零からの逆転

Mr

再起

瞼の奥が眩しい。外が明るいってことか……
あぁ、そういえば、俺達、異世界に来たんだっけ。
そんなことを思いながら兄、零はいつも隣にいる妹を
……否、いたはずの妹を確認しようとするも、兄の目に映ったのは白い壁だ。黒髪のいつも自分のことをお兄ちゃんと呼び、慕ってくれた妹がいなかった。
慌てて身を起こす、体がとても重く感じたがそんなことはどうでもいい、辺りを見回すとそこには少し驚いたような顔をした中年男性がいた。
「妹はどこだ」
男は変わらず驚いた顔をしているものの今はそんなことはどうでもいい、今はとにかく、最愛の妹を探さなくては
「俺の隣にいた黒髪の女の子はどこだって言ってんだよ!!」咄嗟に掴みかかってしまう、今はとにかく誰よりも妹が隣にいてほしい。
「と、隣の家で寝ているはずだ、私の妻が看病している!」俺は木製の扉をぶち破り言われた通りの家に入る
そこには、本当に妹がいた。……泣き掛けの…
「お兄ちゃんは…どこ…?お兄ちゃん…離れないで…」
と半泣きでぶつぶつと呟いている。
すぐさま妹の名前を呼ぶ「百!」
妹は俺の声を聞くなり慌てて俺を見る
「お兄ちゃんっ!!」妹は一切無駄のない動きで俺の首に飛びつく、こいつ、こんな動き出来たのか…
とりあえず、今は妹を見つけることが出来た。
妹が寝ていたベッドの横でさっきの男の妻なのかは知らないが、中年女性がこちらを少し驚いた顔で見ている。
「おお、兄妹で随分と仲がいいんだな」
後から声がかかる、振り返るとそこにはさっき俺が掴みかかってしまった男が立っていた。
「あぁ、さっきは悪い…、慌ててたもんだから…」
「いいよ、特に怪我をしたわけじゃねえし」
そう言って謝った俺に対し、男は豪快に笑う。
男は鍛えているのか、筋肉質でがっしりとしている、
一部の女性からしたらとても持てるだろう、しかも少しイケメンだ、………チッ
「俺の名前はサイだ、坊主、名前は」
「あ、俺は零、この泣いて離れない奴は妹の百だ」
俺は未だに泣いて止まない妹を指差し、男に名乗った。
「えっと…、ここは?」最初から気になっていたが
妹の次になってしまったこと、ここはどこなのかだ
「おお、そうだな、ここはナラルの中の村だ」
聞きなれない言葉が出てきた、俺はサイに聞いた
「ならる?なんだそれ」
「あれ、知らねえのか、ナラルって言うのは自然と科学で分けられた自然の方の名前だよ、因みに、科学の方はサンスだ」とサイは気軽に質問に答えてくれる。
あぁ、そういえば、この世界、自然と科学で分かれてるんだったな。ここが自然ということはサイは自然系の能力を持っているということになる。
「……能力って聞いてもいいか?」
「お、そこ聞くか、普通は聞かないけどな」
「え、やっぱ聞かないのか、悪い」
いいよいいよとサイはまた笑いながら俺を許す、
サイの様子から見るに、この世界は大分落ち着いたことが見ることが出来る。
「俺の能力は『作る』だな、簡単なものなら作るっていう能力だ、それだけ」果たしてそれは自然系なのかと
問いたいと思ったが、まずひとつ、知らなければいけないことがある。俺と百は能力持っているか否か。
その能力によってこれからどうするかが決まる。
「なぁ、能力ってどうやって知れる」
「あ?変なこと聞くな?」とサイが不思議そうな顔をした、刹那、大きい揺れが起きた。サイは慌てた顔をしたかと思えばすぐ何かをするような行動をとる。
「おい零、お前達はここにいろ、いいな?絶対に出てくんなよ?」突然サイは訳の分からないことを言い出した
外に出るな?絶対に?これから何が起こる?
疑問はあったが俺はとりあえず頷くしかなかった。
「お兄ちゃん…」声をした方向、妹の方を向くと、
百は少し不安そうな顔をしていた。それはそうだろ、
なんせ13歳の子がいきなり異世界転生し、しかも
いつの間にか見知らぬ村にいたのだ、そんな状況を
飲み込むのは大人でも困難なものである。
外がやたらと騒がしい、人の悲鳴が聞こえたと思ったら
今度は鳴き声や、怒声が聞こえたりといったことがたまにある。一体何が起きているのか、気になってしまった。サイは『出てくるな』と言っていた、見るだけなら…そう思い、妹をそっと話す、離してくれたということは意図を汲み取ってくれたのだろう。
俺は木製のドアを開けた。
……刹那、生暖かい『なにか』が俺の顔にかかり、
それと同時に何かが目の前をよぎった。
無意識に横切った『なにか』を見た。
そこにあったのは男の上半身だった。
ありえない、だが、実際にそこにあってしまうものを俺は見た。死体の男の顔は泣き顔で歪んでいる。
切断面は赤黒く、鮮血が徐々に茶色い土を赤く染め上げていく。「……お兄ちゃん…?」
俺の反応だけを見ていた妹は心配したような声をだす。
「来るな!!」妹にだけはこの現実を見せてはならない。と俺の本能が告げた、ドアを勢いよく閉め、妹の側にゆっくり寄る。
どうする、どうするどうするどうするどうするどうする
そんな疑問が俺の頭を支配した。この村は襲撃にあっている。この世界は無断で、またはゲームをしないでの
人の権利を侵害、もちろん、そこには殺人さえ例外ではない行為が神によって禁止されている。
つまり、さっきの殺された男は襲撃にあった短時間で
ゲームを仕掛けられ、そして敗北、何を賭けたのかは知らないが文字通り、『殺された』。



