世界で1番短い恋 story1

ノベルバユーザー146855

episode2

佐倉 一裕:「なぁ」
橘 ○○:「なんへふは?(なんですか?)」
佐倉 一裕:「食べてからでいい」
橘 ○○:「ふぁ!ふひふぁふぇん(あ!すいません)」
佐倉 一裕:「ゆっくり食べなよ」
 ふふっと柔らかく佐倉さんは笑った。そういえば、佐倉さんって髪の毛が茶色っぽいんだな……綺麗な髪の毛。そんなことを考えながら、フレンチトーストを頬張る。
佐倉 一裕:「こっちも食べな、ここのパスタは間違いないからな」
橘 ○○:「はい!」
 もぐもぐと食べる。
橘 ○○:「美味しい!ふふ、ほんとについてきて良かった。佐倉さん、ありがとうございます」
佐倉 一裕:「うん」

佐倉 一裕:「それでな……」
 佐倉さんはじっと私を見つめる。まじめな話……かな?
佐倉 一裕:「時間の感じ方についてなんだけど」
橘 ○○:「あ、私は」
佐倉 一裕:「なんにも知らないって顔してる、そんなの分かってる」
橘 ○○:「……じゃあ、佐倉さんは何か知ってるんですか」
 少しムッとした顔で私は佐倉さんに聞く。時間の感じ方は人それぞれだと言うから確かに気になる。
佐倉 一裕:「俺が今までで調べた限りでは…まぁ、ないんだ、はっきり言って。」
橘 ○○:「ない、ってどういう……」
 頭があまり良くない私は、理解に苦しむ。
佐倉 一裕:「証明されない事実ってことだ。誰にもわからない、ハッキリとしない曖昧なもの。でも、一番身近にいる厄介なもの」
橘 ○○:「厄介なもの?時間は厄介なものなんですか」
佐倉 一裕:「だから言ったじゃないか、誰にもわからないって。厄介だと俺が感じているだけだ」
橘 ○○:「……私は」
???:「あ!かずくん!」
 急に甲高い声が近くで聞こえた。ノースリーブで花柄のワンピースを着ている可憐な女の子が、茶髪でフワフワした肩まである髪の毛を揺らしながら、佐倉さんの元へ走る。
???:「こんなとこで何してるの?……あ、お邪魔しちゃった……かな?」
 その女の子は申し訳なさそうに上目遣いで私と佐倉さんを交互で見る。とても華奢で可愛い人だな。
佐倉 一裕:「そんなのではない、あんたは何してんだ」
???:「私?私は、ショッピングに疲れたからここによってみたの!前から気になっててね、あ、いけない私ったら。自己紹介が遅れちゃったね、私は柊 佳薫ひいらぎ かおり。あなたは?」
橘 ○○:「私は橘 ○○です。えっと、佐倉さんとどんな関係なのでしょうか」
柊 佳薫:「うーん、幼馴染ってとこかなぁ。地元のお家が隣同士なの。ねぇ、かずくん」
佐倉 一裕:「もういい?今真面目な話してるんだよ」
柊 佳薫:「橘さんは、かずくんとどんな関係なの?」
 その可愛い笑顔が、酷く恐ろしく感じた。
橘 ○○:「えっと……昨日、レストランで出会って……」
佐倉 一裕:「佳薫には関係ない。」
柊 佳薫:「あ、えっと……ごめんなさい」
橘 ○○:「あ……あの、柊さん……」
佐倉 一裕:「……なぁ、もういいだろ」
柊 佳薫:「……じゃあ、またね」
橘 ○○:「あっ……。佐倉さん、今の言い方……」
佐倉 一裕:「いいんだ、あれで。で、あんたはどう思ってる?」
橘 ○○:「時間の感じ方ですか?……そうですね、時間って限られているじゃないですか。充実した時間は短く感じて、つまらないときは長く感じる。……私は、充実した時間の方が好きなので、太く短く生きることを選びたいですね……。つまりですね、えっと……時間の感じ方は人それぞれだけど、今は短く感じます。」
佐倉 一裕:「……充実した時間なんだな」
橘 ○○:「はい!……厄介なものってことは、佐倉さんは長く感じているんでしょうか」
佐倉 一裕:「……今、少しだけ短くなった気がする。あんたの考え方は、面白い。」
橘 ○○:「それはよかった。私も、そう感じていたから」
佐倉 一裕:「……なぁ、また会えたら……また短く感じさせてくれ」
橘 ○○:「……!……ふふっ、任せてください!!」
佐倉 一裕:「○○、あんたは面白い女だな。じゃあ、またな」
橘 ○○:「あ、お金……」
佐倉 一裕:「ご馳走だって言っただろ、な?」
 佐倉さんは、それだけ言い残して私を1人残した。

 8月になり、更に暑くなった。時間は長く感じる。あの人に出会ってから、あの人がいない時間が長く感じる。これは、満足していないってことなのかな。あの人といたときは、あんなに短く感じたのに。
 雑誌をペラペラめくると、1枚のチラシが落ちた。
橘 ○○:「……花火大会」
 今年もやっぱり、両親は忙しいみたい。行けないなぁ、今年も。ベランダから眺めよう。
橘 ○○:「……」
 そうだ、本を返しに行かなきゃ。

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