シスコン&ブラコンの天才兄妹は異世界でもその天賦の才を振るいます
五大国家武術大会(1)
──それから月日が経って…と言ってもほんの一週間なんだが、遂に大会当日の日を迎えていた。
宿に備え付けられた格子の隙間から覗くことのできる大通りでは稼ぎ時なのだろう、予選の会場である都市の中心部に位置する闘技場へ続く道には数多くの出店が建ち並んでいた。
他には騎士団によるパレードなども行われており、雰囲気としては古代ヨーロッパの催事時を彷彿とする騒ぎっぷりである。
更に外では、そんな祭りの雰囲気に感化された人々の喧騒が響き渡っている。
──そんな一方、俺達兄妹はというと…
「雫、早く起きてくれ!もう出場申し込みの時間まで残り僅かなんだよーーっ!」
「むにゃむにゃ…お兄ちゃんが一人…お兄ちゃんが二人…」
──只今絶賛、遅刻の危機に陥っていた。
ベットに横たわっている雫は足を曲げて膝を胸の前まで持ってきて丸まりながら、深い眠りへと旅立っているようだ。
ちなみに何故俺がこんなに焦っているかというと先程、教会の鳴らす鐘の音が俺の耳に入ってきたからだ。
この世界の人々は教会が三時間毎に鳴らす鐘の音を頼りに時間を確かめている。
その教会が九時を指す鐘の音が鳴ったばかりなので、出場申し込みの時間である十時までは後一時間もないのである。
「雫さ~ん、このままじゃエントリーしないまま不戦敗になっちゃうんですけど」
「…う~ん、お兄ちゃんの童貞、雫が貰った~…」
…駄目だこれ。全く起きる気配がない。
というか、どんな夢を見ているんだよ…夢の中の俺、頑張って逃げてくれ…!
試しに軽く雫の小さな体を揺すってみるが、微塵も起きる気配を感じない。
このまま雫を担いで運んでいくという手も考えたのだが、どうやら雫が今日の為に新装備を開発してくれていたらしい。
その装備の説明を受ける必要があるので、雫には何がなんでも起きて貰う必要があるのだ。
こうなったらあの禁じ手を解放するしかないようだな…!
この技は代償が激しい。
俺の精神に多大な傷を負わせる禁忌の技。
それを使うときが来たのというのか…!
俺は覚悟を決めるとベットに横たわる雫の傍までゆっくりと近づいていく。
ベットの上では雫が気持ち良さそうに寝息をたてている。
これは決して疚しい気持ちからの行動ではない!断じて違う!これは都合上仕方がない手段であって俺の趣味とかそういうのでは…。
誰にでも言い訳するわけでもなく、心の中で意味もなく弁論していた俺だったが、潔く決心を決めると雫の顔に自分の顔を近づける。
うわぁ…改めて近くで見ると、本当に綺麗な肌してるよな…。
雫の肌は決め細やかで、まるでシルクのような透き通るような美白色をしていた。
そんな陶器のような顔に自身の顔を近づけ、俺は──頬に軽く口付けをした。
「──ッ!この唇の感触、大きさ、感じる愛、お兄ちゃんの口付けっ!」
「うおっ!」
俺の唇が雫の頬に触れた瞬間、残像が見えたのでは、と疑ってしまうような速度で雫が勢い良く体を起こす。
お前は唇ソムリエか、と思ってしまうほど饒舌に俺の唇の感触に対する感想を述べる雫。
「あれ?今お兄ちゃんが雫に愛の口付けをしてくれたような気が…」
「キノセイジャナイデスカ」
運が良い事に雫はまだ少し寝惚けているようなので、先程の行動に関してはうやむやにしておこう。
「起きて早々悪いが、もう大会エントリーの締め切りの時間まで残り僅かだから、急いで外出の支度をしてくれ」
「了解…」
雫はベットの上から降りると、眠たげな目を擦りながら外出の準備を進めていく。
ちなみに、この世界には歯ブラシは存在しない。平民は水で口内を濯いだり、魔法が使用できる者は生活魔法の中に身体中の汚れを落とす魔法があるようなので、それを使って清潔さを保っているようだ。
勿論、その生活魔法を籠められた魔石も販売しているので、魔法が使えないものが汚れを落とす事も出来ないことはない。
ちなみに何故俺がこんなにこの世界の知識に詳しくなっているかというと、大会が開催されるまでの一週間の間に都市に一つだけ建てられている国立図書館に入り浸って知識を片っ端から頭に叩き込んだのだ。
雫は僅か3日間だけで図書館内全ての書物の内容を頭の中に叩き込み、記憶していた。
一方、身体能力が取り柄の俺がたった一週間で図書館内の全ての書物を読みきれるわけもなく、結局内容は全て叡羅に覚えて貰った。
本に書かれている内容を全てスマホで写真に撮って、叡羅の記録メモリに取り込んだのだ。
こういう膨大な情報量の記憶は人間なんかより、人工知能の方が優れている。
図書館の本を撮影するなんてモラルに反する?何を言っているのだね、キミ達。
