スターティング・ブルー〜蒼を宿す青年〜

Knight

二章 ─ 噛み合う歯車 ─

時は過ぎ、12月31日。俺は"又"統制機構の地下に来ていた。目的はまだ果たしていないからだ。ふと、隣から視線を感じた為、横を向くと……絶賛指名手配中の反逆者、死神が居た。

「さてと。何故アンタが隣に居るのか知りたいんだが。死神」

ため息をつきながら問いかける。そもそも気配すら感じなかった。多分だが、迷彩の術式でもかけていたのだろう。それさえ張っておけば一般人は気付かない。死神みたいな犯罪者にはうってつけだろう。

「それは俺も聞きてぇ。"只の"咎追い風情が何故こんな所に用があるんだよ」

「企業秘密って奴だ。こっちも色々あるんでな」

「……そうかよ」

企業秘密って言われたからなのか、死神はそれ以上問いただす事はしなかった。物分りが良くて助かる。何せ俺の後ろにゃ"マッドサイエンティスト"が居る。万が一しくじったら、あっという間に実験材料の一つになってしまう。それだけは勘弁したい。

「……ところで、名前。聞きてぇんだが」

「…いきなりどうした」

「いいから早くしろ。どっかで見た事あんだよ」

人の名前を知りたいとは物好きだな、と考えつつ名乗る。俺は死神の名はとっくに知っているからいいけど。

「桐生悠人。ハルト=キリュウって言えばいいか?」

「……なるほどな。"あの"桐生悠人、か」

「当たり。ま、今はしがない咎追いだけど」

俺の名を聞いた死神は納得したらしい。どうやら結構広まっていたみたいだ。それもそうか。第七機関に居た頃、俺は研究員として最高の名誉を貰っていた。各地で報道されていたから、知らない奴は居ないだろう。昨日出会ったノエルも俺の事は知っている素振りを見せていた。

「まぁいい、死神もこの先に用があるんだろ?なら一緒だ。なんとなくだが、嫌な予感がする」

「嫌な予感がするってのは俺も同意見だ。前に図書館をぶっ潰した時には感じない何かが此処に居る」

「……だろうな」

"前"にあの少女と戦った時とは又違う雰囲気が辺りに充満していた。触れただけで身体が切り刻まれる感覚。そんな感じだ。あの少女より強い"何か"が居る。そう考えていた時だ、奥から誰かがやって来た。その姿を目にした時、俺は反射的に大剣を構えた。死神もそれと同時に大剣を持つ。二人共、足が震えていた。それもその筈、目の前の人物が自分達より強い。そう確信していたからだ。

「……何で」

「……冗談じゃねぇ。何故」

「「あの六英雄が居やがる!!」」

二人揃って目の前に佇む人物、白い侍に問いかける。六英雄、暗黒大戦時代に黒き獣を葬ったとされる英雄だ。然し、それは数百年も前の話。当時の人達はとっくにその生涯を終わらせた。それは六英雄も例外では無い。とうの昔にこの世を去ったと思っていたのだが……それは間違いだったらしい。

「知れたこと。黒き者を滅する、その為に我が居る」

目の前の白い侍が紡ぐ言葉の一つ一つが重くのしかかる。これが経験の差って奴なのかもしれない。死神は経験を積んでいるかもしれないが、俺はまだそんなに無い。咎追いのランクは経験と関係ない。

「はいそうですかって倒される訳にはいかねぇんだよ。邪魔するならぶっ潰す」

「俺もまだまだ長生きしたいんでな。悪いが倒させてもらう」

「黒き者。我には適わぬ事、その身を以て知れ」

白い侍が自分の得物である野太刀を抜刀する。たったそれだけなのに威圧感が格段に増した。どうやら奴は本気で俺たちを消し去るようだ。覚悟を決め、剣を構える。

「……来い」

「「行くぜおらぁ!!」」

掛け声と共に剣と野太刀がぶつかり合う。戦い…いや、死合いが始まった。

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悠人に送って貰った後、胸騒ぎがした私はなかなか寝つけずにいた。このまま寝ていたら何か大切なものを失ってしまう、そう思ったからだ。

