チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記
第五十二話 増殖
「暗いですね……」
ゴブリンキングの洞窟と異なり、洞窟内に人工的な明かりは少ない。
谷側に幾つかの穴が空いており、そこから外部の光が差し込むだけの薄暗い洞窟になっていた。
「これは流石に明かりを設置しながら行こう。
敵に感づかれるが、この構造なら背後さえ気をつければ正面だけの対処で済む」
洞窟の構造は基本的に一本道で、谷川の採光兼空気孔が横に伸びている。
緩やかな上り道になっており、死角なども見当たらない。
3人が横並びになれば一杯な幅で高さは3mほど。
戦闘時に乱戦になる可能性は少なそうだった。
「しかし、戦闘も自由にはできんな……」
「メリウスが前に立ったら弓は無理。でも前に出たら狭い」
「プリテ、シャロンは背後を警戒してもらって、俺、カイン、フー大老の3人で敵を排除しますか。
疲れたら交代で」
「それがよかろう」
「了解いたしました」
メリウス達の予想とは裏腹に、敵との遭遇はなく、段々と道幅が広がり、道が上りから平坦、下り始めていく。
「敵の気配が……ないですね……」
「変じゃのう……隠すことなく火を炊いて来とるし、感づかれてもおかしくないんじゃが……」
「! メリウス、この先から多数の呼吸音……」
プリテの一言で全員に緊張が走る。
「まずいな……待ち伏せか……」
「うーん……、呼吸音が大きすぎて気配を消そうっていう意思がない」
「メリウス様、様子を見てきます」
「待つのじゃ、儂が行く」
そう言ってフー大老が立ち上がる。壁際で気配を抑えると、そこに確かにフー大老が居るはずなのに、まるで存在感が薄くなったように感じてしまう程に見事に気配を遮断する。
「年寄りの芸みたいなもんじゃ」
足音もなくするりと暗闇の道に溶け込んでいく。
その見事な隠形に全員見とれてしまった。
「凄いな……あれは真似出来ない……」
「おにーちゃんも私も、狩りの時は気配消すの自信があったけど……別次元……」
「ふむ……ちと説明しづらい様子じゃった……」
いつの間にか周囲の気配を探っていたメリウス達の輪の中にフーが戻ってきていた。
警戒していた状態での不意打ちに思わず大きな声をぐっと我慢するハメになる。
「驚かさないでくださいフー大老……」
「すまんすまん。奥は広い空間になっておって、巨大な虎の像があった。
周囲に赤い目をした動物たちがおったのじゃが、多分アレが奴らの出産なんじゃろうな……
まぁ見てもらえればわかる。周囲の動物たちもまともな状態じゃない……」
その言葉通りその先の部屋の様子は異様と言ってよかった。
大きなドーム状の部屋の中央に、天に向かって大口を開けた虎の像。
その口へと向かって続く道に煌々と赤く目を光らせた動物が列をなしている。
虎の口へと天井から液体が注ぎ込まれるたびに動物が一体、口へと飛び込んでいく。
虎の像は動物を飲み込むとグチョグチョと気味の悪い音を立てて小さく振動する。
その振動が収まると、下腹部が膨らみ、数個の珠が排出される。
その珠が割れると、中から既に生体の赤目の動物が這いずりだしてくる。
「……ふむ、天井には獲物が積み重ねられているのじゃな、おぞましいことじゃ……」
フー大老が苦虫を噛み潰したような目で天井を見つめている。
よく見ればたくさんの屍が重なって、謎の液体の中で消化され、液状になり、それが像へと注ぎ込まれていることがわかる。
シャロンは少し気分が悪くなって口を手で抑えて我慢している。
列をなしている動物たちはまるでトランス状態かのように一様に無表情で目だけが爛々と輝いている。
異常。
その一言が空間を支配していた。
「こんな場所、壊してしまいましょう……」
「そうだな」
外で得た獲物の血肉を利用して赤目達はその数を増やしているようだ。
その媒体となっているのがあの巨大な石像、たぶんそれがこの国の御神像なのだろうとメリウスは感じていた。
いつまでもこの凶行を続けさせる訳にはいかない。
寅の国を開放するためにもこの場所は破壊しなければならない。
「行くぞ!」
気合とともにその空間に飛び出す。
メリウス達の侵入にも関わらず、動物たちは列を崩すこともなく異様な雰囲気のままだ。
「あの像を破壊する!」
メリウスは周りの赤目たちには目もくれずに像へと向かって駆けている。
武器は大斧、それに闘気を纏い、身体能力は魔力によって向上させている。
「うおおおおりゃああああああ!!」
力いっぱいに振りかぶり、全力を持って振り下ろす。
真っ白な斧が薄明かりの空間に残像を残し像へと吸い込まれていく、しかし、その刃は像へと届かない。
ギィン!!