何処にも撮影禁止なんて事項の表記は無かったのだ。よって何ら問題なし。開き直りでは決してない。
ちなみに、この時点で既に俺は異世界文字の読み書きを完璧になっていた。やっぱり机の上でひたすら勉強するより、実際に日常生活中で経験した方が身に付きやすいのだろうか。
それから数分が経つと、身支度を終えた雫が風呂場から出てきたので、遅刻しそうな俺達は急ぎ足で大会の会場に向かうのだった。
◇
エントリー締め切りの時間5分前に何とか俺達は会場である闘技場前に辿り着いていた。
「何とか間に合ったな…」
「余裕」
と、雫は供述しているが、体力の少ない雫が全力疾走で会場まで走り続けることが出来る筈もなく、当然のように俺の背中の上に騎乗していた。
俺達の服装は俺が黒の無印の服に小麦色のズボン、雫が淡い水色のワンピースを身に纏っている。
当初は元の世界から着続けていたTシャツで訪れようとしていたのだが、冒険者の依頼に向かう際も着続けていたことからほつれが目立つようになってしまったのだ。なので黒のTシャツは部屋着用として使用していくことにした。
雫の転移時に着ていた中学校の制服だが、あれは俺のTシャツ以上に人の目を集めるので、これも同様に部屋着として使用していくことにしたらしい。
不登校の雫は地球の自宅でも制服を部屋着として活用していたので、ある意味今まで通りと言えるかな。
女性の買い物は長いとよく聞くが、雫の服選びは時間にして僅か数十秒足らずで終わった。見た目より機能性を重視する雫は着るのが楽という事でワンピースを選んだらしい。そのワンピースも店頭の一番近くに置いてあるヤツを適当に選んで購入したので、俺も長く待つ事のなく買い物を終えられた。
俺達からしてみれば、ファッション?なにそれ、美味しいの?といったところだ。
ちなみに地球での俺達の買い物は、わざわざ人混みの溢れるような店に行くわけもなく、某ネットショッピングサイトの密林さんに依存していた。
あぁ、外出しないって最高…!
ただし、適当に見繕ったと言っても雫は何を着ても似合うのでノープロブレムだ。
なんといってもワンピースの淡い水色が雫の端正な顔立ちにとてもマッチングし、身体のラインが目立つワンピースが逆に雫のスリムな体型をより際立たせている。更に雫のワンピースから伸びる細く美しい脚が…(以下略)
俺が脳内で雫の姿を興奮冷めやらぬ勢いで褒め上げていると、エントリー締め切り時間の事を思い出す。
危ない危ない…雫の可愛さを語っていたら日が暮れてしまうところだった。
闘技場の周りには明らかに出場者ではないような一般市民らしき人達でごった返していた。
恐らく、大会に出場する人達はもう既に闘技場内で控えているのだろう。
「えーと、出場エントリーの受付は…」
「あっ!二人ともこっちだ、こっ──ぶふっ!あっちょ、せ、狭い…!」
時間もないのでエントリー受付の場所を探していると、遠くでメーヤが大きく手を振りながら俺達の事を呼んでいた──が、身長が低いため、人混みに流されていっていた。
はぁ…何やってんだか。
慌てて俺達は人の波に流されているメーヤの姿を追いかけ、その小さな腕を引っ張り人混みの中から救出する。
「──ふぅ…た、助かったぞ」
「待っていてくれたのか?」
「ん?まぁな、推薦したのは私だからな。それなりの責任はあるさ」
胸を張りながら豪語するメーヤ。
「何気に気遣い出来るよな、お前。良い嫁さんに成りそうだよ」
「ふ、ふぇ!?よ、嫁って…!ま、まだ気が早いというか何というか…」
俺が少し褒めるとメーヤは顔から首元まで真っ赤にして、恥ずかしげに俯く。
「でも待っていたのなら、もっと人気の少ないところで待っていればいいものを…」
「ひ、人気の少ないところ!?そ、そんな所に連れ込んで何を…!」
「いや、なにもしねぇよ?」
何やら大きな勘違いをしているようなので、素早く誤解を解いておく。
するとメーヤは、「な、何もしないのか…?」と何故か少し残念そうな表情をしていた。
女心は解らぬ。
『それを意図的に言っていないのが、ご主人様の恐ろしいところですね…』
叡羅が悩ましげな言葉を漏らす。
えっ、何?マジで誰か解答を教えてくれない?──後、雫さん?俺の髪の毛を強く引っ張るのは止めてくれません?痛いです。
受付に出場登録に向かおうとしたところ、メーヤが既に俺達の登録をギルマス権限で終わらせているとの事だった。
…急いだ意味無くない?
その後、メーヤの案内で出場選手である俺は闘技場内の選手控え室へ向かっていた──のだが俺は現在、耐え難い地獄に面していた。
──男クサァァァァァイッ!!
いや、汗臭っ!この部屋男しか居ないから、男の体から溢れでる体臭の臭さが俺の鼻に多大なダメージを負わせてい…グハッ!
