異世界スロータイム

ひさら

間話 名前のないハーフエルフ




この世は闇だ。
今横たわっている、明かりもないこの小屋と同じだ。眼を開いていても閉じていても変わらない、真っ暗な闇だ。

もうどのくらいになるか。永い時を戦闘奴隷として過ごしてきた。負けた国の者は皆奴隷になる。男も女も、子供もだ。
オレはダークエルフの母と人間の父の間に生まれた。短い間だったが、幸せに暮らしていたと思う。今はもうその記憶も定かではない。

国同士の戦に巻き込まれ、最初の敗戦で奴隷になった。魔法が使えたから戦闘奴隷に割り振られた。父と母とはその時から会っていない。母は生きているかもしれないが、父は生きてはいないだろう。

オレの魔力はそう高くない。攻撃範囲も広くはない。広くないから前線に立たされる。相手側にも魔法使いはいる。見つかれば総攻撃される。それで何度か死にかかった。長寿のエルフといえど、致死量の出血をすればその限りではない。

奴隷同士で助け合う事はない。誰かが死んだら次は自分だ。指揮官は奴隷の消費を気にしない。戦に勝ちさえすれば、戦闘奴隷などいくらでもいる。敗戦のたび主は変わるが状況は変わらない。

死なない程度の食事と睡眠、後はひたすら戦う。戦のない時は過酷な労働を強いられる。人の子供程の身体では重労働はできない。働きが悪いと食事の量が減らされる。

ここには希望はない。絶望さえもない。
奴隷は皆、諦めた表情でただ息をしている。



今回の戦で何度目かの死の淵に立った。
停戦になり、奴隷たちは砦に戻された。戦がないなら労働が待っている。まだ息のあったオレも砦の奴隷小屋に運び込まれた。エルフだから持ち直すかと思われたようだ。


疲れた……


硬い石の床に横たわり、死を望む。
あと何日かすれば望みは叶うだろう。
そう思っていた時、フワリと身体が浮いた。

「いらないなら私がもらいます!」

何十年ぶりに人に触れたと気づいたのは、少したってからだった。
抵抗する力も、気力もない。
薄れる意識の中、黒い髪が見えた。オレと同じだ……

それがユアとの出会いだった。




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