未来人は魔法世界を楽しく魔改造する
いろいろ違いがあるものだ
翌朝、玄関の前でルーホ先生と落ち合った。
俺はいつもの服装で、薄茶色の貫頭衣と若草色のズボン。
一方のルーホ先生は、いつもよりシャッキリした服装だ。腰に木刀を下げている。心なしか表情もキリッとしているように見える。
「お前はいつも通りだな」
先生はため息混じりに俺の服装を見る。
でも、よそ行き用の服はなんだか窮屈で。
そんなことを思っていると、俺の隣にひょこっと人影が現れた。
「そうよ、リカルド。竜族じゃなくたって、お出かけのときはもう少し身なりに気を使うものだわ」
「あれ? ミラ姉さん……いつからいたの?」
「なによ、さっきから後ろにいたじゃない」
ミラ姉さんは、母さん譲りの青い髪をポニーテールにして、空色のワンピースを着ている。
たしか外出用の姉さんお気に入りの服だったと思う。
「ミラ姉さんもおでかけ?」
「うん、一緒に行こうと思って」
「え?」
俺とルーホ先生は顔を見合わせ、首を傾げる。
どうやら先生も、そんな話は聞いていないようだ。
姉さんの顔を見る。
「なに、ダメな理由でもあるわけ?」
「……いや、ないけど」
「いいでしょ、先生!」
「まぁ俺がいれば危ない事もないが」
「じゃ、決まりね。ほら早く行くわよ!」
姉さんの柔らかい手に引かれ、玄関を出発した。
平民ながら我が家の敷地はそれなりに広い。
いろいろな建物がある。
家族や弟子、先生が生活している母屋。毎日大量の魔道具を作り保管している工房や倉庫。野菜や果物を育てている小規模な菜園。奴隷たちの生活スペースである別館。他にも小さい建物がいくつか。
それらを眺めながら庭を横切る。
警備奴隷の兄さんに挨拶をして正門を出た。
「さて、このあたりは職人街と言われている。様々な種類の工房が集まっている場所だが、その中でも魔道具職人はかなり裕福な部類だな」
そう説明するルーホ先生の横で、ミラ姉さんはご機嫌そうに俺に告げる。
「ヘタな下級貴族の家より大きいらしいわよ」
「それはその通りだが、あまり外でそういうことを言うな」
改めて職人街を見渡すが、ルーホ先生やミラ姉さんの言うとおり、我が家ほど敷地の広い家はそう多くない。魔道具のように主に貴族が相手の商売は、やはり儲かるのだろう。
職人街をしばらく進むと小さな川に行き当たる。何人かとすれ違いながら、のんびりと川沿いを歩く。吹き抜ける風が気持ちいい。
「川に囲まれたこの範囲が職人街だ。職人街の中なら大人の目があるから、昼間ならまぁ安全と思っていい。逆に、外側は危険も多いからな、大人の付き添いなしで橋を渡ったりするなよ。特に貧民街方面はな」
俺とミラ姉さんは頷く。治安については何度も両親から念を押されていたし、俺はこれまで職人街から外に出たことはなかった。姉さんは親と一緒に出かけたことはあるようだけど。
「今日は俺がいる。少し外に行ってみよう」
橋を渡り、しばらく歩く。ルーホ先生はキリッとした顔で堂々と歩いているし、ミラ姉さんはニマニマと口元を緩めている。
しばらく行くと、道脇の木立の中に、何やら小さな祠があるのを見つけた。
「先生、あれはなんですか?」
「あぁ、あれは小神殿だ。どれ……」
先生は木立の間の小道を抜ける。ミラ姉さんと俺もそれに続いていった。
神殿といえば、丘の上にドーンと立つ大きいものしか知らない。小神殿ってことは、何かの神様を祀っているのだろうか。
「ほう。リカルド、この看板を読んでごらん」
