チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第二十三話 女神

 めくるめくる快楽に溺れ、最終的には立場を逆転させ、プリテにもう無理と言わせ、メリウスは眠りについた。

 お酒のせいか、快楽に溺れたせいか、まるで空に浮かんでいるような、メリウスはそんな心地よさを感じている。

『……ウス……』

 浮遊感はそのままだが、どこかから声が聞こえる。

『メリウス……』

 夢なのか? メリウスはその疑問を感じながら答えてみる。

「誰だ……」

『メリウス、ようやくこうやって貴方と話せました……』

「……ここは、夢……」

 メリウスの身体は空に浮いている。
 目を開き周囲を見ると、普段は空に浮かぶ星々が天にも地にも輝いている。
 そして、目の前には光り輝く恒星が語りかけている。

『夢、のようなものですね。
 初めましてではないのですが、貴方は覚えていないかもしれません。
 私は、貴方が今いる世界の神の一人、オオコクと申します……』

 メリウスは自分の記憶を呼び起こす、この声を何処かで聞いたことがある。

「……この世界に来る前に、世界を救えと言った……」

『そうです。覚えていてくれたのですね。
 ありがとうメリウス。私の【境界】で我が眷属を栄えさせてくれて、お陰でこうして話すことが出来ました。
 正確には、その、ち、契を結んで頂いて……その、凄かったですね……///』

「……覗いてたんですか?」

『ち、ちがっ……その、境界内のことは、わかってしまうので……昨夜は、その、村全部が、凄くて……
 って! そんな話はどうでもよくて、何にせよ契によってようやく貴方にこうしてお話ができます。
 メリウス様、異界の勇者よ、どうかこの世界をお救いください』

「正直私はこの世界に右も左もわからずに、呼ばれた? なので、まずはどういうことか説明を。
 まずどうして私なんですか?」

『貧乏だからです』

「び、貧乏? 誰が?」

『私です』

「それと俺が呼ばれたのに何の関係が?」

 すこし苛立ったメリウスは神と話していたので遠慮していたがだんだんいつも通りの話し方になっていく。

『貧乏というか、神としての力が滅びかけた私には少なかった。
 そこで、メリウス殿のようなギャンブル性の高い勇者に助けを乞うたのです』

「ギャンブル性……?」

『そうです。メリウス様は世界を救えるお力をお持ちの勇者です。
 しかし、同時に、世界を滅ぼす可能性のある闇もお持ちだったのです』

 メリウスはどきりと心臓が高鳴るのを感じる。
 心当たりがあった。

「それで……続きは……」

『そこで、私は私の最後の境界にて、緩やかにメリウス様の闇を晴らしていくことにしました。
 力の結晶を仮面へと変え、荒んだ心を自然と暮らすことで、緩やかに人々と暮らしていただくことで、闇に包まれた心の回復をしていただくことにしたのです』

「……つまり、あの世界は作り物……」

『それは違います! あの世界は私の残された全てです。
 あの世界には私の残り少ない力で保護した愛すべき民が生きています。
 それは作ったものなんかではありません!』

「……失礼した。非礼をわびます」

『いえ、こちらも興奮してしまいました。
 それでも、メリウス様はあの世界を、私の眷属に幸せをもたらしてくれました。
 予想外に早く【外】の者が入り込んでしまった時は肝を冷やしました。
 まだ、あの時のメリウス様には早かった。
 しかし、メリウス様は【暴走】せずに民を守ってくださった。
 そして、眷属たちを健やかに増やしてくださった。
 改めて御礼申し上げます』

「つまり、町の人々は、貴方の大切な民であると……
 わかりました。それでは世界を救うとは?」

『あの境界の世界は、私の力で保護され、そして閉じられた世界です。
 あの世界全体からすればわずか一地方でしか無い、それが私に残された境界なのです。
 境界の外は、すでに世界を滅ぼす魔のものに支配されています。
 たくさんの国々が魔の者に苦しめられている世界なのです。
 一緒に世界を作った神々も、魔の者を操る魔神に封じられました。
 この世界で最後に残った私に、皆が力を与えてくれて、あの境界を残し、そして、メリウス様をお呼びできたのです』

「……世界だ神だ言われても実感がわきませんが、私は何をすればいいのですか?」

『貴方には、教会の外の世界を救って、神を解き放ち、魔神を退けてほしいのです。
 そのために異世界よりお呼び立てしました』

「……しかし、やはりなぜ俺なのかわからないですね」

『……貴方は、異世界を魔から救ったことがある勇者なのです。
 しかし、世界を救った後に、闇に落ちかけ、自らの命を絶ちました』

「なっ……」

『勇者であり、魔神の手先にもなり得る。不安定な魂。
 私の残された力では光り輝く勇者の力は呼び寄せられません。
 しかし、大きな力を持ちながら、光にも闇にもなり得る貴方なら、呼ぶことが出来たのです』

「……なるほど、勇者の中ではお買い得品だったのですね。不良品かもしれないから」

『誤解を生むことを承知で正直に答えれば、その通りです』

「逆にはっきり言っていただけてよかった。
 私自身も私の中に何か大きな闇があることは気がついていました。
 そして、あの自然の中で生きていくことで、心地よさを感じ、光を感じ、少しづつその闇が解きほぐされる、そんな気がしていました。
 この世界に喚ばれたことの意味を今、しっかりと理解しました。
 その上で、本当に有難うございます」

『……そう言っていただけるのは大変に名誉なことです。
 神であっても勇者には敬意を払います。
 しかし、貴方には一つ悪い話もしなければなりません」

「悪い話……つまり、記憶の最後のピースの話ですね」

『気が付かれてましたか……そうです。
 貴方が以前の世界でどういった最後を遂げたか、貴方が闇に落ちた理由。
 それを知ってもらわなければいけません。
 そうしなければ、真の勇者の力は取り戻せないのです。
 今までとは比べ物にならない辛い記憶となるでしょう。
 しかし、今の貴方ならその記憶を乗り越えられる。そう信じています』

「ええ、私にとって、乗り越えなければならない物が、記憶の続きがあることはずっと気になっていました。
 私自身としても、その記憶を乗り越えなければいけない、今は強くそう感じています」

『ありがとう……忘れないでください。
 貴方が育て、育んだ世界が、確かに存在しているのです。
 貴方には帰る場所があるのです。
 どうか、帰ってきてください!』

「帰ります。必ず、皆の元へ!!」

 恒星がより強く光り輝き、メリウスの周囲の世界は全て光りに包まれる。

『この世界の記憶は、元の世界に戻れれば消えてしまうと思います。
 もし、万が一……いや、過程の話は辞めましょう。
 信じています。おかえりなさいと言わせてください』

「行ってきます!」

 メリウスは光の中を歩み始める。
 自分の不覚に封印した、最後の記憶の旅へと旅立っていくために。


 メリウスが消えた空間でオオコクはつぶやく。

『もし、貴方が闇に落ちたら、私と世界は全て、死ぬ。
 信じています。メリウス』

 

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