スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜

Knight

十九章 ─ 呪われた運命 ─

忌々しい運命を打ち砕く。
その為には、テルミを叩きのめす他無い。
固く誓った俺はノエルと共に統制機構頂上へ向かう。

「大丈夫か?ノエル」

「う、うん。大丈夫…」

「ならいいんだが…」

時々休み、体力を切らさないようにしていた時だ。
進行方向の先に現れた一人の男。金髪に仮面で隠した顔。紳士が着るような服装にマント姿。その男の隣にはニルヴァーナに似た人形が立っている。

「桐生悠人。だな」

「…あ?誰だてめぇ」

「レリウス=クローバー、と言えば分かるか?」

「…んなっ?!」

その名を聞いた俺は面を食らう。レリウス=クローバーと言えば、次元接触用素体を造った製作者だ。統制機構の技術大佐でもあるこの男が出てくるとは思わなかった為、対策とかをしていない。

「そうか、お前は既に《──の剣》として覚醒しつつあるのか…実に興味深い」

「おい待て、今何つった?」

「今は知らなくていい。知りたいなら、嫌でもこちらに来てもらうだけだ」

「断る!!」

無意識下で藍の魔道書ブレイブルーを発動させた俺はレリウスに向かって切り掛る。その時、何故かわからないが歪な剣が周囲に展開され、レリウスに向けて飛ぶ。おそらく俺がやったのだろう。

「ふむ、もう少し洗練する必要があるな」

それをあっさりへし折るレリウス…の隣に居た人形。どうやら此奴も何かを動力源にして動くらしい。事象兵器アークエネミーのニルヴァーナとは違うが、それと同等のスペックはあると見た。

「……イグニス」

「させるか…っ!!」

レリウスがイグニスと呼んだ人形が襲いかかる…と思ったその時、標的は俺ではなくノエルだと気づいた。慌ててイグニスを追いかけ、槍状に変形させたハートネイズを投げる。深々と突き刺さるものの、止まる気配は無い。

「ノエル、逃げろ!!」

「えっ…?」

アイツレリウスの目的は俺じゃねぇ、ノエルだ!!」

「え、あ…」

恐怖で動けないらしく、震えたままのノエルを攫われる前に助けだし、イグニスを蹴り飛ばす。金属を蹴るのは流石にやりすぎたと思う。右脚全体が悲鳴をあげていた。折れていないだけマシだろう。

「ぐぁ…っ!!」

「悠人?!」

「き、気にすんな…それよりも彼奴をなんとかするぞ…」

「本当に大丈夫…?」

ノエルが心配しているが、脚くらいなら大丈夫だ。
フィオが託した力に《再生能力リジェネレーター》がある事に気づいたからこそ、金属で出来た人形を蹴り飛ばすという荒業に出た。現に右脚は既に痛みが無い。

「ほう…そこまで"覚醒"しているか」

「へっ、まだまだこんなもんじゃねぇよ…」

ノエルを背中に背負い、跳躍。そのまま空中を蹴り、離脱する。このまま此処に足止めを食らっていては先に進めないと思った。レリウスの目的は俺等を足止めするという事だろう。だったら本命のテルミに時間稼ぎをさせてしまったという事にもなる。

「(悠人の背中…なんだか落ち着くなぁ…)」

「……まぁ、そう簡単に逃がす訳無いよな」

「えっ…?」

「まぁ、なんだ。しっかり掴まってろよ」

素っ頓狂な声は無視し、後ろを一瞬だけ向く。さっきの人形、イグニスが自らの脚を空中仕様に変えて追って来ていた。もはやなんでもありだなと毒づき、迎撃に移る。とはいえ両手は塞がれている為、魔素を利用してさっき造った歪な剣を何度も複製して放つ。効かないと分かってはいたが、これしかない。

