冒険者は最強職ですよ?

夏夜弘

それは突然の出来事で 9

「さぁ……第二回戦目といこうじゃないか」

 殺気を放ちながら近寄ってくるメルノドに、レベッカとマーシュは、今すぐにでもここから逃げ出したくなる。

 そんな時だった。

 突然爆発的に強まる力を、レベッカ、マーシュ、メルノドは感じる。

 三人はその強まった力の前に、闘うことを忘れ、その方を見る。

 その力を発している原因はジンだった。

 その力の前に、メルノドは「なんだよこの力……すげぇ……」と声を漏らす。
 それはレベッカもマーシュも同じだった。
 どんどん力強くなっていくジンに、レベッカとマーシュは「これならジンは大丈夫ね……私達も負けてられないわ」「そうですね」と言葉を交わす。

 そして、レベッカとマーシュは、メルノドへ目線を戻す。
 メルノドは、まだジンの方を眺めており、隙だらけだった。

 レベッカは『これはチャンスだわ……』と思い、全力で地面を蹴り、その勢いのままメルノドへ強烈な攻撃を加える。

 それに反応できなかったメルノドは「グッ……! しまった!」と言いながらぶっ飛んでいく。

 メルノドがぶっ飛ばされ、体勢を整えられない今がチャンスと思い、レベッカは容赦なくメルノドに攻撃を仕掛ける。

 宙に浮いている状態で、為す術がないメルノドは、この状態は非常にまずいと思い、空中で身体を回転させ、なんとか攻撃の手から免れる。

 レベッカは「チッ……」と舌打ちをした後、一旦メルノドから離れる。

 メルノドは、地面へ着地すると、息を荒くしながらレベッカを睨む。

「おいおい! 不意打ちはずるいぞ!」

「貴方みたいな化け物に、ズルいもへったくれもないわ。今ので大分体力が削れたはずよ……」

「レベッカさん、このまま押し切ったら勝てますかねぇ?」

「どうかしら……回復魔法があるとは言え、正直な所厳しいわ……」

「そうですかぁ……そんなにまで強いなんて……」

 メルノドは、血を吐き捨てた後「今のは流石に頭にくるねぇ……。殺す」

 メルノドが、そう言葉を吐き、何やらブツブツと言い始め、喋っている口が止まった瞬間、メルノドの全身に黒いオーラが吸い込まれていく。
 メルノドの全身から黒いオーラがなくなると、その場に倒れ踠き苦しみだした。

「がぁっ! くっそ痛てぇ! がぁ! ……がぁぁぁぁあ!!!!」

 それを見ていたレベッカとマーシュは、何が起きているのかわからず、メルノドの様子を見ていた。

 踠き苦しんでいたメルノドだったが、暫くすると動かなくなる。

 レベッカが「死ん……だの?」と言葉にした瞬間だった。

 突然メルノドが、下を向いたまま立ち上がり、両手はだらんと下がり、足下はおぼつかなく、今にも倒れそうだった。

 突然立ち上がったメルノドに驚き、レベッカマーシュは距離を取る。

 おぼつかない足取りのままに、顔を上げたメルノドは、ゆっくりと目を開く。

 その目は真っ黒く染まっており、殺気に満ち溢れてる瞳をしていた。
 先程はふらふらしていた足取りだったが、目を開いた後に直立した状態になる。

 レベッカとマーシュは、その殺気に満ち溢れた瞳を見て、唾を飲み込む。

「な、何が起きたんですかねぇ……?」

「わ、わからないわ……」

 レベッカとマーシュはメルノドを見て怯えていると、メルノドが口を開く。

「殺……す……」

 その呟きを聞き取れなかったレベッカとマーシュは、もう一度聞こうと耳を傾ける。

 すると……

「殺す」

 レベッカが耳を傾けようとした刹那、突然耳元で声が聞こえた瞬間、腹部に激痛が走る。

 痛みに目を閉じ、暫くしてめを開くと、何故かレベッカは宙を舞っていた。

 マーシュは、レベッカの方を向いており、突然目の前からレベッカが消えた事に「……っえ?」と声が漏れる。

 レベッカにも何が起きているのかわからず、ただ宙を舞っている。
『なぜ宙に浮いているんだ……?』そう思った途端、次は地面に埋もれていた。

 再び感じた腹部の痛みに、レベッカは声を出すことも出来ず、ただ血反吐をぶちまけるだけだった。

 先程までいなかった、レベッカが、次は突然地面に埋もれた形で現れたことに、マーシュは『なにが起きているんだ?』と必死に頭で考える。そしてその答えが明らかとなる。

 地面に埋もれているレベッカの元に、突然と姿を現したのは、メルノドだった。

 マーシュはメルノドを見た瞬間、身震いが止まらなくなり、大量の汗を身体中から吹き出す。
 尋常じゃなくメルノドの身体中から溢れる殺気を目の当たりにして。

 声を出そうにも上手く喋ることが出来ず、魔法も唱えることが出来なくなる。杖を持つ手は震えてしまっていて、頭が真っ白になる。

『まずい……助けないと! でも声がでない……このままでは、あの時と一緒だ……』

 心の中ではわかっていても、それでも上手く言葉にできない。

 メルノドは、右手の爪を立て、ゆっくりとその腕を上げていく。

 『お願い……やめて……』

 そしてそのメルノドの爪を立てた右腕は、目にも留まらぬスピードで振り落とされた。

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