本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.57

 支度を終え家の外に出ると、ひゅうと吹いた冷たい風に混じった懐かしい乾いた草木の匂いに冬の訪れを感じさせてくれる。
 いつもなら登校する学生の多いこの道も、なんだか別の道みたいに静かで人気も疎だ。
 バス停へと歩いている途中も、少しだけ目眩のような感覚に襲われて、何度か立ち止まる。今まで体は弱い方では無かったけど、やっぱり"この身体"になって少しか弱くなっちゃったんだろうか。
 そんな事を考えながらもバス停へと到着し、予定よりも少し遅れて到着したバスに乗って窓際の席に座ると、窓に身体を預けて車窓から外の景色を見つめた。赤ちゃんを連れた女の人や、足早に歩道を歩くスーツ姿の男の人、昔ながらの床屋さんの前で談笑するおばあちゃん達。この世界には色々な人生を歩んでいる人がいるんだなぁって改めて思った。
 そこでふと窓に映った私の顔に焦点が合った。
    私もそんな"色々な人生を歩んでいる人"の一人になれているのかな。
    今更だけど、私はみんなと同じ生き物なのかな、なんて思ってしまう事がある。生物学的には違うんじゃないかとか、身体は女でも遺伝子的にはどうなんだろう、とか。どこにも分類されない生き物だったらどうしよう……そんな答えの無い妄想がふとした時に頭に浮かんでしまう。
 だけどそんな時にはいつも莉結が側に居て、その顔を見れば"まぁいいや"って思わせてくれるんだけど、今日はタイミングが悪かったみたい。
 私は窓に映った自分を見ても何だか自分とは思えなかった。
 その時だった。私はぼうっと見つめていた窓に映った私の後ろ、隣の席へと目を見開いた。
「嶺……ちゃん」
 すぐに振り向いたけどやっぱりそこには誰も居る筈も無い。だけど確かに私には見えた気がした。なんでだろう、涙を浮かべて私を見つめる嶺ちゃんの姿が。

"次は聖英病院前、聖英病院前です"

 突然耳に飛び込んできたそのアナウンスに私はハッと電光掲示板へと視線を移した。するとそこには"聖英病院前"の文字が映し出されており、私は気を取り直すとすぐに降車ボタンに指を伸ばした。


 
 
 

コメント

  • 漆湯講義

    ミツキさんお久しぶりです!(๑°ㅁ°๑)‼✧
    最近サボり気味で久しぶりの更新でしたw
    ミツキさんもインフル気をつけてください( ・`ω・´)
    逆にインフルかかれば小説投稿に精が出る気もしますがww

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