魔王をやめさせられたので、村娘になって辺境でスローライフを送ります

八木山蒼

20話 歓迎されし魔王

 料理屋オリヴィンにて。

「えーでは、ミネラルの村の新たな住人、シャイとニコルを歓迎するしるしとしまして……かんぱいっ!」

 ルカの音頭に合わせ、私たちは「乾杯!」とコップを鳴らした。
 今日はオリヴィンを貸し切って、私たちの歓迎会が催されていた。ちなみに女子会もかねているらしく、参加しているのは私とニコルはもちろん、レアにルカ、マイカ、サニ、ルチル、そしてポル・クルの双子姉妹、あとは保護者としてスピネル。

 貸し切りのオリヴィンにはスピネルとレア手製の料理の数々にジュース、皆が持ち寄った菓子なども並べられ、さながら立食パーティのような様相だ。ついでにポルクルが張り切って歓迎会の飾りつけをしたようで、花や紙の飾りなどがあちこちに彩られている。

 規模こそ小さくも心温まるもてなしを、私はとても嬉しく感じていた。

「我々のためにこうも立派な歓迎会を催してくれるとは……感謝しておるぞ、皆」

 改めて皆に礼を言うと、発案者であるマイカがぶんぶんと首を横に振った。

「かしこまんないでよはーずーかーしーいー! ぶっちゃけあたしたち理由つけて騒ぎたいだけだし! スピネルさんはお店貸し切りにしてくれてありがとねー!」

 マイカが話を振ると、カウンターにいるスピネルは微笑んだ。

「いいのいいのどうせ小さい店だし、大事な家族の歓迎会だものね! でも女子会に出るのはなー、女子って年齢じゃないし」
「やーだもうスピネルさん女の子はココロだよココロ! うちのママだっていつもそう言ってるし、スピネルさんだってジョシジョシ! たぶん!」
「たぶんってなにさ」

 マイカとスピネルは年の差も気にせずに話に花を咲かせる。こういう風に誰とでも打ち解け合えるのがマイカのすごいところだ。
 そうして感心していると、料理の乗った小皿が私に差し出された。

「ほらシャイ、遠慮せずに食べろよ。飲み物も足りなかったら言うんだぞ」

 顔を上げれば皿を持っていたのはルカだった。皿の上には私からは遠い場所にある料理が盛られている、あいかわらず面倒見のいい娘だ。

「うむありがとう、いただこう」
「ニコルは……言われなくても食べてるか。いい食べっぷりだな」

 ルカは私の隣のニコルを見て苦笑する、ニコルは言われるまでもなく皿に盛られた料理を次々に口に運んでいた。いやしい奴である。

「ヘイヘーイシャイちー!」
「この会場をスンばらしぃく飾り付けた双子に言うこたないのかーい!?」

 ハイテンションで乱入してきたのはポル・クルの双子、子供らしくイベントにはしゃいでいるのかいつにもまして元気だ。
 この歓迎会のためにオリヴィンを飾り付けてくれたという双子、オリヴィンにあるのは紙で作った輪の綱や花飾り、たいしたうまくはないが私とニコルの似顔絵など、彼女らなりにがんばって飾ってくれたことがわかる。

「そうだな、言い忘れていたが、ありがとう」

 素直に謝意を述べると双子は満足そうに「えへへ」と微笑んだ。こうして笑っていれば年相応の子供でかわいげもあるのだが……と油断していると、いつの間にか私の手からルカがくれた皿が消え失せていた。

「へっへーん、料理いっただきー!」
「こいつぁクルたちのもんだぜぇー! ぐへへへへー!」

 ちゃっかりと料理を奪い取った双子はさっさと逃げていった。やれやれ、と私もルカも苦笑した。

「どうするシャイ、また取ってきてやろうか?」
「いやいい、自分でいく。どうやらあそこにいる奴が私と話したそうなのでな」
「あそこ? ああ、なるほどな」

 私は席を立ち、隅の方で存在感を消すことに躍起になっているルチルへと歩み寄った。私の接近に気付きびくっ、とルチルは身を震わせた。

「ルチル、そんなところで小さくなってないで、お主も楽しむがよい」
「せ、先生! いいいいやこれは先生とニコルのための会なので、私などが楽しむなんて……」
「いいから楽しめ、その方が私も嬉しい」
「え、は、はいっ! せ、先生がそうおっしゃるなら……!」

 ルチルはまるで意を決したという風に立ち上がると、とりあえずといった感じでニコルの方へと歩いていった。ニコルもニコルで食事の手を止めてなにやらルチルに話しかけている。
 どうもあの2人、私の思惑通りに親しくなったはずだが怪しい。ルチルが私を先生と呼ぶのもそのままだし……なんか2人して私を見ておかしな笑みを浮かべているし。

 まあよい。ところで本来ルチルと親しいはずのサニはどうした、と思い探してみると、サニはテーブルの上の料理に夢中になっているようだった。そういえばこ奴、大の大人が満腹になる量を軽食と称して平らげるほどの大ぐらいかつ食いしん坊。華やかな料理にすっかり心を奪われてしまっている、まあ元よりマイペースなサニらしいともいえる。

 と、その時。

「シャイさん」

 ふいに声を掛けられて振り向くと、レアが立っていた。相変わらずその表情はどこか堅いが、やはりレアの顔を見ると私も自然と顔がほころぶ。レアの存在は、私の望む平穏の象徴ともいえるからだ。

「おおレア、お主も料理を手伝ってくれたのだろう、ありがとう。お主も食べておるか?」
「はい。私より、シャイさんは楽しんでいますか?」

 レアの問いに、私は笑顔で答えた。

「もちろんだ、皆にこのような会を開いてもらって言い尽くせないくらい喜んでおる。私はこういった賑やかで穏やかな雰囲気が好きだ、皆が楽しんでいるのを見るのが私の楽しみでもあるよ」
「……そうですか」

 その時なぜかレアはちらりと後ろを見た後、じっと私を見た。その目はいつになく真っ直ぐで、レアに見つめられた私は少しどぎまぎとしてしまう。

 レアはかしこまった様子で言った。

「シャイさん。私も、みんなも、あなたたちを歓迎しています。どうかこの村で、シャイさんが望まれるように生活してくださいね。私も、シャイさんが来てくれて、嬉しいです」

 妙にあらたまったレアの言葉、私は喜び半分困惑半分で「あ、ああ」と曖昧な返事しか返せなかった。

「レアっちー!」
「こっちきてよーこれどうやって食べんのー?」

 その時、双子がレアを呼んだので、レアは私にぺこりと頭を下げると踵を返し、双子の方へと歩いていった。
 私はレアの様子に違和感を覚えつつ、歓迎会に戻るのだった。



 その後、すっかり日が暮れるまで歓迎会は続き、私たちはよく食べ、飲み、騒いだ。

 ニコルが魔法を披露しようとして失敗したり、サニが料理を喉に詰まらせたり、マイカがまた私の髪をデコレーションし始めたりとすったもんだあったが、楽しかった。

 気の置けない仲間たちとこうして卓を囲む。それだけのことができる平穏を、私は存分に噛み締めたのだった。

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