異世界スロータイム

ひさら

42話 プロデュース!




一週間ぶりのランチの営業。

「待ってたよ〜!」  と、たくさんのお客様が開店前から並んでくれた。
申し訳ない事に、売り切れになってお断りしなくちゃならないくらいだった。
私たち四人では百食くらいしかできないからね。

これを見越してって訳じゃなかったけど、アシュリーがちょい土産用に作っていた(レジ横なんかにある、つい買ってしまうというアレね♪)クッキーの小袋を丁寧にお詫びを言いながらお渡しする。

「懲りずにどうぞ、またおいで下さい!」

久しぶりの営業といっても私とラックはずっと働いていたから全然動けるよ!
お休みモードだったアシュリーとトーイはちょっとばててたけど。



「お疲れ様!  さっそくだけど結婚式の話を聞きに来たわ」

営業後、私たちが遅いお昼を食べているとジェニファーたちがやってきた。

「ありがと!  結婚式の話はいいけど、ジェニファーたちは旅立つんじゃなかったっけ?」

ジェニファーたちはロートゥスに行く前に旅立つ予定だった。送別会までしたしね。
その時に事情を知ったジェニファーが(正確にはエリックが)私たちをロートゥスに送ってくれて、そのまま一緒にいてくれたんだけど……  旅立ちはどうなったんだろう?

「あぁ、延期よ延期。結婚式なんて初めて聞いた興味深い事を放って行けないわ」

本当にめちゃくちゃ興味津々だ。思わず笑っちゃうくらい。

「じゃあ、いっぺんに話がすむように、ショーンさんとソフィにも参加してもらおう!」
「何々?  ケッコンシキって?」
「アシュリーにも協力してもらうよ!  ウエディングケーキを作ってもらわなくちゃ!  それも新郎新婦の希望を入れつつだから、やりがいがあって楽しいよ!」
「何だからわからないけど、ケーキだし楽しいのね!  ぜひやりたいわ!」
「トーイも協力してね!  きっとこの国初かこの世界初のイベントだよ!」
「はいっ!!」

ランチの営業は終わっただろうとショーンさんのお店に様子を見に行くと、私たちが帰ってしまって人手が足りないからとソフィが手伝っていた。
ちょうどいい。二人を連れてお店に戻る。
ショーンさんは厨房を見て、客席側を見てびっくりしていた。よく見たそうにソワソワしてたけど、話が終わった後にゆっくり見てね!  とちょっと強引に食堂まで引っ張って行く。

主役二人と主要スタッフが揃ったので話し合いを始める。
私は従姉の人前式とガーデンパーティーの様子を話した。家族や友人やお世話になった人たちに愛を誓って、夫婦になった証人になってもらう。
お式自体は短いものだ。その後は立食でのパーティーになる。ずっと立っていると疲れちゃうからテーブルと椅子のコーナーも用意する。

「そういった形でいいなら、立ったままでも食べやすいものを作るからね!」

もちろん着席型のパーティーでもいいけど、招待する人の数に合わせてちょうどいいお店を探して貸切にしてもらう事になる。そうするとそのお店のシェフがお料理を作るよね。それだと全部希望が通るかわからないし、なにより私が二人のために腕を振るいたい。う〜ん……。

「俺たちもユアちゃんの料理が食べたいっす。外でのパーティーなんてすごくいいじゃないっすか!  祭りみたいっす」

ソフィも、うんうんと頷いている。
という事で、形としては人前式とガーデンパーティーに決まった。

それからウエディングドレスとかブーケとかウエディングケーキなんかも大雑把に説明して、誰がどの係かなんて事を割り振って、今日のところは解散となった。

そうそう、日にちはせっかくだからソフィが十七歳になる十月に決まったよ。
雨の少ない、寒くなる前の気持ちのいい爽やかな季節だ♪



六月のそれから、十月の結婚式まで三ヶ月以上あるよ!  なんて余裕は全くなかった。
もうもう!!  初めての事はたくさんありすぎて、めちゃくちゃ忙しかったよ!
通常の仕事をしながらだしね。でもすっごく楽しくてすっごく充実していた。