大会が開始するまでに数時間の間があるようなので、大会に出場するような選手は選手控え室という場所に一旦集められていたのだが、そこに大きな問題があった。
どうやら男性と女性で控え室が別々になっているようで、今現在俺の居る部屋には純度百パーセントの男臭が充満していた。
更に大会の為に事前に準備運動をしてきたのか、より汗臭さが際立っている。
も、もう駄目だ…この部屋から脱出しなければ…このホモホモ部屋から、何とか…逃げ延びないと。癒しや…癒しが欲しい。
命からがら男まみれの控え室から脱出した俺はドアの前で大きく深呼吸をする。
外の空気うめぇぇぇ…!
肺に溜まっている不快な空気を全て吐き出して新鮮な空気と入れ換える。
何が悲しくてあんなホモホモ臭漂う空間で何時間も待機しなくてはいけないんだ。
もう一度あの空間に戻りたくない俺はメーヤと雫の居る場所へと向かった。
何故メーヤと雫が同じ部屋に居るかというと、国を挙げた祭りの会場に遅刻ギリギリに到着した俺達が座れるような観客席に空きがある筈もなく、困り果てていたところにメーヤが自身の部屋に招待したのだ。それに雫が会場の熱気に当てられて気分悪そうだったしな。引きこもり兼コミュ症の弱点である。
メーヤは仮にもギルマスという大物なので、個人の専用部屋が与えられており、室内はそこそこの広さがあった。
ドアを勢いよく開けた俺は真っ先に視界に捉えた雫の姿を目掛けて走り出す。
「雫ぅぅぅっ!会いたかったよぉ…」
「雫も会いたかった!」
「何やってるんだお前達は…」
ガシッ、と再会の熱いハグをする俺達兄妹に対し、冷ややかな視線をしながら苦言を漏らすメーヤ。
仕方がないだろう。あんな男まみれの部屋から逆転、少女しか居ない部屋に転がり込んだのだ。感動で涙を流すのも無理はない。
この風景を見て幼女趣味と罵る奴が居たのなら、ソイツに言ってやりたい。
そんなこと言うのなら、お前があの控え室で我慢できるのかっ!
心の中に溜まった文句を全て吐き出した俺は大会が開催されるまでの時間をこの部屋で過ごすことにした。
◇
一時間ほど経ったところで何やら、闘技場の上の階に造られた一際目立つ観覧席に三人の人物が現れた。
一人目は黄金に煌めく装飾が施された服に身を包んだ、如何にも上流階級らしき髭面の男性。
二人目はその男性の隣に寄り添う、これまた白銀色に煌めくドレスに身を包んだ銀髪の女性。
そして三人目は、二人と異なり幼さを顔に残しながらも人を惹き付けるような美貌、更に夜空に舞い降る雪のように美しい銀髪を持ち合わせた女性──いや、女の子だった。
腰にまで届きそうな長く日の光りを反射し輝く銀髪、澄んだ碧眼、まさに王女の印象を体現するような容姿。そして美しさという言葉の体現者にも。顔も四肢も、全てが織り重なって完璧を創りだす。
そんな3人が現れると熱気だっていた観客たちが即座にその口を閉じ、辺りが一瞬で沈黙に包まれる。
「なぁ、メーヤ。あの三人誰?」
「…この国の国王陛下であるオリバー・ファトリムス陛下とその王妃であるロベリア様、それとお二方の娘であるクリスティーナ王女様だ」
へぇ…あの人がこの国の国王ね。
何でも大会か始める前にこの国の国王から開会式の開幕宣言があるそうだ。
国王や王妃、王女の両端には護衛なのだろう。甲冑に身を包んだ騎士団の隊員らしき男性が二人、周囲に気を配っていた。
あれ?あの片方の男性ってもしかして、ドランさんじゃね?
「メーヤ、あの三人の護衛している人物の名前って分かる?」
「ん?あぁ、勿論知っているさ。右隣に居るのが近衛騎士団長を務めているドラン・アルタリオス。で、左隣のが副団長のタレス・ヤディラだったかな」
えぇ…マジですか…!普通に接していた人物がまさかのこの国の騎士団でした。いや、何で門番なんてやってんだよ。
そんな多少の驚きもありながらも開会式は順調に進んでいき、式の最後を締める国王の演説が始まった。
「では最後に、オリバー・ファトリムス陛下から皆様に御言葉を」
暫く経つと、司会進行を務める男性が締めを括るプログラムを告げる言葉が会場に響き渡る。
何故此処まで声が届くというと、風属性魔法の中に音響を遠く、大きく響かせる魔法が存在しているらしい。その拡張魔法を保存した魔導具を使用することであれほどの音量を可能にしているようだ。
異世界版スピーカーのような物か。
「ごほんっ、民の皆たちよ。今日、この日が無事に迎えられた事を私は嬉しく思う。この大会は800年前、魔王を討伐した勇者様に感謝を捧げるためのもの。皆も己の武勇を世界中へと轟かせることを私は大いに期待している。そして、今回こそは前回の屈辱を果たすべく、我がフォルネイヤ王国が勝利を掴み取ってみせるぞォォォッ!」
「「「「うおおおおおおっ!国王陛下、ばんざーーーいっ!!」」」」
演説の最後に国王が民を鼓舞する言葉を口にすると、観客たちが皆、一斉に会場に包み込むような歓声を上げ始める。
「…凄い熱気だな」
「まぁ、この国は国王に対する民からの信頼が厚いからな。毎回演説の際はこんなものだよ」
この国、体育会系すぎんか?
