チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第十六話 弱き人々

 全ての道具を移動させるために作ってあった荷車は、一時的な移動には大きすぎるので、少量の荷物運搬用の小型の荷車を改めて製造した。
 カインとプリテのサポートもあるためにサクサクと作業は進んでいく。
 モーラも食い入るように作業を見つめ、時折構造や製造方法などへの質問もしてくる。
 実演をしながら説明していく。
 例の剣があるので繊細な細工まですごい精度で行えるが、石製の道具も馬鹿にならない。
 ふと思い立って石製の道具も作る。
 石を切り出すのだって大変な作業だ。使えそうな石を選んで使っていた頃の苦労を思い出した。
 幾つかでも道具があれば、それを元に色々なものが作れる。
 基本となる道具も村へと寄贈しようと考えたのだ。

「確かに村でも良さげな石を集めて木材にくくりつけて使っていますが、これはそういう次元ではないですね……」

 刃に皮膚を滑らせれば斬れてしまいそうな石斧、小さな細工用の小型ななど仮面の刀で石を切り出し作っていく。
 様々な木々、植物のいろんな特性を持つ素材を利用して、メリウスはここまで生活を豊かにしてきた。
 今まで積み重ねた経験を一部でも村の発展に役立たせて欲しい。
 彼なりの優しさであった。

 保存の効く食材や、一部素材、道具を積み込んで村への移動準備が整う。

「さて、それでは行きましょうか!」

 家に残した食料などは地下の冷蔵庫にしまい、メリウス達3人でなければ到底動かせない石版で塞いでおく。
 門さえきちんと閉じれば、外壁内に入れる野生動物は空を飛ぶ以外不可能だ。
 空を飛ぶ生物に巨大で超重量の扉は開けられないだろう。
 門には内側にしっかりと閂を嵌めて縄梯子で門を超える。
 投擲して使う縄梯子は回収しておく。
 これで留守の護りは万全だ。

「いってきます」

 メリウスは無人となった家に挨拶をする。
 しばし離れるだけだが、彼にとって底は3人の帰るべき家と感じていた。

「あまり雪が積もらなくてよかったですね」

 足首程の雪を踏みしめながらカインとメリウスは荷車を引いていく。
 モーラも手伝おうとしたが、なんの足しにもならなかったので今は大人しく道案内に徹している。
 プリテは周囲の警戒に当たりながら楽しそうに飛んだり跳ねたりしている。

 村に至る山へは驚くほど順調につくことが出来た。

「しかし、今までだいぶ歩いてきたけど、山は初めてだな……」

「此処から先には村からも見えるけど幾つかの山があるよ。
 村から離れるのは危険が多く、誰も行わないからなぁ……みなさんが来た方向にも行った者はいないですねー」

「そういえば、他の村とか街はあるのですか?」

 基本的なことを聞き忘れていた。

「いえ、ウチの小さな村はほそぼそと生活を続けていて、他の集落との付き合いは無いんですよ……」

「ふむ……」

 メリウスは考える。
 この世界には極端に人間が少ないんじゃないだろうか? と。
 森は豊か、野生動物はあまり人を恐れることをしない。
 話を聞く限りモーラの村の文化レベルも低い。
 記憶の中の世界は都市を形成しており、城壁を作り街が発達しており、様々な産業が存在していた。
 ますますこの世界が不思議に思える。

 山道を登り始める。もし、本来の荷車だった場合、かなり移動速度は落ちてしまうだろう。
 それでもメリウスとカイン二人での小型荷車はぐんぐんと坂道を登っていく。

「すみません……もともと野生の動物から実を守るためにだんだん高い場所へと移動していったらしく。
 湧き水が湧く今後に安住できたときには十数人しか残っていなかったと祖母から聞いています」

 それから今は30人ほどの集落になっているらしい。
 高所にも木々などは生えているが、建物の素材や日々の食料など苦労しただろうなとメリウスは想いを馳せる。
 しばらく傾斜を蛇行しながら昇っていくと、山の中腹から煙が上がっている。
 数本の煙がその下に人が暮らしていることを示している。

「もうすぐです。良かったぁ、心配してるだろうなぁ……」

「モーラさん、悪いんだが先に行って事情を説明してきてくれないか?
 警戒させてしまっても悪いからな」

「ああ、気が回らないですみません。それではそこの木陰で休んでてください。
 すぐに話しを付けてきます!」

 モーラは足取りも軽く村へと向かっていく。
 3人はやや積雪の増えた道の脇でしばらく休憩を取る。

「やはり上の方はさらに冷えるな」

「はじめのモーラさんの格好では寒いのではないんですかね?」

「毛皮、喜んでもらえるかなー?」

「これからどんどん寒くなるだろうし喜んでもらえるさ」

 思わずプリテの頭をなでてしまう、こうするとカインが拗ねることをメリウスは知っている。
 すぐにくしゃくしゃとカインの頭も撫でてやる。このあたりはちゃんと平等に接するように心がけている。
 怠ると苦労するのはメリウスである。

 程なくしてモーラが戻ってくる。

「村長がぜひ挨拶したいと行っております。どうぞどうぞ!」

 モーラに促され村へと進む。
 村に近づくとこの山における台地になっているようで道の傾斜が楽になってくる。
 村の建物は簡単な木々が組まれている者に干し草が幾重にも重ねられている。
 モーラから聞いた通り、最初の頃のメリウスのテントに毛が生えたような作りだ。
 村の人達はモーラの帰還に喜び、その救い主であるメリウス達をひと目見ようと村人総出で村の中央の広場へと集まっていた。

「モーラをお救いいただきありがとうございます。村を納めているコルネスといいます」

 村長は初老の男性だ。
 落ち着いて優しげな声、目尻の下がった優しそうな男性という印象だ。
 差し出された手を握り、メリウスも自己紹介をする。

「メリウスです。偶然通りがかっただけなのでお気になさらないでください。
 こちらの二人は、家族みたいなものです。カインとプリテです」

 村に来て気がついた事がある。メリウスはともかく、カインとプリテも村人と比べると慎重体格ともにしっかりとしている。
 赤子を抱いている母親や、老人、青年、少女、みな背が低く、痩せている。
 この場所での生活が楽ではないことを表しているのだろう。

「モーラさんから聞いたのですが、色々と力になれそうなこともあったので、これも縁であろうと色々とお持ちしました。遠慮せず使ってやってください。道具作りは趣味みたいなものなので……」

 それから荷車の荷をほどいていく。
 悲鳴にも似た歓声が起こるのに時間はかからなかった。
 この時期は僅かな野菜や、山菜を切り詰め切り詰め耐えている村に、豊富な山菜、果物、さらには肉に魚、めったに得られないごちそうが山ほど積まれていたのだ。
 更には寒さを凌ぐための貴重品である薪、木炭、それにメリウス達が作った道具たち。
 村人の命の恩人が、宝の山を担いで来てくれた。

 村にこの時期では訪れるはずのない熱気が溢れていた。



 
 

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