世界で1番短い恋 story1

ノベルバユーザー146855

episode1


 私は、どこにでもいるような女の子で、不思議な体験は0。特に特徴もないし、私の周りの人も特徴がない。平凡すぎる私の人生。でも、まさかあんなことになるとは思わなかった。平凡な私と短いLove Story。






 私の16歳の誕生日、両親は私を連れて、夜景が綺麗なレストランに連れてきてくれた。意外と立派で落ち着かなくて、まだここに来るべきじゃないことが痛いほどわかった。でも、私の両親はこういう雰囲気が好きだから、私を連れてきたんだよね。私が喜ぶと思ってした事なんだよね。それなら私は、喜んでありがとうと言うしかないんだ。
母:「お誕生日おめでとう、○○。○○も、もう16歳なのね。」
父:「子供の成長は早いなぁ、あっという間に育ってしまう。小さくて可愛いままでいてほしいという思いと、成長を見届けたいという思いが混ざって複雑だよ。」
○○:「祝ってくれてありがと。お父さん、お嫁に行くわけでもないのに」
母:「確かにそうね、ふふ。今日はめいいっぱい楽しみましょうね、○○。」
○○:「うん、お母さん。」
 この雰囲気が私は息が詰まりそうになるほど苦手だった。静かで高貴な感じは、私には似合わない。こんなお洒落なグラスではなくて、アルミ缶の方がよっぽどお似合いだわ。祝い事は、なぜアルミ缶では駄目なの?このグラスは落としてしまえばきっとすぐに割れてしまう。
店員:「若鶏のグリルです。お熱くなっておりますのでお気を付けてお召し上がりください。」
○○:「わ、美味しそう」
父:「……なぁ、気になっていたのだが」
 父は、今にもよだれが出そうな私をじっと見つめる。
父:「写真、撮らないんだな。」
○○:「写真?」
父:「いや、その……。よく喫茶店に寄るのだが、女子高生たちはみんな写真を撮ったりしているだろう、○○は写真を撮らないんだなと思って。」
母:「確かに○○はあまり写真を撮らないわね。ねぇ、スマホの中にはどんな写真が入っているか気になるわ。見せてくれない?」
○○:「別にいいけど、面白くないと思うよ。お父さんの言う通り、写真撮らないから。それより、グリル食べてもいいかな」
母:「召し上がれ」
 私はスマホを母に差し出し、ナイフとフォークで若鶏のグリルを切っていく。一口大に切り終わったら、デミグラスソースと絡めていく。それを口に運び……嗚呼、美味しい。私の好物を、覚えてくれていたんだね。私は夢中になり、どんどん口の中に入れていく。
母:「あら、なんの写真かしら」
○○:「それは……」
 7/5、16:30、時間の感じ方について、と書かれているメモ用紙が、わたしのスマホの液晶画面に映し出されていた。
○○:「3ヶ月くらい前?……時間の感じ方について、よく思い出せないや。」
母:「そう、思い出したら教えてね」
○○:「うん」
 それから、私の小さかったときの話や、おばあちゃんの裏話、お父さんのプロポーズなど、私には知らなかった話を沢山してくれた。私が生まれる前の世界を少しだけ覗いた気分になれた。
父:「さぁ、そろそろ帰ろう」
○○:「お手洗いに行きたいから、少しゆっくりしていてね。」
 そう言い残し、スマホを片手に席を外す。
 確かトイレはこっち、とキョロキョロしながら目的地に向かう。洗面所がとても綺麗。なぜだか少しだけ大人になった気分。トイレを済まし、ドアを開けると、ドンっという嫌な音が聞こえた。
???:「……っ」
○○:「え……す、すいません!大丈夫ですか?」
 私が開けたドアが、男性の頭にぶつかった。完全に私のせいだと思った瞬間、全身の血が抜けていく様な感覚に襲われる。
???:「あぁ、大丈夫だ」
○○:「よかった……」
???:「あー、その……言いにくいんだけど」
○○:「……?」
 大丈夫、その言葉を聞いてほっとしたのも束の間。彼の言葉に私は
???:「その綺麗なドレス……あんたに似合ってない」
○○:「……は」
 怒りとか悲しみとか、そんなものは湧き上がってこなかった。なぜ初対面なのにそんなことを言われなくてはいけないのかがわからない。このドレスは、母からのプレゼント。確かに、私には大人っぽすぎて似合わないと自分でも思っていた。でも、彼に言われる筋合いは無かったはずだ。
○○:「急に何を言い出すんですか、あなたは今、大丈夫だとおっしゃいましたよね。そんなに恨んでいるのならいくらでも謝りますけど」
 私は少し強めに発言し、軽く彼を睨んだ。だが、彼は顔色一つ変えずに、私にこう言った。
???:「面白いな、あんた。俺は佐倉 一裕さくら かずひと。またどこかで会えたら、呼んで。あんたの名前は?」
○○:「私の名前は橘 ○○たちばな ○○
佐倉 一裕:「……いい名前だな、じゃあ」
 不思議な人だった。この急展開は、私の人生で1番の体験だったのかもしれない。だって、こんなに心臓が鳴り止まないこと、無かったから。
橘 ○○:「意味わかんない……」