「……えっと、『夫婦喧嘩の神殿』ですか」
「正解。ここは夫婦喧嘩の神が祀られている」
「ふーん、こんな感じなのね」
ミラ姉さんは知っていたようだけど、俺は初めて聞いた。
どんな神様なんだ……夫婦喧嘩を巻き起こす傍迷惑な神様だろうか。なんでそんなのが祀られてるんだろう。
ルーホ先生は、将来奥さんと喧嘩になったら来てみろ、とだけ言っていた。
「こんな感じで、街のあちこちにひっそりと小神殿があったりするものさ。様々な神が祀られている。気になったらいろいろと覗いてみるといい」
三人で歩きながらいろいろな会話をする。
それだけで、知らなかったこの世界のいろいろな物事が、びっくり箱のように飛び出してくる。
確かに街歩きは、こういった世の中の事を学ぶにはこの上ない勉強方法なんだろう。
中央広場には池や噴水があり、その周りは青々とした芝生に覆われている。
寝転がって本を読む若者、玉遊びをする子供達、香ばしい匂いを垂れ流す屋台。それぞれが思い思い自由に過ごしているようだ。
「先生、いい匂いがしますね」
「小腹が減ってくるな……屋台で何か買うか」
「やったぁ、私一度買ってみたかったのよね」
「ふむ。交渉は私がするから見ておくように」
先生が一つの屋台に近づく。
いったいどんな交渉術を披露してくれるんだろう。
俺と姉さんは一歩下がって先生を見る。
「この肉串を三本くれ」
「へい。定価は一本につき銅貨二枚です」
「そうか」
「ですが、旦那は敬愛する竜族様でごぜぇます」
「うむ」
「大ぶりで新鮮なものを特別に選びましょう」
「ほう」
「一本銅貨三枚、三本で銅貨九枚では?」
「頂こう」
先生が布袋から銅貨をジャラジャラ出す。
俺とミラ姉さんは口をあんぐり開けてそれを見ていた。
先生が串を持って帰ってくる。
「どうだ、参考になったか」
「交渉どころか、高くなってるじゃない!」
「ふむ、そこに気づくとは良いことだ」
俺たちは池のそばに腰掛けると、肉串を頬張り始めた。
最近は慣れてきたのか、肉類を食べるときに生き物の顔が浮かぶことは少なくなった。肉串は匂いも良かったが、味もなかなかに美味しい。
「お前たちには、俺は煽てられて騙されて、高い買い物をしたように見えていることだろうな」
「まぁ、そうですね」
「そうとしか見えないわよ」
「ふふ、幼くても根っからの人族、ということだな」
先生は小さく笑うと、食べ終わった串を左手でクルクルと回した。
「他の種族から見ると、竜族はアホらしいくらい自らの誇りに拘っているらしいな。俺にとっては普通のことなんだが」
確かに。はじめに鳥扱いしてしまった時も。
その後も何度か逆鱗に触れて走らされた時も。
俺からすると「どうしてそんなことで?」と思う時もあったけど、総じて「誇りを傷つけられた」という理由だった。
「じゃあ人族は、他の種族からどう思われていると思う?」
うーん、なんだろう。
俺は肉串を頬張りながら考える。前の世界との価値観の違いはあれど、竜族にとっての「誇り」ような極端な面には出会っていない気がする。
「んー、手先が器用よね」
「確かにそれは一面としてあるな。七種族のなかで、優れた職人になるのは殆どが人族だ。ただ今回は、能力じゃなくて性格的な特徴を考えてみようか」
だめだな、全然見当がつかない。
ミラ姉さんを見ても首を傾げるばかりだったため、俺たち揃って降参した。
「まぁ、なかなか自分では気づかんものか。我々他種族から見ると、人族はみな『持ちたがり』なんだ」
持ちたがり?