「……行こう」

そう呟いた後、支度を済ませてから統制機構カグツチ支部に向けて歩きだした。今思えば、向かわない方が良かったのかもしれない。そこに居た●●と出会わなければ、私は私のままで居られた筈だった。

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かれこれ一時間くらい戦っただろうか。俺と死神の息は荒く、そこかしこから血が流れ出し、視界が霞んできていた。

「やっぱ六英雄は伊達じゃないって事か…偽物かと思っていたのによ、全く…ツイてないね、俺」

「おかしなことを言うな、黒き者」

「だから俺は桐生悠人だっつーの!!」

朦朧とする意識の中、今まで理性を保っていた"何か"の回路を切り替えた。熱かった体の芯が徐々に冷えていく。髪色は金から白に、右腕は大剣と同化し、漆黒の大剣そのものになる。それを見た死神は驚きを隠せず、白い侍は感嘆の声を出していた。

「お前…それ、まさか…蒼の魔道書ブレイブルーか?!」

「ほぅ…やはり持っていたか。蒼の力を」

「……行くぜ。後悔すんなよ、六英雄!!」

さっきまでと段違いの速さで白い侍と打ち合う。打ち合う際、自分が相手の力を奪っている事に気づいた。おそらく、コレが俺の『ドライブ』だ。

「『ソウルイーター』まで使うか。やはり黒き者だな、貴様は」

「俺が誰とか、んなの関係ない。俺は俺だ。桐生悠人だ」

この力が蒼の魔道書ブレイブルーなのかどうなのかは知らないが、着々と奴を押している。そんな中、俺は死神に向けて叫んだ。

「コイツは俺に任せて先に行け!!」

「……嗚呼、さんきゅ」

死神は分かってくれたらしく、奥深くへ走っていった。一安心していると強烈な吐き気に襲われる。その隙を狙われたのか、腹のど真ん中に奴の蹴りをモロに喰らった。数メートル吹き飛び、壁に打ち付けられる。それと同時に血反吐も吐いた。おそらく舌を噛み切ったらしい。口の中に鉄の味が広がる。一息に吐き出し、笑みを浮かべた。もう身体が言うことを聞かない。

「……ははっ、容赦ねぇな」

「当たり前だ。我は黒き者を滅するのみ」

「そういうんなら、死神も黒き者じゃないのか?」

「だが、貴様が逃がした。なら、第二の黒き者を滅するのみ」

第二の黒き者とは十中八九、俺だろう。今まさに使っているこの力が蒼の魔道書ブレイブルーだったり、さっき白い侍が言い放った『ソウルイーター』という力が俺にあるという事は、俺は死神と同じ存在という事だ。

「がはっ…ほら、殺れよ。いつまでも相手してる場合か?」

「潔い。なら遠慮なく滅するとしよう」

奴の野太刀が上段に構えられる。アレが振り下ろされる時、俺の命は絶たれるだろう。

「(……じゃあな。博士)」

そう思い、目を閉じる。奴の野太刀が空を切る音が聞こえる。そのまま俺は斬られ、この世から去るだろう。だが、いつまでたってもそれ以上聞こえない。目を開けて見ると、金髪の少女…ノエルが、自分の武器で奴の野太刀を防いでいた。

「……馬鹿が。何で来たんだよ」

その言葉を最後に、俺は意識を失った。

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統制機構カグツチ支部に着いても、私の胸騒ぎは収まらない。逆にどんどん強くなっていた。

「なんだろう、コレ…」

私は胸騒ぎの正体が知りたいがために統制機構の中でも一部の人しか知らない場所に続くエレベーターに乗り込んだ。何故私がこのエレベーターを知っていたのかは分からない。けど、気づいたら乗っていた。何が何だか分からないでいると、目的地に着いたのかエレベーターが止まる。急いで降りて辺りを見回す。初めて来た筈なのに何処か記憶の片隅で覚えている。そんな感覚が頭から離れない。

「……私は…知っている?此処を?でも、何で…」

考えても仕方ない。とりあえず奥へ向かう。すると、誰かの声と武器がぶつかる音が耳に入ってきた。慌てて駆け寄ると、白い侍と死神と呼ばれる指名手配中の青年、それとつい先程会った彼…桐生悠人の姿が見えた。