お休みごとにロートゥスに行って、ガーデンパーティーができるような、ある程度大きな庭のある物件探しをした。
結婚式の事だけじゃなくても買い出しとかあるし、ロートゥスにも家があった方がいいよね!  という事になったのだ。

物件探しを始めてそれほどたたないで、ちょっと予算オーバーだけど海と町が見渡せる小高い丘にある古い家を買うことができた。町の中心からそれほど離れていないから便利だし、なにより庭からの景色が素晴らしい!  立地と敷地面積的に、まぁしょうがないかな。予算はちょっとオーバーしたけど、落ち着いた品のある綺麗な家に一目惚れだった。

庭には美しく花や木々が植えられていて、芝みたいな短い草も青々と茂っていた。
ガーデンパーティーに最高だね!
元はお金持ちの別荘だったらしく厨房もまぁまぁ広かったし、庭をふくめ家の管理はきちんとされていてすぐ住めそうだ。住まないけど。
さぁこれで会場は確保できた!

次はソフィとジェニファーとの衣装の打ち合わせだ。
前世お嬢様だったジェニファーは今世でもそのまま目利きなのだ。庶民では尻込みしそうな高級店でも臆せず入れちゃうし、店主とも対等に話せる。なんならお金持ちのお客様オーラで高級店のご店主も腰が低くなるほどだ。

タイプは違うけど、超がつく美人二人は迫力満点。ドレスの試着姿も男性店員さんたちの目がハートだったらしい。ジェニファーが笑って教えてくれた。
ちなみにこういう時のお約束で、ショーンさんは一緒じゃないよ!  
花嫁衣装は式当日に見なくちゃね!!

選んだドレスは、スタイルのいいソフィをさらに綺麗に見せる、身体にフィットしたマーメイドラインのシンプルな真っ白なもの。靴も合わせて白いものにする。私の話を聞いていて、花嫁衣装は白!  とイメージが固定されたらしい。

深みのある髪色に合わせてローズピンクの大輪のバラのブーケ。同じバラは髪にも飾る予定だ。ドレスがシンプルだから、ベールはゴージャスな縁飾りのレースのものにする。ちょっと長めにして……  これはトーイの妹ちゃんと弟ちゃんにもお手伝いしてもらおう。
この国では特に結婚指輪の習慣なんてないけど、ここまできたら指輪の交換なんてものもしちゃおう♪

ショーンさんの衣装は、ソフィの瞳の色と同じグレーのフロッグコート。靴もグレーで統一して、胸にはブーケと同じバラを一輪。
……以上。
こうやってみると、男の人って簡単だねぇ。
従姉が、主役は花嫁!  って言っていたし、ソフィの綺麗な花嫁姿を見られたら、ショーンさん的にはオーケーでいいよね。  ……ね?

それと、ジェニファーには人前式の司会もお願いする。
私はその後すぐパーティーのお料理があるし、何より地味顔の私より女神様のようなジェニファーの方が似合うと思う。
ジェニファーに進行なんかを説明すると、ちょっと恥ずかしそうだったけど快諾してくれた。

アシュリーとはウエディングケーキの相談をする。ショーンさんとソフィの希望も聞きつつ、作れそうな色んなものを試作してはランチのデザートに出すを繰り返している。
いつの間にやらスイーツ男子のワイアットさんも加わって、よりよいものを目指しているよ!
ケーキの大きさは出席人数にもよるんだよね。
入刀するところだけじゃなくて、全部食べられるものにするからね!
結局シンプルに、生クリームたっぷりのスポンジケーキにフルーツを挟んだりのせたりするものになった。

あの口どけなめらかな生クリームを作るのに苦労したよ〜!  
私はスーパーでパックで売られている、お砂糖を入れて泡立て器でかき混ぜるものしか知らなかったから。しかも電動で楽々だったし。
私の話を聞いただけの、アシュリーとワイアットさんの不屈の根性でできた代物だ。
この国でショートケーキって見た事がないから、きっと出席してくれるお客様たちは初めて見て食べるものに驚くよ〜!  
どんなに喜んでくれるか、今からめっちゃ楽しみだ♪

それから記念写真!  の代わりにオリバーさんに絵を描いてもらう。
花婿さんと花嫁さんの肖像画だ。これ記念になるよね!

