チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第三十一話 変化

「いやー、メリウス申し訳ない。すっかりあの酒に酔ってしまったようだ!」

 朝食を取っているメリウスの部屋に、メリウスに引けを取らない巨体の男が入ってくる。

「おはようございますホルス様、お部屋に不都合はありませんでしたか?」

「ホルスもいい男になったー。メリウスほどじゃないけどー」

「え? ホルスなの? この人が?」

「いやー、起きたらこうなっておりました。ははは」

 筋肉の大きさはメリウス以上、パンパンに張ってキレている。
 額の角だけは残っているが、だいぶ小型化されている。
 角ばった顔つきに濃い茶色の短髪、もみあげが立派だ。
 いかにもパワー担当ですと言った外見をしている。

「また、人化したのか……どうなってるんだこの世界の獣人は……」

「いやー、私もこんなこと聞いたことないですが。酒のせいですかね」

 絶対違うとは思ったが、深く考えても仕方がないし、どうせ理由はわからない。
 その後判明した事実は、この村の人々も最初はねずみ人間だったが、気がついたら人化していたそうだ。

「……考えても仕方ない。早速だがホルス。今日ノタ村へ行くぞ。
 出立の準備をしてくれ」

「おお、ありがたい。この身一つしかありません、すぐにでも出立できます」

「とりあえずホルス様、朝食ぐらいはお食べください」

 気がつけばカインが食事を用意していた。
 ホルスは嬉しそうに食卓について朝食を楽しんだ。

「いやー、前より色々使いやすいですなこの身体!」

「ホルスは武器を持って戦えたりするの?」

「いや、あいにくそのような経験は……」

「あとで武器を持たせよう。流石に赤目相手に素手はキツイだろうし、君にピッタリの武器がある」

「何から何まで重ね重ねすみません」

 以前村人たちの伐採用にと、巨大な石斧の表面に土の魔石を利用して鉄で覆って、刀で刃を立てた斧を作った。
 作る前から気がつくべきだったが、もともと巨大でメリウス以外の使用に難儀していた石斧に、さらに鉄を被せたせいで、メリウスでさえも扱いにくい大斧になってしまった物が倉庫に眠っていた。

「ほほう、これはこれは大きいですな。これならどんな大木も倒せそうだ」

 軽々と大斧を持ち上げるホルス。

「馴染んでいるな。君にぴったりだ!」

 メリウスも満足げだ。

 大型荷車二台に支援物資をたっぷりと乗せてメリウス、カイン、プリテ、ホルスはノタ村へと出発する。

「留守は任せた!」

 村人たちは人数も多くなったが、一人ひとりが精強な戦士だ。
 遊び感覚でメリウスは村人たちと打ち合ったりしているが、完全に鍛錬レベルで容赦がなく、そのメリウスとある程度打ち合えるようになってくれば、気が付かないうちに歴戦の勇者と打ち合える力量を手に入れていることになる。
 さらに装備も充実しており、この世界において、まだ存在も指定ない純鉄製の武器、防具を手に入れている。
 軍勢と呼んでも差し支えない。

 野生動物では相手にならないだろうし、大群でもなければ赤目の奴らにも対抗できる。
 さらに村で防衛をすれば、よほどの敵でなければ問題ない。
 人数の増加に伴って、村の防壁も2重になっている。
 防戦に徹底すればかなり時間を稼げるし、相手への被害も甚大なものになることは間違いない。

 ココらへんの話をカインとプリテからたっぷりされたメリウスは安心して村を開けることが出来た。

「ノタ村は遠いの?」

 鉄斧を振り回しながら確かめているホルスにプリテが尋ねる。

「途中で赤目を避けながら移動したので、真っすぐ行けば数日で到達できるはずです。
 この道はノタ村の脇につながっていましたから」

「しかしメリウス様不思議な話ですね。我々の村が突然現れたというのは……」

「神様が俺達に世界を護れと遣わせたのかもな」

「よーし世界を救うぞー!」

「みなさん豪快ですね……」

「メリウス様! 正面、赤目です」

「ほんとだー、まだこっちに気がついてないねー数は……7匹かな?
 こないだのとおんなじゴブリン? だっけ」

 少し小高い丘のような場所に差し掛かると、はるか先にゴマ粒みたいに移動している集団をカインが見つけてくれる。
 すぐに道から草原のヤブの中へと移動して対応を協議する。

「こんな低い草原では近づかれれば荷車を発見されます」

「やっつけよう」

「それだな」

「し、しかし、赤目ですよ!」

「大丈夫、俺達は15人のあいつらの集団を倒している。
 その時よりも装備は格段に良くなっている。出来るよ」

「……失礼しました。もとよりこの生命はメリウスに預けています。
 やります!」

「では、まずは少しでもプリテの弓で数を減らそう」

「はーい。いつでもいいよー」

 すでにプリテは荷車の上で弓を構えている。
 木と鉄を組み合わせた強力な弓だが、プリテは全身を使って華麗に弓を操る。

「準備はいいな、俺とホルスは右から、カインは左側から、敵がプリテの狙撃に気がついて突っ込んでくるのを迂回して横から奇襲する」

「わかりました」

「やってやる!」

「プリテ俺達が移動して位置についたら指示を出す。それまで待機で」

「はーい」

 プリテの聴覚を利用すれば、小声で合図をすれば通じる。
 カインも同様だ。
 そのままゆっくりと草原の草むらを身をかがめて作戦に適した場所まで移動する。
 ゴブリンたちは自分たちが狙われていることなんて想像もしていないかのように持っている棒きれを振り回してのんきに歩いている。

「ホルス、行くぞ」

「はい!」

「プリテ、頼む!」

 メリウスの号令とともに、プリテの矢が ヒュォ と風を切ってゴブリンの頭を撃ち抜く。
 ビクりと身体を硬直させ、ゴブリンがまるで糸が切れかのように倒れる。
 他のゴブリンはまだ何が起きたのか理解していない。
 ぼーっと立ち尽くしている二匹目のゴブリンの脳天を矢が貫いて、はじめて騒然と騒ぎ始める。
 混乱し右往左往するゴブリンの3匹目の肩に深々と矢が突き刺さり、ゲギャっと苦痛の声を上げた時、ようやくプリテの影をゴブリン達が捉える。

 怒り狂い、真っ赤な瞳がさらに怪しく光り、プリテの方向へと猛然と走り出す。

 すべてメリウスの予想通りに、プリテは牽制で矢を放つが、流石に正面からの狙撃には対応しようとする。それを踏まえて体の中心を狙った矢は身体をかすめるか、身を捩っても腕を貫くも、致命傷には至らない。

「今だ!」

 メリウスが背後にいるホルスとカインに合図を出し飛び出す。
 突然の左右から奇襲、負傷せずに戦闘を走っていた2体を簡単にメリウス、カインが始末する。
 傷をかばいながら遅れて走っていた残り3体のゴブリンは、全力で振るわれたホルスの戦斧によって見るも無残に草原にその肉体を巻き散らかすことになる。

「……与える武器を間違えた気がする」

 あまりの戦闘能力の高さに、メリウスでさえ少し引いてしまった。
 何にせよ、こうして赤目との遭遇戦はメリウスたちの圧勝で幕を下ろした。




 

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