本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.38

すると無神経なチャイムの音がズカズカと私の頭の中へと入ってきて、私はゆっくりと瞼を開けた。
どうやらさっきの緊張のせいで、気持ちが緩んですぐ気付かないうちに寝てしまっていたらしい…

『衣瑠っ、どうしたのっ?』

そして突然"ぼんっ"と机の上に置かれた手のひらが私の目に映り込み、ふと顔を上げると心配そうに私を見下ろす莉結の姿があった。

「えっ、あ、うん。大丈夫、何でもないよ」

私がまだ少しだけぼうっとする頭でそう言うと、莉結は突然背を向けてクスクスと笑いだす。
私が訳も分からず莉結の表情を伺おうとしていると、莉結が口を押さえた反対側の手をひらひらとさせ『ごめん、だって…ふふ、だってね』と目尻に小さな雫を浮かべながら私へと振り返る。

「何がそんなにおかしいの?大丈夫?」

私はそう言いつつも、おもむろに自分の顔を触ってみたり、髪の毛を手櫛で整えたりしてみたけど、特にそこまで面白い事は無さそうだった。
半ば呆れ気味に莉結が落ち着くのを待つと、目尻の雫を拭いながら莉結が口を開く。

『ゴメンっ、だって可愛かったんだもん』

"可愛かった"とか言われて別に嬉しくない事も無いけどさっ、それじゃあ全然答えになってないよ。
だから私はなるべく表情を変えないようにしながら「で?説明になってないよ?」と呆れた声で言った。

『うんっ何でかって言うとね、どんな夢見てたのか分かんないけどさ、授業中にいきなり後ろから"やめて、やーめーてーよッ"って小さな声で聞こえてくるんだもん、それがなんか小ちゃい子みたいで可愛くて』

「え、何それ…超恥ずかしいじゃん!」

と言いつつも、ふと思い浮かんだのは先程の彼女の事。夢の中でも彼女の視線に縛られていたのではないかと、少し嫌な気持ちになった。

『振り返ったら衣瑠ったらムニャムニャ言いながら寝てるんだもん。どんな夢見てたのか凄い気になっちゃったよ』

「いや…私も気になるけどいい夢じゃ無かったんじゃないかな…」

私は苦笑いしながらそう言って、ふと後ろの席を振り返った。
すると、莉結が少し重い口調で『帰っちゃったね。あの子』と私の手に両手を重ねた。

「どう思う?あの子」

その問いに莉結は『悪い子じゃ無いとは思うんだけど…なんだろう、不安になる』と少し寂しげに答える。

「不安?どうして?」

『なんだろ、女の勘ってヤツかなっ♪ま、気にしないでおこっ、それより次、体育でしょ?着替えなきゃいけないからそろそろ行こっ』

そう言った莉結はどこかぎこちなくて、私と同じくらい彼女の事が気になっているんだと思う。
そして転校初日から堂々と早退していってしまった謎の多い彼女不在のまま、長い一日の終わりを告げるチャイムが夕暮れの校舎に響き渡ったのだった。



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