転生魔王♀の奮闘日記

ピエール

プロローグ



昔、母さんに「イヤホンして夜道を歩いたら襲われる確率が高くなるからやめなさい」と叱られたことがある。
その時の私は反抗的で「そんなに音量だしてないし」「私が襲われるわけないじゃん」とか、口答えばかりしていた覚えがある。

正直、今はとても後悔してる。

「ハァ…ハァ…」

お腹に感じる違和感、気持ちの悪いくらいドクドクと波打つ心臓、目の前で興奮している男、その手に握られた刃物。
あぁ、刺されたんだな…と、どこか他人事のように状況を理解した。
人間とは不思議なもので、刺されたと理解した瞬間に痛みがダイレクトに感じるもので。要するに、めちゃくちゃ痛い。

「これで…五人目…へへっ…」

足の力が抜けてドラマのようにどさっと倒れた後、男はそう呟いてフラフラと去っていった。
近頃巷で噂の通り魔だったらしい。

(あー…めっちゃ痛い…死ぬ…)

刺された部分を押さえながら仰向けになって、真っ暗な空を見上げる。
出血多量な所為か、目が霞んできた。
もうすぐ死ぬんだなと、ボーッとする頭で考える。
走馬灯なんて流れず、ただただ痛いだけで、声もまともに出ない。

正直こんな形で私の人生が終わるのは癪だ。
大人になったらもっとやりたいことがあったし、帰ったら昨日残してたアイスを食べる予定だった。
明日は休日だから買い溜めしていたゲームや漫画をじっくり楽しむはずだった。
来週には友達と遊びに行く約束もしていた。

こんな事なら護身術くらい習ってればよかったな。
いっぱい本気で色んなことしておけばよかったな。
もっと…もっと……

あぁ、そうか…これが未練ってやつか…

やだなぁ、死ぬの…

そう思って目を閉じた瞬間、私は血溜まりの中で静かに息を引き取った。


こうして私の人生は、突然幕を閉じることになった。




何か温かいモノに包まれてるような感覚がする。
ぼんやり白い光が見えている気がする。

そうか、きっと私は天国へ昇ってこれたんだ。

少し安堵しながら、目を開く。
ぼや〜っとしていた視界が段々クリアになっていく。

きっと雲の上のようなきれいな世界で、白い羽の天使さんが居て、美しい所なんだろうな。


「ほ〜う、お前のとこは娘だったのか」

「中々愛らしいだろう?」


…………なんだか様子がおかしいぞ?

目の前に見える人達は中々の強面で、なんだか羊や牛のような角が頭から生えていて…
白い美しい世界、ではなく中世のヨーロッパかと思うほど豪華な造りの部屋で、暗めの色の家具諸々。

天国、という感じではない。


「しかし、我ら魔界の王族の第一子が女とはなぁ…」

「あら、魔界で初めての女王になるかもしれないわよ?」

「それはそれで面白そうなもんだなぁ!」


魔界…王族…第一子…って……私のことじゃないよね?
めっちゃ私の方見て話してるけど私のことじゃないよね?違うよね?ね?
誰か違うと言ってほしい。


自分の体が赤ちゃんになっていることに気付き、衝撃を受けるのにさほど時間はかからなかった。




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