本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.37

『えぇと…海外だと普通…なのかも知れないわねっ。ほら、オリヴィアさんはついこの間までアメリカに住んでいたみたいですし…えと…どこのページからでしたっけ』

流石の先生も彼女の行動には困惑を隠しきれない様だった。
ヒソヒソと声が囁かれる教室の外からは彼女の足音が小さく響いている。
そして、ふと目をやった教室の前のドアのガラスに彼女の後ろ姿を見つけると、まるで私の視線が伝わったかの様に、彼女の足が止まった。
私はトクンと鼓動した心臓の音が高まるのを感じつつ、視線の先へとゆっくり顔を向ける。そして聞こえる筈も無いのだけれど、その音が彼女に届かない様に静かに唾を飲み込んだ。
…何で止まったの?こっち向くな!歩いてよ!
そんな声が私の頭の中で錯交する。
……!!
その瞬間、突然に速まる鼓動。その鼓動は身体の隅々まで弱まる事なく伝わって、自分では抑えきれない程の震えとなった。
…案の定と言うべきなのか…私の想いが逆効果となってしまったのか…彼女は振り返ってしまったのだ。そしてその瞳は教室のドアのガラスを越え、真っ直ぐに…間違いなく私だけを見つめていた。
"蛇に睨まれた蛙"とは正にこの事だろう。
重なり合った視線が彼女から離せられない。それはまるで二つの視線が織り合わされて一つの糸となってしまった様に。
そして、私の頭には"何で?何で?何で?"と同じ言葉が増殖を続け、隙間という隙間を埋め尽くしていく。
それもほんの数秒の出来事だった筈だけど、私にはそれは長い長い時に感じられた。
そして、やっと彼女の冷たい、青い瞳が私から逸らされた時、私の身体は、全てが抜け出てしまった様な感覚に陥っていた。


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