チート仮面と世界を救え、元英雄の異世界サバイバル救国記

穴の空いた靴下

第五十九話 ラビテ村

 果てを横目に牛車で走る。
 草原では数体の赤目の襲撃を受けている。

「思ったより赤目の数が多くないんですね」

「採取の集団的襲撃がもしかしたら異常だったのかもしれないなぁ」

「そうじゃないと困りますよ、この大陸の人々が生き残れないんじゃないでしょうか?」

 シャロンの発言も最もだ。
 未だに草原に集落を疑うような建築物は見当たらない。
 もう既に……嫌な考えが一同に浮かんだ頃、変化が現れる。

「メリウス、誰かに見られてる。フー、上に来れる?」

「うむ、すぐにいく……なるほど、視線を感じるな……このまま真っ直ぐじゃな」

 全員が進行方向に目をやるが、変わった建築物はない。
 草原に、ところどころ丘がある。代わり映えのない風景だった。

「少し速度を落とそうかのカインや」

「はい、分かりました」

 牛車の速度が落ちて、静になると、周囲の小さな音まで聞こえてくる。
 一見すればのどかな草原風景。

「そこの者、出てまいれ、我らは敵ではない」

 フーがおもむろに話しかけた。プリテも弓から手を離し足元に置いて敵意がないことを示す。

「……誰?」

 草原から突如茶色い人影が現れる。
 二つの長い耳、全身を包むモコモコの毛並み。
 ウサギ型の獣人だ。

「儂はフー、こちらはプリテ。
 お主はこの地の住人か? ならば我らのリーダーメリウスと話をしてくれ。
 赤目達からお主たちを救うためにやってきたのじゃ」

 牛車の足を止めて、獣人の前に全員が姿を表す。

「はじめまして、メリウスと言います。
 赤目の魔物から各地を、まぁその救って旅をしている。
 よかったら君たちの村の力になりたい。村の人と話せないだろうか?」

「……ここに居て、村長に相談してくる」

 そう告げると獣人は地面に飛び込んで姿を消した。

「なるほどのぉ、地下に通路を作っておるのか……」

 よく見れば土の蓋で偽装されているトンネルへの入り口があった。

「可愛かったなぁあの子……」

「可愛いね」

 プリテとシャロンは獣人の見た目にメロメロだった。
 メリウスも、風呂に入れてみたい欲求に囚われていた。
 土で汚れて薄茶色の毛が、洗ったらホワホワになるだろうなぁ……と妄想を働かせていた。

 しばらくその場で待っていると先程の獣人が現れる。

「村長が会うそうだ。村はこの先の丘に囲まれた場所……その車は隠せる?」

 首を傾げる獣人は可愛さの爆弾だ。

「ああ、カインやるぞ」

 土の魔石を利用して人工的な丘を作ってその内部に牛車をしまえる空間を作る。

「それでは私はここで牛車を見てますね」

 シャロンが残ってくれる事になった。

 暫く進むと果ての側に小高い丘が連なっている場所がある。

「ここを超えれば村か……」

「いや、入り口はこっち」

 獣人が近くにある別の入口を指差す。
 人が二人通ったらキツキツになるようなトンネルをたくさんの分岐を経て歩いていくと、ようやく獣人達の村にたどり着く。

「なるほど、確かに丘を越えても村には簡単には入れんな……」

 内部はまるでくり抜いたように切り立った崖になっており、上からの侵入は骨が折れる。

「それでも空を飛ぶやつは入れてしまいそうですね」

「あいつらはある程度以上は高く飛べない……今のところはまだ見つかっていない」

 村の内部には草を組んで作った粗末なテントと言っていい家が十数軒建っていた。
 どうやら村人は皆そのテントの中にいるらしく、気配だけは感じる。
 村の内部の一部が果てにつながっているらしく、そこに人工的に作られた小川のような水路が流れ込んでいる。

「水が湧いているのか?」

「あれは皆で協力して外の川から地下を繋げた。
 排水は果てに流している。我々がここで生きてこられたのもあの水のお陰だ」

 村を横断して崖に開いた穴に草のカーテンを掛けられた場所まで連れてこられる。

「この先に村長がいらっしゃる。話をするがいい」

 進められ、草のカーテンをくぐると洞窟の内部はほのかに温かい。
 理由はすぐに分かる。
 こんな地表に近い場所なのに果てへと向かってマグマが流れ込んでいた。

「昔はここは火口だったのじゃろう。火の恵みを頂いて我らは細々と生きてきたのじゃ」

 奥に座る人物が口を開く。
 先程の住人よりも長毛のたれ耳の獣人。
 その左右には真っ白いモフモフとした獣人が座っている。

「客を招く日が来るとはな……どうぞお座りください」

 村長と思われる人物に進められ、メリウス、フー、カイン、プリテは草の敷かれた場に腰を下ろす。

「はじめまして、メリウスと申します。
 おこがましくも救国の旅をしているものです。
 共に旅をしてくれているフー、カイン、プリテ。それにもう一人シャロンという仲間が居ます」

「ふむ……皆さん、ヒトという奴ですかな?」

「私とプリテは元鼠。シャロンは丑、フーは寅の獣人でした」

「おお、それは怪異な……いやいや失礼。
 古きい伝えに他の国があるというのは知っていましたが、ヒトに成るというのは聞いたことがありませんでな」

「私自身も何かをしている気はないのですが、どうやら私と縁を結ぶと人化を成したり、不思議な加護を得られるようで……」

「メリウス様は悪意なく我々の村、そして各国を救ってくださいました。
 この国も赤い目をした魔物に荒らされているかと思います。
 我々の敵はその赤目たちです」

「ふむ、確かにこの村も土くれにまみれて隠れて生きておりましたが、赤い目をした魔物によって命を落としたものも少なくありません……しかし、我々には戦う力も、お役に立てる何かもありません……」

「構いませんよ、別に見返りを求めているわけではないので。
 とりあえず信用してもらおうと皆で食料を持ってきました」

 メリウス達は背負っていたカゴの中からたくさんの食料を村長の前に広げてみせる。
 村長は目を見開いて驚いていたが、左右にいた獣人はゴクリと唾液を飲み込む音を抑えられなかった。

「他の国は既に発展して、こういった食料を安定して作ることができています。
 それらの国と交易をしてもらって、少しでもこの村が豊かになってもらえれば、オレはそれでいいんです」

「メリウス殿は、なぜそのような旅を?」

「うーん。趣味、ですかね……?」

「趣味……ハーッハッハッハ! 趣味で人助けを!
 なるほどなるほど、いやいや、愉快な御方だ。
 この村を代表して、改めてメリウス殿の来訪を歓迎させて頂く。
 手先が器用なだけの我らでも、少しでも何かできるよう頑張らさせて頂く。
 アン、ドワ。村の皆に声をかけてこの御方は大丈夫だと伝えてくるのだ。
 この善意を村の皆で分け合おう」

 こうして卯の村ラビテに歓迎されるメリウス達。
 シャロンと牛車もギリギリトンネルを抜けて村へと入ることが出来た。






 

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