隣では興味が無いのか雫がソファに横になって寝息を立てていた。
こっちはこっちでマイペース過ぎるなぁ。
ちなみに先程国王が演説の最中にも言っていたように、この大会の起源は今から800年前に勇者が魔王を討伐したことを祝う為に興された催事である。
俺達が目を通した国立図書館にも勇者に関する文献や書物は数多く置かれており、中には子供向けに描かれた絵本も出版されているほどの人気っぷりだった。
文献や書物を読み進めていくごとに分かった事だが、どうやら勇者は異世界人──つまりは、この世界の人間ではなく何処か別の世界から召喚された転移者だったみたいだ。
自分の黒歴史が800年後も残ってるなんて俺だったら悶え死にたくなるわぁ…。
そんな事を考えていると何時の間にか国王の演説が終わっており、それと同時に開会式も終わりを告げていた。
どうやら大会はトーナメント形式で行われていくようで、自身の対戦相手は直前の放送まで判らないようになっている。
何でも対戦相手に対して試合前に毒を盛る等の違反行為を防ぐ為の処置らしい。
今大会の出場者は総勢18名程しかエントリーしていないようだ。
何でも今大会には、この国の中心核ともいえる集団である、王政騎士団長を務めているエレナ・フォートレスが出場しているらしい。
俺からしてみれば、誰それ?という感想だが、この国の人々の反応は違った。
多くの出場を考えていた、荒れ狂れ者達である冒険者も皆一斉に出場を辞退したらしい。
フォルネイヤ王国の建国時代から王家に仕え、支えてきた忠臣である『王国三大騎士』の一角を担い、その功績から初代国王から公爵の爵位を授かったと云われているフォートレス家の元当主の娘であり、フォートレス家の跡継ぎである女性らしい。
その強さは父親であるフォートレス卿をも凌ぐと呼び声高い程の実力を秘めており、剣術と魔法の両方に秀でているという。
魔法と剣術、二つにも利点と欠点は存在してる。
魔法は遠距離と補助に優れ、属性の多さから攻撃や防御等の戦術にも多彩さがでる。しかしながら接近戦に於いては滅法弱い。
距離が短ければいくら魔法詠唱が速くても、強化魔法を纏った剣士には即座に間合いを詰められる。
逆に剣士は接近戦では強いが遠距離からの攻撃に対し弱く、魔法によって遠距離から攻撃されると容易に倒されてしまう。
ちなみに剣士といっても、全く魔法を使用しないわけではない。流石に生身で魔法に対抗することは出来ない。
なので多くの剣士が身体強化魔法を使用する。というか、それしか使えないのだ。
魔法の才が無いものの多くが魔力操作能力の低さにある。要は不器用なのだ。
火属性魔法や水属性魔法は自身の魔力を自然エネルギーに変換するために複雑な魔法式を立てなければいけない。
それに対して身体強化系統の魔法は、自身の魔力を自身の力に変換するだけで済んでいる。それゆえ、簡易的な魔法式で発動が可能なのだ。
それに魔法を会得するには座学である知識の蓄積と実践の双方が必要となる。
まぁ要するに、勉強なんてやってられるかぁぁっ!という脳筋の行く末が剣士である。
故に冒険者や騎士団などは一つの隊やパーティーに剣士と魔法士の両方を入れるのが基本的な常識となっている。
──だが、魔法剣士は違う。
たった一人でその両方が補えるので、魔法剣士は基本的にパーティーを組む事が少ない。
この説明だけを聞くと、とても高性能な優れた職業に感じる事だろう。だがそれは、大きな勘違いだ。
その両極端の二つを極めるとなると、それは人の一生ではどうする事も出来ない過酷な修練を熟さなくてはならないのだ。
どちらも最強の力を手に入れようとすると、どうしてもそれに見合うだけの努力と才能が必要となるからだ。
だから魔法剣士の職に就く人間の殆どが、魔法と剣術の両方の才に恵まれなかった者である。
ある意味では一番最弱で、しかし極めれば最強に成り得る職業である。
そして今現在、その最強の権現となっているのが、先程説明したエレナ・フォートレスという女性らしい。
その強さは本物で、冒険者ランクで例えるのならSSランクに匹敵する程らしい。
つまりはメーヤと同等の実力という事になる。まさに一騎当千という訳だ。
その話を聞き、俺の身体は怯える事もなく、むしろ強者との戦い飢えている魂が熱く燃えたぎっていた。
──正直なところ、今回の大会は叡羅の調整程度にしか考えていなかったが、少しは退屈凌ぎになりそうじゃないか…!