何かを所有したがる、ということだろうか。
「例えば先程の屋台。銅貨一枚でも高く買わせようとしてくるだろう? 君たちの家も、魔道具を作られるだけ作って、売られるだけ売って、たくさん儲けるほど良いことだ、という思想で日々を過ごしているじゃないか」
「でも、生きるためには仕事をしなくちゃいけないわ」
「そうだね。でも、生きるのに必要な額以上のお金を稼いでいるんじゃないかね」
先生の言いたいことがなんとなく分かった。
確かに、単純に生きていくためにはそこまで多くのものは必要ないのかもしれない。自分が使える量以上にたくさんのお金を稼ぎたがる、というのは言われてみればその通りだ。
「他にはそうだな……例えば竜族の国では、美術品は基本的に目に見える場所に飾る。家に入りきらない場合は、外に置くことも多いな。その方が道行く者たちの目を楽しませられるだろう」
「へぇ、街が賑やかになりそうね」
「あぁ。だが人族は、せっかくの芸術を倉庫にしまったりするだろう。あれは他の種族から見ると奇妙な行動だ」
「むぅ……でも、盗まれたら困るわ。高価な絵画が雨ざらしになったら劣化するし」
「だからって、倉庫にしまったら芸術の意味をなしていないだろう。それに、他家の庭の美術品を盗んで自分の家に飾ったらバレバレではないか」
「……倉庫にしまったりするんじゃない?」
「それが意味わからんのだ」
ルーホ先生の言葉は目からウロコだった。
確かにそう言われると、人族は『持ちたがり』……何かを必要以上に所有したがる、という特徴があるんだろう。
種族学はまだ習っていないけど、これから色々と教えてもらおう。
「気分を害したなら申し訳ないが、別にそれが悪いと言っているんじゃない。単純に、人族以外はそこまで極端に『持ちたがる』ことがないってだけさ。それで、さっきの交渉につながるわけだ」
俺は納得したけど、ミラ姉さんはまだ首を傾げていた。俺は先生と答え合わせをする。
「先生は誇りを、店主はお金を……ってことですよね」
「その通りだ。流石に大金の絡む商取引でこんなことはしないが、銅貨レベルの小さい買い物なら多少多めに払っても全く惜しくはないさ」
先生は穏やかに笑い、自分の手を見つめる。
「そういう度量の大きい所をつい見せたくなる、というのも竜族の特徴なのだろう。私の誇りを尊重してくれるのなら一向に構わない」
一方の人族の商店にとっては、竜族は金払いの良い上客ということだ。Win-Winの関係と言っても良い。
世界が変われば常識も変わると思っていたが、種族間でもいろいろと違いがあるものだ。
改めて、俺はこの世界の奥の深さを感じた。
その傍らでミラ姉さんは「変なの」とだけ呟いた。
俺はいつもの服装で、薄茶色の貫頭衣と若草色のズボン。
一方のルーホ先生は、いつもよりシャッキリした服装だ。腰に木刀を下げている。心なしか表情もキリッとしているように見える。
「お前はいつも通りだな」
先生はため息混じりに俺の服装を見る。
でも、よそ行き用の服はなんだか窮屈で。
そんなことを思っていると、俺の隣にひょこっと人影が現れた。
「そうよ、リカルド。竜族じゃなくたって、お出かけのときはもう少し身なりに気を使うものだわ」
「あれ? ミラ姉さん……いつからいたの?」
「なによ、さっきから後ろにいたじゃない」
ミラ姉さんは、母さん譲りの青い髪をポニーテールにして、空色のワンピースを着ている。
たしか外出用の姉さんお気に入りの服だったと思う。
「ミラ姉さんもおでかけ?」
「うん、一緒に行こうと思って」
「え?」
俺とルーホ先生は顔を見合わせ、首を傾げる。
どうやら先生も、そんな話は聞いていないようだ。
姉さんの顔を見る。
「なに、ダメな理由でもあるわけ?」
「……いや、ないけど」
「いいでしょ、先生!」
「まぁ俺がいれば危ない事もないが」
「じゃ、決まりね。ほら早く行くわよ!」
姉さんの柔らかい手に引かれ、玄関を出発した。
平民ながら我が家の敷地はそれなりに広い。
いろいろな建物がある。
