異世界スロータイム

ひさら

44話 続・結婚ラッシュ




あっという間に三月になった。
アシュリーたちの結婚式はもちろんお店で行う。壁際にテーブルを寄せて並べて、ショーンさんたちの時と同じビュッフェスタイルだ。
厨房スタッフにはショーンさんが、ホールスタッフにはソフィが入ってくれる。
アダムはバージンロードのエスコートはするけど、その他はホールスタッフ。
後はショーンさんたちの結婚式と同じ役割分担だ。

お客様は何人になるかわからない。お店の常連さんたちみなさんが祝ってくれるから!  会費制で、銅貨八枚はランチと同じだ。
その他、ワイアットさんのお仕事関係で高位の魔法使いさんが何人かと、高位のお貴族様が何人か。驚いた事に、直接お仕えしているという第三王子様もお忍びでいらっしゃるという!
身分の高い人同士でお祝いしないんですか?  ビビって言うと、そもそも結婚式という概念がないのだから特別何かする事はないと言われた。
そういえばそうだった。結婚式ってなかったんだっけ。

そうですか……。
ビビるな!  お客様の中にはお忍びでお貴族様もいた。
王子様なんて初めて見るけど、なんてったって王子様だ!  物語に出てくる、お姫様と王子様の、あの王子様だ!  目の保養にしよう。

どんな人でも、お祝いに来てくれる大事なお客様だ。心を込めてお料理を作るぞ!  
ビビる気持ちを抑えて強気で決意した。



そして結婚式当日。
朝からポカポカ春の陽気で、お天気もアシュリーたちをお祝いしてくれてるみたい。
秋にもショーンさんたちの時に思ったな〜。懐かしく思い出す。

お日様も高くなってきて、お客様も集まりだして、ホールスタッフがウエルカムドリンクをサービスしてる。
頃合いをみて、私はショーンさんとトーイに後を頼んでアシュリーの部屋に行く。
支度を手伝ってくれていたジェニファーと入れ違いに、私はアシュリーの部屋に入った。

「アシュリー……。  本当に本当に、なんて綺麗なんだろう……」

私はポロポロ泣きだした。なんだこれ?

「アシュリー、あのべた惚れのワイアットさんなら間違いないと思うけど、幸せになってね!」

何だか感極まって、私は大泣きしてしまった。
家族同然に暮らしてきたアシュリーが、姉妹のように仲良くしてきたアシュリーが、とうとうお嫁にいっちゃうんだ!  
私は涙が止まらなかった。

「あのべた惚れのって!  ユアったら、涙が引っ込んだじゃないの!」

アシュリーは吹き出した。
うん。泣かない方がいいよ。せっかくのメイクが流れちゃう。
涙でよく見えなくなってるけど、私は綺麗なアシュリーをよくよく目に焼き付けた。

可愛いアシュリーに似合う、可憐なプリンセスラインの純白のドレス。ところどころ繊細なレースで飾られていてとってもよく似合っている。
髪にもドレスにも淡いピンクの小薔薇が散らされている。これもよく似合っている。
ブーケにもお揃いのピンクの小薔薇と、レースフラワーみたいなフワフワした白い小さい花が使われていて、これもとっても似合っている。
どれもこれも春の妖精さんのようなアシュリーにピッタリだ。

「じゃあ、行こうか」

泣いている私の手を引いて先を歩くアシュリー。
これじゃ逆だよ!  こんな時まで男前だな!

家の玄関のところまで行くと、エスコートをするアダムが待っていた。
アシュリーを見て絶句。言葉もなく泣きだした。

アダム〜!  わかる!  わかるよ!!  私たち、本当に家族だね!!

玄関ドアを開けると、真っ直ぐに白い布が敷かれている。
リンゴ林まで続いているバージンロードを、声が漏れないように歯を食いしばって歩く滂沱の涙のアダム。その腕に軽く手をかけて歩く笑顔のアシュリー。

対照的すぎる!!  
アシュリー、可愛いけど……  何か切ない。
サラの歌声も切なく聞こえるよ!

