スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜
六章 ─ 戻らない意識 ─
統制機構に所属していた私、ノエル=ヴァーミリオンは恩人である桐生悠人を救う為、亡命という形で第七機関に転がり込んだ。
最初は凄く警戒された。それもその筈、統制機構と第七機関は敵対関係にある。急に転がり込んだ私を見た第七機関の人達は私を"統制機構のスパイ"だと思ったらしい。でも、車椅子に座った青年、身を挺して世界消滅を防いだ"英雄"と称されるにふさわしい人。元第七機関の天才研究員の桐生悠人を見た時、私は彼を送り届けた恩人と認識され、大いに歓迎された。
それから暫くした後、統制機構の制服からココノエ博士が用意してくれた女ガンマン風の服に着替えた私。何故此処に来たのか、ココノエ博士に問いただされた。
「……そうか。悠人がお前を助けた…昏睡状態に陥っているのは何故だ?」
「それは…」
あの事を教えていいのだろうか。カグツチで起こった事全て。悠人の正体、テルミの事、そしてあの光。正直、次元が違いすぎて理解が追いついていない。悩んだ様子を見たココノエ博士は苦笑を浮かべた。そんな顔もするんだ、と内心で思う。悠人は"ココノエ博士はいっつもしかめっ面をしている"と語っていたから、ギャップがあっていいかもしれない。
「何、お前の口から話せない事ならコイツが目覚めた時にでも聞く。そんなに緊張しなくていい」
「あ、はい。分かりました…」
ココノエ博士と話している間、悠人はベッドに寝かせている。息はあるとはいえ生死を彷徨っている彼の生命維持の為、色んな管を繋がれた今の彼を見ると、痛々しく思ってしまう。何もこんなボロボロになるまで命を懸けなくていいのに、と口から出かかった。彼があの光を逸らさなければ、今頃この世界は跡形も無く消えていた筈だからだ。
「それで、お前はこれからどうするんだ?亡命した、という事はもう統制機構には戻れないが……」
「御迷惑で無ければ、彼…ハルトの傍に居させてください。第七機関の事も、お手伝いします」
「…まぁ、そう言うと思った。なら、気が済むまで居ていい」
「ありがとうございます、ココノエ博士」
ノエルは…ハルトと同じ部屋がいいだろう、というココノエ博士の計らいで今の部屋を貸してもらえた。でも、ハルトは寝ているだけなのに顔が熱を持って仕方ない。さっきまで三人だったのが二人っきりになったせいなのかどうかは分からない。けど、心臓が高鳴っていて、彼を独り占めしたいという欲求すら出ている。
「(もしかして……恋、なのかな。コレって)」
戦争や戦いに身を投じていたとはいえ、ノエルやハルトは年頃だ。恋の一つや二つ、していてもおかしくない。今、ノエルを縛るものは無い。一人の少女として生活出来る。大好きだった買い物や料理も好きなだけ出来る。そう考えたら何をしようか迷い始めた。
「此処は…?」
目が覚めた俺は、辺りを見回す。何処を見ても闇だ。誰も居ない世界にただ一人、佇んでいた。
「おーい、誰か居ないのかー」
声を張って呼びかけてみる。だが、発した声は闇に吸い込まれるように消えていった。どうやら、本当に誰も居ないようだ。
「……じょーだんじゃないっての。俺、まさか…?!」
あの時死んだから此処に居る。その現実を叩きつけられたようだった。誰も居ない世界のど真ん中、俺は声が枯れるまで叫び続けた……
「ハルトくん……」
あれから何日が経過しただろう。ハルトは一向に目覚める気配を見せなかった。色んな管に繋がれてなんとか生きている今の彼は、言うなれば植物状態。延命器具で尽きる筈の命を先延ばしにしているだけだ。勿論、私は何も出来ない為、第七機関のすぐ近くにある質素な公園に来ていた。誰も居ない公園でブランコに座り、一人寂しく漕いでいた。
「私、守られてばかりだ…」
無力な自分に腹が立ち、何も出来ない自分を追い込むかのように心が痛む。涙が溢れ、地面に染みを幾つも作る。それでも涙は止まらず、遂に大声で泣き出した。誰も居ない為、遠慮なくいくらでも泣ける。そうして泣き続けていた時だ、急にもふもふした物が視界を塞ぐ。何が起きたのか分からずにいると、そのもふもふが喋った。多分。
