スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜

Knight

二十二章 ─ 滅日の始まり ─

敵はテルミだけじゃない事をすっかり忘れていた。
直感で感じ取った俺はノエルと一緒に地下へ向かう。ラグナも後からついてきていた。

「は、悠人?どうしたの急に…」

「忘れてた事があったんだよ。敵は一人じゃないって事をな……」

「それって、あいつらか?悠人」

ラグナが示す方向に目線を向ける。
そこには、数人程立ちはだかっていた。しかも、何人かは見た事がある人物。そして、真ん中に立っている少女が……黒幕といったところか。

「テルミは殺られたようだな。全く、使えん男だ」

「生憎、殺生は嫌いでね。全治数年の傷を負わせただけだ。俺としちゃあ…奴をボコボコに出来ただけでも十分だからな」

「これまた随分と甘い考えをお持ちなようで。そんなのでこれから先やっていけるんですか?《守護者》さんよ」

「……やっぱそっちが本体かよ。相変わらず面倒な」

確かにテルミをボコボコにした。だが、碧の魔道書ブレイブルーの出力に違いがあった事に薄々気づいていた。となれば、俺がひねった奴は影武者という事だろう。道理で弱いと思った訳だ。

「とりあえず言っとく。俺は怨みを忘れた訳じゃない。それと、ノエルに手を出してみろ。その首吹っ飛ぶと思え」

コレは全部本心だ。
闘いに巻き込んだ責任もあるが、ノエルは俺にとって大切な人だ。いつだって俺優先で考え、笑ったり泣いたり、想いを寄せてくれているのはノエル以外に居ない。博士は別としてだが。

「……だ、そうですよ。《帝》」

テルミ、いや…今は違う。確かハザマだった筈だ。其奴が帝を呼ぶ。すると、今まで佇むだけだった少女が顔を上げる。その顔を見たラグナは急に固まり、唖然としていた。気になり、問いかけてみる。

「どした…ラグナ?」

「……サヤ?!」

「えっ、何。あの子の事知ってる?」

「知ってるも何も…幼い頃に生き別れた妹だ……」

「「えっ?!」」

衝撃の一言に驚きを隠せない。
ツバキをおかしくし、手の込んだ一連の暴動を引き起こした帝が、まさかラグナの妹だったとは。血が繋がっている兄弟という事実を叩きつけられ、倒す事が不可能になった。どうするか考えている最中、一旦離脱する事に。

「……体制立て直す。攻略法はその後だ」

「……応」

「逃がすかよ!!」

ハザマの武器《蛇双・ウロボロス》が飛んできた。
だが、今の俺にそんなものは通用しない。ノーモーションでバリアを張り、防いだ後すぐに転移。結果的に逃げる事が出来た。




「逃がしたか。ちっ、これだから《守護者》を相手にすんのは嫌なんだよ」

獲物を逃がしたからか、悪態をつくハザマ。
言動がテルミそのものなのは、彼の内にテルミが居るからだろう。

「世界そのものに干渉し、己や周りの者を守り、又は危害を加える者に制裁を与える守護者…余の天敵に他ならぬな」

そう呟いたのは帝。ラグナの妹の姿を借りた何か。
人の姿をとってはいるが、その実体は後に皆知る事になるだろう。守護者として覚醒した悠人を妬むような声色で呪詛を吐き出している。

「まぁよい。既に滅日の方は始まっておる。幾ら彼奴でも"タケミカヅチ"は止められぬ」

「相変わらず、と言った感じですね…帝。御趣味が悪い」

「そちに言われる筋合いは無いぞ、テルミ」

「……分かっていますよっと」

実際、瀕死だったνニューがこの世の怨みで復活した時既に窯へ向かうように指示したのはテルミだ。
幾ら冥王の剣イザナミノツルギたる彼女であっても道具としか認識していないテルミはある意味帝より外道だろう。尤も、彼の外道っぷりは今に始まった事じゃないが。




あの場から遠く離れた場所、何処かの廃屋。
そこに三人の人影があった。三人共傷を負っており、赤いコートを羽織った青年に至っては重傷だった。生きてる方が奇跡と言えるだろう。