宿に備え付けられた格子の隙間から覗くことのできる大通りでは稼ぎ時なのだろう、予選の会場である都市の中心部に位置する闘技場へ続く道には数多くの出店が建ち並んでいた。
他には騎士団によるパレードなども行われており、雰囲気としては古代ヨーロッパの催事時を彷彿とする騒ぎっぷりである。
更に外では、そんな祭りの雰囲気に感化された人々の喧騒が響き渡っている。
──そんな一方、俺達兄妹はというと…
「雫、早く起きてくれ!もう出場申し込みの時間まで残り僅かなんだよーーっ!」
「むにゃむにゃ…お兄ちゃんが一人…お兄ちゃんが二人…」
──只今絶賛、遅刻の危機に陥っていた。
ベットに横たわっている雫は足を曲げて膝を胸の前まで持ってきて丸まりながら、深い眠りへと旅立っているようだ。
ちなみに何故俺がこんなに焦っているかというと先程、教会の鳴らす鐘の音が俺の耳に入ってきたからだ。
この世界の人々は教会が三時間毎に鳴らす鐘の音を頼りに時間を確かめている。
その教会が九時を指す鐘の音が鳴ったばかりなので、出場申し込みの時間である十時までは後一時間もないのである。
「雫さ~ん、このままじゃエントリーしないまま不戦敗になっちゃうんですけど」
「…う~ん、お兄ちゃんの童貞、雫が貰った~…」
…駄目だこれ。全く起きる気配がない。
というか、どんな夢を見ているんだよ…夢の中の俺、頑張って逃げてくれ…!
試しに軽く雫の小さな体を揺すってみるが、微塵も起きる気配を感じない。
このまま雫を担いで運んでいくという手も考えたのだが、どうやら雫が今日の為に新装備を開発してくれていたらしい。
その装備の説明を受ける必要があるので、雫には何がなんでも起きて貰う必要があるのだ。
こうなったらあの禁じ手を解放するしかないようだな…!
この技は代償が激しい。
俺の精神に多大な傷を負わせる禁忌の技。
それを使うときが来たのというのか…!
俺は覚悟を決めるとベットに横たわる雫の傍までゆっくりと近づいていく。
ベットの上では雫が気持ち良さそうに寝息をたてている。
これは決して疚しい気持ちからの行動ではない!断じて違う!これは都合上仕方がない手段であって俺の趣味とかそういうのでは…。
誰にでも言い訳するわけでもなく、心の中で意味もなく弁論していた俺だったが、潔く決心を決めると雫の顔に自分の顔を近づける。
うわぁ…改めて近くで見ると、本当に綺麗な肌してるよな…。
雫の肌は決め細やかで、まるでシルクのような透き通るような美白色をしていた。
そんな陶器のような顔に自身の顔を近づけ、俺は──頬に軽く口付けをした。
「──ッ!この唇の感触、大きさ、感じる愛、お兄ちゃんの口付けっ!」
「うおっ!」
俺の唇が雫の頬に触れた瞬間、残像が見えたのでは、と疑ってしまうような速度で雫が勢い良く体を起こす。
お前は唇ソムリエか、と思ってしまうほど饒舌に俺の唇の感触に対する感想を述べる雫。
「あれ?今お兄ちゃんが雫に愛の口付けをしてくれたような気が…」
「キノセイジャナイデスカ」
運が良い事に雫はまだ少し寝惚けているようなので、先程の行動に関してはうやむやにしておこう。
「起きて早々悪いが、もう大会エントリーの締め切りの時間まで残り僅かだから、急いで外出の支度をしてくれ」
「了解…」
雫はベットの上から降りると、眠たげな目を擦りながら外出の準備を進めていく。
ちなみに、この世界には歯ブラシは存在しない。平民は水で口内を濯いだり、魔法が使用できる者は生活魔法の中に身体中の汚れを落とす魔法があるようなので、それを使って清潔さを保っているようだ。
勿論、その生活魔法を籠められた魔石も販売しているので、魔法が使えないものが汚れを落とす事も出来ないことはない。
ちなみに何故俺がこんなにこの世界の知識に詳しくなっているかというと、大会が開催されるまでの一週間の間に都市に一つだけ建てられている国立図書館に入り浸って知識を片っ端から頭に叩き込んだのだ。
雫は僅か3日間だけで図書館内全ての書物の内容を頭の中に叩き込み、記憶していた。
一方、身体能力が取り柄の俺がたった一週間で図書館内の全ての書物を読みきれるわけもなく、結局内容は全て叡羅に覚えて貰った。
本に書かれている内容を全てスマホで写真に撮って、叡羅の記録メモリに取り込んだのだ。
こういう膨大な情報量の記憶は人間なんかより、人工知能の方が優れている。
図書館の本を撮影するなんてモラルに反する?何を言っているのだね、キミ達。
何処にも撮影禁止なんて事項の表記は無かったのだ。よって何ら問題なし。開き直りでは決してない。