「のーえるん。どうしたの?」
その声を聞いたノエルは、士官学校に通っていた頃の記憶が呼び戻される。自分が親友と呼んでいた二人の内の一人だ。
「マコト…?」
「そうだよ?のえるん。忘れちゃったの?」
「忘れる訳…無いじゃん…マコト…」
嘗ての親友に再会出来た。それだけでも今の彼女には大きな支えになった事だろう。一応、さっきまで泣いていた理由をマコトに全て話す。
「へぇ…のえるんが好きな人を…ツバキが聞いたらびっくりするだろうなぁ…」
「ま、まだ告白とかはしてないよ。今は…とてもそんな状況じゃないから」
「植物状態、ね…一体何をどーやったらそうなるのさ。確かに咎追いは危険と隣り合わせだけどさ…」
「それは…うん。彼…ハルトが目覚めたら聞いてあげて。私は…二度目になるから」
「…のえるん?」
マコトは親友の悲しそうな表情を見逃す訳が無かった。理由は、その『桐生悠人』という人にある。そう確信した。
「よし。見たいな、その…悠人って人。気になるし」
「えっ…さっき見せたよね?写真、だけど」
「本物に決まってんじゃーん。のえるん、何言ってんのさ?」
「でも、ハルトは絶対安静にって…」
どれだけ言っても食い下がるマコト。結局、根負けした。
「…で、そいつを連れて来たと」
「ご、ごめんなsふぎゃっ?!?!」
謝るより先に飛んできたカルテが私の顔にクリーンヒットし、少し小さいコブが出来てしまった。ココノエ博士、どれだけ速いスピードで投げたんだろう…
「"亡命"したお前はいい。だがお前の親友とやらは現役だよな?しかも諜報部じゃないか。此処の秘密が漏れたりしたらどう責任を取るつもりだ?」
「す、すビバせん……」
涙目のまま、さっき投げられたカルテを拾う。それは、ハルトのものだった。全身火傷に右眼左足損傷、組織がズタズタの為修復不可、それと、彼が装着していた大剣の各パーツの一部が心臓に到達しており、全身の血管はボロボロ、心臓も損傷していると書かれていた。
「…ココノエ博士、コレって……」
「嗚呼、仮に意識を取り戻したとしても生きられる日にちが決まってしまった、という事だ。全く、どんな無茶をしたらこうなるんだ…」
「そんな…」
仮に今すぐ目を覚ましたとしても、ハルトがどの歳まで生きられるのか、それがこのカルテには非常な程書かれている。一度引っ込んだ涙が又溢れ出す。彼は身を挺して世界消滅を防いだ。その代償という事だろう。
「のえるん…」
「……」
今日は泣いてばかりだな、と考えながらも泣くのを止めなかった。否、止められなかった。
喉が痛い。どれだけの間叫び続けたのだろうか。此処は時間の感覚が無いからそれすら分からない。
「ちくしょう…」
自らが持つ大剣「漆黒剣ハートネイズ」も、此処には無い。なら、此処がハートネイズの内部なのでは、と疑う。何せ、あの光を防いだ時既に全身に纏っていたからだ。もしかしたら、あの後俺はハートネイズの中に意識を封印されたと考えてみた。それなら、今置かれている状況に納得がいくでは無いか。
「だったら…!!」
早速行動に移す。中から刺激し、意識を元の身体へ。その為ならなんでもやった。
「……ん?」
ハルトのバイタルに何かしらの変化が起きた。まるで何かと共鳴するかのように。もしかしたらと思い、ハルトが付けていたパーツの一部をよく見る。すると、今のハルトのバイタルパターンと一致している。
「…!!コレか?!」
ハルトもハルトなりに頑張っている。それが分かっただけでも収穫だ。だったら、サポートしてやるのが名付け親である私の仕事だ。
「女を泣かせる男に育てた覚えは無いぞ、私は…!!」
必死にパソコンを打ち、頭をフル回転させる。マタタビキャンディもいつもの三倍舐め、いつもボーッしている頭を無理矢理活性化した。その位しなければ、悠人は帰って来れない。そう思った。
「うぉらぁ!!」
絶対戻る。それだけを胸に秘め、ただひたすら頑張る。ノエルやラグナ、それにあの力を託してくれた少女に示しがつかない。だから、頑張る。それしか無かった。
果たして、悠人は元の世界へ意識を戻せるのか。
それは次くらいに分かる事でしょう…
という訳で六章でした。
今回は涙を流すシーンを取り入れてみたんですが、難しいですね(苦笑)
