冒険者は最強職ですよ?

夏夜弘

もう守られるだけの僕じゃない 9

 パーティーが終わり、ウルフ達に見送られながら三人は帰っていく。

 帰り際に、ウルフの人達がジンの頬っぺに、感謝の印だと言って軽い口付けをしていく。

 この時、レベッカとマーシュが、本気で嬉しがっているジンに、殺意を抱いたのは知る由もない。

 全員が挨拶をし終えると、三人はその場を去っていく。と、突然エレンが一人だけ走って追いかけてきた。

「じ、ジンさん!」

「は、はい? どうしたんですかエレンさん?」

『この気持ちを伝えたい……でも出会ったばかりで好きって言うのはちょっと引かれるわよね……よし、ここは遠回しに会いたいってことをアピールすることにしましょう!』

 そう思い、エレンはよしっ! と小さく呟いたあと、ジンへ向けて自分の思いを伝える。

「あ、あのぉ……また来てください! 絶対ですよ!?」

『ああああ!? 何言ってるの私!? これじゃあ直球すぎでしょ!? 好きって気づかれたら……』

「絶対行きますよ〜! いてっ! なんでレベッカさんとマーシュさんは殴るんですか!?」

 エレンは嬉しさのあまり、言葉が出せず、手を振ってくるジンに手を振り返す事しかできなかった。

 そして、そのままジン達は帰ってしまった。

「ま、まぁいいわ! また来てくれるのなら、それでいいわ!」

 この日、エレンはジンとデートをした夢を見たという。

 翌日、ジンとレベッカとマーシュは、ジンの部屋でゴロゴロしていた。

「あのぉ〜。なんで僕の部屋でゴロゴロしてるんですか? それにこんな朝早くから……もう少し寝かしてくださいよ……」

「甘ったれるなぁ!! 朝早くに起きる事ができずして、なにが冒険者だ!! わかったら私達と遊べ!!」

「そーだそーだ!!」

「なんか昨日からレベッカさんとマーシュさん仲良すぎませんか!?」

「「そんなことはない!!」」

 嘘だな。仲良いくせに。知ってるんだからね!?

 ジンは、仕方なく起き上がり、何をして遊ぶかを決める。

「そえねぇ……ジンに石を投げて誰が先に当てられるかっていうのはどうかしら?」

「なんで僕が怪我をするリスクを追わなければならないんですか!? 却下です」

「……チッ。折角殺せると思ったのに……」

 聞こえてるからねレベッカさん!? だが、ここで言い返したらもっと言われそうだから無視でいこう。

「マーシュさんは何かあります?」

「ジン殺し」

「二人とも昨日から僕を殺そうとしすぎですよ!? 僕が何をしたって言うんですか!?」

「「ウルフの女性達に囲まれてキャッキャウフフしてました」」

「キャッキャウフフだと!? ぼ、僕は決してそんな楽しんでたわけでは……」

 そう言い返そうとした時だった。

 大きな音が、宿の入口の方から聞こえ、三人はそれまでの雰囲気をガラリと変える。

「今音がしましたよね? 多分……何かを壊した様な音だと思います」

「そうね、ジン、マーシュ。急いで支度をしてきなさい。私もすぐに支度をするから、そしたらすぐに様子を見に行くわよ」

 そのレベッカの指示に、二人は首肯し、すぐに支度を整える。

 三人ともすぐに支度を終え、気づかれないように入口を見に行く。

 すると、とある男の叫び声が聞こえてくる。

「おい! この宿に冒険者のガキが泊まってねぇか?」

「そ、そのような方はお泊まりなされてませんねぇ……」

「あぁ? 嘘だったらテメェ殺すぞ?」

「あ、宿主さんが脅されて……」

「まずいわ……一旦部屋の窓から外へ出るわよ?」

 そう言って宿から出て、入口の方へと回っていく。

 そして、宿の前にいた物凄く大勢の人集りに、三人は顔を歪める。

 そこには、物凄く大勢の冒険者達が集まっており、その冒険者達は皆、右頬にバツ印の傷が付けられており、周りの人は次々と窓やら扉やら店やら閉めていく。

「レベッカさん、あれは?」

「あれはこの世界でもかなり有名な盗賊グループよ。盗賊と言うよりは暴走族ね。気に入らなければ片っ端から潰していく。そんな感じのグループよ」

 ん? 気に入らなければ片っ端から潰していく……? 知ってるような無いような……

 そして、ジンだけが悩んでいると、とある男が大声で叫び出す。

「こんなかで俺らの舎弟を怪我させた奴らをさがしてるんだがぁ、知ってる奴はいねぇのがぁ!?」

 その男は、服の上からでもわかるような鍛え上げられた強靭な肉体に、焼けた色の肌、右頬についたバツ印の傷、それはいかにも暴走族と言う名前に相応しいそうな男だった。

 ん? 舎弟を怪我させた……って、あ、あいつは!?

 そこに居たのは、ジンが前日の騒動でコテンパンにしたガラの悪い男が、叫び散らしている男の横に立っていた。

「レベッカさん……」

「何? 貴方怪我させた人を知ってるの?」

「いえ……そのぉ……」

「何よぉ! 知ってるなら早くアイツを怪我させた奴の名前を言いなさいよ!」

「その事なんですが……昨日コテンパンにして追い返したって言ったじゃないですかぁ……」

「えぇ」

「それがぁ、あの人なんですよぉ……」

「……つまりは?」

「僕が犯人です! てへっ!」

 ジンは汗を吹き出しながら、引きつった笑みでピースをした。

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