ちなみに、この時点で既に俺は異世界文字の読み書きを完璧になっていた。やっぱり机の上でひたすら勉強するより、実際に日常生活中で経験した方が身に付きやすいのだろうか。
それから数分が経つと、身支度を終えた雫が風呂場から出てきたので、遅刻しそうな俺達は急ぎ足で大会の会場に向かうのだった。
◇
エントリー締め切りの時間5分前に何とか俺達は会場である闘技場前に辿り着いていた。
「何とか間に合ったな…」
「余裕」
と、雫は供述しているが、体力の少ない雫が全力疾走で会場まで走り続けることが出来る筈もなく、当然のように俺の背中の上に騎乗していた。
俺達の服装は俺が黒の無印の服に小麦色のズボン、雫が淡い水色のワンピースを身に纏っている。
当初は元の世界から着続けていたTシャツで訪れようとしていたのだが、冒険者の依頼に向かう際も着続けていたことからほつれが目立つようになってしまったのだ。なので黒のTシャツは部屋着用として使用していくことにした。
雫の転移時に着ていた中学校の制服だが、あれは俺のTシャツ以上に人の目を集めるので、これも同様に部屋着として使用していくことにしたらしい。
不登校の雫は地球の自宅でも制服を部屋着として活用していたので、ある意味今まで通りと言えるかな。
女性の買い物は長いとよく聞くが、雫の服選びは時間にして僅か数十秒足らずで終わった。見た目より機能性を重視する雫は着るのが楽という事でワンピースを選んだらしい。そのワンピースも店頭の一番近くに置いてあるヤツを適当に選んで購入したので、俺も長く待つ事のなく買い物を終えられた。
俺達からしてみれば、ファッション?なにそれ、美味しいの?といったところだ。
ちなみに地球での俺達の買い物は、わざわざ人混みの溢れるような店に行くわけもなく、某ネットショッピングサイトの密林さんに依存していた。
あぁ、外出しないって最高…!
ただし、適当に見繕ったと言っても雫は何を着ても似合うのでノープロブレムだ。
なんといってもワンピースの淡い水色が雫の端正な顔立ちにとてもマッチングし、身体のラインが目立つワンピースが逆に雫のスリムな体型をより際立たせている。更に雫のワンピースから伸びる細く美しい脚が…(以下略)
俺が脳内で雫の姿を興奮冷めやらぬ勢いで褒め上げていると、エントリー締め切り時間の事を思い出す。
危ない危ない…雫の可愛さを語っていたら日が暮れてしまうところだった。
闘技場の周りには明らかに出場者ではないような一般市民らしき人達でごった返していた。
恐らく、大会に出場する人達はもう既に闘技場内で控えているのだろう。
「えーと、出場エントリーの受付は…」
「あっ!二人ともこっちだ、こっ──ぶふっ!あっちょ、せ、狭い…!」
時間もないのでエントリー受付の場所を探していると、遠くでメーヤが大きく手を振りながら俺達の事を呼んでいた──が、身長が低いため、人混みに流されていっていた。
はぁ…何やってんだか。
慌てて俺達は人の波に流されているメーヤの姿を追いかけ、その小さな腕を引っ張り人混みの中から救出する。
「──ふぅ…た、助かったぞ」
「待っていてくれたのか?」
「ん?まぁな、推薦したのは私だからな。それなりの責任はあるさ」
胸を張りながら豪語するメーヤ。
「何気に気遣い出来るよな、お前。良い嫁さんに成りそうだよ」
「ふ、ふぇ!?よ、嫁って…!ま、まだ気が早いというか何というか…」
俺が少し褒めるとメーヤは顔から首元まで真っ赤にして、恥ずかしげに俯く。
「でも待っていたのなら、もっと人気の少ないところで待っていればいいものを…」
「ひ、人気の少ないところ!?そ、そんな所に連れ込んで何を…!」
「いや、なにもしねぇよ?」
何やら大きな勘違いをしているようなので、素早く誤解を解いておく。
するとメーヤは、「な、何もしないのか…?」と何故か少し残念そうな表情をしていた。
女心は解らぬ。
『それを意図的に言っていないのが、ご主人様の恐ろしいところですね…』
叡羅が悩ましげな言葉を漏らす。
えっ、何?マジで誰か解答を教えてくれない?──後、雫さん?俺の髪の毛を強く引っ張るのは止めてくれません?痛いです。
受付に出場登録に向かおうとしたところ、メーヤが既に俺達の登録をギルマス権限で終わらせているとの事だった。
…急いだ意味無くない?
その後、メーヤの案内で出場選手である俺は闘技場内の選手控え室へ向かっていた──のだが俺は現在、耐え難い地獄に面していた。
──男クサァァァァァイッ!!
いや、汗臭っ!この部屋男しか居ないから、男の体から溢れでる体臭の臭さが俺の鼻に多大なダメージを負わせてい…グハッ!
