本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.36

『衣瑠…?あなたの名前は本当に衣瑠なの?』

消えそうに小さな声に、私はふと我に返る。
そして、真っ直ぐに私を見つめ続ける青い瞳から視線を引き剥がすと私は「そう…だけど」と答える。
一瞬の間が空いて彼女は再び消えそうな小さな声でこう言った。
『もしかして…』

彼女が続けて何かを言いかけた時、私の心臓の鼓動が大きく高鳴ると、それに反応するかの様に響いた予鈴が彼女の言葉を遮った。

『…衣瑠っ、席着こっ』

すると莉結の手が私の肩を掴み、風見鶏の様にくるりと半回転した私の身体は、磁石の様に"とすん"と席へと座らせられたのだった。
その時ふと目に映った莉結の横顔が少し不安そうに見えたのは気のせいだったのかもしれない。

一時限目の間、私は"もしかして…"の続きが気になって授業どころではなかった。
もしかして…何だろ…まさか私の事知ってる…ワケ無いし。
でも、もし私のコトを知っているとしたら何で?
私が"如月瑠衣"だって知っているのは莉結とお母さん、それと莉結のお婆ちゃん。病院の先生に稚華さん…
その時、突然、私の中で何かが繋がった気がした。
私はドクドクと脈打ちだした心臓の鼓動に震えだした手を伸ばすと、鞄の中から"あの手紙"を取り出す。
そしてゆっくりと手紙を開くとその送り主の名に視線を落とした。
A…m…e……
アメ…リア…サーマン…
何度読み返しても"オリヴィア"とは読めない。
それでももう一度一文字ずつ確認するように小さな声で読み上げると、ふぅと張り詰めていた身体の中の空気を吐き出した。
びっくりした…そんなワケないか。
安堵したのも束の間、そうなると更に謎が深まる。
一体彼女は誰なんだろ…
私がそんな事を考えていると、突然左後ろから椅子を引く音が響いた。

『すいません。体調が悪いので帰らせていただきます』

…彼女だ。
そう思い、私が振り向く頃には彼女が既に鞄を手にして席を立つところだった。

『ちょっと、えっと…オリヴィアさん?』

彼女は慌てる先生を気にする素振りも無くゆっくりと歩き出し教室の後ろのドアを開くと、"タンッ"とドアが閉まる音が静まり返った教室へと響き渡った。






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