スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜
七章 ─ 帰還。そして新たな旅 ─
──あれから、どのくらい時間が過ぎただろうか。俺の意識を封印した愛剣は一向に覚醒しないし、自分の意識も朦朧とし始めた。おそらく、俺はこのまま”同化”するだろう。そしたら、あの身体に残るのはあの機械的に喋る何かだけだ。それも機能しないとなったら、間違いなく植物状態のまま一生を終えるだろう。
「いい加減に、目覚めやがれぇ!!」
初めて蒼の魔道書を使った時と同じ要領で右腕に力を集中、愛剣の力を集約しにかかる。足掻いても剣に取り込まれてハイ終わり☆なんて結果は誰も望んじゃいない。勿論、自分もだ。
「ったく、とんだじゃじゃ馬を使っていたんだな俺はっ!!」
自分で開発した癖に何を言ってんだコイツって、ココノエ博士なら言う筈だ。だったら、今すぐ制御してやる。それが一番手っ取り早い!
ココノエ博士が何かを発見した後、すぐさま子猫のように外へ出された私とマコト。とりあえず椅子に座り、見守る。きっと帰ってくる。だって、恋なんてしなかった私のハートを盗んだから…
「のえるん?のーえるーん?」
「な、何マコト…?」
「…目。ハートになってた」
「そ、そそそそんな訳無いよやだなぁ……」
マコトの視線が痛い。背を向けたけど、無防備な背中にもグサグサ刺さる。痛い、痛すぎる。でも、ハルトの苦しみの方が私より上だろう。視線も十分痛いけど、今はハルトが帰ってくるのを願うしか無い。
「(……なんか、ポエムとか呟いちゃいそうで怖い)」
そんな的外れな事を考える余裕すらあった。
「……あ」
見慣れた天井、自分の身体に繋がれた様々な色の管、ぐったりした様子でこちらを見るココノエ博士。窓に顔を向けると、服装がガラッと変わったノエルと、リス。という事は…
「戻って、これた…?」
右手は動かせる為、外に居るノエルに手を振る。その途端、二人が部屋に駆け込むのが分かった。この後絶対抱きつかれる。なんとなくそう予感した。
「ハルト…!!」
「ごふっ?!」
案の定、抱きつかれた。ヤバい、色々ヤバい。渡りかけた三途の川を今渡りきろうとしている。けど、これは嬉しい苦しさだ。それだけは、噛み締めた。
「……ただいま、ノエル。それと…すみません、ココノエ博士。お手数おかけしました」
「なぁに…お前が私に迷惑をかけるのはいつもの事だろう…私は気にしていないから安心しておけぇ…」
「……酔ってません?」
「うわっ、顔真っ赤?!」
「って、いつもの三倍舐めてりゃそーなるわな…とりあえず、感謝します」
嗚呼、この騒がしさだ。生きている。そう実感出来る。これ程嬉しい事は無い…と、思っていたのだが。
「あ、そうそうハルトくん」
「…ナンデショ」
こういう時に知り合い以外の人から言われる事以上に怖い事は無い。何を言われるのか身構えていたら…目が点になる事だった。
「のえるんねぇ…好きなんだってさ、ハルトくんの事。にくいねぇ、このこの〜」
「あっ……私が言いたかったのに…もう」
「は…はいぃぃ?!え、ちょ、待っ…えぇぇぇぇ!?」
……どうやら、嬉しい事はもう一つあったみたいだ。
目覚めてすぐに(ノエル達が邪魔していたから大分後になったが)身体に異常が無いかどうかの検査をされ、そこでも博士は驚いたようだ。右眼の損傷はそのままだったが、他が驚く程速いスピードで修繕を始めていたからだ。中には、治らないと判断されていた左足ですら、今は何の問題も無く動かせる。この事について、ココノエ博士の見聞はこうだ。
「お前が作った大剣。その中で少しの間とはいえ過ごしたのだろう?おそらくその時に治せる部位を治していたんだな。各箇所に大剣と同じ成分が確認出来る」
「つまり、その大剣は俺…いや、自分の命を繋ぎ止めていた。そういう事ですか」
「簡単にまとめるとそうだ。自分で作った武器に救われたな?」
すっごいニヨニヨ顔されているのが分かる。殴りたい。殴ってモヤモヤを無くしたい。でも恩人を殴る程非情では無い。後でサンドバッグ殴ろう…
「それで、これからどうするんだ?」
「……旅に出ようかと。自分の知識を深める為に」
「そうか。此処からなら…イカルガ辺りだな。そこが一番近い。後、そいつも連れていってやれ」