大会が開始するまでに数時間の間があるようなので、大会に出場するような選手は選手控え室という場所に一旦集められていたのだが、そこに大きな問題があった。
どうやら男性と女性で控え室が別々になっているようで、今現在俺の居る部屋には純度百パーセントの男臭が充満していた。
更に大会の為に事前に準備運動をしてきたのか、より汗臭さが際立っている。
も、もう駄目だ…この部屋から脱出しなければ…このホモホモ部屋から、何とか…逃げ延びないと。癒しや…癒しが欲しい。
命からがら男まみれの控え室から脱出した俺はドアの前で大きく深呼吸をする。
外の空気うめぇぇぇ…!
肺に溜まっている不快な空気を全て吐き出して新鮮な空気と入れ換える。
何が悲しくてあんなホモホモ臭漂う空間で何時間も待機しなくてはいけないんだ。
もう一度あの空間に戻りたくない俺はメーヤと雫の居る場所へと向かった。
何故メーヤと雫が同じ部屋に居るかというと、国を挙げた祭りの会場に遅刻ギリギリに到着した俺達が座れるような観客席に空きがある筈もなく、困り果てていたところにメーヤが自身の部屋に招待したのだ。それに雫が会場の熱気に当てられて気分悪そうだったしな。引きこもり兼コミュ症の弱点である。
メーヤは仮にもギルマスという大物なので、個人の専用部屋が与えられており、室内はそこそこの広さがあった。
ドアを勢いよく開けた俺は真っ先に視界に捉えた雫の姿を目掛けて走り出す。
「雫ぅぅぅっ!会いたかったよぉ…」
「雫も会いたかった!」
「何やってるんだお前達は…」
ガシッ、と再会の熱いハグをする俺達兄妹に対し、冷ややかな視線をしながら苦言を漏らすメーヤ。
仕方がないだろう。あんな男まみれの部屋から逆転、少女しか居ない部屋に転がり込んだのだ。感動で涙を流すのも無理はない。
この風景を見て幼女趣味と罵る奴が居たのなら、ソイツに言ってやりたい。
そんなこと言うのなら、お前があの控え室で我慢できるのかっ!
心の中に溜まった文句を全て吐き出した俺は大会が開催されるまでの時間をこの部屋で過ごすことにした。
◇
一時間ほど経ったところで何やら、闘技場の上の階に造られた一際目立つ観覧席に三人の人物が現れた。
一人目は黄金に煌めく装飾が施された服に身を包んだ、如何にも上流階級らしき髭面の男性。
二人目はその男性の隣に寄り添う、これまた白銀色に煌めくドレスに身を包んだ銀髪の女性。
そして三人目は、二人と異なり幼さを顔に残しながらも人を惹き付けるような美貌、更に夜空に舞い降る雪のように美しい銀髪を持ち合わせた女性──いや、女の子だった。
腰にまで届きそうな長く日の光りを反射し輝く銀髪、澄んだ碧眼、まさに王女の印象を体現するような容姿。そして美しさという言葉の体現者にも。顔も四肢も、全てが織り重なって完璧を創りだす。
そんな3人が現れると熱気だっていた観客たちが即座にその口を閉じ、辺りが一瞬で沈黙に包まれる。
「なぁ、メーヤ。あの三人誰?」
「…この国の国王陛下であるオリバー・ファトリムス陛下とその王妃であるロベリア様、それとお二方の娘であるクリスティーナ王女様だ」
へぇ…あの人がこの国の国王ね。
何でも大会か始める前にこの国の国王から開会式の開幕宣言があるそうだ。
国王や王妃、王女の両端には護衛なのだろう。甲冑に身を包んだ騎士団の隊員らしき男性が二人、周囲に気を配っていた。
あれ?あの片方の男性ってもしかして、ドランさんじゃね?
「メーヤ、あの三人の護衛している人物の名前って分かる?」
「ん?あぁ、勿論知っているさ。右隣に居るのが近衛騎士団長を務めているドラン・アルタリオス。で、左隣のが副団長のタレス・ヤディラだったかな」
えぇ…マジですか…!普通に接していた人物がまさかのこの国の騎士団でした。いや、何で門番なんてやってんだよ。
そんな多少の驚きもありながらも開会式は順調に進んでいき、式の最後を締める国王の演説が始まった。
「では最後に、オリバー・ファトリムス陛下から皆様に御言葉を」
暫く経つと、司会進行を務める男性が締めを括るプログラムを告げる言葉が会場に響き渡る。
何故此処まで声が届くというと、風属性魔法の中に音響を遠く、大きく響かせる魔法が存在しているらしい。その拡張魔法を保存した魔導具を使用することであれほどの音量を可能にしているようだ。
異世界版スピーカーのような物か。
「ごほんっ、民の皆たちよ。今日、この日が無事に迎えられた事を私は嬉しく思う。この大会は800年前、魔王を討伐した勇者様に感謝を捧げるためのもの。皆も己の武勇を世界中へと轟かせることを私は大いに期待している。そして、今回こそは前回の屈辱を果たすべく、我がフォルネイヤ王国が勝利を掴み取ってみせるぞォォォッ!」
「「「「うおおおおおおっ!国王陛下、ばんざーーーいっ!!」」」」
演説の最後に国王が民を鼓舞する言葉を口にすると、観客たちが皆、一斉に会場に包み込むような歓声を上げ始める。
「…凄い熱気だな」
「まぁ、この国は国王に対する民からの信頼が厚いからな。毎回演説の際はこんなものだよ」
この国、体育会系すぎんか?
