本日は性転ナリ。

漆湯講義

After Story…My Dearest.34

彼女は静まり返った教室をまた右から左へと見回すと、隣に立つ先生を遠い目で見上げた。
そして先生はその視線に少し戸惑いつつも『えっと…瑠衣?瑠衣は今入院していて居ないんだけど…知り合い…だったかな?』と応える。
それを聞いた彼女はゆっくりと教室を見回すと『そう…』と教卓の上に置かれたクラス名簿をそっと手に取り、私の左後ろ、如月瑠衣が座る筈の席、ってそれもおかしな話だけど…彼女はその席へと目をやった。
そして微かに目を細めると、視線を少し下へと落とし、無言のまま名簿をパタンと閉じた。
私は鼓動を高める胸にそっと手を当てると、目を閉じてスゥーっと息を吐きつつ落ち着きを取り戻そうとする。そしてゆっくりと開いた瞼の端に視線を感じて莉結の方に目をやると、私の方を見て"どういう事?"と言いたそうな表情を私へと投げ掛けていた。私は眉をひそめて首を傾げると、再び彼女へと視線を戻した。

『えっと…まぁ突然転校が決まったものだから先生も何がなんだか…瑠衣には悪いけど取り敢えずそこの後ろの席に座ってくれな』

先生はそう言って私の…"如月瑠衣の席"を指差した。彼女はというと、それに答える事も無く、どこか寂しげな青色の瞳をその席へと再び向けると、透き通る様に白い頬に掛かった絹の様な髪を払って、少し俯くように歩み出した。そして私の横をそよ風のようにすっと通過して、草原の丘に咲く綺麗な花を思わせる甘い香りを私の鼻腔へと届けた。

『そう言えば自己紹介…忘れてたなっ、悪いけどそこでいいからしてくれないか?』

思い出したように先生がそう言うと、彼女は眉を少しひそめて窓の外を向いたまま『オリヴィア…どうぞよろしく』と言って先生を困らせた。

なんとも微妙な空気になってしまった教室で、先生は早々と朝礼を終わらせると教室を出て行ってしまった。廊下に先生の溜息が小さく響くと、教室内に彼女のつまらない批評が飛び交い始める。
転向早々"孤立のフラグ"を立ててしまった彼女は、ジッと秋空の広がる窓の外を睨みつけていた。



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