ショーンさんとトーイも一緒に、お料理のメニューも考える。内陸のこっちの人の味覚と海の町の人の好みは違うでしょうから、アドバイスをもらいながら決めていく。
美味しいと笑顔になってもらえる事を想像すると嬉しい!  がんばる気になるよ!



そんな結婚式の準備が進んでいってる夏のある日、突然サラがやってきた。

「やっと来れたよ〜!  優愛のご飯食べたい!!」

嬉しい事を言ってくれるじゃないか♪
さっそく家の食堂に通して、それからランチを運ぶ。

「ゆっくりできるの?  できたら色々話がしたいな〜」
「大丈夫!  この日のためにがんばって仕事をしてきたの!  はぁ、美味しい!!(モグモグ)」
「後からデザートも運ぶけど、自由にそこのお茶飲んでて!  じゃあまた後で!」

サラは、うんうんと頷きながら、目はお皿の料理に向いている。
こぼしたり、口の周りにソースをつけたりしてるサラのお世話を焼いている相変わらずのウィル君に笑いながら、私は厨房にもどった。

いつものように、ランチが終わって遅いお昼を食べながらお互いの近況を話していると、サラも結婚式の話に食いついた。
だよね〜!  知っているならそうなるよね〜!  女の子の憧れだもんね!!

「私も参加したい!  ……私は歌をうたうわ!  賛美歌とかうたえないけど、披露宴の定番曲なら任せといて!!」

おぉ!  
これはまたすごい助っ人が現れたもんだ!
歌姫の歌とか!!

「ショーンさんたちの結婚式って、世界初にして伝説級のものすごいものになりそうだわ。これ、言ったら二人は緊張しちゃうからサプライズにしようか?」

悪い顔をして言うと
「のった!」  サラも悪い顔で笑った。

ナイスタイミング?  私的には超ありがたい事に!  たまたまそこにいたエリックが、そういう事ならいつでも話せる方が便利だろうと、お店の厨房とアケルのサラの家のキッチンを繋いでくれた。これまた固定で。

あれからエリックは、ワイアットさんほどじゃないけどたまにはうちにご飯を食べに来る。お店の方は騒がしいので、その他みんなと同じように家の食堂で食べている。
転移魔法でお世話になっているからお代は受け取らない。その代わり、超超貴重な、依頼するとものすごく高額な転移魔法を遠慮なく使わせてもらっている。まったく比較にならない金額だけどね!  
まぁ気持ちが大事というか、自分にできる一番のお返しだ。

という事で、サラの参加も距離の負担もなくできる事になった。
結婚式の参加もだけど、これでいつでもうちに食べに来られると、そっちの方が大喜びだった。

スタッフのユニホームも決めたよ!
招待客と区別がつくように、スムーズにサービスが受けられるようお客様にわかりやすくしようという事にしたのだ。
とはいっても、いつものユニホームだけどね。
当日はジェイとアダムにも白シャツと黒のパンツで給仕をしてもらう。見たことのない意外性を持たせるために、男子チームには腰でしばるロングの前掛けを(何ていうんだろ?)してもらう。ちょっと見ロングスカート風になるアレね。
試着したところを見たら、日本でいうところのイケメンギャルソンが三人!  
圧巻だな!!
恋人のいないラックとアダムにご縁ができたらいいなと、ひそかに思っている。