面倒くさそうに後ろを指さすココノエ博士。後ろを見ると、椅子の影に隠れているノエルの姿があった。目線が合うとすぐ引っ込む。さっきからずっとその調子らしい。あの後リスの亜人…マコトに聞いた話だと、ノエルが自分の話をする際は恋する乙女みたいな表情をするんだとか。それ等全部ひっくるめてバラされてしまった為、自分に合わす顔が無くなってしまい、あんな感じになってしまったという。
「……小動物か、あいつは」
「あはは…前は違ったんだけどなぁ……」
ひとまず近寄って首根っこを捕まえる。すると、借りてきた猫のように固まってしまった。降ろすと人に、持ち上げると猫に。繰り返している内にちょっと楽しくなってきた自分が居た。
「……しゃー」
「…っ?!」
おまけに猫っぽい声を出すもんだから尊さで輪廻帰り出来る。もう自分何言ってんだ状態だけど、そこは気にしない。
「あーそうだ。悠人」
「ナンデショ」
「片言はやめろ。渡すものがある」
「渡すもの、ですか?」
ココノエ博士が渡すものは大抵不良品ないしはゴミだった。だが、今回はちゃんとしたものだ。小さめのカードに自分の顔写真、名前(偽装)が書かれている。ココノエ博士の意図が分かった所で、大人しくなったままのノエルを連れて第七機関を後にした。
「……バカ弟子が。大人になったな」
誰も居なくなった研究室。酔ったフリをしていたココノエは独り言を呟く。なんだかんだ言いながら、半ば自分で育てたようなものだった桐生悠人を見送った後、一筋の涙が頬を伝って流れた。
「さて、私も仕事だ…」
涙を流した事に気づかない、或いは気づかないフリをし、ココノエは自分の仕事へと戻る。心の中ではいつもあの青年の事を思いつづけて─
博士から貰った地図を頼りに、連合階層都市イカルガを目指して歩く仲良し二人組。
方や世界の危機を救った英雄。
方や眼の力を覚醒させた少女。
舞台はカグツチからイカルガへ移り、物語は更に加速する。新たな地で二人を待ち受ける運命や如何に。
…はい。この章を以て第一の物語は終章を迎えました
続く第二の物語では更に登場人物が増えます。そして、二人の運命は更に他を巻き込む事かと。
そして新たな地、イカルガ。此処で繰り広げられるのは果たしてどんな物語か。
それでは読んでいただいた皆様に感謝を。
(感想等お待ちしております)
「いい加減に、目覚めやがれぇ!!」
初めて蒼の魔道書を使った時と同じ要領で右腕に力を集中、愛剣の力を集約しにかかる。足掻いても剣に取り込まれてハイ終わり☆なんて結果は誰も望んじゃいない。勿論、自分もだ。
「ったく、とんだじゃじゃ馬を使っていたんだな俺はっ!!」
自分で開発した癖に何を言ってんだコイツって、ココノエ博士なら言う筈だ。だったら、今すぐ制御してやる。それが一番手っ取り早い!
ココノエ博士が何かを発見した後、すぐさま子猫のように外へ出された私とマコト。とりあえず椅子に座り、見守る。きっと帰ってくる。だって、恋なんてしなかった私のハートを盗んだから…
「のえるん?のーえるーん?」
「な、何マコト…?」
「…目。ハートになってた」
「そ、そそそそんな訳無いよやだなぁ……」
マコトの視線が痛い。背を向けたけど、無防備な背中にもグサグサ刺さる。痛い、痛すぎる。でも、ハルトの苦しみの方が私より上だろう。視線も十分痛いけど、今はハルトが帰ってくるのを願うしか無い。
「(……なんか、ポエムとか呟いちゃいそうで怖い)」
そんな的外れな事を考える余裕すらあった。
「……あ」
見慣れた天井、自分の身体に繋がれた様々な色の管、ぐったりした様子でこちらを見るココノエ博士。窓に顔を向けると、服装がガラッと変わったノエルと、リス。という事は…
「戻って、これた…?」
右手は動かせる為、外に居るノエルに手を振る。その途端、二人が部屋に駆け込むのが分かった。この後絶対抱きつかれる。なんとなくそう予感した。
「ハルト…!!」
「ごふっ?!」
案の定、抱きつかれた。ヤバい、色々ヤバい。渡りかけた三途の川を今渡りきろうとしている。けど、これは嬉しい苦しさだ。それだけは、噛み締めた。
「……ただいま、ノエル。それと…すみません、ココノエ博士。お手数おかけしました」
「なぁに…お前が私に迷惑をかけるのはいつもの事だろう…私は気にしていないから安心しておけぇ…」
