつきで今朝剥がれた仮面を利用すると、簡単に髪も整えられた。
サイドはスッキリとギリギリまで刈り込み、上部は短く角刈りにして前髪は立てておく。
髭も顎のラインできちっと揃えてピシッと刈り揃え清潔感が出る。
夢で見た過去の自分の姿に似せてセットしてみた。
どういう原理か、自分が斬りたいと思ったものは斬れるが、肌などを斬りたくないと思っていれば斬れなかった。
「これは便利だ。そして、この大きさがあれば木々の加工も大きく出来るな」
今回は刃渡りで10cmくらいになる。これだけあれば板状に切り出した木材も加工できる。
今回のように雨が降った際に地面に敷く、持ち運び可能な簀子のような物を作りたかった。
雨でなくても地面から離すことでテントや寝床を傷ませないだろう。
「そして何より、この切れ味があれば……」
朝食を済ませるとメリウスは製作にかかりっきりになった。
彼の想像を裏切らず、今回のかけらは木々をバターのように切り出してくれる。
これならばアレが可能になる。
メリウスは色々な木で試作し、もっとも相性のいいものを探した。
硬く、粘りがある最高の素材を丁寧に加工していく。
車軸と、車輪だ。
今まで引きずって荷物を運んでいたが、今の道具があれば荷車が作れる。
引くのはメリウスだったが、車輪を作れば運べる重量は桁違いになる。
仮面のかけらは綺麗に円状に木々を抜き出し、車輪のベースを生み出す。
幾重にも木の皮を巻きつけ縛り、それを繰り返すことで弾性のあるタイヤを生み出す。
車軸も美しい円柱を切り出し作り上げる。
こすり合うところには滑る木の皮を幾重にも重ねた物同士を利用することで、摩擦の軽減とショックの軽減、両方の問題を解決していく。
試作しては改良し、試作しては改良する。
メリウスはそれが楽しくて仕方がない。
作り直すたびにどんどん良くなっていく荷車に夢中になっていく。
気がつけばその森に滞在してすでに一週間が経過していた。
途中再びイノシシが現れたり、鹿に似た動物を仕留めたりと、メリウスの生活は豊かになっていく。
とうとう空を飛ぶ鳥も弓で落とせるようになっていた。
鹿の肉も、鳥の肉も彼の肉体を構成する一部となっている。
雨が降れば樽に水を貯め、その貯蔵量も飛躍的に伸びていた。
幸運なことに、木の実の一種に、内部に発酵した樹液を溜め込む性質のものもあり、その発酵液にベリーなどを漬け込むと、擬似的な酒のような物まで作っていた。
昼は製作に夢中になり、夜は自然の恵みをいただき、満天の星空の下で酒に酔う。
「……これを幸せと言わずしてなんという……」
夢の中の自分に、この百分の一でも分けてやりたい。
そう思う。
自分のことながら、あの世界のメリウスは……荒んでいた。
「俺が記憶を持たぬのも、神による配慮なのかもしれんな……」
美しい星空を見上げながらメリウスは思っていた。
この世界の日々は、荒んだ過去を受け入れられるぐらいに心を休める時間を与えてくれている。
そうメリウスは確信していた。
「優しいのだな、神は……」
彼の身体を今夜も優しく世界が包み込んでくれているような、そんな気がした。
そんな製作に明け暮れた日々もついには終わる。
台車の完成だ。
工夫に工夫を重ねた6つの車輪がしっかりと荷台を支える。
大量の物資を乗せてもきしみ一つ見せない見事な荷台。
この森で貯めた多くの物資を乗せていく。
水で満たされた樽をメリウスは軽々と乗せていく。
6輪にしたことで安定性は抜群、重量の偏りで転倒することもない(何度かやった)
試しにメリウスは荷物を満載させて引いてみた。
「おお!」
その軽さに驚く、荷物の量は贔屓目に言って10倍になろうというのに、引く力は引きずる丸太よりも遥かに軽い。
車輪とは偉大な物だとつくづく感心してしまう。
メリウスを導く道へと戻る均した粗末な道の段差も、様々な工夫によって荷台への影響を最小限にとどめている。
大成功だった。
「久しぶりの道だな。また頼むよ」
変な話だが、自分を導いてくれているのはこの道だ。
久しぶりの再開の挨拶をしてしまうのも仕方がないのかもしれない。
荷車は持ち手をあげると走行、話して下がるとブレーキが掛かる。
もちろんめんどくさい時は肩の紐に引っ掛ければフリーハンドで歩むことが出来る。
少しぐらい小走りでも全く問題ないことを確認すると、メリウスは歩む速度をあげる。
流石にぐっと肩に重量もかかるが、以前と比べて大差はない。
運んでいるものの量と重量を考えれば天地ほどの違いがある。
「ほっほっほっほっほ!」
鍛錬のような気持ちで道を走り続けるのであった。
森には静寂が広がっており、太陽は未だ地平線の下にいる。
最悪な夢を見たメリウスであったが、目覚めは思ったよりも悪くなかった。
むしろ夢という形で膿を出したことによって、腫れ上がって痛む傷がマシになったような……
そんな気さえしていた。
身体を起こすと白いかけらが胸元に転がってきた。
仮面の一部が剥がれ落ちている。
メリウスは、その欠片を見てはじめに考えたことは、この大きさならさらに大きなものの加工に使える。
そして、それを考えると先程見た凄惨な夢よりも、遥かに彼の心を踊らせた。