もうどのくらいの時間が流れたのだろうか、俺と妹は息をひっそりと潜め、時間を過ごした。
もう、男を殺したやつはいなくなっただろうか……
そんなことを思い、ゆっくりとドアを開ける。
ズチャッ、と生々しい音をたてたそれは俺の目の前に現れる。それはさっきまで元気に笑っていた。
だが、今では決して笑うどころか、泣くことも話すことも、瞬きすることすらもしない、……否、できないサイの死体があった、その死体は腹に綺麗な穴が空いていた。あまりに突然に突きつけられた現実を受け止められない、だが、それでも…、確かにサイとは本当に少ししか話せてはいないが、助けて貰った。
妹を見ると寝ていた、幸い、サイを……
否、サイ『だったもの』を見せることは避けられた。
百が起きないように、慎重に百を背負って外にでる、並んでいた家の壁には血がついている。認めたくない現実が周りに、あまりにも残酷に映し出されている。
俺はすっかり村が見えなくなった道まで来て妹を起こす。「ん……、お兄ちゃん……?」まだ少し虚ろな目をした妹は俺の顔を見るなり、徐々に真剣の目付きになっていく。「サイさん…は……?」
……どう言えば、いいのだろう、一瞬、悩んでしまったがはっきり言わなくてはならない、もしここで、偽りを言えば妹は油断してこの世界を生き、もしかしたら死んでしまうかもしれない、それだけは避けたかった。
「……サイは…死んだ…、あいつは俺たちのために戦って、そして死んだ、……百、俺はこのままじゃ…嫌だ…」涙が溢れてくる、泣いたのはいつぶりだろうか、
かなり前だった…もしかしたら物心ついた時から泣いたことなんてないのかもしれない、そんな俺が泣いてしまった。なにもできなかった自分が情けなさすぎて、どうしようもなく憎らしくて、悔しかった。
「……お兄ちゃん、私は…このままじゃ嫌だ、見ず知らずの私達にあんなに親切にしてくれた人が殺されて、それで黙ってるのはお兄ちゃんからのお願いでも、絶対に嫌だ」……声が震えている。百も本当は泣きたいのだ。
妹が我慢出来ているのに、兄が出来ていない、…情けない。涙を拭う、もうこんな思いはしたくない
「…行くぞ、百、久しぶりに俺達…、ゲーマー様の強さ、見せてやろうぜ」
「当たり前」
そう言い合い、誰よりも負けたくない、だが、最愛の妹と共に歩む、これから忙しくなりそうだと、兄妹揃ってそう思った。






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はいどうも、作者です、サイが個人的にはとても好きなキャラで1話で死なせてしまうのはとても惜しいなとそう思いながら書いたお話でした。
さて、どうやらゲーマー兄妹は目標を見つけたようなのでこれからはその目標のために動きます。
あ、話が進むと、今まで兄目線だった話が今度は妹目線になるかもしれません、零から見えていた景色は、百からはどう映るのか、自分も想像していてとても楽しいです。以上、最近眠れない作者でした。
またいつか登場するかもしれません、その時はよろしくお願いします。

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