魔王をやめさせられたので、村娘になって辺境でスローライフを送ります

八木山蒼

4話 紹介されし魔王

 オリヴィン家に居候することが決まった後、私はこのミネラルの村を案内された。

 山地の中腹に作られたこの村は、山地の草木や鉱物を収集する際に風雨をしのぐため拠点を作ったのに始まり、次第に人が集まり村ができていったらしい。

 現在の人口は100人程度、主産業は農業と山地の素材の売買。

 最寄りの街までは馬を使って半日かかるというまさしく辺境だ。

 魔物などもまったく出ないこの村で住民は友人と談話したりほどほどに仕事したりと平穏に暮らしている。

 ゆったりとした時の流れる辺境の田舎、ミネラルの村は私が抱いた印象の通りの、平穏を追い求める私にとっては夢のような場所だった。



 料理屋オリヴィンの主でレアの母、スピネルに連れられて私は村を案内されていた。もちろんレアもいっしょだ。スピネルは両手でそれぞれ私とレアの手を引く、まるで子供のような扱いに私は気恥ずかしくもあったが、不思議と嫌だとは思わなかった。ちなみにマナミは私を2人に任せ馬のエサをやりに行っている。

 整備された街道を歩きながらあれはなんの店、こっちは誰の家と順に紹介していくスピネルは、村の全ての家と住人を把握しているらしい。客商売をしているのもあるだろうが、何よりも村人同士の距離が近く親しいのだろう。実に平穏、私は嬉しかった。

 しかしの時、ふいにスピネルが問いかける。

「そういえばシャイちゃんって歳はいくつなの?」

 私は答えに詰まった。魔王としての実年齢を言うわけにもいかないし魔女の具体的な年齢も知らない。ここは適当に誤魔化すしかない。

「た、たしか、15歳、くらいだ。うん」

 あまり人間の体には詳しくないが、魔女の体はだいたいそれくらいだったはずだ。実際におかしな答えでもなかったのかスピネルはあっさり頷いた。

「ミネラルの村って子供が少なくてねー、特に女の子なんて手で数えるくらいしかいないんだよね。だからシャイちゃんが来てみんな喜ぶと思うよ。ねっ、レア」

 スピネルに促されると、レアもこくんと頷いた。なるほど人口100人ならそんなものか。

「数が少ない分みんな仲良しで姉妹みたいな感じでね、シャイちゃんはその真ん中くらいの歳になるのかな、レアは12歳だし。みんないい子だよ、きっとシャイちゃんも……」

 話している途中でスピネルは何かを見つけて言葉を止めた。

「噂をすればその1人だ。おーい!」

 スピネルは足を止めて私の手を離し、遠くへ手を振った。その先には近づいてくる人影があり、スピネルに気付くと少し足を早めて小走りで駆け寄ってきた。

 それは私よりも少しだけ背の高い少女だった。黒髪を短く切り揃え、動きやすそうな丈の短い布服を着ている。赤色の目は活発そうな印象を与え、顔立ちは中性的で美少年のようにも見える。スピネルに対し手を振る右手の手首には白い石の連なったブレスレットをつけていた。

 黒髪の少女はスピネルの前まで来るとにかっと軽快に笑った。

「スピネルさん! 珍しいな今の時間に外に出てるなんて、私も今から店に行くところだったんだ」
「ええ、実は今日は特別な日でね。私たちに新しい家族が出来たんだよ」

 家族? とオウム返しにし、黒髪の少女は私の存在に気付きこちらに視線を向けた。黒髪の少女は私より少しだが目線が高いので少女には自然と見下ろされる形になり、私の方は見上げることになる。大人の年齢のスピネルはともかく、まだ若い少女を見上げるのは少し新鮮で恥ずかしい感じもした。

「紹介するよ、この子はシャイ。行くところがないらしくてね、今日からうちでいっしょに住むことにしたんだ」

 スピネルがそう言うと、ええっと黒髪の少女は驚き顔を見せた。

「い、行くところがない? それってどういうことなんだ? こんな辺境の村そうそう来れるはずがないだろ? 親はどうしたんだ?」
「それがね……ちょっと訳ありみたいで……」

