スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜

Knight

二十三章 ─ 休暇 ─

月日は過ぎ、1月の半ば。
久しぶりに闘いから離れる事が出来た俺とノエルは、特にする事もなく外を眺めていた。
出掛けなくてもこうして側に居るだけで満足出来る。とはいえ、イカルガからは一歩も出ていないが。

「のんびりする暇無かったもんな…」

「そうだね…」

のほほんとしている訳は、疲れを癒す為でもある。
長らく闘い続けていたからか、身体が痛む事があった。ノエルは何とも無かったが、俺は自分の身に色々な事があり過ぎた為、想像以上に痛みが身体を駆け巡っている。動くくらいなら何とも無いが、激しい動きをしようとする度に気が遠くなる痛みが迸る。

「身体は大丈夫なの…?」

「散歩くらいなら平気だよ。訓練は無理だけど…」

「ん、そっか」

恋人と一緒に居られる事程、嬉しいものは無い。
ノエルもその事を分かってるらしく、起きてからずっと側に居てくれている。
強いて言えば、俺とノエルはカグツチで出会ってからずっと共に行動していた。その時既に芽生えてはいたのだろう。それをひた隠し続けていたのがノエルであり、第七機関で親友のマコト=ナナヤにあっさりバラされ、気まずい思いをしてきた筈だ。だが、それが無ければこうして結ばれる事は無かっただろう。運命とは分からないものだ。

「…やっぱ出掛けるか?」

「うん。そうしよっ」

無邪気な笑顔を見せるノエル。可愛いのにモテなかったというのだから不思議で仕方ない。まぁ、俺は士官学校に行ってないから何があったのかは知らない。それと、幾ら恋人でも知られたくない過去とかは存在する。そこを聞くのは野暮というものだ。
貸し切りのホテル(時間が無かった為である)から一旦外に出て、観光気分でイカルガを見て回る。統制機構の方は敢えて行かないでおいた。そもそも用は無いし、死闘を繰り広げた戦場には立ち寄らない。そう決めていた。

「いつ以来だっけか…こうして二人で歩くの」

「随分前な気が…する。うん」

「だよなぁ…」

思えば色々あり過ぎた。一つ一つ整理していくとなると、何日か必要になるだろう。そんな面倒な事はしたくないので、色々あった事は一旦頭の片隅に追いやる。折角のデート(だと思う)、楽しまないと損だ。

「(にしても……可愛いな、本当)」

なんて考えながら、辺りを見回す。




久々の二人っきり。私は少し恥ずかしかった。
あの後、悠人の告白(二度目になる)を受けてすぐに了承の意味を込めた答えを返した。とはいえ、マコトにバラされている以上、今更過ぎたかもしれない。
悠人が私を呼ぶ度に胸が高鳴って仕方なかった。だからこそ、結ばれたのだと思う。素直な気持ちに向き合ってくれたのは、私を引き取ってくれたヴァーミリオン家以外には居なかった。

「(マイに自慢したいなぁ…)」

嘗ての友人に会いたいと思ってた時だ。
遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。悠人は隣に居るから違う。じゃあ誰だろうと考えていたら青い髪が見えた。青い髪の子と言えば一人しか居ない。

「やほ、ノエル」

「やっぱりマイだ、久しぶり!!」

「久しぶり。士官学校以来かな…?」

青い髪をポニーテールに結んでいる女の子の名は"マイ=ナツメ"。士官学校の同級生であり、私の親友。
皆して嫌がる私の料理を顔色一つ変えずに食べてくれる数少ない人でもあった。本人曰く《超味覚》が原因らしいけど…

「ところで、そちらは?」

「俺か?桐生悠人、悠人でいい。宜しく、マイ」

「こちらこそ…って、あの桐生悠人?!本人?!」

「あー…やっぱそういう反応するよなー…」

とりあえず軽く紹介した所、マイの目がいつになく輝いて見える。やはり恋バナに食いつくのかと苦笑いを浮かべ、私と悠人の関係を詳しく聞かれた。要するに、質問攻め。前はこんなグイグイ来たっけ?と内心疑ってしまう。

「よかったね、ノエル」

「うん。本当によかった」

その後、三人で雑談をしてから別れる。
悠人の方を見ると、ちょっと痩せた?と思うくらいげっそりしていた。後で聞いた所、人と話すのは慣れていないらしい。そこは、研究員の性が残っている証拠なのだろう。




ノエルの親友、マイに質問攻めを喰らい、げんなりしてしまった。何せ他人と話すのは久々過ぎる。挨拶程度ならよくしていたが、長話はどうも苦手だ。幾ら数をこなしても慣れない。
まぁ、生まれが生まれだったし、仕方ない所もあるが。こういう時に限ってノエルが羨ましく思う。

「次何処行く?」

「……ふぇ?」

「何ボーッとしてんだよ……」

「あはは…ごめん」

ぽかんとしていたノエルが苦笑いを浮かべた所で、姫様抱っこしてやった。さっきみたくぽけーっとされては困る。

「な、んなっ…?!は、悠人?!」

「何恥ずかしがってんだよ。デートだろ?」

「あっ……そうだったね…」

デートという単語に反応したからなのか、ノエルは顔を真っ赤にして見えないように隠してしまった。
大人しくしてくれるのは助かる。何処の馬の骨かわからん奴等に攫われる心配も無くなるって事にもなる。まぁ、攫った奴は問答無用で潰すつもりだが。

「おーい、ノエルー」

「はひ?!な、何かな…?」

「又変な声出したな…可愛い奴」

「~っ?!」

恥ずかしさの余り、気絶したノエルを見た後にしっかり抱えてから例の場所へと向かう。しかし、可愛いって言っただけで気絶するのかと疑問に思う。恋人が言う事は何かしら特別な力でも働くのだろうか?

