異世界スロータイム

ひさら

37話 転移者と転生者




『改めて自己紹介するね。私はお隣の国アケル生まれで、名前はサラ。歌姫とかって言われてるけど、平民だから苗字はないよ』

ステージ上とは違ってくだけた感じで話し始めた。『日本語』で。
先月十七歳になったばかりだって。
ある予想をつけて、私も自己紹介する。

『私は木崎優愛。一年前か三年前か微妙な感じだけど、突然こっちの世界に来ちゃった日本人だよ。体感的には同じ年の、今は十六歳』

サラは吹きだして笑いながら言った。

『うん。日本の歌を歌えて、何より黒髪黒眼だもんね、すぐわかったよ。  ところで何?  一年前とか三年前とか体感的とか曖昧な感じ』



あの後、サラたちが泊まっているという高級宿屋さんに連れてこられた。
ステージ下にはジェイとラックもいて一緒に来た。アシュリーたちは人が多すぎて移動できなかったらしい。この二人はどうやって移動したんだろう?

とにかくまぁ、今は高級宿屋さんのサラの部屋にいる。
部屋の中には私とサラとジェイとラック。それから私を壇上にエスコートしてくれた獣人のお兄さんもいる。
銀色の髪の毛で、お耳も銀色の髪?  の毛。フサフサの尻尾も銀色。後から聞いたところ銀狼の獣人さんだとか。深い森色の綺麗な目の色で、かなりのイケメンさんだ。うちのイケメン筆頭ラックといい勝負だな。どうも人外の方々は美形揃いのようだ。

「ユア……」

ジェイが困ったように見てくる。
話していてわかった事だけど、私とサラが話す時は『日本語』になるっぽい。こっちの世界の人が混ざれば、こっちの世界語になるっぽい。
だから私とサラだけが話していると、ジェイたちにはさっぱりわからないのだ。ジェイが不安そうな顔をしてるけど、こればっかりはどうしていいかわからない。サラも初めての事でわからないらしい。心なしか獣人のお兄さんも不安顔だ。

お互いの自己紹介を終えると、一緒にいる男子チームの紹介もする。
ジェイを紹介する時、恋人というのにかんでしまった。恋人って人に紹介するのは恥ずかしいもんだね!
獣人のお兄さんは年上に見えたけど同じ年だって。そしてサラの恋人で護衛騎士さん。恋人が護衛騎士!  何か、きゃ〜!  ってなる!!  名前はウィル君。

話を続ける。

『何となくわかってると思うけど、私は転生者みたい。優愛は転移者でしょ?』
『そうそう!!  登校途中にいきなりこっちの世界に来ちゃったの!  来てすぐ魔獣?  に襲われてたところを、そこにいるジェイに助けてもらって、その後色々ありながら帰り方もわからないまま今に至る……  って感じ』
『高校生?』
『こんな事になってなかったら今は高二。現役JKだよ♪』
『高校生か〜。高校生って言葉も懐かしいわ!  私は大学三年生くらいで死んじゃったみたいなの。その辺はあまり憶えてないけど、はっきり憶えてるのもイヤだし、まぁいっかってね。生まれた時から前世の記憶があって、これはもう流行りの転生ものだ!  って』

あら、お姉さんでしたか。

『今は同じ年だからタメ口でいいよ。敬語とか老けちゃう』

老けちゃうって!  思わず笑ってしまう。気さくなお姉さんでよかった。

『転生者ってさ、言ってもきっと信じてもらえないじゃない?  頭のおかしいヤツだって思われたらイヤだしさ。誰にも言えなかったから  大  解  放  感〜!!』

晴れ晴れとした顔で笑う。
こうやって見ると、お姉さんじゃなくて同じ年の女の子だ。

『家族にもウィル君にも言ってないの?』
『う〜ん……  言おうと思ったんだけどね……。いざとなると躊躇しちゃってね』

うん。まぁそうか。転生者を知らなかったら、何それ?  ってなるよね。
あ!

『知り合いに転生者いるよ!  といっても、この世界からこの世界にだけど。その人も誰にも言えないでいるよ。会ってみる?』
『転生者いるんだ!!  会ってみたい!!  転生者苦労あるあるを話したい!!』

苦労してるんだ。苦労あるあるって。笑ってしまった。

『その人にも聞いてみるね。サラはまだパエオーニアにはいるの?』
『来たばかりだよ!  やっと仕事が終わったんだもん。大国の王都観光をしなくちゃ!!』
『そうだね!  私も王都に来た時に観光に連れてってもらったけど、そりゃあもうすごかったよ!  楽しんでね!』

私はレストランをしてる事、お店の場所も教えて  『時間ができたら来てね〜♪』  と、この世界の転生者はほぼ毎日来てるから、相手からオーケーをもらったら紹介するよと約束して別れた。



帰り道でジェイから尋ねられる。

「ユア、さっきの歌姫との会話、まったく知らない言葉だったんだけど……。あれって何?」
「サラね、あの人私のいた世界からの転生者だったよ。あ、これ内緒ね!」

ジェイとラックに口止めする。
転移者という事を知っている、私の家族(といっている人たち)には、秘密を守る事を条件にサラの事を言っていいとお許しをもらっている。じゃないと、私が一緒に歌が歌えた訳がわからないもんね。ウソを言うのもイヤだしさ。

「ユアの世界の人か……」

ジェイの声は低く沈んでいた。
はて?  何でだろう?