「(ハルト?!何で貴方が此処に…それに、死神?何故彼がハルトと一緒に…?)」

遠目で見ても分かるくらい、悠人と死神はボロボロだった。対して白い侍は息切れすら起こしていない。このままでは絶体絶命だと思ったその時、悠人の様子が一変する。髪色が白に変わり、右手に持っていた大剣は右腕と同化、漆黒の大剣そのものに変貌した。

「(何…アレ…怖い…)」

それを見た私は恐怖を覚え、その場から動けなかった。目の前が真っ白になっていき、気絶しそうになる。でも必死に意識を保とうとしていた時、死神の言葉が耳に入ってくる。まるで、毒のようにすんなりと。

蒼の魔道書ブレイブルーか?!」

蒼の魔道書ブレイブルー…?」

口に出して反復する。名前くらいなら聞いた事はある。世界に幾つもあるという魔道書。その中でも"最強"と称される魔道書。それが蒼の魔道書。別名、ブレイブルー。でも、それは死神が所有している筈。彼が何故それを所有しているのかは分からない。そうこうしている内に死神は奥へと走っていき、悠人は私が隠れている壁のすぐ近くに叩きつけられていた。

「がはっ…」

その言葉と共に宙に舞う血。同時に小さい肉片も舞っていた。それを見てすぐに彼の舌の一部だと分かった。分かりたくなかったのに。そこからはよく聞こえなかった。只、彼の命はあの白い侍によって絶たれようとしているのは分かった。私は恐怖を押し殺し、桐生悠人…ハルトの前に出た。振り下ろされる野太刀を自らの武器、『魔銃・ベルヴェルグ』で防ぐ。

「……馬鹿が。何で来たんだよ」

彼の言葉が耳に届く。一瞬だけ後ろを向いて再び前を向く。どうやら気を失ったらしい。それだけでも良かった。自分の目の前で誰かが命を落とすのは見たくなかったから。

「……誰だ、貴様は」

目の前の白い侍が私に問いかけてきた。踏ん張りつつ答える。体格の差とかがあるせいで完全に力負けしている。でも気にしたら負けだ。一瞬でも力を抜いたら私が斬られる。

「私は、ノエル=ヴァーミリオン。彼、恩人である桐生悠人…ハルトを助けに来ただけです!!」

高らかに宣言し、蹴りを入れて距離を取らせる。勿論、人を蹴るのはコレが初めてだ。右足が痺れる。でも、彼を守れるのは私しか居ない。

「彼に手を出すのであれば、私が相手になります!!」

そう言いながらも、私の両足は震えている。誰がどう見ても虚勢だった。でも、相手は私より格上。虚勢を張らずにはいられない。

「……そうか。命拾いしたな、黒き者よ」

私と戦うと思っていた白い侍は至極あっさりと手を引き、その場から去っていった。見えなくなるまでずっと立っていたが、途端に力が抜けて座り込む。凄く怖かった。今になって冷や汗が沢山出てきた。どれだけ緊張していたのかが分かる。

「……はぁ、良かったぁ…」

改めて、ハルトの顔を見やる。あの時と同じ白髪の彼、綺麗に整っていた顔はあちこちに傷があり、血が流れ出している。でも、粗方塞がっていた。兎に角、出血多量で死ぬというのは無いと安心し、ホッとした。その後、彼が目覚めるまで待った。

だが、既に私と悠人の運命の歯車が噛み合い、回り出し、悠人とこれからも関わる事になる事になるだろう。その事を知るのは、まだ先だ。

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その後、奥へ向かった死神は謎の少女と共に下に落ち、遥か上空に居る何かによって世界が焼き払われ"再び"あの日に巻き戻った。

「……又、駄目だったのね」

傍観者はその結末を見てため息をつく。彼女は"今度こそ"世界が変わると踏んでいたらしい。その読みが外れ、ご立腹のようだ。

「──が蒼を使った所までは良かったのだけど…まだまだ足りないという事ね。この歪んだ世界が"未来"に行くには、桐生悠人…いえ、──の更なる覚醒が必要…」

そう呟く彼女。その呟きは誰にも聞こえないまま、空気に溶けていった──

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さて、第二章。いかがでしたか?
本編の主人公、桐生悠人の謎はまだまだ深いです。何れ、解明される事でしょう。では又次の章でお会いしましょう…

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