 スピネルは私をちらりと見て言いよどむ。何やら話し辛そうだったので、私は一歩踏み出して自分から自己紹介してやることにした。

「我が名はシャイ、ゆえあってこの地に追放され家族もおらぬ。これよりこの村に住みオリヴィンで世話になることになった! フハハハ」

 私は堂々と笑みを浮かべて言ったのが、追放されて家族もいない、と語ると少女はより一層の驚き顔を見せて絶句した。スピネルが言いよどんだことといい、やはり人間の価値観だと『家族がいない』というのは想像よりも重いことのようだ。

 黒髪の少女はしばし私を見つめ、そうか、と小さい呟いた後……いきなり、私をきつく抱きしめた。

「ひゃっ……!?」

 思わぬ展開に私の口から高い声が漏れる。少女の柔らかな体が全身に押し当てられ、私はただ目を白黒させて硬直した。
 しかし一方で私を抱きしめる黒髪の少女は強くその身を引き寄せる。

「辛かったな、だが安心しろ、これからは私たちが家族になるから! 何も心配しなくていいぞ、私が守ってやる!」
「は、はあ……うぐっ」

 少女の力は思いの外強く、私は少し苦しかった。

「あ、あああ、す、すまん、つい力が入ってしまった」

 それに気付いた少女は慌てて私を離し、ようやく息苦しさから解放される。どうやらこの少女は感情が昂りやすい性格のようだ。
 するとそんな少女に呆れるようにレアが口を開いた。

「いつものことですが、ルカさんは心配性すぎです」
「す、すまん。自覚はあるんだが……」

 黒髪の少女はレアに言われて気恥ずかしそうに頭をかいた後、「コホン」とわざとらしく咳の真似で流れを切り、改めて私と向かい合った。

「本題が遅れたが……私はルカだ、ルカ・オーソクレース。歳は17、料理屋オリヴィンでちょっとした手伝いをしているんだ」

 なるほど、オリヴィンの従業員だったのか。道理でスピネルやレアと親しいわけだ。

「お前はシャイだったな、これからよろしく。何かあったら遠慮なく頼ってくれよ、な?」

 黒髪の少女あらためルカは言われた早々心配性を発揮しているようだった。騙しているようで少し気が引けたが、気に掛けてくれるのはありがたいので気持ちは素直に受け取ることとする。

「さて、じゃあそろそろお店に戻ろうか! ルカちゃんも来たし、お客も来る頃だろうしね」

 スピネルがパンと手を叩いて言った、ルカはさっき店に向かっていたと言っていたし、料理屋オリヴィンのかき入れ時なのだろう。
 とその時、ルカがこんな提案をしてきた。

「そうだ、よければシャイも手伝いをしてみないか?」
「なに?」

 そのルカの提案にスピネルとレアも同調した。

「いいねえ、これから同じ屋根の下で住むんだし、その方が仲良くなれそうだ」
「私も、シャイさんと一緒に働けるなら……嬉しいです」

 ふむ、と私は考える。たしかにこの3人が働くそばで1人だけぽつねんと佇んでいるのは気が引ける、何より私より年下(少なくとも見た目は)のレアが働いているのに私がぼーっとしているわけにもいかないだろう。ただ飯ぐらいもごめんだ。

「わかった、そうさせてもらおう。だが私にはそういった経験がまったくないぞ」
「だいじょうぶ、最初は簡単なことだけやってもらうし、レアもルカもサポートするから。ねっ、2人とも?」

 スピネルが問いかけると、2人は

「もちろんです」
「ああ、任せてくれ!」

 と力強く頷いた。うんうんとスピネルも満足そうに笑う。

「それじゃ店に戻ろう! シャイちゃんの制服はルカちゃんの予備でいいよね」
「ああ、遠慮なく使ってくれ」
「シャイさん、私がちゃんと教えてあげます。いっしょにがんばりましょう」
「うむ! 労働など生まれて初めてだ、ちと楽しみでもある、フッハハハ」

 そうして、私たちは連れ立って店へと戻っていくのだった。

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