「ジェイ?」
「うん、何でもない。アシュリーたちが心配してると思うから急いで帰ろう」

うん、そうだね。とりあえず急いで帰ろう。
心配もだけど、私的には今夜はジェイのお誕生会だ。夕方にはまだ時間があるけど、ご馳走の準備をしなくちゃ!

家に帰り着くと、すでにアシュリーたちがお料理にかかっていた。

「ただいま〜!  遅くなってごめんね!」
「ユア!  素晴らしかった〜!  歌姫と息がぴったりで、すごく感動しちゃった!  でもどこであの歌を覚えたの?」
「何ていうか……  私の知ってる歌だったの。私の元いた国の歌」
「え?  何でそれを歌姫が歌えるの?」

私は、料理をする手を止めずに簡単に説明した。

「へえぇぇ……。そんな事もあるんだね」
「うん。みんな、これは内緒だからね!」
「「了解〜!」」

私が転移者だという事に慣れている?  みんなは、あっさりとサラの事も受け入れた。
そういえばサラって本名?  日本名って何だったんだろう?  どこに住んでいたんだろう?  色々話したいな〜。



さてさてお誕生会、本日のメニューは。
毎度お馴染みのハンバーグとパンケーキ。それから新ジャガを使ってベーコンとアスパラガスのジャーンポテトと、ポテトサラダと、ポテトフライなどなど、じゃが芋メニューオンパレードにしてみた。私がポテト好きというのが大きい♪
それから肉食獣の男子チームのために、ゴロゴロチキンのトマト煮込みも作ってみた。チキンがトマト味だから、ハンバーグはデミソース風。チーズと目玉焼きものっけちゃう♪
さあ、お誕生祝いの始まりだ!

「「かんぱ〜い!」」  
ワインや果実水の杯を合わせる。
お馴染みのメンバーで賑やかに食事が始まった。ラックとリアンさんと未成年のトーイは飲まなかったけど、後の男子チームは毎度楽しそうに飲んでるよ。

お誕生会は楽しく過ぎていって、途中でおすそ分けを持たせたトーイも帰したし、私たち女子チームは先に休もうかと空いているお皿を片付けて交代でお風呂に入る。
お風呂から出て飲みチームを見に行くと、まだみんなご機嫌で飲んでいた。
あれ?  ジェイがいない。
トイレかなと思って少し待ってみるけど戻ってこない。もしかして気持ち悪くなってるかとトイレに行ってみたけどいなかった。

う〜ん。渡したい物があるんだけどな……。

探すと、店先のウッドデッキのところで椅子に座っていた。
ぼんやり月を見上げている。
そういえば今日の帰りから何だか様子が変だった。元気がないというか……。
いつもだったらまだまだみんなと楽しくお酒を飲んでいるもんね。
どうしたのかな。隣に並んで座ってみる。

私が隣に座ったのに何も言わないジェイ。私も無言で月を見上げる。
月はぼんやり朧月。私は何となく朧月の唱歌を口ずさんだ。

「ユア……」

一節歌ったところで声がかかる。

「ん?」
「それもユアの国の歌?」
「うん。ちょうどあんな月を歌った歌かな〜。菜の花の頃の歌だから、季節的にはもうちょっと春だけど」
「そっか……」

それきりまた黙ってしまう。
何が何だかわからなくて、私も黙ったまま隣に座っている。

あ!  そうだ!  渡す物があったんだ!

「ジェイ、これ」

ジェイが私を見る。
正確にいうと、ポケットから出した物を持っている私の手をね。

「お誕生日おめでとう♪  えっと……。恋、人に、なって、初めてのジェイのお誕生日だから、プレゼント!  気に入ってくれたらいんだけど……」

手には茶色い革紐に緑色の石が通った飾り紐。緑はジェイの目の色だ。

「お揃いだよ」

白っぽい革紐にピンクの石の飾り紐も見せる。ピンクは私の目の色じゃないけどね!

「ユア……」

あ〜〜〜!  やっぱ照れる!!
私は意味もなく笑ってしまう。
だってすごく恥ずかしいんだよ〜〜〜!!

「ありがとう。すごく嬉しい」

と言いながら、嬉しくなさそうなジェイ。いや、嬉しくなさそうっていう訳でもなくて……。それより、もっと大きな感情に気をとられているっていうかね?