エリーとノアもしっかりお仕事をしてくれた。二回目だからかちょっと余裕に見えたくらいだ。
というか、アダムに引いていたのかも。

アダムはこの日、涙の給仕さんと呼ばれた。



二回目だけど慣れる事はなく、感動的に挙式披露パーティーは終わった。
お客様は可愛いアシュリーに感動して(ファンクラブの中には死にそうな顔の人もいたけど)お料理も足りなくなる事もなく、みなさん満足していただいてお開きになった。

そういえばふれてなかったけど、ワイアットさんは魔法使いの正装だった。
胸にはアシュリーとお揃いのピンクの小薔薇のコサージュをつけていたのが、似合うような似合わないような……。



そして
「おめでと〜!」「お疲れ様〜!」  
二次会の始まりだ。

エリーとノアをお迎えに来た、トーイのお母さんも今日はお誘いしちゃう!
トーイも一緒に作ってるんですよ!  どうです、美味しいでしょ!  あれもこれもお勧めする。
エリーもノアも嬉しそうにきゃっきゃしてるし。
いいね!  お祝いってこうでなくっちゃ!  と、アダムを見る。
泣きすぎて不細工になっている元イケメン。
おっと、私も人の事をいえないかも!


う〜〜〜ん。  っと……。


二回花嫁さんを見た事もあるし、姉妹同然のアシュリーがお嫁に行っちゃった事もあるし……。
まぁ、なんていうか……  ずいぶんお待たせしてるし……  うん。
私は覚悟を決めた。  
決心が鈍らないうちに言わなくては!

プロポーズの公開お返事になっちゃったら恥ずかしいけど、これだけ騒がしかったら大丈夫でしょ!  
私はコソッとジェイに告げる。

「ジェイ、プロポーズのお返事だけど。お待たせしてごめんね、今いい?」
「ひゃい!!」

ジェイがしゃっくりみたいな変な声を上げた。
し〜んと……  みんなが注目しちゃってるじゃないか!  おぃ!!

だけど今更返事しないなんて事はできそうにない。
ジェイの、ジェイの……  
返事を後回しにしたら死んじゃいそうな顔を見たら、言わないではいられないよ〜!

「待たせてごめんね。よろしくお願いします!」

ちょっとヤケクソになって言うと、ジェイは真っ赤になって何も言わず私を抱きしめた。

わ〜〜!!  見てる!  見てる!!  みんな見てるから!!

何があったか察したみんなから、盛大に祝福を受けた。





アシュリーたちの結婚式の後、私が(体感)十八歳になる十二月に私たちは結婚式を挙げた。

二〜三日前から降り出した雪は辺りを真っ白な世界に変えていたけど、当日は降り続いた雪も止んで穏やかな一日になった。
アシュリーの時も私の時もお天気に恵まれて、アイザックさんからのお祝いみたいだと懐かしく思った。

なんと結婚した翌年から続けて三人、年子で娘も授かった。
長女はジェイのお母さんの名前をもらってルーシーと名付けた。次女は私のお母さんの名前からアイ(愛子)三女はラックのお母さんの名前……  は、わからなかったから(百年も前の子供の頃に別れちゃったし、ラックは自分の名前も忘れてたくらいだからね!)お母さんとラックの目の色からベニー(紅)と名付けた。
ネーミングセンスの事はいわないでいただきたい。本人わかってますから!

毎年三ヶ月ほど産休をもらって、その間はアシュリーがスイーツのサロンを開いたりしたよ。
魔法使いは子供ができづらいといわれていたけど、うちの三人娘が落ち着いた頃にアシュリーたちも待望の子供を授かった。男の子と女の子の双子ちゃんだ。
アシュリーは出産から育児に専念したから、ホールスタッフを雇った。
求人には多数の応募があったよ。うちはピュアピュアホワイト企業だからね!
特に、ユニホームと賄いが魅力的なんだそうだ。

最初の産休から復活すると、調理場は危ないとラックが長女を背負って仕事をした。
イケメンがおんぶ紐で赤ちゃんをおんぶしての給仕……。なかなかシュールだ。
絵面は置いといて。ラックは元々の身体能力の高さからか、赤ちゃんをおんぶしてもまったく危なげなくスイスイ動き回っていた。長女もラックの背中でご機嫌だったしね。
ありがたい事に、お客様も自分の子供や孫のように見守ってくれた。
そんな風にべったりだったからか、長女はママっ子パパっ子ならぬラックっ子になっていた。

次女はパパっ子に育った。
歩けるようになって自我も芽生えてくると、ギルドに出勤するジェイにくっついていくようになった。危険のない薬草摘みなんかを一緒にやったり。お弁当を持っていって楽しく一日を過ごす。
パパ大好きな次女にジェイもメロメロだった。これはお嫁にいく時は大変だな。

三女は料理に興味があるのか、物心がつく頃にはいつも調理場にいた。危なくない端の方に置いた椅子に座って、飽きもせず一日中ずっと調理を見ている。
特に『ママ大好き〜!』というものは感じなかったけど、やっとママっ子が現れたかと密かに嬉しかった。
だってあんなに気持ち悪い思いをして、産む時だって痛い思いをしてるのに、誰もママっ子じゃないなんて……  泣いちゃう。



毎日毎日、慌ただしくも充実した日々を過ごし、結婚してから十六年がたった。
今日はルーシーの十五歳の誕生日で成人とダブルのお祝いだ。

そんなお誕生会の最中に、ルーシーが公開プロポーズをした!