 翌日

 夏休みに入ったから、1ヶ月暇だな。部活には入ってないし、習い事もしてないし、塾も行ってない。何をしようか……とりあえず宿題しよう。あ、そういえば新しい図書館ができたらしいから行ってみようかな。
 ひと通り準備を済ませ、サンダルを履く。
橘 ○○:「……行ってきます」
 両親は共働きだから、基本家にいない。今年も、夏祭り行けないな。友達はいるけど、夏祭りぐらい両親と行きたかった。小さい頃に一度しかいったことがなかったから夏祭りは、それ以来行ってなかった。
 図書館につき、自習室の扉を開ける。涼しくて静かだ。とりあえず、適当に窓際の端に座る。人が少なくてよかった。テキストを開く。広く机が使えるから、参考書やノートを何冊置いても大丈夫だ。
佐倉 一裕:「あ、あんた、宿題してるの?」
橘 ○○:「あ、えっと……佐倉さん」
 なんで連続で会わなくちゃいけないのよ。
佐倉 一裕:「……高校一年生?」
 佐倉さんは、私の参考書を1冊手に取り、パラパラとページをめくっていく。ひと通り眺め終わった佐倉さんは、私の参考書を机に置く。
佐倉 一裕:「もう宿題するんだね、俺は8月から始めてたよ。偉いな、あんた」
橘 ○○:「……佐倉さんは、なにをしてるんですか」
 昨日の出来事を思い出していく。昨日までは混乱していたけど、今となってはフツフツと怒りが湧いてくる。できれば話したくないし、見たくない。
佐倉 一裕:「涼しいとこを探していたんだ。あと、あんたの姿を見たから」
橘 ○○:「冗談はやめてください、綺麗なドレスが似合わない私のことなんてどうでもいいでしょう。」
佐倉 一裕:「はは、根に持ってるのか」
橘 ○○:「初対面の人にあれは酷すぎます」
佐倉 一裕:「……ほんとの意味わかってないな、あんた。もし良かったら、宿題が一通り終わったら昨日の詫びを兼ねてランチに行かないか。いい店この近くにあるんだ、あんたが良ければだけどな。」
橘 ○○:「新しいナンパですか?」
佐倉 一裕:「はっ……自意識過剰って言葉知ってるか」
 佐倉さんは勝ち誇ったような顔で私をバカにする。
橘 ○○:「……もういいです。私、宿題があるので」
 私は真面目に宿題に取り掛かろうとする。
佐倉 一裕:「あぁ、それ間違ってる」
橘 ○○:「え、どこですか」
佐倉 一裕:「そこはこっちの例題を見ながらやるんだよ。そう、そこは……ほら、できた」
橘 ○○:「凄い……佐倉さんって勉強教えるの上手ですね!」
佐倉 一裕:「やっと笑った」
 そう言って佐倉さんは勝手に私の隣に座る。
佐倉 一裕:「これ以上はこのあとのランチで」
 しー、という仕草をして、佐倉さんは本を取り出し、真剣な顔で本を読む。ほんとに、勝手な人だこの人は。