大音量が洞窟に響き渡る。
禍々しいオーラが石像とメリウスの振るった斧との間に壁を作り出していた。
その凄まじい衝撃に洞窟自体が振動したように感じる。
「このぉおおおおお!!」
弾かれた斧の勢いをそのままに再度斬りつける。
今度は明確にオーラが形をなしてメリウスの斧を受け止める。
ギャン!
先程のように受け止めるのではなく受け流す。
意思のようなものを感じてメリウスは一旦距離を開ける。
同時に石像からズクンと波動のようなものが洞窟に広がる。
「な、なんだ!?」
「赤目たちが!」
カインの言葉に頭上を見上げると、大量の赤目たちが次々と石像の口の中に狂乱したように飛び込んでいく、そしてそこにジャバジャバと頭上の液体が注ぎ込まれていく。
「まずい、気をつけろ!」
大量の『素材』を飲み込んだ石像は、異常なほど震えていく。
メリウスの斧を受け止めたオーラもその口から石像の内部へと吸い込まれていく。
「なにか、出る……」
虎の下腹部がはち切れんばかりに肥大し、そして巨大な珠がゴロリと広場の中央に転がり落ちたのだった。
ゴブリンキングの洞窟と異なり、洞窟内に人工的な明かりは少ない。
谷側に幾つかの穴が空いており、そこから外部の光が差し込むだけの薄暗い洞窟になっていた。
「これは流石に明かりを設置しながら行こう。
敵に感づかれるが、この構造なら背後さえ気をつければ正面だけの対処で済む」
洞窟の構造は基本的に一本道で、谷川の採光兼空気孔が横に伸びている。
緩やかな上り道になっており、死角なども見当たらない。
3人が横並びになれば一杯な幅で高さは3mほど。
戦闘時に乱戦になる可能性は少なそうだった。
「しかし、戦闘も自由にはできんな……」
「メリウスが前に立ったら弓は無理。でも前に出たら狭い」
「プリテ、シャロンは背後を警戒してもらって、俺、カイン、フー大老の3人で敵を排除しますか。
疲れたら交代で」
「それがよかろう」
「了解いたしました」
メリウス達の予想とは裏腹に、敵との遭遇はなく、段々と道幅が広がり、道が上りから平坦、下り始めていく。
「敵の気配が……ないですね……」
「変じゃのう……隠すことなく火を炊いて来とるし、感づかれてもおかしくないんじゃが……」
「! メリウス、この先から多数の呼吸音……」
プリテの一言で全員に緊張が走る。
「まずいな……待ち伏せか……」
「うーん……、呼吸音が大きすぎて気配を消そうっていう意思がない」
「メリウス様、様子を見てきます」
「待つのじゃ、儂が行く」
そう言ってフー大老が立ち上がる。壁際で気配を抑えると、そこに確かにフー大老が居るはずなのに、まるで存在感が薄くなったように感じてしまう程に見事に気配を遮断する。
「年寄りの芸みたいなもんじゃ」
足音もなくするりと暗闇の道に溶け込んでいく。
その見事な隠形に全員見とれてしまった。
「凄いな……あれは真似出来ない……」
「おにーちゃんも私も、狩りの時は気配消すの自信があったけど……別次元……」
「ふむ……ちと説明しづらい様子じゃった……」
いつの間にか周囲の気配を探っていたメリウス達の輪の中にフーが戻ってきていた。
警戒していた状態での不意打ちに思わず大きな声をぐっと我慢するハメになる。
「驚かさないでくださいフー大老……」
「すまんすまん。奥は広い空間になっておって、巨大な虎の像があった。
周囲に赤い目をした動物たちがおったのじゃが、多分アレが奴らの出産なんじゃろうな……