すでに幾つかの案を思いつき、すぐにでもそれを作成したいという気持ちが完全に上回っていた。
「荒んでたなぁ……」
それでも何も思わないわけではない。
夢の中のたぶん自分の顔はまるで悪鬼のように荒んでいた。
瞳は一切の光を放たず濁っており、目の下には抉られたような隈、頬は痩け酷いの一言だった。
「ふむ、きっと今のほうがいい男だな」
顎に手をやるとだいぶ髭が伸びてきている。
木製のボールに水を張り顔を見ると、無造作に伸び切った髪と髭がみっともない。
ふと思いつきで今朝剥がれた仮面を利用すると、簡単に髪も整えられた。
サイドはスッキリとギリギリまで刈り込み、上部は短く角刈りにして前髪は立てておく。
髭も顎のラインできちっと揃えてピシッと刈り揃え清潔感が出る。
夢で見た過去の自分の姿に似せてセットしてみた。
どういう原理か、自分が斬りたいと思ったものは斬れるが、肌などを斬りたくないと思っていれば斬れなかった。
「これは便利だ。そして、この大きさがあれば木々の加工も大きく出来るな」
今回は刃渡りで10cmくらいになる。これだけあれば板状に切り出した木材も加工できる。
今回のように雨が降った際に地面に敷く、持ち運び可能な簀子のような物を作りたかった。
雨でなくても地面から離すことでテントや寝床を傷ませないだろう。
「そして何より、この切れ味があれば……」
朝食を済ませるとメリウスは製作にかかりっきりになった。
彼の想像を裏切らず、今回のかけらは木々をバターのように切り出してくれる。
これならばアレが可能になる。
メリウスは色々な木で試作し、もっとも相性のいいものを探した。
硬く、粘りがある最高の素材を丁寧に加工していく。
車軸と、車輪だ。
今まで引きずって荷物を運んでいたが、今の道具があれば荷車が作れる。
引くのはメリウスだったが、車輪を作れば運べる重量は桁違いになる。
仮面のかけらは綺麗に円状に木々を抜き出し、車輪のベースを生み出す。
幾重にも木の皮を巻きつけ縛り、それを繰り返すことで弾性のあるタイヤを生み出す。
車軸も美しい円柱を切り出し作り上げる。
こすり合うところには滑る木の皮を幾重にも重ねた物同士を利用することで、摩擦の軽減とショックの軽減、両方の問題を解決していく。
試作しては改良し、試作しては改良する。
メリウスはそれが楽しくて仕方がない。
作り直すたびにどんどん良くなっていく荷車に夢中になっていく。
気がつけばその森に滞在してすでに一週間が経過していた。
途中再びイノシシが現れたり、鹿に似た動物を仕留めたりと、メリウスの生活は豊かになっていく。
とうとう空を飛ぶ鳥も弓で落とせるようになっていた。
鹿の肉も、鳥の肉も彼の肉体を構成する一部となっている。
雨が降れば樽に水を貯め、その貯蔵量も飛躍的に伸びていた。
幸運なことに、木の実の一種に、内部に発酵した樹液を溜め込む性質のものもあり、その発酵液にベリーなどを漬け込むと、擬似的な酒のような物まで作っていた。
昼は製作に夢中になり、夜は自然の恵みをいただき、満天の星空の下で酒に酔う。
「……これを幸せと言わずしてなんという……」
夢の中の自分に、この百分の一でも分けてやりたい。
そう思う。
自分のことながら、あの世界のメリウスは……荒んでいた。
「俺が記憶を持たぬのも、神による配慮なのかもしれんな……」
美しい星空を見上げながらメリウスは思っていた。
この世界の日々は、荒んだ過去を受け入れられるぐらいに心を休める時間を与えてくれている。
そうメリウスは確信していた。
「優しいのだな、神は……」
彼の身体を今夜も優しく世界が包み込んでくれているような、そんな気がした。
そんな製作に明け暮れた日々もついには終わる。
台車の完成だ。
工夫に工夫を重ねた6つの車輪がしっかりと荷台を支える。
大量の物資を乗せてもきしみ一つ見せない見事な荷台。
この森で貯めた多くの物資を乗せていく。
水で満たされた樽をメリウスは軽々と乗せていく。
6輪にしたことで安定性は抜群、重量の偏りで転倒することもない(何度かやった)
試しにメリウスは荷物を満載させて引いてみた。
「おお!」
その軽さに驚く、荷物の量は贔屓目に言って10倍になろうというのに、引く力は引きずる丸太よりも遥かに軽い。
車輪とは偉大な物だとつくづく感心してしまう。
メリウスを導く道へと戻る均した粗末な道の段差も、様々な工夫によって荷台への影響を最小限にとどめている。
大成功だった。
「久しぶりの道だな。また頼むよ」
変な話だが、自分を導いてくれているのはこの道だ。
久しぶりの再開の挨拶をしてしまうのも仕方がないのかもしれない。
荷車は持ち手をあげると走行、話して下がるとブレーキが掛かる。
もちろんめんどくさい時は肩の紐に引っ掛ければフリーハンドで歩むことが出来る。
少しぐらい小走りでも全く問題ないことを確認すると、メリウスは歩む速度をあげる。
流石にぐっと肩に重量もかかるが、以前と比べて大差はない。
運んでいるものの量と重量を考えれば天地ほどの違いがある。
「ほっほっほっほっほ!」
鍛錬のような気持ちで道を走り続けるのであった。
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