「やっぱ駄目かっ!!」

迎撃を辞め、速度を上げる事に全力を出す。魔素を使った足場作りも手慣れて来た頃、目の前にレリウスが現れた。勢いそのままに体当たりし、吹っ飛ばす。だが、実体が無い幽霊のようにすり抜けた。一瞬ゾクッとするが、俺が使っている"ブラッドミスト"と同じ原理だと分かる。

「悠人…?」

「……どうした?」

「一旦ラグナさんの所に…」

「ハクメンの奴と闘ってる最中だろ、多分。ひとまず逃げる事に集中するぞ」

「う、うん」

常に藍を使っている状態だと長くはもたない。一旦解除して地面に降り、全力疾走して引き離す。フィオの力のおかげか、身体能力は格段に向上していた。これなら体力の心配をしなくて済む。




「逃がしたか」

悠人とノエルを追えなくなったイグニスが戻ってくる。波動人形デトネーターすら追従を許さない程の速度を出したという事か。考えられる事と言えば、あの青年と"その青年の基盤となった少女"の融合が終わっているという事だ。更に、悠人は《剣》の覚醒が近い。間もなく、と言った所だろう。

「覚醒した所は是非見たい。桐生悠人…いや、《──の剣アラマサ》よ。お前は、この世界の災厄になるだろう。果たしてそれを受け入れられるか…?」

不敵な笑みを浮かべ、レリウスはとある人物の元へ向かう。




「はぁ…撒いたか…」

ひと安心し、休憩を挟む。
ノエルも心配している。暫く動かない方がいいだろう。レリウスが去ったとは限らないし、野郎イグニスも追跡を諦めたとは思えない。

「お疲れ様…かな」

「…嗚呼、そだな……」

次々と新たな力が発現する中、体力は思った程消費していない。いつもノエルと一緒に居るからなのかは分からないが、何故か消耗が緩やかだ。これなら長期戦も出来る。だが、ノエルに負荷を掛けすぎるかもしれない為、酷使しないように気をつけなければ。

「悠人っていつも無茶するから心配だよ」

「それは仕方ないだろ…お前を守れるのは俺だけなんだから」

「それはそうだけどね…」

「まぁ、死なない程度に無茶するさ」

「それ、本末転倒だよ…」

互いに笑いながら会話を続ける。この非常事態に何故と思っていたが、もしかしたらこれが最後になるかもしれないという懸念があったからだ。こういう時の嫌な予感程、当たるものは無い。




場所は変わって統制機構頂上。
そこに居たのは緑髪の男、テルミともう一人。かつてラグナ達と死闘を繰り広げた少女、νニューが待ち人を待つかのように佇んでいた。

悠人が《剣》に覚醒、ねぇ…やっぱ生かしておいて正解って事か?レリウスよぉ」

虚空に向けて誰かに語りかけるかのように話し始めるテルミ。その隣でニューは静かに聞いていた。ラグナと会わない限りは無機質な少女という印象だ。だが、彼女が身につける武装、《ムラクモユニット》は強大な力を有している。現状は彼女のみ扱えるが、あの日を境に確率事象コンティニュアムシフトとなった今の世界では予想外の事も起きる可能性もある。
だが、それすらテルミは予測済みだろう。この男、普通じゃ有り得ない事ばかりを経験している。

「ヒヒッ、楽しみじゃねぇか。其奴悠人をラグナちゃんと闘わせるのもアリだな?潰し合いした後でゆっくりいたぶってやればいい…」




「あ"ー!!しつけぇっての、全くよ…」

なんとかお面野郎ハクメンを退けた俺は、悠人達を追いかける事にした。あの時変貌したノエルを見た時、何処かで見た事があるという既視感を感じた。何故かは分からないが、確かに見た事がある。ウサギが言ってたが、"他の事象の俺が見た光景"を蒼の魔道書コイツが引き寄せたのかもしれない。

「(悠人ならなんとかするかもしれんが、やっぱ心配だ。それにしても、あの二人似てるよな。どー見ても)」

余計な考えは捨て去り、上へ向かう。
何故かわからないが、妙な胸騒ぎがする。




次章、悠人覚醒

という事で、又お会いしましょう((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

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