隣では興味が無いのか雫がソファに横になって寝息を立てていた。
こっちはこっちでマイペース過ぎるなぁ。
ちなみに先程国王が演説の最中にも言っていたように、この大会の起源は今から800年前に勇者が魔王を討伐したことを祝う為に興された催事である。
俺達が目を通した国立図書館にも勇者に関する文献や書物は数多く置かれており、中には子供向けに描かれた絵本も出版されているほどの人気っぷりだった。
文献や書物を読み進めていくごとに分かった事だが、どうやら勇者は異世界人──つまりは、この世界の人間ではなく何処か別の世界から召喚された転移者だったみたいだ。
自分の黒歴史が800年後も残ってるなんて俺だったら悶え死にたくなるわぁ…。
そんな事を考えていると何時の間にか国王の演説が終わっており、それと同時に開会式も終わりを告げていた。
どうやら大会はトーナメント形式で行われていくようで、自身の対戦相手は直前の放送まで判らないようになっている。
何でも対戦相手に対して試合前に毒を盛る等の違反行為を防ぐ為の処置らしい。
今大会の出場者は総勢18名程しかエントリーしていないようだ。
何でも今大会には、この国の中心核ともいえる集団である、王政騎士団長を務めているエレナ・フォートレスが出場しているらしい。
俺からしてみれば、誰それ?という感想だが、この国の人々の反応は違った。
多くの出場を考えていた、荒れ狂れ者達である冒険者も皆一斉に出場を辞退したらしい。
フォルネイヤ王国の建国時代から王家に仕え、支えてきた忠臣である『王国三大騎士』の一角を担い、その功績から初代国王から公爵の爵位を授かったと云われているフォートレス家の元当主の娘であり、フォートレス家の跡継ぎである女性らしい。
その強さは父親であるフォートレス卿をも凌ぐと呼び声高い程の実力を秘めており、剣術と魔法の両方に秀でているという。
魔法と剣術、二つにも利点と欠点は存在してる。
魔法は遠距離と補助に優れ、属性の多さから攻撃や防御等の戦術にも多彩さがでる。しかしながら接近戦に於いては滅法弱い。
距離が短ければいくら魔法詠唱が速くても、強化魔法を纏った剣士には即座に間合いを詰められる。
逆に剣士は接近戦では強いが遠距離からの攻撃に対し弱く、魔法によって遠距離から攻撃されると容易に倒されてしまう。
ちなみに剣士といっても、全く魔法を使用しないわけではない。流石に生身で魔法に対抗することは出来ない。
なので多くの剣士が身体強化魔法を使用する。というか、それしか使えないのだ。
魔法の才が無いものの多くが魔力操作能力の低さにある。要は不器用なのだ。
火属性魔法や水属性魔法は自身の魔力を自然エネルギーに変換するために複雑な魔法式を立てなければいけない。
それに対して身体強化系統の魔法は、自身の魔力を自身の力に変換するだけで済んでいる。それゆえ、簡易的な魔法式で発動が可能なのだ。
それに魔法を会得するには座学である知識の蓄積と実践の双方が必要となる。
まぁ要するに、勉強なんてやってられるかぁぁっ!という脳筋の行く末が剣士である。
故に冒険者や騎士団などは一つの隊やパーティーに剣士と魔法士の両方を入れるのが基本的な常識となっている。
──だが、魔法剣士は違う。
たった一人でその両方が補えるので、魔法剣士は基本的にパーティーを組む事が少ない。
この説明だけを聞くと、とても高性能な優れた職業に感じる事だろう。だがそれは、大きな勘違いだ。
その両極端の二つを極めるとなると、それは人の一生ではどうする事も出来ない過酷な修練を熟さなくてはならないのだ。
どちらも最強の力を手に入れようとすると、どうしてもそれに見合うだけの努力と才能が必要となるからだ。
だから魔法剣士の職に就く人間の殆どが、魔法と剣術の両方の才に恵まれなかった者である。
ある意味では一番最弱で、しかし極めれば最強に成り得る職業である。
そして今現在、その最強の権現となっているのが、先程説明したエレナ・フォートレスという女性らしい。
その強さは本物で、冒険者ランクで例えるのならSSランクに匹敵する程らしい。
つまりはメーヤと同等の実力という事になる。まさに一騎当千という訳だ。
その話を聞き、俺の身体は怯える事もなく、むしろ強者との戦い飢えている魂が熱く燃えたぎっていた。
──正直なところ、今回の大会は叡羅の調整程度にしか考えていなかったが、少しは退屈凌ぎになりそうじゃないか…!
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コメント
ノベルバユーザー217366
次よろしく
ノベルバユーザー180330
とても面白いので図々しいですが更新をもっと早くしてもらいたいです。