家族や弟子、先生が生活している母屋。毎日大量の魔道具を作り保管している工房や倉庫。野菜や果物を育てている小規模な菜園。奴隷たちの生活スペースである別館。他にも小さい建物がいくつか。
それらを眺めながら庭を横切る。
警備奴隷の兄さんに挨拶をして正門を出た。
「さて、このあたりは職人街と言われている。様々な種類の工房が集まっている場所だが、その中でも魔道具職人はかなり裕福な部類だな」
そう説明するルーホ先生の横で、ミラ姉さんはご機嫌そうに俺に告げる。
「ヘタな下級貴族の家より大きいらしいわよ」
「それはその通りだが、あまり外でそういうことを言うな」
改めて職人街を見渡すが、ルーホ先生やミラ姉さんの言うとおり、我が家ほど敷地の広い家はそう多くない。魔道具のように主に貴族が相手の商売は、やはり儲かるのだろう。
職人街をしばらく進むと小さな川に行き当たる。何人かとすれ違いながら、のんびりと川沿いを歩く。吹き抜ける風が気持ちいい。
「川に囲まれたこの範囲が職人街だ。職人街の中なら大人の目があるから、昼間ならまぁ安全と思っていい。逆に、外側は危険も多いからな、大人の付き添いなしで橋を渡ったりするなよ。特に貧民街方面はな」
俺とミラ姉さんは頷く。治安については何度も両親から念を押されていたし、俺はこれまで職人街から外に出たことはなかった。姉さんは親と一緒に出かけたことはあるようだけど。
「今日は俺がいる。少し外に行ってみよう」
橋を渡り、しばらく歩く。ルーホ先生はキリッとした顔で堂々と歩いているし、ミラ姉さんはニマニマと口元を緩めている。
しばらく行くと、道脇の木立の中に、何やら小さな祠があるのを見つけた。
「先生、あれはなんですか?」
「あぁ、あれは小神殿だ。どれ……」
先生は木立の間の小道を抜ける。ミラ姉さんと俺もそれに続いていった。
神殿といえば、丘の上にドーンと立つ大きいものしか知らない。小神殿ってことは、何かの神様を祀っているのだろうか。
「ほう。リカルド、この看板を読んでごらん」
「……えっと、『夫婦喧嘩の神殿』ですか」
「正解。ここは夫婦喧嘩の神が祀られている」
「ふーん、こんな感じなのね」
ミラ姉さんは知っていたようだけど、俺は初めて聞いた。
どんな神様なんだ……夫婦喧嘩を巻き起こす傍迷惑な神様だろうか。なんでそんなのが祀られてるんだろう。
ルーホ先生は、将来奥さんと喧嘩になったら来てみろ、とだけ言っていた。
「こんな感じで、街のあちこちにひっそりと小神殿があったりするものさ。様々な神が祀られている。気になったらいろいろと覗いてみるといい」
三人で歩きながらいろいろな会話をする。
それだけで、知らなかったこの世界のいろいろな物事が、びっくり箱のように飛び出してくる。
確かに街歩きは、こういった世の中の事を学ぶにはこの上ない勉強方法なんだろう。
中央広場には池や噴水があり、その周りは青々とした芝生に覆われている。
寝転がって本を読む若者、玉遊びをする子供達、香ばしい匂いを垂れ流す屋台。それぞれが思い思い自由に過ごしているようだ。
「先生、いい匂いがしますね」
「小腹が減ってくるな……屋台で何か買うか」
「やったぁ、私一度買ってみたかったのよね」
「ふむ。交渉は私がするから見ておくように」
先生が一つの屋台に近づく。
いったいどんな交渉術を披露してくれるんだろう。
俺と姉さんは一歩下がって先生を見る。
「この肉串を三本くれ」
「へい。定価は一本につき銅貨二枚です」
「そうか」
「ですが、旦那は敬愛する竜族様でごぜぇます」
「うむ」
「大ぶりで新鮮なものを特別に選びましょう」
「ほう」
「一本銅貨三枚、三本で銅貨九枚では?」
「頂こう」
先生が布袋から銅貨をジャラジャラ出す。
俺とミラ姉さんは口をあんぐり開けてそれを見ていた。
先生が串を持って帰ってくる。
「どうだ、参考になったか」
「交渉どころか、高くなってるじゃない!」
「ふむ、そこに気づくとは良いことだ」
俺たちは池のそばに腰掛けると、肉串を頬張り始めた。
最近は慣れてきたのか、肉類を食べるときに生き物の顔が浮かぶことは少なくなった。肉串は匂いも良かったが、味もなかなかに美味しい。