「……五体満足なだけマシ、か」

「……嗚呼」

三人の内二人はまるで双子と間違える程そっくりだったが、薄い水色の髪の方が男だ。
今まさに死地から脱出したという感じである。

「で、どーする?ラグナ」

「決まってるだろ。あの場に居た全員ぶっ飛ばす」

「だよな…ノエルは……」

「ここまで来たのに、今更帰る訳にはいかないよ。私、悠人が心配だよ…?」

「言うと思ったけどさ…」

怖い経験をしたというのにまだついてくるというノエル。好きな人が傷つく所はもう見たくない。死に物狂いで守る必要が出てきたなと内心ため息をつき、ラグナと別れる。ラグナはもう一度鍛え直してくるとの事。今回の一件で力が足りないというのを思い知らされたみたいだ。
ラグナと別れて二人っきりになった。これから始まる死闘の事を考えるのは一旦止め、ノエルと目線を合わせた後に手を取って片膝をついた。顔が熱を持つのが嫌でも分かる。

「……本来なら、今言うべきじゃないんだろう。だけど、今言わないと後悔すると思う」

「え、えっ…?悠人…?」

「改めて言おう…ノエル。例えどんな事があろうとも、この命を懸けて君を守る。俺にとって、ノエルは……俺の人生の全てであり、恋人にしたいくらい、好きだ。だから……」

「……勿論、私も同じ気持ちだよ。悠人…」

「……ありがとう。愛している、ノエル…」

「…私も……」

愛する人同士、互いに抱きしめあった。
死闘が始まったら、いつ命を落とすか分からない。
だったらこの命。恋人の為に燃やし尽くしてもいいだろう。一度は死んだ身、オリジナルの命を受け継いだ俺が成すべき事は、このくだらない悪夢ユメを終わらし、人類の未来を繋ぎとめる。その為になりたくもない《守護者》になったのだ。今更後悔なんてしていられない。やるべき事が沢山ある。




「なーなーむさい人。白い人に用事があったんじゃ無かったニャスか?」

「今行くべきでは無いでござろう。あの二人、なかなかお似合いでござるからな。部外者は見物でもしてるでござる。込み入った話はその後でも大丈夫でござるよ」

「そーゆーもんニャス?ならいいニャ」

悠人とノエルを遠くで眺める忍者と猫っぽい生き物。
嘗て悠人達と関わった事があるシシガミ=バングとタオカカだった。バングの方は喧しいという理由で吹っ飛ばされただけの可哀想な男だが。

「さて、そろそろ行くでござる」

「待つニャスよむさい人ー」

バングは音もなく去る。タオカカもバングの後を追ってその場を後にした。




その後、再びイカルガへ戻った俺とノエル。
まず取り掛かるのは新武器の作成。先の闘いで消滅した「魔銃・ベルヴェルグ」の代わりになる武器を作ろうとしたのだが、事象兵器アークエネミーであるベルヴェルグを完全再現するのは至難の業だ。
何せ、ベルヴェルグを含めた事象兵器には人の魂が用いられている。自己観測をして存在を確立するという訳だ。そんな兵器を作るのに他人を犠牲にするのは《守護者》の俺には出来ない。

「やっぱムズいな……」

弱音を吐き、隣で寝息を立てて寝ているノエルを見やる。俺が関わったせいで運命を大きく変えてしまった責任は重いと感じている。今でも後悔はしている。
だが、俺を好きになってくれた事には感謝している。守護者となり、人であって人ではなくなってしまった俺を軽蔑するどころか愛してくれている。それだけでも生きる価値はあるという事だ。

「…そうだ、アレ作るか」

気分転換にと思い、指輪を作る事にした。
今までの御礼、という事だが…もしかしたら婚約指輪と思われてしまうかもしれない。それはそれで構わないし、寧ろ嬉しい事だ。そのつもりで想いを打ち明けたという事でもある。

「……悠人…」

「…可愛いな、本当に」

寝言を言うノエルを撫でながら、作業に取り掛かる。
人ならざるものになったせいか、眠くない。代償と思えばまだ軽い方だと思う。仮に味覚を失ったとなれば、これから先の食事がつまらなく、要らないものになってしまうからだ。

「絶対、守るからな…」

呟き、夜通し作業をこなす。
この時はまだ気づかない…いや、気づく事は無かった。
帝が滅日を始めるべく活動していた事を……




なんか色々てんこ盛りになってしまいましたね…
最初咎追いだった悠人は何処へ( ´・ω・`)

では次の章でお会いしましょう…
(感想お待ちしております。)

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