「……酔ってません?」
「うわっ、顔真っ赤?!」
「って、いつもの三倍舐めてりゃそーなるわな…とりあえず、感謝します」
嗚呼、この騒がしさだ。生きている。そう実感出来る。これ程嬉しい事は無い…と、思っていたのだが。
「あ、そうそうハルトくん」
「…ナンデショ」
こういう時に知り合い以外の人から言われる事以上に怖い事は無い。何を言われるのか身構えていたら…目が点になる事だった。
「のえるんねぇ…好きなんだってさ、ハルトくんの事。にくいねぇ、このこの〜」
「あっ……私が言いたかったのに…もう」
「は…はいぃぃ?!え、ちょ、待っ…えぇぇぇぇ!?」
……どうやら、嬉しい事はもう一つあったみたいだ。
目覚めてすぐに(ノエル達が邪魔していたから大分後になったが)身体に異常が無いかどうかの検査をされ、そこでも博士は驚いたようだ。右眼の損傷はそのままだったが、他が驚く程速いスピードで修繕を始めていたからだ。中には、治らないと判断されていた左足ですら、今は何の問題も無く動かせる。この事について、ココノエ博士の見聞はこうだ。
「お前が作った大剣。その中で少しの間とはいえ過ごしたのだろう?おそらくその時に治せる部位を治していたんだな。各箇所に大剣と同じ成分が確認出来る」
「つまり、その大剣は俺…いや、自分の命を繋ぎ止めていた。そういう事ですか」
「簡単にまとめるとそうだ。自分で作った武器に救われたな?」
すっごいニヨニヨ顔されているのが分かる。殴りたい。殴ってモヤモヤを無くしたい。でも恩人を殴る程非情では無い。後でサンドバッグ殴ろう…
「それで、これからどうするんだ?」
「……旅に出ようかと。自分の知識を深める為に」
「そうか。此処からなら…イカルガ辺りだな。そこが一番近い。後、そいつも連れていってやれ」
面倒くさそうに後ろを指さすココノエ博士。後ろを見ると、椅子の影に隠れているノエルの姿があった。目線が合うとすぐ引っ込む。さっきからずっとその調子らしい。あの後リスの亜人…マコトに聞いた話だと、ノエルが自分の話をする際は恋する乙女みたいな表情をするんだとか。それ等全部ひっくるめてバラされてしまった為、自分に合わす顔が無くなってしまい、あんな感じになってしまったという。
「……小動物か、あいつは」
「あはは…前は違ったんだけどなぁ……」
ひとまず近寄って首根っこを捕まえる。すると、借りてきた猫のように固まってしまった。降ろすと人に、持ち上げると猫に。繰り返している内にちょっと楽しくなってきた自分が居た。
「……しゃー」
「…っ?!」
おまけに猫っぽい声を出すもんだから尊さで輪廻帰り出来る。もう自分何言ってんだ状態だけど、そこは気にしない。
「あーそうだ。悠人」
「ナンデショ」
「片言はやめろ。渡すものがある」
「渡すもの、ですか?」
ココノエ博士が渡すものは大抵不良品ないしはゴミだった。だが、今回はちゃんとしたものだ。小さめのカードに自分の顔写真、名前(偽装)が書かれている。ココノエ博士の意図が分かった所で、大人しくなったままのノエルを連れて第七機関を後にした。
「……バカ弟子が。大人になったな」
誰も居なくなった研究室。酔ったフリをしていたココノエは独り言を呟く。なんだかんだ言いながら、半ば自分で育てたようなものだった桐生悠人を見送った後、一筋の涙が頬を伝って流れた。
「さて、私も仕事だ…」
涙を流した事に気づかない、或いは気づかないフリをし、ココノエは自分の仕事へと戻る。心の中ではいつもあの青年の事を思いつづけて─
博士から貰った地図を頼りに、連合階層都市イカルガを目指して歩く仲良し二人組。
方や世界の危機を救った英雄。
方や眼の力を覚醒させた少女。
舞台はカグツチからイカルガへ移り、物語は更に加速する。新たな地で二人を待ち受ける運命や如何に。
…はい。この章を以て第一の物語は終章を迎えました
続く第二の物語では更に登場人物が増えます。そして、二人の運命は更に他を巻き込む事かと。
そして新たな地、イカルガ。此処で繰り広げられるのは果たしてどんな物語か。
それでは読んでいただいた皆様に感謝を。
(感想等お待ちしております)
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