司会をするジェニファーも白いブラウスに黒いロングスカート。ゴージャス美人はそれだけでもかなり輝いてしまう。
歌姫仕様の衣装はあるでしょうけど、その日はスタッフとして参加なので、サラにも白いブラウスに黒のロングスカートとお揃いにしてもらう。歌姫オーラがあると、こっちも光輝いちゃうでしょうけど。

ルークさんとウィル君は護衛だから招待客に混ざって私服でオーケー。
ついでにいうと、エリックとオリバーさんも私服。
ワイアットさんはウエディングケーキやらデザートやらの支度でコックコート組だ。
イケメンは何を着ても似合うな。



そんな風にみんなで楽しく忙しく準備をしていって。
とうとうショーンさんとソフィの結婚パーティーの日になりました〜!

これぞ秋晴れ!
暑くもなく寒くもなく、朝から爽やかでいい日になりそうだ。
何だかワクワクして、余計に張り切っちゃうよ!!

お式はお昼の少し前に始まる。パーティーをお昼ご飯に当ててるからね。
ぼちぼち集まりだした招待客には、ウエルカムドリンクをサービスする。お式に酔っ払いは困るからノンアルでね!  お酒はパーティーでどうぞ♪

アシュリーたちはサービスに忙しく動いている。私たちも何日も前から仕込んだ仕上げに忙しい。
控え室ではソフィが支度の真っ最中で、それはジェニファーにお願いしてある。
ショーンさんは別の部屋。自力でがんばれ〜。
ショーンさんたちには見つからないように、また別の部屋ではサラたちもスタンバイ。

もうちょっとで結婚式の始まりだよ〜!
はあぁぁ……。  ワクワクドキドキ!!  
こっちが緊張するよ〜!



そろそろ時間だ。
私はソフィに付き添いに控え室に行く。ジェニファーは先に出てもらうからね。

「ソフィ……  なんて綺麗なの!  ショーンさんは幸せ者だね〜!」
「ユアったら」

綺麗すぎるソフィに感動していると、ショーンさんがソフィを迎えにきた。
二人のご両親はすでになく兄弟もいないとの事だったので、バージンロードのエスコート役はいない。最初から二人で歩いてもらう。

部屋の入り口でソフィを見て固まったショーンさん。
わかる!  わかるよ!!  声が出ないほど綺麗だよね!!
でもごめんよ、お式の時間なんだ。

「ショーンさん」

声をかけると、ショーンさんはハッとして

「ソフィ、綺麗だ……。  行こう」

ソフィの手を取って二人で歩いていった。

別荘の大きな窓から庭の中でもひときわ大きな木の下まで白い布が敷いてあるのはバージンロードの代わりだ。
行き着いた先には祭壇っぽく小卓が置いてあって、すでにジェニファーが立っている。

はあぁぁ……  これまた美しい。女神様のような司祭役のジェニファー。
周りの視線を釘付けにしている。
視線が前に集まっているすきに、主役二人が準備をする。

トーイの妹弟にはお仕事を依頼している。
妹のエリーが花びらを撒きながら二人を先導して、弟のノアが花嫁さんの長いベールの裾を持って後から歩いて行くというもの。
七歳と五歳の小さな子だけど  「花嫁さんと花婿さんのための大事な大事なお仕事だよ!」  とお願いすると、きちんと重要性を理解して自分に与えられた仕事というものに喜んでいた。精神年齢高いな!

二人の衣装もスタッフ仕様だ。
エリーは白いワンピースに腰に水色のリボンを結んでいる。髪も水色のリボンで可愛くポニーテールだ。水色はアシュリーとかぶせてみた♪
ノアは白シャツに黒の半ズボン。  「決まってるね!」と褒めるとはにかんでいた。可愛い。

私はベールの裾を伸ばして、ノアにそっと渡した。エリーは花びらの入ったカゴを持って新郎新婦の前にスタンバイ。
ショーンさんの腕にソフィの指がかかって、準備オーケーだ。

さぁ!  結婚式の始まりだよ!!




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