次に書く時はもう少し上手くなってからにします…
では、この辺で。又お会いしましょう…
最初は凄く警戒された。それもその筈、統制機構と第七機関は敵対関係にある。急に転がり込んだ私を見た第七機関の人達は私を"統制機構のスパイ"だと思ったらしい。でも、車椅子に座った青年、身を挺して世界消滅を防いだ"英雄"と称されるにふさわしい人。元第七機関の天才研究員の桐生悠人を見た時、私は彼を送り届けた恩人と認識され、大いに歓迎された。
それから暫くした後、統制機構の制服からココノエ博士が用意してくれた女ガンマン風の服に着替えた私。何故此処に来たのか、ココノエ博士に問いただされた。
「……そうか。悠人がお前を助けた…昏睡状態に陥っているのは何故だ?」
「それは…」
あの事を教えていいのだろうか。カグツチで起こった事全て。悠人の正体、テルミの事、そしてあの光。正直、次元が違いすぎて理解が追いついていない。悩んだ様子を見たココノエ博士は苦笑を浮かべた。そんな顔もするんだ、と内心で思う。悠人は"ココノエ博士はいっつもしかめっ面をしている"と語っていたから、ギャップがあっていいかもしれない。
「何、お前の口から話せない事ならコイツが目覚めた時にでも聞く。そんなに緊張しなくていい」
「あ、はい。分かりました…」
ココノエ博士と話している間、悠人はベッドに寝かせている。息はあるとはいえ生死を彷徨っている彼の生命維持の為、色んな管を繋がれた今の彼を見ると、痛々しく思ってしまう。何もこんなボロボロになるまで命を懸けなくていいのに、と口から出かかった。彼があの光を逸らさなければ、今頃この世界は跡形も無く消えていた筈だからだ。
「それで、お前はこれからどうするんだ?亡命した、という事はもう統制機構には戻れないが……」
「御迷惑で無ければ、彼…ハルトの傍に居させてください。第七機関の事も、お手伝いします」
「…まぁ、そう言うと思った。なら、気が済むまで居ていい」
「ありがとうございます、ココノエ博士」
ノエルは…ハルトと同じ部屋がいいだろう、というココノエ博士の計らいで今の部屋を貸してもらえた。でも、ハルトは寝ているだけなのに顔が熱を持って仕方ない。さっきまで三人だったのが二人っきりになったせいなのかどうかは分からない。けど、心臓が高鳴っていて、彼を独り占めしたいという欲求すら出ている。
「(もしかして……恋、なのかな。コレって)」
戦争や戦いに身を投じていたとはいえ、ノエルやハルトは年頃だ。恋の一つや二つ、していてもおかしくない。今、ノエルを縛るものは無い。一人の少女として生活出来る。大好きだった買い物や料理も好きなだけ出来る。そう考えたら何をしようか迷い始めた。
「此処は…?」
目が覚めた俺は、辺りを見回す。何処を見ても闇だ。誰も居ない世界にただ一人、佇んでいた。
「おーい、誰か居ないのかー」
声を張って呼びかけてみる。だが、発した声は闇に吸い込まれるように消えていった。どうやら、本当に誰も居ないようだ。
「……じょーだんじゃないっての。俺、まさか…?!」
あの時死んだから此処に居る。その現実を叩きつけられたようだった。誰も居ない世界のど真ん中、俺は声が枯れるまで叫び続けた……
「ハルトくん……」
あれから何日が経過しただろう。ハルトは一向に目覚める気配を見せなかった。色んな管に繋がれてなんとか生きている今の彼は、言うなれば植物状態。延命器具で尽きる筈の命を先延ばしにしているだけだ。勿論、私は何も出来ない為、第七機関のすぐ近くにある質素な公園に来ていた。誰も居ない公園でブランコに座り、一人寂しく漕いでいた。
「私、守られてばかりだ…」
無力な自分に腹が立ち、何も出来ない自分を追い込むかのように心が痛む。涙が溢れ、地面に染みを幾つも作る。それでも涙は止まらず、遂に大声で泣き出した。誰も居ない為、遠慮なくいくらでも泣ける。そうして泣き続けていた時だ、急にもふもふした物が視界を塞ぐ。何が起きたのか分からずにいると、そのもふもふが喋った。多分。
「のーえるん。どうしたの?」
その声を聞いたノエルは、士官学校に通っていた頃の記憶が呼び戻される。自分が親友と呼んでいた二人の内の一人だ。
「マコト…?」
「そうだよ?のえるん。忘れちゃったの?」