ジェイ?
朧な月明かりでジェイを見る。
ジェイは淋しそうで哀しそうで……  私を見る瞳は不安に揺れていた。
いったいどうしたっていうんだ?

「ジェイ?」

ジェイは私の手の上に自分の手を置いた。

「ユアが歌姫と話している顔がすごく嬉しそうだったから……  故郷を思い出していたんだなとか……。  やっぱり帰りたいよな」

俯いて目を合わせないジェイ。

私は突然こっちの世界に来ちゃって、家族と離れ離れになってもう二度と会えないかもしれない。そう思うと淋しくて哀しくて、それは今でも心が冷えるほど辛い気持ちになる。
だけどもしかしたら、来た時と同じように突然帰れるかもしれない。私には捨てきれない小さな希望だけど、それはジェイにとって、私がいなくなっちゃうという大きな不安なのかも。
こっちの世界に私の家族はいないけど、それはジェイも同じで……。ご両親が亡くなっているジェイは、私とは違う本当の意味で家族がいないんだよね。

私を助けてくれたジェイ。
探し続けてくれていたジェイ。
ずっと想っていてくれたジェイ。
私のお誕生日の前日に、あんな告白をしてくれたジェイ。

何だかわからないけど、私は自分に腹が立った。好きな人になんて顔させてるんだ!  
私は勢いよく立ち上がる。

「ユア?」

急に立ち上がった私を見上げるジェイを抱きしめた。
座った人に腕を回すから、頭しか抱きしめられなかったけど。

「不安にさせてごめんね。ジェイが好きだよ。家族と同じくらい大切に思ってるし、家族とは違う気持ちで、すごく好きだよ」

恥ずかしいよりも安心させてあげたい気持ちの方が大きくて、私は一生懸命言葉を紡ぐ。言葉はもどかしい。ちゃんと伝わったかな……。

ジェイはちょっと固まった後……  私を強く引き寄せて抱きしめた。
ジェイさんや、お膝の上にのっちゃってますがな!

毎度脳内大混乱するけど、私を抱きしめるジェイが小さく震えていたから……。
まぁ、このままじっとしていてあげますか。抱きしめる腕に力を込める。

私の好きな人の不安が、少しでもなくなりますように。



さて、お誕生日の次の日はお休みにしている。連休だけど、事前に告知したから大丈夫な筈。連休なんてお店を始めてから初めてだよ!
朝ご飯を食べるジェイをこっそり見ると、何だか復活したようで元気そうだ。
よかったよかった。

連休といっても、いつものお休みと変わらない。午前中は家の事をやって、午後はお買い物をかねてお昼ご飯を食べに行く。

ワイアットさんは、どうせお休みの日は朝から来るんだからと思っているのか、お誕生会で飲み過ぎて帰るのが面倒だからか、アシュリーのお誕生日から泊まるようになっている。その前のアイザックさんのお誕生会に飲み過ぎて泊まったから、何となくそんな感じにもっていってるような……。ワイアットさん、ちゃっかりしてるな。
当たり前だけど、アシュリーの部屋にじゃないよ!  そんなのアダムが許しません!!  もちろん私たちもだけどね!

でもまぁ好きな人と一緒にいたい気持ちはわかる。
「ジェイはいいな〜」  と言うけど、それならワイアットさん、簡単な方法があるじゃありませんか。ニヤニヤ。
アシュリーがいなくなっちゃうのは淋しいから、もう少し先でいいけどさ!



連休明け。また今日から頑張るぞ〜!  と元気にお店を開ける。
二日ぶりのお客様の顔を見ながら、やっぱ働くのはいいなと思う。好きな事を仕事にできて幸せだ。

二日ぶりのジェニファーたちも住居の方の食堂に来た。あとでちょっと話があるから待ってて!  と言いつつ、ご飯を出してお店の厨房に戻る。

ランチタイムを終えた私たちは遅いお昼ご飯だ。みんなには先に食べていてもらって、私はちょっと大事な話!  とジェニファーをリンゴ林に誘う。
ラックは私につきあってご飯を食べず、ルークさんと一緒について来た。前と同じように離れたところでリンゴの手入れをしているのが笑える。
ラック、貧乏性だな。

ジェニファーにサラの事を言うと

「ユアの国の人?  なのにこっちの世界に生まれ変わったの?  興味深いわね!  私もぜひ会ってみたいわ」

快承してもらえた。
お店の場所は伝えてあるから、そのうち来ると思う。ジェニファーたちが来ている時にサラが来たら紹介するね!  という事になった。

私とは違う、転生者のあるあるも聞きたい!
時間はあるかな〜。できたらランチイムが終わるまでいてほしい。私も混ざって話したいし、それとは別に、サラとはやっぱり色々話したい。

サラとジェニファーと話すのが楽しみだ♪




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