まぁ見てもらえればわかる。周囲の動物たちもまともな状態じゃない……」
その言葉通りその先の部屋の様子は異様と言ってよかった。
大きなドーム状の部屋の中央に、天に向かって大口を開けた虎の像。
その口へと向かって続く道に煌々と赤く目を光らせた動物が列をなしている。
虎の口へと天井から液体が注ぎ込まれるたびに動物が一体、口へと飛び込んでいく。
虎の像は動物を飲み込むとグチョグチョと気味の悪い音を立てて小さく振動する。
その振動が収まると、下腹部が膨らみ、数個の珠が排出される。
その珠が割れると、中から既に生体の赤目の動物が這いずりだしてくる。
「……ふむ、天井には獲物が積み重ねられているのじゃな、おぞましいことじゃ……」
フー大老が苦虫を噛み潰したような目で天井を見つめている。
よく見ればたくさんの屍が重なって、謎の液体の中で消化され、液状になり、それが像へと注ぎ込まれていることがわかる。
シャロンは少し気分が悪くなって口を手で抑えて我慢している。
列をなしている動物たちはまるでトランス状態かのように一様に無表情で目だけが爛々と輝いている。
異常。
その一言が空間を支配していた。
「こんな場所、壊してしまいましょう……」
「そうだな」
外で得た獲物の血肉を利用して赤目達はその数を増やしているようだ。
その媒体となっているのがあの巨大な石像、たぶんそれがこの国の御神像なのだろうとメリウスは感じていた。
いつまでもこの凶行を続けさせる訳にはいかない。
寅の国を開放するためにもこの場所は破壊しなければならない。
「行くぞ!」
気合とともにその空間に飛び出す。
メリウス達の侵入にも関わらず、動物たちは列を崩すこともなく異様な雰囲気のままだ。
「あの像を破壊する!」
メリウスは周りの赤目たちには目もくれずに像へと向かって駆けている。
武器は大斧、それに闘気を纏い、身体能力は魔力によって向上させている。
「うおおおおりゃああああああ!!」
力いっぱいに振りかぶり、全力を持って振り下ろす。
真っ白な斧が薄明かりの空間に残像を残し像へと吸い込まれていく、しかし、その刃は像へと届かない。
ギィン!!
大音量が洞窟に響き渡る。
禍々しいオーラが石像とメリウスの振るった斧との間に壁を作り出していた。
その凄まじい衝撃に洞窟自体が振動したように感じる。
「このぉおおおおお!!」
弾かれた斧の勢いをそのままに再度斬りつける。
今度は明確にオーラが形をなしてメリウスの斧を受け止める。
ギャン!
先程のように受け止めるのではなく受け流す。
意思のようなものを感じてメリウスは一旦距離を開ける。
同時に石像からズクンと波動のようなものが洞窟に広がる。
「な、なんだ!?」
「赤目たちが!」
カインの言葉に頭上を見上げると、大量の赤目たちが次々と石像の口の中に狂乱したように飛び込んでいく、そしてそこにジャバジャバと頭上の液体が注ぎ込まれていく。
「まずい、気をつけろ!」
大量の『素材』を飲み込んだ石像は、異常なほど震えていく。
メリウスの斧を受け止めたオーラもその口から石像の内部へと吸い込まれていく。
「なにか、出る……」
虎の下腹部がはち切れんばかりに肥大し、そして巨大な珠がゴロリと広場の中央に転がり落ちたのだった。
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