「お前たちには、俺は煽てられて騙されて、高い買い物をしたように見えていることだろうな」
「まぁ、そうですね」
「そうとしか見えないわよ」
「ふふ、幼くても根っからの人族、ということだな」
先生は小さく笑うと、食べ終わった串を左手でクルクルと回した。
「他の種族から見ると、竜族はアホらしいくらい自らの誇りに拘っているらしいな。俺にとっては普通のことなんだが」
確かに。はじめに鳥扱いしてしまった時も。
その後も何度か逆鱗に触れて走らされた時も。
俺からすると「どうしてそんなことで?」と思う時もあったけど、総じて「誇りを傷つけられた」という理由だった。
「じゃあ人族は、他の種族からどう思われていると思う?」
うーん、なんだろう。
俺は肉串を頬張りながら考える。前の世界との価値観の違いはあれど、竜族にとっての「誇り」ような極端な面には出会っていない気がする。
「んー、手先が器用よね」
「確かにそれは一面としてあるな。七種族のなかで、優れた職人になるのは殆どが人族だ。ただ今回は、能力じゃなくて性格的な特徴を考えてみようか」
だめだな、全然見当がつかない。
ミラ姉さんを見ても首を傾げるばかりだったため、俺たち揃って降参した。
「まぁ、なかなか自分では気づかんものか。我々他種族から見ると、人族はみな『持ちたがり』なんだ」
持ちたがり?
何かを所有したがる、ということだろうか。
「例えば先程の屋台。銅貨一枚でも高く買わせようとしてくるだろう? 君たちの家も、魔道具を作られるだけ作って、売られるだけ売って、たくさん儲けるほど良いことだ、という思想で日々を過ごしているじゃないか」
「でも、生きるためには仕事をしなくちゃいけないわ」
「そうだね。でも、生きるのに必要な額以上のお金を稼いでいるんじゃないかね」
先生の言いたいことがなんとなく分かった。
確かに、単純に生きていくためにはそこまで多くのものは必要ないのかもしれない。自分が使える量以上にたくさんのお金を稼ぎたがる、というのは言われてみればその通りだ。
「他にはそうだな……例えば竜族の国では、美術品は基本的に目に見える場所に飾る。家に入りきらない場合は、外に置くことも多いな。その方が道行く者たちの目を楽しませられるだろう」
「へぇ、街が賑やかになりそうね」
「あぁ。だが人族は、せっかくの芸術を倉庫にしまったりするだろう。あれは他の種族から見ると奇妙な行動だ」
「むぅ……でも、盗まれたら困るわ。高価な絵画が雨ざらしになったら劣化するし」
「だからって、倉庫にしまったら芸術の意味をなしていないだろう。それに、他家の庭の美術品を盗んで自分の家に飾ったらバレバレではないか」
「……倉庫にしまったりするんじゃない?」
「それが意味わからんのだ」
ルーホ先生の言葉は目からウロコだった。
確かにそう言われると、人族は『持ちたがり』……何かを必要以上に所有したがる、という特徴があるんだろう。
種族学はまだ習っていないけど、これから色々と教えてもらおう。
「気分を害したなら申し訳ないが、別にそれが悪いと言っているんじゃない。単純に、人族以外はそこまで極端に『持ちたがる』ことがないってだけさ。それで、さっきの交渉につながるわけだ」
俺は納得したけど、ミラ姉さんはまだ首を傾げていた。俺は先生と答え合わせをする。
「先生は誇りを、店主はお金を……ってことですよね」
「その通りだ。流石に大金の絡む商取引でこんなことはしないが、銅貨レベルの小さい買い物なら多少多めに払っても全く惜しくはないさ」
先生は穏やかに笑い、自分の手を見つめる。
「そういう度量の大きい所をつい見せたくなる、というのも竜族の特徴なのだろう。私の誇りを尊重してくれるのなら一向に構わない」
一方の人族の商店にとっては、竜族は金払いの良い上客ということだ。Win-Winの関係と言っても良い。
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改めて、俺はこの世界の奥の深さを感じた。
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