橘 ○○:「今日はここまで……」
佐倉 一裕:「俺も今、いいとこで終わったよ、じゃあ行こうか。」
橘 ○○:「ほんとにご馳走してくれるんですか」
佐倉 一裕:「好きな物頼みなよ」
 近くの隠れ家カフェ的なお洒落なお店に入る。窓際の広いふかふかしたソファの席に座る。
橘 ○○:「佐倉さんはここによく来るんですか」
佐倉 一裕:「まぁね。ここはフレンチトーストとパスタが美味しいんだ」
橘 ○○:「私、実は……昨日みたいな立派なレストラン初めて行ったんです。更に、お洒落なカフェも初体験で……席が全然違うんですね!ついてきてよかった」
佐倉 一裕:「気に入ってくれたみたいでよかったよ」
橘 ○○:「私、このベリーのフレンチトースト食べたいです……!あ、でもこのパスタも……ちょっとだけ待ってください今決めます」
 うーん、と悩む。どちらにすべきか。パスタ美味しそう……でもフレンチトーストも捨て難いし……。
佐倉 一裕:「迷ってるのはこの二択か?」
橘 ○○:「え、はい」
佐倉 一裕:「……そこの店員さん、注文していいか」
橘 ○○:「えぇ!まだ決めてないです」
佐倉 一裕:「ベリーのフレンチトースト1つ、そしてこのパスタを。取り皿二枚よろしくお願いします」
店員:「かしこまりました、ごゆっくりどうぞ」
橘 ○○:「え……」
佐倉 一裕:「半分こすれば、食べれるだろ」
橘 ○○:「ありがとう……ございます」
 佐倉さんって、意外と優しいのかな。あ、忘れるとこだったけど昨日のこと聞かなきゃ。
佐倉 一裕:「ここはすべて美味しいし、店員も店内も雰囲気がいいし……だが、料理が来るのが遅いんだ。なぜかわかるか、こうやってゆっくり話せるようにだ」
橘 ○○:「……じゃあ、聞いていいですよね。昨日の発言のほんとの意味ってなんですか」
佐倉 一裕:「……気づいていないか、君のドレス……タグついてたよ」
橘 ○○:「……は」
佐倉 一裕:「……気づいてなかったんだな、やっぱりあんた面白いな。ふ、はは」
橘 ○○:「タグって……え、それでなんで私に似合わないって……」
佐倉 一裕:「確かにドレスは綺麗だった。だから素直に綺麗なドレスと評価した。だが、タグがついていて面白かったから美しい君にはそのドレスは似合わないと言ったつもりなんだが……」
橘 ○○:「ただの失礼な人だと思った……」
佐倉 一裕:「ははは!さ、これで話は終わりか?」
橘 ○○:「勘違いしてたんだ……。流石に失礼な態度をとったことは謝ります、すいません。」
佐倉 一裕:「いやいや、君に誤解をさせるようなことを言った俺が悪いよ」
橘 ○○:「……お詫び、として質問になんでも答えます。」
佐倉 一裕:「ほんと?じゃあ……あんた、彼氏はいる?」
橘 ○○:「いないですよ」
佐倉 一裕:「へー……俺は可能性あり?」
橘 ○○:「質問、答えました」
佐倉 一裕:「ふ、やっぱり気に入った。なぁ、なんで俺が図書館にいたのか気にならないか?」
橘 ○○:「涼しい場所を探していたんじゃないんですか」
佐倉 一裕:「ほんとにそうだと思う?それに、俺は本が嫌いなんだ」
橘 ○○:「……気になります、教えてください」
佐倉 一裕:「うん、そう来ると思った。……時間の感じ方についてという本を探していたんだ」
 時間の感じ方について……あれ、それって私のスマホに入ってた写真に写っていた謎のメモ?
橘 ○○:「私も…時間の感じ方について気になってるんです、一緒に探しませんか?」
佐倉 一裕:「え」
橘 ○○:「あ、いや、今後もし佐倉さんが良ければなんですけど」
佐倉 一裕:「一人よりいい」
橘 ○○:「よかった」
佐倉 一裕:「ねぇ、俺何歳だと思う?」
橘 ○○:「……20?」
佐倉 一裕:「ぶー!正解は24歳でした、仕事は小説家だから基本家にいる」
橘 ○○:「本は、嫌いって……」
佐倉 一裕:「本ってさ、たまに俺の心を見透かしてるんじゃないかって思うくらい共感できる本があるんだ。見透かされるのが、怖くて、嫌いなんだ。でも、自分で書くのは違う。自分の世界を広げていくんだ」
橘 ○○:「自分の世界を……広げる。私は本が好きです。本を読むと嬉しい気持ちにも悲しい気持ちにもなれるんです。たしかに怖いほど共感できる本と出会いました。最後まで読めませんでした。あれを読んでしまったらきっと私は恐怖に飲み込まれ、正常ではいられない。だからまだ、読まずにしおりを挟んでおくんです。」
佐倉 一裕:「しおりを挟む……」
橘 ○○:「そうすればまた、読めるでしょう?あ、フレンチトーストとパスタ来ましたよ!」
佐倉 一裕:「……あんた、もしかして」
橘 ○○:「どうしたんですか?」
佐倉 一裕:「いや、なんでもない。食べようか」

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