本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.40

「莉結っぽくて良いんじゃない?」

私が空を見上げながらそう言うと、すぐに『それってどう言う事よっ!』と私の頬に莉結の指先が押し付けられた。

「えっ?んん…なんだろ、分かんない♪」

私が曖昧な返事をして誤魔化すと、莉結は『うんッ、衣瑠っぽい返事っ♪』と悪戯に微笑んだのだった。
いつの間にか今日の出来事を忘れてしまうような穏やかな時間が私達を包み込んでいたのだが…私の家が遠くに見え始めた時、突然莉結の足が止まる。
私は不思議に思って莉結の顔を見るも、莉結の視線は真っ直ぐに前方に向けられながら、少しムッとしたような表情を浮かべている。
そして、その視線の先を追って見た時、その表情の意味を理解した。

「オリ…ヴィアさん?なんで…?」

一瞬にして私の身体が強張る。視線の先、私の家の前のブロック塀に背中からもたれかかる様に立つ彼女は、口に咥えた煙草をふかしながら、ゆらゆらと空に昇る煙の先にある私の家をジッと見つめていた。
私達が立ち止まっていると、彼女は口から"ふぅ"と煙をゆっくりと吐き出し、指に挟んだその煙草を地面にピンと飛ばして足で揉み消した。
そしてズボンのポケットに手を入れると、足元を睨んだままゆっくりと私達の方へと近づいてくる。
ゆっくりと…そして確実に私達の方へと向かってくるその存在は、私の心臓の鼓動を速くさせた。
だけどまだ彼女は私達には気付いてないみたいだ。今なら逃げる事も出来る。すぐにこの場を離れてしまおう。
なんて考えが浮かんでも私の足は地面を離れようとはしなかった。それは恐怖からか、それとも自分の葛藤の結果か…
そんな事を考えていると、彼女はもうすぐ前まで近づいてしまっていた。
その頃には力の入らない足で立っているのがやっとな程になっていて、私は彼女から視線を離すことが出来なくなっていた。
しかし、彼女は足元に向けた視線を私達へと向ける事の無いまま、ゆっくりと横を通り過ぎていく。
私達に気付いてない?いや、そんな事は無い筈なのに…何で?と頭の中で自問自答を繰り返していると、突然莉結が声を上げた。

『拾わなきゃ駄目だよ』

私は何の事か分からずに呆然と莉結を見つめる。
そしてすぐに莉結の力強い視線の先へと目をやった。
莉結の声を聞いた彼女が足を止め、ゆっくりと振り返る。そして彼女が莉結へと視線を向けると『未成年なのに煙草なんて吸っちゃ駄目だよ』と力強く呟いた。

すると彼女は"ふっ"と不敵な笑みを浮かべると、来た道をゆっくりと戻っていく。
そして先程の吸い殻を摘まみ取ると、再び私達の方へと足を進める。
そして莉結の前でその足を止めると、目を細めてこう言ったのだった。

『良い子ね、私はそういうの嫌いじゃ無いわ』と。





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