「ラック、やっと成人したよ!  今までもらってきた何倍も愛情をお返しするから、結婚して!」

珍しく、ラックは固まった。
ずっと娘のように愛しんできたルーシーから、まさかの愛の告白は衝撃的だったんだろうなぁ。  私は知ってたけどね!
やっと給仕ができるくらいの身体になってすぐにホールの仕事をしたのは、ラックの側にいたかったからだもんね。ラックは今だに二十代半ばくらいにしか見えないイケメンさんで、変わらずファンクラブも健在だ。ヤキモチ焼きのルーシーはいつでも近くにいたかったんだよね。

「ラック、聞いてる?  返事は?」

せっかちだな!  まだ三十秒もたってないよ!

ラックはまだ固まったままだ。
ちなみにジェイもアダムもトーイも固まっていた。
アイちゃんとベニーは気にせずご飯を食べている。
ホールスタッフのメイちゃんは、グッとこぶしを握ってルーシーにエールを送っているようだ。

「ラック!  結婚して!」

せっかちだな!!

男子チームの封印は解けたけど、今度は何ともいえない空気が漂い始めた。
父と(ジェイ)もう一人の叔父(アダム)は唖然としながらもソワソワキョロキョロしてるし、トーイは居心地悪そうにモゾモゾしている。すまないねぇ。

封印が解けたラックは、ルーシーをしっかり見た。

「ルーシー、ずっと娘のように育ててきたから結婚はできない」
「そう言われるのは想定内だよ!  私あきらめないから!」

普段無口なラックも、きちんと意思表示をする時は喋るんだよ。
ルーシーはお断りの言葉を聞いてもまったくめげずに、強気でラックを見た。

微妙な感じだったけど、空気を変えようと?  男子チームは何事もなかったかのように、食事を再開した。
メイちゃんは、よし!  と、こぶしに力が入った。  ように見えた。
……よかったんだ?  メイちゃんの感性はちょっとわからない。

そうして、爆弾が落とされたお誕生会は何だかわからないうちにお開きになった。
いや〜!  ルーシーの気持ちは知っていたけど、今日きたか!
長女はせっかちな気があるとは思っていたけど、これ程とは思ってなかったわ。
たぶん十五年、ずっとラックを好きだったんだもんね。
そう考えたら、告白を十五年待ったんだからせっかちではないのかな〜。
なんて思いながら洗い物をしていると

「お母さん……」

ルーシーが来た。
うん。来ると思って一人で洗い物をしていたんだけどね。
私は一度振り向いてルーシーを認めると、何も言わず洗い物を続けた。

「ラック……  結婚してくれないかな……」

あんなに強気で迫っていたのに、弱気につぶやく。

「生まれた時から育ててくれてたんだもん、やっぱ娘みたいにしか思えないかな……」

ぶつぶつ言ってるし。  しょうがないなぁ。

「ラックが君をどう思っているかなんてわかってた事でしょ?  あきらめるの?」
「あきらめないよ!」

強気で言い切ったけど、一瞬後にはまた弱気に戻る。

「でもさ……。告白以外どうしていいかわからない」

私は洗い物の手を止めてルーシーに向き直った。

「お母さんはルーシーとラックのどっちか片方の応援はしないよ。どっちも大事な家族だからね。  でも、そうね……」

しっかりルーシーと目を合わす。

「ラックは半分ダークエルフの血が流れてるから、私たちよりずっと長生きをするよね。種族的に、私たちがラックをおいて先立つのはしょうがないんだけど、ラックは淋しがりさんだからその時とても辛い思いをすると思う。だからね、恋人とか奥さんとはいっぱい幸せになってほしいと思ってるんだ。もちろんルーシーにも幸せになってほしいと思ってるよ。幸せになってほしいと思っている二人が、ムリせず幸せになってくれたら……  お母さんは嬉しいなぁ」

ニッコリ笑って、遠回しに応援してみた。

ルーシーは、まだどうしていいかわからないと目が迷っていたけど
『あきらめないし、私が幸せにしてあげるんだ!』と、改めて決意したようだ。

「お母さんありがと。おやすみ」

来た時と違って、足取り軽く出て行った。
洗い物は……  手伝ってくれないのね。
あの子本当に結婚する気あるのかしら……。

それからゆっくり洗い物を終える。
さて。次のフォローにいきますか。

私はリンゴ林に向かった。




「異世界スロータイム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く