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闇と雷の混血〜腐の者の楽園〜

音絃 莉月

プロローグ〜一度目の終わり〜


(.........やっと終わった)

 空が徐々に茜色に染まっていくのを見ながら遅れた時間を取り戻すように早足で通学路を歩く。見えてきた横断歩道の向こう側に姉がいた。
涼夜に気づいて手を振ってくれる姉に手を振り返しながら涼夜は思う。

(ほんと美人だよなぁ。これで今から俺と行くところが本屋のBLコーナーじゃなかったらなぁ。性格も良いのに、勿体無いな。言ったら怒られるけど。)

 そう彼ら姉弟は腐っているのだ。両親以外の誰にもばれていない。隠しているわけではないのだが、表の印象と全く違う為に片鱗を見ても脳が幻想を壊すまいとリセットするのだろう。
この姉弟はモテるのだ。気が付いていないが。

 信号が青になるのを待つ間涼夜は目当ての物に思いを馳せる。
今回の小説は腐仲間の間でも期待値が高いのだ。そうしているとふと視界の端に紅が映った。視線を向けて見たものは黒っぽい塊。
(.........猫?)
 その塊はアスファルトに同化していてその紅眼が浮き出て見える。よく見ると仔猫のようだ。弱々しく動けないらしい。その塊と目が合った時涼夜は硬直した。
 
幸いにも車通りは多くない。仔猫を抱えて向こう側に走れば助けられるだろう。それでも涼夜は動けなかった。  
この場面で思い出すのは過去のトラウマだ。
 
中1の時生まれて初めて見る交通事故と人の死。鉄の塊に吹き飛ばされた人が自分の目の前で人生を終える記憶。
苦しげに見開かれた瞳から生気が感じられなくなっていく光景。涼夜にとっての救いはその死が『見知らぬ誰か』のものであった事。
 
そして不運だったのが野次馬というには余りにも目の前の、それこそ自分の靴にその人のものだった紅がかかりその人だったものと目が合う距離だった事である。

 その記憶は涼夜の心にトラウマとして大きな傷を残し、車の音ですら耳に入れば吐き気がした。

 それでも家族の支えもあり、高校に上がる頃には信号が青になった事を確認して左右の確認。最後にもう一度青である事を確認しながら耳をすませ、車の音が近くにしない事を確認した後に全力疾走で渡れば問題なく高校にも通えるようになった。
お陰で瞬発力は上がった。勉強は元々好きなので遅れはない。

 そんな事をしなければ渡れないのだ。いくら車通りが少ないとはいえ信号が赤の状態で渡れるほど回復していない。
 結局恐怖に勝てず、車通りが少ないし引かれないだろうと思っているともう一度仔猫と目が合い縋るようなその目で弱々しく助けを求めるような声がした。

 だが、その声に応えたのは涼夜ではなく鉄の塊だった。

 仔猫鳴き声に涼夜が無意識の内に唾を飲んだと同時に仔猫の上を車が通過する。
 そして涼夜は後悔した。自分がトラウマ過去なんかに勝てないせいで仔猫が死んだのだと。

 だが、それもほんの一瞬。

 車が通った後にもう一度二つの紅を見た瞬間涼夜はほぼ無意識の内に走り出していた。
数瞬前に目の前の小さき命が散らなかった事に感謝して。
 仔猫を助ける事に必死だった涼夜は姉の慌てた声も聞こえなかった。それでも仔猫を抱き上げることに成功する。

(よかっーーーーっっ⁈)

 少しの安堵の束の間、自分のすぐ横から聞こえる空気を震わせる警告音に本能が叫ぶ。
 この状況で視界映った姉に仔猫を投げるという涼夜の行動は最善だったのだろう。

 それも後一瞬判断が遅れていれば抱えていた子猫は、仔猫から手が離れた瞬間に凄まじい衝撃で宙を舞った涼夜の巻き添えになっていただろうから。

 衝撃を受け視界が暗転した後に襲ってきた浮遊感を感じながら脳の中に物凄い勢いで流れる過去の記憶を観ていた。

 地面に打ち付けられると同時に観たのは今の自分と同じ状況の『見知らぬ誰か』の姿。

 震える瞼を押し上げ仔猫を抱え絶望に顔を歪ませながら駆け寄って来る姉を見た時、仔猫の身の安全が保障された事への安堵と自分以上の悲惨な状況を目撃してしまった姉の精神の心配。

 姉にとって今、宙を舞ったのは『見知らぬ誰か』ではないのだから。

 少し遠くに聞く姉の声と仔猫の鳴き声、車同士の衝突音と人々の悲鳴。

 それらを聞きながら自らの『終わり』を唖然と理解した。
そして涙を流す姉を見て姉にそんなトラウマを抱いて欲しく無い一心で、少しの笑顔を作りながらかすれる声で言った。

「......ね、ちゃ...、.........ねこ、たの...む。お、れ...、転生.........す、るわ.........。」

 姉はそんな涼夜の言葉を受け涙の溜まった眼を大きく見開いた後、呆れたようにフッと眼を細め言った。

「......バカ。精々、今回恋愛出来なかった分、ハーレム作ってこい。」

 眼を細めた拍子に溢れた涙が頬を伝ったその微笑みの表情を最期に沈んでいく意識の中、姉の言った『ハーレム』にとある副音声が存在するという恐ろしい想像をしていた。


......それが、現実のものになるとも知らずに。

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