「忘れる訳…無いじゃん…マコト…」
嘗ての親友に再会出来た。それだけでも今の彼女には大きな支えになった事だろう。一応、さっきまで泣いていた理由をマコトに全て話す。
「へぇ…のえるんが好きな人を…ツバキが聞いたらびっくりするだろうなぁ…」
「ま、まだ告白とかはしてないよ。今は…とてもそんな状況じゃないから」
「植物状態、ね…一体何をどーやったらそうなるのさ。確かに咎追いは危険と隣り合わせだけどさ…」
「それは…うん。彼…ハルトが目覚めたら聞いてあげて。私は…二度目になるから」
「…のえるん?」
マコトは親友の悲しそうな表情を見逃す訳が無かった。理由は、その『桐生悠人』という人にある。そう確信した。
「よし。見たいな、その…悠人って人。気になるし」
「えっ…さっき見せたよね?写真、だけど」
「本物に決まってんじゃーん。のえるん、何言ってんのさ?」
「でも、ハルトは絶対安静にって…」
どれだけ言っても食い下がるマコト。結局、根負けした。
「…で、そいつを連れて来たと」
「ご、ごめんなsふぎゃっ?!?!」
謝るより先に飛んできたカルテが私の顔にクリーンヒットし、少し小さいコブが出来てしまった。ココノエ博士、どれだけ速いスピードで投げたんだろう…
「"亡命"したお前はいい。だがお前の親友とやらは現役だよな?しかも諜報部じゃないか。此処の秘密が漏れたりしたらどう責任を取るつもりだ?」
「す、すビバせん……」
涙目のまま、さっき投げられたカルテを拾う。それは、ハルトのものだった。全身火傷に右眼左足損傷、組織がズタズタの為修復不可、それと、彼が装着していた大剣の各パーツの一部が心臓に到達しており、全身の血管はボロボロ、心臓も損傷していると書かれていた。
「…ココノエ博士、コレって……」
「嗚呼、仮に意識を取り戻したとしても生きられる日にちが決まってしまった、という事だ。全く、どんな無茶をしたらこうなるんだ…」
「そんな…」
仮に今すぐ目を覚ましたとしても、ハルトがどの歳まで生きられるのか、それがこのカルテには非常な程書かれている。一度引っ込んだ涙が又溢れ出す。彼は身を挺して世界消滅を防いだ。その代償という事だろう。
「のえるん…」
「……」
今日は泣いてばかりだな、と考えながらも泣くのを止めなかった。否、止められなかった。
喉が痛い。どれだけの間叫び続けたのだろうか。此処は時間の感覚が無いからそれすら分からない。
「ちくしょう…」
自らが持つ大剣「漆黒剣ハートネイズ」も、此処には無い。なら、此処がハートネイズの内部なのでは、と疑う。何せ、あの光を防いだ時既に全身に纏っていたからだ。もしかしたら、あの後俺はハートネイズの中に意識を封印されたと考えてみた。それなら、今置かれている状況に納得がいくでは無いか。
「だったら…!!」
早速行動に移す。中から刺激し、意識を元の身体へ。その為ならなんでもやった。
「……ん?」
ハルトのバイタルに何かしらの変化が起きた。まるで何かと共鳴するかのように。もしかしたらと思い、ハルトが付けていたパーツの一部をよく見る。すると、今のハルトのバイタルパターンと一致している。
「…!!コレか?!」
ハルトもハルトなりに頑張っている。それが分かっただけでも収穫だ。だったら、サポートしてやるのが名付け親である私の仕事だ。
「女を泣かせる男に育てた覚えは無いぞ、私は…!!」
必死にパソコンを打ち、頭をフル回転させる。マタタビキャンディもいつもの三倍舐め、いつもボーッしている頭を無理矢理活性化した。その位しなければ、悠人は帰って来れない。そう思った。
「うぉらぁ!!」
絶対戻る。それだけを胸に秘め、ただひたすら頑張る。ノエルやラグナ、それにあの力を託してくれた少女に示しがつかない。だから、頑張る。それしか無かった。
果たして、悠人は元の世界へ意識を戻せるのか。
それは次くらいに分かる事でしょう…
という訳で六章でした。
今回は涙を流すシーンを取り入れてみたんですが、難しいですね(苦笑)
次に書く時はもう少し上手くなってからにします…
では、この辺で。又お会いしましょう…
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