異世界転移なんてクソゲーだ!

錫メッキ

1-1主人公、召喚される




目の前に広がる青い空、暗く生い茂った森。
俺は綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込むと、空に向かって叫んだ。


「異世界転移なんて、
クソゲーだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


…事の始まりは1時間前だ。
何も俺は最初からこんな知らない森の中にいたわけじゃない。


「寒っ!」


東京秋葉。世間がクリスマス一色に染まる中、俺は新作のゲームを買うために馴染みのゲームショップに並んでいた。


「何もこんな日に発売しなくてもいいのに…!」


俺は並んでいる歩道の端で縮こまり、かじかんだ手をすり合わせた。


「もうっ!アキラくんったら酷い!」
「ハハハ、ごめんごめん!」


通りを見ると、幸せオーラ全開のリア充達が腕を組んで闊歩していた。
何故だろう、急に虚しくなる。


「もっと厚着してこれば良かった…」


そんなことを呟きながら並んでいた列の前に目を向けると、
俺の前に並んでいた筈だった人と俺の間に知らないデブ男が鼻息荒く立っていた。
寒さとリア充を見せつけられた事で気が立っていた俺は、思わずデブ男に怒鳴ってしまう。


「おい!
お前今勝手に横入りしただろ!!」


「え?www何ですか?
僕ずっとここにいたんですけどw
言い掛かりですかww」


そのデブ男のふてぶてしい態度に頭に血が上る。


「巫山戯んな!今俺が通りを見てた時に入ってきたんだろ!」


「いやいやww
何言ってんのこの人ww
やばっ、こっわ、ちょっと警備員さん呼んでー!ww」


「何を言って…!」


そう言って周りを見渡すと、並んでいた人達が迷惑そうに俺を見ていた。

まるで俺が悪いみたいに。
さっきまで頭に上っていた血がさっと引いていくのが自分でも良くわかった。

デブ男がニヤニヤと笑う。

悔しさのあまり思わず俯くと、
目の前にあったのは本来あるはずの真っ黒なアスファルトではなく、
目も開けられないほど眩しい光だった。


「うわっ!」
「何だっ!?」


周りからも驚きの声が上がる。

次に目を開いたときに俺が見たのは、真っ白な空間に立ち竦む大勢の人々。

そして絶世の美女だった。


「皆さん、ようこそ異世界へ。」


「なっ……!」
「ふざけんな!ここ何処だよ!」


美女の言葉を聞いてから、
数人と横入りしてきたデブ男が喚き出した。
美女が笑顔で片手を振る。
一瞬で喚き出した奴らが燃え上がった。


「ギァァァァァァ!」
「熱い!火が!?」
「水!水!」


一瞬で空気が凍る。

それを満足気に眺めながら女神は再び喋り始めた。


「貴方達を呼んだ理由は特にありません。

これはこの世界で生き抜く貴方達を観て、この世界の神々がただ純粋に楽しむ為に行ったことです。

だから精々無様に生き延びて私達を楽しませてくださいね。」


そう言って美女はニコリと微笑むと、俺達はいきなり足元に現れた魔方陣に意識を刈り取られた。





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