「(まぁ…いいか。今最高に幸せだし)」

"造られた存在"である俺がこうして人並みに暮らせるのも、ノエルのおかげかもしれない。まぁ、ノエルも素体の一人だが…俺とは境遇が違う。俺は記憶を失って辺りを放浪した挙句の果てに博士に拾われたが、ノエルはちゃんと親(義理らしいけど)の元で暮らしていて、学校にも通っていた。

「……本当に、ありがとな」

気絶してるのか寝ているのか分からないが、ノエルを撫でながらそう呟いた。




「……なんか、予想外なんだが」

「あんなにラブラブだったっけ…あの二人」

「羨ましいなこんちくしょう…」

「本音ダダ漏れだぞ、カグラ」

そんな二人を遠くから眺めるラグナとカグラ、マコトの三人はそれぞれ思い思いの事を呟く。
ラグナとマコトは驚きの一言、カグラに至っては自分がモテるにも関わらず、妬みを含めた一言を。

「甘々な関係になってね?アレ」

「くぅ…ノエルちゃんを横取りするとは…」

「横取りも何も、付き合ってないですよね」

「ぐはっ…」

マコトの一言に吐血しかけるカグラ。それもその筈、カグラとノエルは付き合ってすらいなかった。ただ仲良くしていただけであり、特別な感情とかは一切ない。そもそも、ノエルは元々恋愛に疎い方だった。カグラの露骨なアピールも空振りに終わる始末である。

「ま、ノエルと悠人アイツらの事は邪魔しないでおくか」

「うんうん。それがいい」

「……あ」

「どした?」

獅子神アイツ、普通に向かって行ってるんだけど」

「「……あ」」

三人が目撃したもの。二人っきりの時間を過ごしていた二人にむさい男が近寄っていた所だった。
三人揃って"空気読めよ?!"と心の中で突っ込んだ。だが、その男は悠人によって転移させられた。




「(……まぁ、いいか)」

ノーモーションでやってしまったが、邪魔者は排除するのがいい。それはそうと、ノエルがそろそろ起きる頃合いだ。

「おはよ……」

「寝ぼけてるな…もう昼過ぎたぞ?」

「えっ?!」

まぁ、嘘なんだが。慌てて起き上がるノエルを見て笑みを浮かべ、もう一度抱きしめてから次の場所へ向かう。流石に慣れたのか、さっきみたく気絶したりはしなかった。それからノエルが行きたい所を中心に見て回ってからホテルへ戻った。
その後はお楽しみの時間…という訳にも行かず。
疲れているのに無理をさせる訳にはいかなかった。身も心も全て俺の物にしたかったが、時期尚早という事だろう。お互いに覚悟を決めてからでも十分間に合う。

「……本当、感謝しか出来ねぇな」

「そうかな?私も同じかも」

「そうか。それだけでもすげぇ嬉しい」

願わくば、こういう一時がずっと続けばいい。
闘いだとか戦争だとか…そういうのは破壊しか生まない。そしてそれ等は新たな闘いを呼び込む"火種"になる。つまり、戦争そのものをこの世から消さない限りこのループは終わらない。唯一終わらせる力があるとすれば、《守護者》たる自分がそうだ。
可能性を可能とする根源の力《蒼》を守り、その恩恵を受ける者…守護者。根源の力を多少なりとも扱える為、小規模なら《事象干渉》を使える。事象そのものに干渉し、火種を無かった事にすれば争いは無くなる。大規模な事象干渉は俺には不可能だ。だから、手身近な所から徐々に無くしていけばいい。

「(守護者として覚醒したから……俺は人ならざる存在。強いて言えばこの世の理から外れちまったんだよな…)」

「悠人?どうしたの?」

「嗚呼、悪い。ちと考え事をな…」

「時々あるよね。寝れてる…のかな」

「大丈夫だよ。疲れている時はすぐ寝てる」

「そう?ならいいんだけど…」

実際は寝れていない…いや、寝る必要が無くなったという事だ。要するに、代償だ。
根源たる蒼と繋がっている為か、あの日を境に眠気が一切来なくなった。ノエルにこの事は伝えていない。無駄に心配をかけたくはないからだ。何れ話す必要があるかもしれないが、今はまだその時じゃない。

「それはそうと、明日はどうしよっかな……」

既に明日の事を考えているノエル。
決まったら教えてくれとだけ言い、もはや趣味と化した開発を始めた。一日中起きている俺は、娯楽となるものが圧倒的に少なかった。小説は何冊か持ち歩いてるが、とっくに読み古している。

「(……近々、闘いが始まるだろう。滅日を止める闘いが)」

片隅に追いやっていた滅日や闘いという単語について考え始め、少しづつ準備を始めた……




日常回でした
たまにはアリかなと思いまして。というのも、書いててわかったんですよ。ほのぼの展開が全然無いという事に。なので無理矢理入れました(オイ)

では又お会い出来れば嬉しいです((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

「スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「戦記」の人気作品

コメント

コメントを書く