チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第三十八話 突入

 洞窟の前には数体のホブゴブリンがウロウロと退屈そうにしているだけだ。

「プリテ、左を頼むシャロンは右、俺は真ん中を狙う」

 3人は弓を構える。

っ!」

 フラフラと歩いていた3匹のホブゴブリンは見事に頭部を貫かれて地面に吹き飛ぶ。

「行くぞ!」

 他の敵に嗅ぎつけられる前に一気に洞窟へと接近する。
 手早く魔石を取り出し、塩に変える。
 血の匂いや敵を呼び寄せないためにも行動は迅速を心がけていた。

 5人は洞窟内へと侵入する。
 赤目たちにも光は必要なようで、驚いたことに洞窟の所々には薪や炭を置いて火をつける場所が壁面に掘られていた。
 淡い陽の光が薄暗い洞窟の奥へと繋がっている。
 緩やかに下る比較的まっすぐと光は奥へと続いている。

「深そうですね……」

 静音の加護は利用しているが小声で会話をしながら道を進んでいく。
 天然の洞窟にところどころ乱暴に掘られた横穴が開いており、大抵の場合その先にはゴブリンやホブゴブリンなどが数体単位で雑魚寝をしていた。

「放置はできない。卑怯かもしれないが、全て始末していく」

 音もなくゴブリン達を倒しながら進んでいく事になる。
 ゴブリンたちが塩に変わって消えなければ、皆の心はもう少し暗くなっていたのかもしれない。
 それに、いままで虐げられていた過去の歴史がなければ……

「メリウス様が現れなければ、逆に俺達がこうして狩られていた……恨んでくれて構わん」

 ホルスは躊躇なくその斧を振るう。
 メリウスを始め、皆、きちんと覚悟のもとに武器を振るっている。

「メリウス様、奥から水の音が聞こえます……」

 先行して斥候役をしてくれているカインが先の状態を教えてくれる。
 洞窟の幅も徐々に広がっており、洞窟の終着点が近いのかもしれないとメリウスは考えていた。
 暫く進むと、急に大きめな空間に通路が開口している。
 注意深く中を覗き込むと、数名のハイゴブリン、それに十数体のホブゴブリン、数十隊のゴブリンが何かに向けて拝んでいるような異様な光景が広がっていた。

「なんだあれは……」

「石像……牛……?」

 巨大な牛の像、その周囲には真っ黒に開いた大きな穴、周囲に幾つもの火種が置かれており、何か香のようなものが焚かれているのか、室内には白い靄のような物が漂っている。
 魔物たちはすこしボーっとしたような表情で鈍く目を光らせている。

「この煙、あまり吸わないほうが良さそうだ。しかし、何だあの大きな像は?」

「まさか、御神像……?」

「ホルス、なんだいその御神像ってのは?」

「俺達の村のず~ーーーっと昔、もっともっと人が居て栄えてた時代。
 村……街と呼ばれていた頃に、俺達の神様が居て、その神様を象った像があって、それが御神像と呼ばれていた。……らしい」

「シャロンは知ってる?」

「ううん、聞いたこと無い」

「俺もじーちゃんから聞いたことがおぼろげに覚えてるだけで、自信はないです」

「いや、多分間違いない。あれは神を宿したものだ……
 そして、今はおぞましいことに使われている……!」

 赤目達はどこからか捉えた、生きた動物を引きずってきて、その像の足元に放り込んでいる。
 動物たちは放り込まれると、一声大きな声をあげ静かになってしまう。
 数体繰り返すと御神像の腹が真っ赤に盛り上がってくる……

「まさか……あれが赤目の……」

「ああ……ああして動物を供物に、増やしているんだ」

 ズブリ、赤い腹がぐちゃりと地面に落ちると中からゴブリンが真っ赤な体液と一緒に吐き出された。

 同時にメリウスの額の宝石が鈍く光る。
 メリウスに、この地の過去の映像を見せてくる……

 大型の動物を放り込めば、ホブゴブリン。
 小型の動物を放り込めば、ゴブリン。

 そして、獣人を放り込めば……ハイゴブリンが産み出される。
 実際には、その一部始終をメリウスへと示してきた。

「……メリウス様?」

 ギリっと噛み締めた奥歯の音にカインが気がつく。

「……言いたくないが、この場を放ってはおけない……
 非道には……非道だ……」

 メリウスは一旦広場から通路へと戻るよう促す。
 通路へ戻ると説明を始める。

「プリテは風の魔石で広間へと風を静かに送ってくれ。
 この草を燃やしてその煙を広間に送り込む」

 メリウスは荷からひとつかみの草と火種草を出す。

「この草は煎じて塗れば痛み止めになるが、いぶした煙はたくさん吸うと身体が動かなくなる」

 手早く木を組み魔石で火種に火をつけて火を起こす。

「皆は吸い込まないように気を付けて、たぶん、あのでかいやつには効かない。
 でもゴブリンとホブゴブリンの動きは封じられる。その隙にでかい奴らを倒すぞ」

「分かりました」

「プリテ、風を、静かにだぞ気が付かれないように」

「俺が補助する。お前は細かい調整が苦手だもんな」

「ありがとうおにーちゃん」

 魔石にカインとプリテが手を当てるとほのかな風が通路から広間へと流れ始める。
 シャロンは静音の加護をしっかりと維持してくれている。

「やるぞ」

 薪に草を放り込みしばらくすると白い煙がもうもうと上がって、ゆったりと広間へと入り込んでいく。
 すでに白い煙が蔓延している中に、メリウスの罠が混じり合っていく……

「でかい奴らが異常に気がついたら、あの奥の水の滴っている場所を矢で撃ち抜く。
 大量の水が吹き出れば煙は水に吸い込まれる」

「そして、でかい奴らを倒して、麻痺してる奴らにとどめを刺せば、俺達の勝ちですね」

「ああ、時間の勝負になる。皆、気合を入れろ……」

 惨劇を見せられたメリウスの瞳には怒りの炎が揺れている。
 憤怒による前後を失うようなことはしない。
 これ以上、人々や動物に惨たらしい死を与えないために、この洞窟を開放する。
 決意の怒りだった。

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